文献情報
文献番号
201313024A
報告書区分
総括
研究課題名
がん治療の副作用軽減ならびにがん患者のQOL向上のための漢方薬の臨床応用とその作用機構の解明
研究課題名(英字)
-
課題番号
H22-3次がん-一般-035
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
上園 保仁(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 がん患者病態生理研究分野)
研究分担者(所属機関)
- 乾 明夫(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心身内科学分野)
- 大西 俊介(北海道大学大学院医学研究科 消化器内科学分野)
- 上田 陽一(産業医科大学医学部第1生理学)
- 塚田 俊彦(独立行政法人国立がん研究センター研究所家族性腫瘍研究分野)
- 藤宮 峯子(札幌医科大学医学部解剖学第2講座)
- 樋上 賀一(東京理科大学薬学部分子病理・代謝学研究室)
- 河野 透(医療法人徳洲会札幌東徳洲会病院外科)
- 櫻木 範明(北海道大学大学院医学研究科生殖内分泌・腫瘍学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
18,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成19年よりがん対策基本法施行に伴い第一期がん対策推進基本計画が策定された。平成24年には第二期がん対策推進基本計画が閣議決定され、がん患者の生活の質の維持向上のための緩和医療ならびにその進展のための研究が推進されている。しかし未だ「がん悪液質」の症状改善対策、ならびに抗がん剤による悪心嘔吐等の副作用対策は不十分である。近年漢方薬、六君子湯が抗がん剤による食欲不振を改善させること、さらに抗がん剤の悪心嘔吐、便秘に大建中湯が有効であることがエビデンスを持って示されてきた。
本研究では六君子湯・大建中湯等の漢方薬の作用メカニズムを基礎研究で明らかにすること、ならびに同漢方薬の有効性を臨床研究を用いて明らかにすることを目的とした。
本研究では六君子湯・大建中湯等の漢方薬の作用メカニズムを基礎研究で明らかにすること、ならびに同漢方薬の有効性を臨床研究を用いて明らかにすることを目的とした。
研究方法
・これまでの研究で確立された85As2細胞移植がん悪液質モデルを用い、グレリン投与による摂食亢進作用減弱(グレリン抵抗性)に対する六君子湯経口投与の作用を検討した。
・六君子湯の中枢効果の解析のため、頭部fMRIを用いて六君子湯経口投与後の撮像を行い、解析を行った。
・ラットにパラクロロフェニルアラニンを腹腔内投与してセロトニン枯渇モデル動物を作製し、作製ラットにシスプラチンを投与し、その後、六君子湯投与による視床下部摂食関連ペプチド遺伝子発現量等を測定した。
・ACTH産生下垂体培養細胞AtT-20およびGH産生下垂体培養細胞GH3を用い、六君子湯による各細胞からのACTHおよびGH分泌への影響を免疫学的測定法により定量した。
・ラットの十二指腸を潅流し、潅流液中のセロトニン濃度を経時的に測定した。潅流1時間後にシスプラチン投与し、六君子湯投与群、シスプラチン投与群、シスプラチン+六君子湯投与群で潅流液内のセロトニン濃度を比較した。
・カロリー制限ラット(30%、70%)と自由摂食群ラットの脂肪組織の解析を行い、六君子湯の有無での効果を検討した。
・ラットの近位大腸内腔に圧トランスデューサを装着し、腸管運動を観察記録した。大建中湯成分のターゲットであるカリウムチャネルの各種ブロッカー、オープナー、ならびに大建中湯成分の運動への効果を比較解析した。
・当研究班内のデータセンターとともに、「ゲムシタビン投与膵がん患者における軽度悪液質または前悪液質状態に対する六君子湯の悪液質進行抑制効果―無作為化第Ⅱ相比較試験」のプロトコール作成ならびに登録数を順調に進めるためのプロトコール改正作業を行った。さらに「シスプラチンを含む化学療法を施行される子宮がん患者の食欲不振に対する六君子湯の効果―無作為化第Ⅱ相比較試験」プロトコール作成を行い、臨床研究に着手した。
