成人期以降の発達障害者の相談支援・居住空間・余暇に関する現状把握と生活適応に関する支援についての研究

文献情報

文献番号
201419026A
報告書区分
総括
研究課題名
成人期以降の発達障害者の相談支援・居住空間・余暇に関する現状把握と生活適応に関する支援についての研究
課題番号
H24-精神-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
辻井 正次(中京大学 現代社会学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木勝昭(浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター・精神医学)
  • 肥後祥治(鹿児島大学 教育学部)
  • 萩原 拓(北海道教育大学旭川校)
  • 岸川朋子(特定非営利活動法人PDDサポートセンターグリーンフォーレスト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人期の発達障害者,特に,成人期になってから診断を受けた発達障害者の地域生活支援は十分ではない。発達障害者と向き合う福祉現場にあっては,高度な支援技術や専門的知識を有した人員体制の確保が必要となるのだが,その受け皿整備がほとんど進んでいないのが現状である。自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorders;ASD)の成人は,社会性の障害から他者との共同生活は難しいことが少なくない。加えて,社会性障害による一般常識の不足に加えて,こだわりや不安,不器用などで,独り暮らしにおける困難は大きい。余暇支援は,地域の中で誰とつながって暮らしていくのかを考える上で重要な視点だが,十分な実態把握も行われていない。どこで,どういうサポートを受け,誰とつながりながら地域生活をしていくのかという点に関して,十分に当事者たちのニーズを把握し,そうした実態把握に基づいて,実際の支援のあり方を提案し,障害者福祉サービス体系で(精神疾患合併などへの)予防的な支援のありようを明確にしていくことが本研究の目的である。3年計画の最終年にあたる平成26年度は3領域に対して調査を行う。①成人ASD者が認定されている障害支援区分の程度の妥当性に関する検証,②成人ASD者におけるQuality of Lifeと適応・不適応行動との関連に関する検証,③成人ASD者におけるメンタルヘルスの状態と適応行動のレベルの関連性に関する検証。加えて,最終年にあたる本年度では,これまでの調査から成人期の発達障害者の生活課題を整理するとともに,生活の目標となる基準と支援の内容や方法についてガイドラインとしてまとめることを目的とする。
研究方法
調査協力者 ASD(高機能自閉症,アスペルガー症候群,広汎性発達障害を含む)の診断を受けている成人116名(男性90名,女性26名)を調査対象とした。
調査内容および材料 障害支援区分:すでに障害支援区分の認定を受けている対象者に関しては,認定されている支援区分の聞き取りを実施した。また,これまで障害支援区分判定の申請を行っていない対象者に対しては,面接を実施し,全国一律に実施されているコンピューター判定を用い障害支援区分を評定した。
適応行動および不適応行動:適応行動および不適応行動の程度を評定するにあたり,日本語版Vineland-II適応行動尺度を用いた。
QOL:WHOが作成したWHOQOL26(WHOQOL-BREF)の日本語版を使用した。
メンタルヘルスの状態:メンタルヘルスの状態を測定する自己評定式尺度には,日本語版K-10および日本語版MHI-5を用いた。

結果と考察
調査①では,成人ASD者が認定されている障害支援区分には,彼らのコミュニケーションスキルの高さ,不適応行動の強さは反映されていたが,身辺自立や家事などの日常生活スキルの高さは反映されていなかった。調査②では,成人のASD者が示すQOLの高さは不適応行動と関連していることが示され,頻繁に不適応行動が引き起こされている成人ASD者ほどQOLの得点が低く,充実した生活を送れていないと感じる傾向が高いことが明らかになった。調査③では,対象となった成人ASD者の3/4以上にメンタルヘルスの問題があること,日常生活スキルとメンタルヘルス問題は関連し,内在化症状が悪化することを通じて成人ASD者が示す日常生活スキルの行動レベルが低下することが認められた。ガイドランについては,「生活習慣」「体調管理」「金銭管理」「所持品管理」「感情コントロール」「対人関係・コミュニケーション」「住環境の整備」「地域生活」「外出」「余暇」「その他」の領域に分け,各領域で項目を出し,本人の生活の基準を挙げた。
結論
本研究の結果から、成人期の発達障害者の就労定着や独り暮らし支援等の独自の支援の必要性が示されたほか,現行で実施されている障害支援区分の判定システムでは成人発達障害者の適応行動が適切に評定されておらず,彼らが認定されている障害支援区分は妥当なものではない可能性が示唆された。そのため,今後,成人発達障害者の障害支援区分の判定作業では,本人のみならず第三者からの聴き取りを実施することや,標準化されている適応行動尺度の得点を参考にするような改善が必要であることが示された。さらに,3つの調査を通じて,成人ASD者は,同年代の一般成人と比較して,適応行動や日常生活スキルの行動レベルが著しく低いことが確認され,成人ASD者が安定し自立した生活の確立を図るためには,日常生活スキルなどの適応行動に関するトレーニングや支援が必要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

