文献情報
文献番号
201212007A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性心不全の予後を改善するための非侵襲で安全・安心な無痛性ICDの実用化臨床試験
課題番号
H20-活動-指定-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
砂川 賢二(九州大学大学院医学研究院 循環器内科)
研究分担者(所属機関)
- 戸高浩司(九州大学病院 ARO次世代医療センター)
- 富永 隆治(九州大学大学院医学研究院 循環器外科)
- 杉町 勝(国立循環器病研究センター 循環動態制御部)
- 稲垣 正司(国立循環器病研究センター 循環動態制御部)
- 鎌倉 史郎(国立循環器病研究センター 内科心臓部門)
- 久田 俊明(東京大学 新領域創成科学研究科)
- 吉澤 誠(東北大学 サイバーサイエンスセンター)
- 清水 一夫(オリンパス株式会社 研究開発センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
221,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢人口の増加にともない、循環器疾患が爆発的に増加するなかで、最終病像である慢性心不全が激増している。慢性心不全の5年生存率は50%に満たず、新たな治療法の開発は人類喫緊の課題である。近年、植込型除細動装置(ICD)治療による慢性心不全の予後改善が報告され、機器治療に対する期待が高まっている。しかしながら現行ICDは心不全の進行を阻止し得ず、致死的不整脈の発生の抑制もできない。致死的不整脈が発生した場合には意識消失は不可避であり、患者は自動車の運転の制限など、日常生活に大きな支障がでる。さらに、誤動作の確率が低くなく、覚醒下で大電力除細動を行うため、耐え難い苦痛に苛まれる。生活の制限、誤動作への不安など、患者のQOLは極端に悪い。本研究はこれらの既存のICDの限界を克服することのできる、心不全の進行を阻止し、意識消失を起こさず、かつ苦痛を伴わない除細動が可能な次世代ICD(超ICD)の開発を目的とする。
研究方法
我々は超ICDの開発にあたり、4つの開発要素にわけ、研究を推進した。①電極開発(形状、配置、素材):低電力化の根幹である。電極のデザインを変更するたびに動物実験でその性能を確認するのは極めて効率が悪い。本研究では心室細動の大規模数値シミュレーターを用いて、電極構造と配置のスクリーニングを行う。その上で、優れたものについてのみ物理的に設計試作し、動物実験を行い実際の性能を確認する。②本体開発:基本的には電子器機であり、仕様を確定したのち、汎用パーツでプロトタイプを試作し基本性能を確認する。その上で、実用化に不可欠な小型化、省電力化を専用LSI(ASIC)を開発することで同時に実現する。③診断論理開発:心室細動になった際に意識消失を起こす前に除細動するためには高速診断が必要になる。既存のICDは比較的単純な不整脈の診断論理が用いられている。診断論理の複雑化は精度を向上させるが、論理処理プログラムの増加が不可避であり、消費電力を増加させる。本研究では単純でかつ診断精度の高い診断論理の開発をめざす。④植込み手技の開発:試作された器機を用いて臨床応用に向けて植込み手術手技を開発する。心不全の進行を予防し不整脈の発生そのものを抑制する自律神経介入に関する研究開発については、知財と関連するので割愛する。
結果と考察
本年度は最終年度であり、これまでの成果を反映させ、臨床試験に使用する超ICDの仕様決定および試作を行った。最大の開発課題であった電極はスパコンを駆使した心室細動の数値シミュレーションを用いて最適化を行った。その中から動物実験で最も優れた性能を示した電極を選択した。その結果、従来の1/10以下の超低電力除細動が実現した。本体はLSI(ASIC)化することにより劇的な小型化と省電力化が実現し、年単位の連続動作が可能になった。意識消失前に除細動を行うためには、不整脈の高速診断が必要である。複数点で記録された心内心電図を論理処理することで数秒以内の正確な不整脈診断が可能になった。慢性大動物にすべての機能を有した試作超ICDを低侵襲に植え込む技術を開発した。詳細は知財や実用化戦略に関わるために割愛する。
当該研究で開発した超ICDは独自機能を搭載することにより、致死的不整脈を治療する。とりわけ意識消失をきたすことなく、覚醒化に超低電力でおこなう無痛性除細動は、従前のICDの大電力除細動にともなう患者の苦痛と不安を一掃する画期的な機能である。重症心不全患者の生命予後のみならず、QOLの劇的な改善に資することができ、その医学的インパクトは計りしれない。現在のICDはその侵襲性故に適応疾患が限られる。しかしながら、当該の超ICDは低侵襲であることから、適応そのものが拡大し、病苦に苛まれる多くの患者の救済に資することができる。
当該研究で開発した超ICDは独自機能を搭載することにより、致死的不整脈を治療する。とりわけ意識消失をきたすことなく、覚醒化に超低電力でおこなう無痛性除細動は、従前のICDの大電力除細動にともなう患者の苦痛と不安を一掃する画期的な機能である。重症心不全患者の生命予後のみならず、QOLの劇的な改善に資することができ、その医学的インパクトは計りしれない。現在のICDはその侵襲性故に適応疾患が限られる。しかしながら、当該の超ICDは低侵襲であることから、適応そのものが拡大し、病苦に苛まれる多くの患者の救済に資することができる。
結論
現行ICDの多くの限界を克服する次世代の低侵襲で無痛性の超ICDの試作ができ、その機能が確認された。
公開日・更新日
公開日
2013-09-03
更新日
-