アジアの感染症担当研究機関とのラボラトリーネットワークの促進と共同研究体制の強化に関する研究

文献情報

文献番号
201318053A
報告書区分
総括
研究課題名
アジアの感染症担当研究機関とのラボラトリーネットワークの促進と共同研究体制の強化に関する研究
課題番号
H23-新興-指定-020
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
倉根 一郎(国立感染症研究所 )
研究分担者(所属機関)
  • 清水 博之(国立感染症研究所)
  • 荒川 英二(国立感染症研究所)
  • 森川 茂(国立感染症研究所)
  • 松山 州徳(国立感染症研究所)
  • 倉 文明(国立感染症研究所)
  • 中山 周一(国立感染症研究所)
  • 森田 昌知(国立感染症研究所)
  • 野崎 智義(国立感染症研究所)
  • 三戸部 治郎(国立感染症研究所)
  • 俣野 哲朗(国立感染症研究所)
  • 高崎 智彦(国立感染症研究所)
  • 津田 良夫(国立感染症研究所)
  • 津久井久美子(国立感染症研究所)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所)
  • 阿戸 学(国立感染症研究所)
  • 甲斐 雅規(国立感染症研究所)
  • 片山 和彦(国立感染症研究所)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所)
  • 蒲地 一成(国立感染症研究所)
  • 大野 秀明(国立感染症研究所)
  • 小泉信夫(国立感染症研究所)
  • 駒瀬 勝啓(国立感染症研究所)
  • 井上 智(国立感染症研究所)
  • 加藤 はる(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
85,365,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アジアで問題となっている感染症 1)コレラ等の腸管系下痢症 2)麻疹、インフルエンザ,ARI等の呼吸器系感染症 3)デング熱、JE等のベクター媒介性疾患等の新興・再興感染症を対象に研究プロジェクトを組織しアジア地域との研究ネットワークを構築。アジア各地域の研究機関に研究委託を行いそこで分離される病原体の分布、病原体の遺伝学的特徴等の調査・解析する。国内で分離される株との比較検討を行いデーターベースの構築。病原体のゲノム情報を基本としデーターベース化を行い、その情報を利用することにより発生するあるいは移動する病原体を迅速に把握することが可能となり、わが国への病原体の侵入・拡散を未然に防止することに役立てる。
研究方法
各研究機関との共同研究プロトコールの作成を行った。各病原体の分離・検査法の確立と統一、検査マニュアルの作成、分子疫学的手法の開発と統一化、解析マニュアルの作成。統一された方法に基づき各国で分離される病原体の疫学マーカー解析、わが国との比較検討を行う。結果のデータベース化を行い共通に利用できる体制を構築。新しい解析手法の開発に成功した場合にはお互いの国間の技術移転を行う。人的交流も促進、健康危機発生時には迅速に情報交換が行える体制を構築。
結果と考察
共同研究成果発表会を相互の国で行った。台湾CDC(9月11-12日 感染研)、NICED(9月26-27日、感染研)、NIHE(10月28-29日、ベトナムNIHE)、中国CDC(11月26日、中国CDC)。1) 中国CDCとの連携:中国から分与されたSFTSV株を用いてウイルス感染細胞から抗原を調整してELISA法などを開発した。予備調査で、高率に国内の野生のシカなどから抗体が検出された。一方マダニからの遺伝子検出法を開発した結果、マダニ中のRNAから10コピー/反応の感度でSFTSV遺伝子が検出できた。中国CDCにおいて、中国で伝播しているEV71分離株の分子疫学的解析を行ったところ、中国で検出されたほとんどすべてのEV71分離株は、Genogroup C4に属することが明らかとなった。Genogroup C4は、台湾、日本等でも検出されているが、中国本土のように単一の遺伝子型のEV71 が長期間伝播することはなく異なる複数の遺伝子型のEV71が認められている。2) 台湾CDCとの連携:台湾で分離されたINH耐性結核菌の遺伝子解析を行い、katG遺伝子上に耐性に関与している新規の遺伝子変異を見出した。これまでに耐性株で見出されていたndh遺伝子の変異について耐性との関連の解析を進めた。台湾CDCにおけるブルセラ症検査体制構築のため、感染研で開発した抗体検出法と遺伝子検出法を移転し診断技術の共有。本法を用いて台湾で発生した輸入患者を同定。日台のイヌにおけるB.canis感染状況の比較を目的として台湾でも現在調査が進行中である。台湾CDCとの共同研究で日台両国のフィリピン、インドネシアからのデング熱輸入症例、チクングニア熱輸入症例に関する情報をリアルタイムに交換しホームページに公開した。渡航地が同じであれば近似のウイルスに感染していることが明らかになった。3) ベトナムNIHEとの連携:ベトナムでは患者からNDM型カルバペネマーゼ産生菌が頻繁に分離されていることが分かった。この遺伝子はベトナム独自に進化を遂げたタイプであることが分かった。ベトナム側に耐性遺伝子のスクリーニング法を技術移転した。ベトナム北部の手足口病症例から2011-2012年はEV71が髙頻度で検出され、2011年に検出されたEV71分離株の多くはGenogroup C4であり2013年にはGenogroup B5の割合が増加した。4) インドNICEDとの連携:赤痢菌の弱毒ワクチンの開発を行い血清型の異なる赤痢菌(A群)に対しても防御効果があることが分かった。コレラ流行地であるインドよりコレラ菌ゲノムDNAを受領し分子疫学解析。コレラ流行株間では遺伝的多様性があるものの遺伝子型に地域性も見られた。
結論
一国で発生した感染症の原因となる病原体はSARSの事件が実証したように、ヒトあるいは物を介して瞬く間に世界中に拡散し時には莫大なる被害をもたらす。それを未然に阻止する対策が求められている。いつ発生するかまたはどのような状況で伝播するかわからない感染症に対しては常時監視体制の確立が最も効果的防止法である。そのためには国を越えての協力体制の構築が求められている。アジア諸国を中心として感染症対策に関与する研究機関と国立感染症研究所とのネットワークを構築し各国における研究促進を図ってきておりその成果が見えてきた。何がいつ発生しても対処できるように日頃から用意をしておくことこそ最高の防御である。アジアとの連携はその一環である。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-06-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-02-13
更新日
-