文献情報

文献番号
201419026B
報告書区分
総合
研究課題名
成人期以降の発達障害者の相談支援・居住空間・余暇に関する現状把握と生活適応に関する支援についての研究
課題番号
H24-精神-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
辻井 正次(中京大学 現代社会学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木勝昭(浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター・精神医学)
  • 肥後祥治(鹿児島大学 教育学部)
  • 萩原 拓(北海道教育大学)
  • 岸川朋子(特定非営利活動法人PDDサポートセンターグリーンフォーレスト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人期の発達障害者,特に,成人期になってから診断を受けた発達障害者の地域生活支援は十分ではない。発達障害者と向き合う福祉現場にあっては,高度な支援技術や専門的知識を有した人員体制の確保が必要となるのだが,その受け皿整備がほとんど進んでいないのが現状である。自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorders;以下,ASD)の成人は,社会性の障害から他者との共同生活は難しいことが少なくない。加えて,社会性障害による一般常識の不足に加えて,こだわりや不安,不器用などにより,独り暮らしにおける困難は大きい。余暇支援は,地域の中で誰とつながって暮らしていくのかを考える上で重要な視点だが,十分な実態把握も行われていない。どこで,どういうサポートを受け,誰とつながりながら地域生活をしていくのかという点に関して,十分に当事者たちのニーズを把握し,そうした実態把握に基づいて,実際の支援のあり方を提案し,障害者福祉サービス体系で(精神疾患合併などへの)予防的な支援のありようを明確にしていくことが本研究の目的である。
研究方法
H24年度
発達障害の診断を受けており,18歳以上である者64名を対象とした。希望する生活形態および現在の生活形態に関する質問項目,医療上の状況に関する質問項目,精神疾患のスクリーニングのために,K10の日本語版とPRIME-Jスクリーニングが実施された。
H25年度
研究① 成人発達障害者およびその家族が利用できる全国の公的機関を対象とした。調査項目は,成人期以降の発達障害者もしくはその家族から受けた相談内容,支援に向けて,相談者から聞き取る情報/アセスメント内容,機関スタッフに対する人材教育,相談者を対象とする生活スキルトレーニングの実施状況とその必要性,フォローアップ支援に関する内容であった。
研究② 横浜市内にある5カ所のグループホーム(GH)の世話人・生活支援員,滋賀県内にある2カ所の支援者に対して聴き取り調査を行った。調査内容は生活支援員から発達障害者を支援していく中で,「食事」「衛生管理」「健康管理」「金銭管理」「人とのかかわり」などに対する支援に伴う課題であった。
H26年度
ASDの診断を受けている成人116名を対象とした。認定されている支援区分,日本語版Vineland-II適応行動尺度,WHOQOL26の日本語版,日本語版K-10および日本語版MHI-5を実施した。

