文献情報
文献番号
201525001A
報告書区分
総括
研究課題名
水道における水質リスク評価および管理に関する総合研究
課題番号
H25-健危-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
松井 佳彦(北海道大学 大学院工学研究院)
研究分担者(所属機関)
- 秋葉 道宏(国立保健医療科学院)
- 浅見 真理(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 泉山 信司(国立感染症研究所 寄生動物部)
- 伊藤 禎彦(京都大学大学院 工学研究科)
- 越後 信哉(京都大学大学院 工学研究科)
- 大野 浩一(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 片山 浩之(東京大学大学院 工学系研究科)
- 門上 希和夫(北九州市立大学 国際環境工学部)
- 川元 達彦(兵庫県立健康生活科学研究所 健康科学部)
- 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 西村 哲治(帝京平成大学 薬学部)
- 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
- 小野 敦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
- 松下 拓(北海道大学大学院工学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
34,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
水道水質基準の逐次見直しなどに資すべき化学物質や消毒副生成物,設備からの溶出物質,病原生物等を調査し,着目すべき項目に関してそれらの存在状況,監視,低減化技術,分析法,暴露評価とリスク評価に関する研究を行う.
研究方法
原水や水道水質の状況,浄水技術について調査研究を行うため,研究分担者15名の他に43もの水道事業体や研究機関などから83名の研究協力者の参画を得て,各研究分担者所属の施設のみならず様々な浄水場などのフィールドにおける実態調査を行った.水質項目は多岐にわたるため,上述の研究目的に沿って5課題群に分けて,研究分科会(微生物分科会,化学物質・農薬分科会,消毒副生成物分科会,リスク評価管理分科会,水質分析分科会)を構成し,全体会議などを通じて相互に連携をとりながら並行的に研究を実施した.
結果と考察
表流水に比較的高濃度で存在するPMMoVトウガラシ微斑ウイルス(PMMoV))と各種ウイルス(アデノウイルス,コクサッキーウイルス,A型肝炎ウイルス,マウスノロウイルス)は同程度の凝集沈澱処理除去が得られ,PMMoVはウイルスの指標として有効と期待された.急速砂ろ過法による実浄水場ではPMMoVの除去率は4.3-Logであった.クリプトスポリジウム遺伝子検出法として検鏡法とqRT-PCR法の比較を継続した.2法の定性的な一致率は78%であり概ねの対応が得られた.
農薬の実態調査では,原水75種,浄水41種の農薬が検出されたが,この中には農薬分類の見直しで対象農薬に加わった農薬が多く含まれ濃度や個別農薬評価値などが高いものもあった.テフリルトリオンは通常の粉末活性炭の添加量では十分に除去されないことが示された.また,塩素処理によりほぼ全て,農薬評価書にテフリルトリオンの分解物Bとして報告のある2-chloro-4-methyl-3-[(tetrahydro furan-2-yl-methoxy) methyl] benzoic acidへ変化し,浄水中で検出された.処理特性や分解物のモニタリングの必要性も検討していく必要がある.化学物質の検出状況について検討したところ,1,2-エポキシプロパン(酸化プロピレン),アクリロニトリル,ヘキサメチレンテトラミン,ヒドラジン等の検出濃度が仮の評価値に比べて高かった.
塩素処理によってホルムアルデヒドを生成する浄水処理対応困難物質等のうち8物質を検討し,全てオゾンとGACの組み合わせにより処理性が得られることを確認した.有機アミノ化合物はBAC処理によって除去できることを確認した. p位に置換基(特にアルキル基)を有するフェノール類は,ハロベンゾキノン前駆物質となる傾向があることを示した.揮発性窒素化合物濃度は臭気強度と高水温期においても,トリクロラミンよりも相関が強かった.
突発的水質事故事象に対するマニュアル類の整備と複数マニュアルの関連性についての事例を示し,さらに,米国EPAの水質異常発生時の周知方法の重要点を整理した.米国の水質事故においてはDo Not Use指令中においても約37%の世帯が水道水を使用していた.海外諸国においては,短期間摂取による深刻な健康影響が懸念されない限り,給水停止は基本的にあり得ない選択肢であった.トリクロロエチレンは現行の基準値の水道水の使用を想定すると過半数以上の人が耐容一日摂取量を超える暴露量となる可能性が示唆され,さらなる詳細評価の必要性が明らかになった.日本人成人の潜在的水道水摂水量は,冬:中央値 1.45, 95%値 2.64.夏:中央値 1.64, 95%値 3.12であった.亜急性評価値を用いて,成人及び小児を対象とし,短期的な水道水質汚染が生じた際に参考とすべき水道水中濃度を19項目について提案した.