文献情報

文献番号
201318053B
報告書区分
総合
研究課題名
アジアの感染症担当研究機関とのラボラトリーネットワークの促進と共同研究体制の強化に関する研究
課題番号
H23-新興-指定-020
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
倉根 一郎(国立感染症研究所 )
研究分担者(所属機関)
  • 清水 博之(国立感染症研究所)
  • 荒川 英二(国立感染症研究所)
  • 森川 茂(国立感染症研究所)
  • 松山 州徳(国立感染症研究所)
  • 倉 文明(国立感染症研究所)
  • 中山 周一(国立感染症研究所)
  • 駒瀬 勝啓(国立感染症研究所)
  • 片山 和彦(国立感染症研究所)
  • 蒲地 一成(国立感染症研究所)
  • 森田 昌知(国立感染症研究所)
  • 野崎 智義(国立感染症研究所)
  • 三戸部治郎(国立感染症研究所)
  • 高崎 智彦(国立感染症研究所)
  • 津田 良夫(国立感染症研究所)
  • 津久井久美子(国立感染症研究所)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所)
  • 阿戸 学(国立感染症研究所)
  • 甲斐 雅規(国立感染症研究所)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所)
  • 小泉 信夫(国立感染症研究所)
  • 俣野 哲朗(国立感染症研究所)
  • 加藤はる(国立感染症研究所)
  • 井上 智(国立感染症研究所)
  • 大野 秀明(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高病原性鳥インフルエンザ、デング熱、下痢性疾患等のアジアで発生している感染症が旅行者等を通しわが国に進入する危険性が常に存在している。それらの発生状況を常時に把握し、わが国への侵入あるいは拡散を防止する事前対応が必要である。そのため感染研では東アジア地区(中国、韓国、台湾)やインド等に存在する感染症を専門とする国立の研究機関(国立感染症研究所と同じような機能を持つ機関を対象にする)との共同研究契約(MOU)を締結してきている。問題となる病原体の正確な情報および特徴を日常的に把握し監視していくために当該研究機関とのネットワークを構築し感染症情報および病原体情報の交換を行う。連携各国との国際シンポジウムを定期化し情報の交換・人的交流を図る。それらが総合的にアジア地区への我が国の国際貢献および感染症コントロールに貢献することに繋がるであろう。
研究方法
各研究機関との共同研究プロトコールの作成を行った。各病原体の分離・検査法の確立と統一、検査マニュアルの作成、分子疫学的手法の開発と統一化、解析マニュアルの作成を行う。統一された方法に基づき各国で分離される病原体の疫学マーカーの解析を行い、わが国のものとの比較検討を行う。結果のデータベース化を行い共通に利用できる体制を構築する。新しい解析手法の開発に成功した場合にはお互いの国間での技術移転を行う。人的な交流も促進し健康危機の発生時には迅速に情報の交換が行える体制を構築する。
結果と考察
1990年代後半以降、東アジア地域で小児急性死症例を含む重症EV71エンテロウイルス感染症の大規模な流行が多発し大きな社会問題となっているが、中国本土では2008年以来、多数の死亡例を含む手足口病流行が報告されている。中国で近年伝播しているEV71分離株の分子疫学的解析を行ったところ、すべてのEV71株が中国本土固有の遺伝子型C4に属することが明らかとなった。中国で分離された遺伝子型C4のEV71株と分子系統学的に近縁なEV71分離株は、中国本土以外の台湾・日本・ベトナム等でも近年報告されている。他の地域では異なる遺伝子型の流行・伝播が頻繁に認められるのに対し、中国本土で検出されるEV71株はほとんどすべて遺伝子型C4しか検出できない点は中国で伝播しているEV71の分子疫学的特徴と考えられる。アジア地域ではEV71による髄膜炎等の重症事例や死者が可なり発生している。そのため中国・台湾・ベトナム等においては自前でワクチン開発を行ってきている。