・六君子湯の中枢効果の解析のため、頭部fMRIを用いて六君子湯経口投与後の撮像を行い、解析を行った。
・ラットにパラクロロフェニルアラニンを腹腔内投与してセロトニン枯渇モデル動物を作製し、作製ラットにシスプラチンを投与し、その後、六君子湯投与による視床下部摂食関連ペプチド遺伝子発現量等を測定した。
・ACTH産生下垂体培養細胞AtT-20およびGH産生下垂体培養細胞GH3を用い、六君子湯による各細胞からのACTHおよびGH分泌への影響を免疫学的測定法により定量した。
・ラットの十二指腸を潅流し、潅流液中のセロトニン濃度を経時的に測定した。潅流1時間後にシスプラチン投与し、六君子湯投与群、シスプラチン投与群、シスプラチン+六君子湯投与群で潅流液内のセロトニン濃度を比較した。
・カロリー制限ラット(30%、70%)と自由摂食群ラットの脂肪組織の解析を行い、六君子湯の有無での効果を検討した。
・ラットの近位大腸内腔に圧トランスデューサを装着し、腸管運動を観察記録した。大建中湯成分のターゲットであるカリウムチャネルの各種ブロッカー、オープナー、ならびに大建中湯成分の運動への効果を比較解析した。
・当研究班内のデータセンターとともに、「ゲムシタビン投与膵がん患者における軽度悪液質または前悪液質状態に対する六君子湯の悪液質進行抑制効果―無作為化第Ⅱ相比較試験」のプロトコール作成ならびに登録数を順調に進めるためのプロトコール改正作業を行った。さらに「シスプラチンを含む化学療法を施行される子宮がん患者の食欲不振に対する六君子湯の効果―無作為化第Ⅱ相比較試験」プロトコール作成を行い、臨床研究に着手した。
結果と考察
ヒト胃がん細胞移植がん悪液質動物モデルを用い、悪液質の発症にTLR5シグナル経路の活性化、続いておこるLIF産生亢進が関与することを見出し、六君子湯は、LIF抑制ではなく、グレリン抵抗性の改善を介してがん悪液質を改善することを明らかにした。シスプラチンによる摂食抑制作用を六君子湯が改善するメカニズムはシスプラチンによるEC細胞からのセロトニン分泌を六君子湯が抑制することを証明した。
一方、大建中湯の山椒成分と乾姜成分が低濃度で相乗的に働き、抗炎症作用を示すことを明らかにした。
臨床研究では、膵がん患者を対象として臨床試験を開始した。加えて、シスプラチン投与に伴う嘔吐、食欲不振の六君子湯による抑制効果を検証するための第Ⅱ相臨床試験を開始した。
一方、大建中湯の山椒成分と乾姜成分が低濃度で相乗的に働き、抗炎症作用を示すことを明らかにした。
臨床研究では、膵がん患者を対象として臨床試験を開始した。加えて、シスプラチン投与に伴う嘔吐、食欲不振の六君子湯による抑制効果を検証するための第Ⅱ相臨床試験を開始した。
結論
抗がん剤による悪心嘔吐等の消化器症状改善、体重減少、倦怠感などのがん悪液質の症状改善は、がん患者のQOL向上や生命予後に重要であるにも関わらず、治療法が確立されていない。当班では、六君子湯が抗がん剤による食思不振改善効果を有すること、また食欲改善ペプチドであるグレリンシグナルを増強することを見出した。臨床研究についての結果を待ち、解析を行っていく予定である。
ほとんど副作用を有しない漢方薬が、抗がん剤副作用改善、ならびにがん悪液質症状改善に有効であることが科学的に立証されれば、両漢方薬は薬価収載されており、直ちに臨床現場での広範な応用が可能である。
ほとんど副作用を有しない漢方薬が、抗がん剤副作用改善、ならびにがん悪液質症状改善に有効であることが科学的に立証されれば、両漢方薬は薬価収載されており、直ちに臨床現場での広範な応用が可能である。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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