現在の標準検査法では固相抽出による前処理後にGC/MSやLC/MSで分析している農薬および標準検査法のない140農薬を対象に,前処理なしでLC/MS/MSに直接注入して一斉分析できるかどうかを検討した.目標値の1/100超1/10以下の濃度では114~117物質が,目標値の1/100以下の濃度においても105物質が妥当性評価ガイドラインの真度および併行精度の目標を満たした.開発した固相抽出-LC-TOF/MSスクリーニング分析法を実試料に適用した結果,開発法がLOCsのスクリーニングに有効である事が確認された.
農薬の実態調査では,原水75種,浄水41種の農薬が検出されたが,この中には農薬分類の見直しで対象農薬に加わった農薬が多く含まれ濃度や個別農薬評価値などが高いものもあった.テフリルトリオンは通常の粉末活性炭の添加量では十分に除去されないことが示された.また,塩素処理によりほぼ全て,農薬評価書にテフリルトリオンの分解物Bとして報告のある2-chloro-4-methyl-3-[(tetrahydro furan-2-yl-methoxy) methyl] benzoic acidへ変化し,浄水中で検出された.処理特性や分解物のモニタリングの必要性も検討していく必要がある.化学物質の検出状況について検討したところ,1,2-エポキシプロパン(酸化プロピレン),アクリロニトリル,ヘキサメチレンテトラミン,ヒドラジン等の検出濃度が仮の評価値に比べて高かった.
塩素処理によってホルムアルデヒドを生成する浄水処理対応困難物質等のうち8物質を検討し,全てオゾンとGACの組み合わせにより処理性が得られることを確認した.有機アミノ化合物はBAC処理によって除去できることを確認した. p位に置換基(特にアルキル基)を有するフェノール類は,ハロベンゾキノン前駆物質となる傾向があることを示した.揮発性窒素化合物濃度は臭気強度と高水温期においても,トリクロラミンよりも相関が強かった.
突発的水質事故事象に対するマニュアル類の整備と複数マニュアルの関連性についての事例を示し,さらに,米国EPAの水質異常発生時の周知方法の重要点を整理した.米国の水質事故においてはDo Not Use指令中においても約37%の世帯が水道水を使用していた.海外諸国においては,短期間摂取による深刻な健康影響が懸念されない限り,給水停止は基本的にあり得ない選択肢であった.トリクロロエチレンは現行の基準値の水道水の使用を想定すると過半数以上の人が耐容一日摂取量を超える暴露量となる可能性が示唆され,さらなる詳細評価の必要性が明らかになった.日本人成人の潜在的水道水摂水量は,冬:中央値 1.45, 95%値 2.64.夏:中央値 1.64, 95%値 3.12であった.亜急性評価値を用いて,成人及び小児を対象とし,短期的な水道水質汚染が生じた際に参考とすべき水道水中濃度を19項目について提案した.
現在の標準検査法では固相抽出による前処理後にGC/MSやLC/MSで分析している農薬および標準検査法のない140農薬を対象に,前処理なしでLC/MS/MSに直接注入して一斉分析できるかどうかを検討した.目標値の1/100超1/10以下の濃度では114~117物質が,目標値の1/100以下の濃度においても105物質が妥当性評価ガイドラインの真度および併行精度の目標を満たした.開発した固相抽出-LC-TOF/MSスクリーニング分析法を実試料に適用した結果,開発法がLOCsのスクリーニングに有効である事が確認された.
結論
水道原水の状況,水道水に含まれる物質の検出方法,浄水過程における低減化法,毒性情報,暴露量への寄与など水道水質基準の基礎となる多数の知見が得られた。主要な知見は「結果と考察」のとおりである.これらの成果は論文により公表されるとともに厚生労働省令や告示等や水質基準逐次改正検討会資料に資された.
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
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