我が国においてはEV71の事例はあるが社会問題化するほどの死亡事例数までには至っていない。同じ遺伝型の株が流行しているが病態に大きな違いが見られる。その理由がどこにあるのかは判明していない。環境の問題なのか、ヒトの遺伝的要因に起因するのか今後の課題である。2009年ごろに中国でマダニ媒介性疾患としてSFTSが見いだされた。2013年には我が国においてもまた韓国においても見いだされてきており、少なくとも東アジア一帯に存在する可能性があることが判明した。SFTSVのゲノム解析の結果からは、かなり以前からそれらの地域に定着して独自の進化をしてきていることが判明した。それらを解析できるきっかけも中国CDCとの共同研究契約の締結と実際の共同研究の開始による連携の強化が図られてきた結果であった。お互いの研究所の正式のパイプができてきた成果は大きなものがある。それはH7N9インフルエンザ発生時においても、情報の交換がスムーズにいき、またH7N9インフルエンザの解析成果を中国CDC が世界に向けて発表する会合時にも、感染研に最敬礼の招聘が行われたことからも明らかである。政治的な問題とはかけ離れて科学的事項に関して研究所間の太いきずなが維持されていく努力を行っていく必要がある。
結論
感染症の伝播には国境はない。いつどのような病原体の勃発その拡散が起こるか予期できない。その発生を迅速に検知するためにも、近隣諸国との連携および病原体の検出技術の標準化が重要である。幸いにも我が国は科学的にも技術的にもアジア諸国のなかでは先んじている。我が国がリーダーシップをとりアジア諸国の感染症対応の責任を担う国立の研究機関とのネットワークを構築し人的・技術的な交流を深めておくことが、強いては我が国への新規病原体の侵入防止および拡大の迅速把握に結びつき我が国の感染症対策に役立つこととなる。構築されつつあるネットワークのさらなる発展および維持に当該研究の果たす役割は大きいと考える。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201318053C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アジア地域(特に中国、台湾、ベトナム、インド)の感染症の制御に携わる国立のCDC機能をもつ研究機関との連携のもとに、アジアで問題となっている感染症の共同研究を行った。その結果、①アジア地区を中心にEV7 Genogroup C4株が流行しており、髄膜炎の重症例が問題となっていることが判明した。②ベトナム、インド等のアジア地域では、NDM-1型カルバペネマーゼ産生菌が頻繁に分離され汚染状況が深刻な状態であり、わが国への侵入が危惧された。
臨床的観点からの成果
アジアにおけるNDM-1型カルバペネマーゼ耐性菌あるいはデング熱等のベクター媒介性疾患などの感染症の実態に関する情報を臨床家及び国民に発信することにより、アジアからの帰国者あるいはアジアへの旅行者への注意喚起に貢献した。
ガイドライン等の開発
アジアで流行している感染症の診断法のマニュアル化を行い、アジアのCDC様研究機関との間で共有化を図った。同じ手法を用いて病原体等の診断・解析を行いお互いの国のデータの比較検討が可能となった。
その他行政的観点からの成果
国立感染症研究所(NIID)と同じような機能を持つ中国CDC, 台湾CDC, ベトナムNIHE, インドNICED等とNIIDとの間の連携が強化され、各国で発生した感染症の情報や病原体の交換がしやすくなる環境が整備された。アジアで流行する感染症に対して迅速に対応できる体制が構築され、感染症対策の国際貢献ができた。
その他のインパクト
アジアの国々との感染症研究における共同研究体制の強化により、アジアにおける我が国の存在をアピールできた。

発表件数

原著論文(和文)
34件
原著論文(英文等)
189件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
150件
学会発表(国際学会等)
83件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-06-10
更新日
2018-07-10

収支報告書

文献番号
201318053Z