結果と考察
①成人発達障害者の多くは,現在,親と同居するなど生活支援を適宜受けられる状況にあるが,親亡き後の生活では一人暮らしを希望している(平成24年度調査)。②成人の発達障害者の日常を熟知しているGH等の支援者の聴き取り調査の結果,成人発達障害者が示す日常生活スキルなどの適応行動は,同じ発達段階にある一般成人が示す適応行動と比較すると,著しく低いレベルにあり,日常生活に関する様々な課題が散見される(平成25・26年度調査)。③成人の発達障害者やその家族に支援を提供する全国の専門機関では,生活面に関する相談の頻度が多いものの,生活スキルに関する支援・指導を行っている施設は少なく,十分な人材・スタッフ育成もなされていない(平成25年度調査)。④成人の発達障害者におけるメンタルヘルスの問題は深刻であり(平成24・26年度調査),メンタルヘルスの悪化が成人のASD者が示す適応行動スキルを阻害している可能性がある(平成26年度調査)。最後に,これまでの調査結果から得られた成人期の発達障害者の生活課題に基づき,生活の目標となる基準と支援の内容や方法についてガイドラインとしてまとめた。作成したガイドラインでは,「生活習慣」「体調管理」などの領域に分け,本人の生活の基準を挙げた。
結論
親亡き後の生活で成人発達障害者の多くは一人暮らしを希望しているが,彼らの日常生活スキルを含む適応行動レベルは著しく低かった。さらに,公共の支援機関では,日常生活への支援や生活スキルの向上を図る訓練などの生活支援に関する福祉サービスが提供されていない。このような状況は,成人発達障害者における将来の不適応を助長し得る恐れがある。加えて,本研究では,成人発達障害者は一貫してメンタルヘルス問題が顕著であった。以上より,現行制度で行われている就労支援と同様に,成人発達障害者に対して日常生活スキル等の適応行動に関する支援(独り暮らし支援)を実施する施策とともに,成人の発達障害者におけるメンタルヘルスの悪化の遷延化を防ぐための相談支援や訪問型の支援など,必要な施策の実施が急務であると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419026C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 日本国内において成人期以降の発達障害当事者の適応行動と生活の中でのQOL、精神疾患等との関連を初めて明らかにし、ASD者は、一般成人と比較して適応行動のレベルが著しく低いことに加え、成人ASD者はQOLの高さが不適応行動の頻度や程度と関連し、充実した生活を送れていないと感じる傾向にあること、また、成人ASD者の3/4以上にメンタルヘルスの問題があり、成人ASD者が示す日常生活スキルの行動レベルが低下していること、障害支援程度区分が適切にASD者の適応状況を反映していないことを明らかにした。
臨床的観点からの成果
全体の6割以上の成人ASD者の適応行動レベルが低い状態にあり、およそ半数がメンタルヘルスの問題を抱えていることが明らかとなった。さらに、メンタルヘルスが悪化することで、成人ASD者が示す日常生活スキルの行動レベルが低下することが認められた。臨床的には、成人ASD者に対して、メンタルヘルスや適応行動スキルの育成に力点を置いた予防的な相談支援を行う必要性があるとともに、「親亡き後」での独り暮らし支援のなかで、就労定着支援を含めた生活支援までを視野に支援を行う必要性が見られた。
ガイドライン等の開発
成人発達障害者が自立した生活で直面しやすい課題、その課題に対する支援の内容や方向性に関するガイドラインを作成した。地方自治体がモデル事業として行ってきたサポートホーム等の事業や当事者団体における実践を基にまとめた成人発達障害者への相談支援や生活支援等の取り組みの中で明らかになった支援のポイントをガイドラインとしてまとめた。成人発達障害者への支援を行う支援拠点の支援者・職員が利用でき、より的確な支援の提供を可能にするものである。
その他行政的観点からの成果
本研究の結果から、成人期の発達障害者の就労定着や独り暮らし支援等の独自の支援の必要性が示されたほか、現行で実施されている障害支援区分の判定システムでは成人発達障害者の適応行動が適切に評定されておらず、彼らが認定されている障害支援区分は妥当なものではない可能性が示唆された。そのため、今後、成人発達障害者の障害支援区分の判定作業では、本人のみならず第三者からの聴き取りを実施することや、標準化されている適応行動尺度の得点を参考にするような改善が必要であることが示された。
その他のインパクト
当事者団体であるアスペ・エルデの会の機関誌に執筆を依頼され、成人期の発達障害者の支援課題について報告をするなど、当事者団体への成果報告を行った。また、発達障害者の支援を考える議員連盟において、研究成果の報告を行い、発達障害者支援法の改正への課題を提示した。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
17件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
5件
発達障害者支援法改正に際して、成人期支援の重要性に関して、参考となる知見を提出した。
その他成果(普及・啓発活動)
5件
国立障害者リハビリテーションセンターにおいて行われる発達障害者地域支援マネジャー研修会において、研究成果を講義している。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
野田・萩原・鈴木他
自閉症スペクトラム障害のある成人の日常生活および精神科医学的問題に関する実態調査
Asp heart , 13 (1) , 154-159  (2014)
原著論文2
辻井正次
仲間と街で暮らす
Asp heart , 14 (2) , 46-48  (2015)
原著論文3
辻井正次
発達障害のある子の育ちの支援: 家族と子どもを支える
中央法規出版  (2016)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
2020-08-06

収支報告書

文献番号
201419026Z