長寿命型人工関節の臨床応用推進に関する研究 | 厚生労働科学研究成果データベース

人工関節の最大の合併症である弛みの阻止を目指し、生体適合性と潤滑性に優れた2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine (MPC)をナノスケールで表面にグラフトした人工関節摺動面を創製した。本研究では、この技術を臨床の現場に迅速に応用するため、長寿命型人工股関節の臨床応用のための検討、長寿命型人工膝関節の臨床応用のための検討、MPCポリマー処理したポリエチレン表面の生体内安全性の検討、臨床試験データ登録・管理システムの構築を行った。

研究方法

長寿命型人工股関節の臨床応用のための検討としては、MPC処理の同定法と至適処理条件を検索した。また、股関節シミュレーターを用い耐摩耗試験を行った。さらに、骨頭種が耐摩耗特性に与える影響を検討した。長寿命型人工膝関節の臨床応用のための検討としては、人工膝関節摺動面へのMPC処理方法を確立し、膝関節シミュレーター試験を行った。また、金属表面のMPC処理を検討した。MPC処理したポリエチレン表面の生体内安全性の検討では、厚生労働省医薬審発第0213001号に従い、ISO 10993に準拠して検討した。臨床試験データ登録・管理システムの構築では、日本整形外科学会インプラント委員会を中心に人工股・膝関節の登録用紙を作成し、システムの試行を行った。

結果と考察

MPCの処理条件を変え、XPS分析、FT-IR分析、接触角の測定、TEM観察、摩擦試験等により至適処理濃度を決定した。人工股関節シミュレーター試験においては、金属・アルミナ骨頭と組み合わせて試験を行い、MPC処理が長期にわたりポリエチレンライナーの摩耗を抑制すること、長期の歩行負荷をかけても処理効果は残存すること、を明らかにした。人工膝関節摺動面へのMPC処理方法としては、ポリエチレンインサート、金属表面への処理方法を確立した。また、手術後の歩行を再現するよう人工膝関節シミュレーターの設定を行い、摩耗試験を行った。この結果、股関節と同様の摩耗抑制効果が観察できた。MPC処理したポリエチレン表面の生体内安全性については、細胞毒性試験、染色体異常試験、感作性試験、急性毒性試験等を行い、安全性を確認した。データ登録・管理システムの構築については、人工股関節と膝関節の登録用紙を作成し、委員会のメンバーが所属する10施設を対象にシステムを試行と改善を行った。

結論

以上の研究により、人工関節の最大の合併症である弛みを抑制する長寿命型人工関節の臨床応用を推進するための研究を完成することができた。長寿命型人工股関節については治験が始まっており、実用化に向けたプロジェクトが進行している。

公開日・更新日

公開日

2008-04-11

更新日

-

研究報告書（紙媒体）

公開日・更新日

公開日

2008-12-16

更新日

-

行政効果報告

文献番号

200716004C

成果

専門的・学術的観点からの成果

本研究の成果は人工関節の弛みを解決し長寿命化を達成する画期的な研究開発として国内外で注目を集めている。学術的には、The Hip Society（米国）のThe Frank Stinchfield Award、Orthopaedic Research Society（米国）のThe William Harris Award、日本バイオマテリアル学会バイオマテリアル科学奨励賞、日本整形外科学会奨励賞など、医工両分野において国際学会3回、国内学会6回の受賞をしている。

臨床的観点からの成果

人工関節の手術後約10?15年で生じるとされる弛みは最大の合併症である。従来の人工関節の関節摺動面に生体適合性ポリマー・MPCポリマーをナノメーター単位で表面処理することで長寿命化を達成した本研究は臨床的観点からも注目されている。本研究開発の成果である長寿命型人工股関節は、平成19年4月より、東京大学医学部附属病院を中心に治験が行われており、実用化へ向けたプロジェクトが進んでいる。

ガイドライン等の開発

平成19年度経済産業省委託事業『平成19年度戦略的技術開発委託費　医療機器開発ガイドライン策定事業（医療機器に関する技術ガイドライン作成のための支援事業）』（事務局：独立行政法人　産業技術総合研究所）において、『次世代（高機能）人工股関節開発ガイドライン素案』の中で、新表面処理として「MPC処理」が例示され、審議が行なわれた。（第１回：平成20年1月31日、第２回：平成20年3月14日）

その他行政的観点からの成果

現在のところ、特にありません。

その他のインパクト

平成18年6月4日、公開シンポジウム「朝日人工関節フォーラム　ー知っておきたい股関節治療の最前線―」を主催し、本研究課題の成果を社会に発信したほか、平成19年9月27日、佐賀で行われたトライボロジー会議の公開シンポジウムなど、各地で本研究に関連した講演を行っている。また、これらの成果は新聞(朝日新聞、日本経済新聞、産経新聞等)、国内外の雑誌）、ラジオ（NHK国際放送等）の媒体を通して国内のみならず海外に向けても情報が発信されている。

発表件数

原著論文（和文）

15件

原著論文（英文等）

64件

その他論文(和文)

12件

その他論文(英文等)

2件

学会発表(国内学会)

82件

学会発表(国際学会等)

57件

その他成果(特許の出願)

0件
「出願」「取得」計6件

その他成果(特許の取得)

0件

その他成果(施策への反映)

0件

その他成果(普及・啓発活動)

1件

特許

主な原著論文20編（論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る）

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1

Moro T, Takatori Y, Ishihara K, et al.
2006 Frank Stinchfield Award: Grafting of biocompatible polymer for longevity of artificial hip joints.
Clin Orthop Relat Res , 453 , 58-63 (2006)

原著論文2

Kyomoto M, Moro T, Konno T, et al.
Effects of photo-induced graft polymerization of 2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine on physical properties of cross-linked polyethylene in artificial hip joints.
J Mater Sci Mater Med , 18 , 1809-1815 (2007)

原著論文3

Kyomoto M, Moro T, Konno T, et al.
Enhanced wear resistance of modified cross-linked polyethylene by grafting with poly(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine).
J Biomed Mater Res A , 82 , 10-17 (2007)

原著論文4

Kyomoto M, Moro T, Miyaji F, et al.
Enhanced wear resistance of orthopedic bearing due to the cross-linking of poly(MPC) graft chains induced by gamma-ray irradiation.
J Biomed Mater Res Appl Biomater , 84 , 320-327 (2008)

公開日・更新日

公開日

2015-05-26

更新日

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