リスクアセスメントを核とした諸外国の労働安全衛生制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究

文献情報

文献番号
201621001A
報告書区分
総括
研究課題名
リスクアセスメントを核とした諸外国の労働安全衛生制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究
課題番号
H26-労働-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
三柴 丈典(近畿大学 法学部法律学科)
研究分担者(所属機関)
  • 水島 郁子(大阪大学大学院高等司法研究科)
  • 井村 真己(沖縄国際大学法学部)
  • 鈴木 俊晴(茨城大学人文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の安衛法における規定の複雑化・膨大化や形式的コンプライアンスがもたらす弊害への対応、中小企業における遵法の促進と安全衛生の強化、限られた行政資源の有効活用等の必要性にかんがみ、リスクアセスメントに関する外国法制度の調査に基づき、有効な対策について政策提言を行うこと。
研究方法
初年度と次年度は、英米及びEUの関連法制度について、主に第一次資料に基づく文献調査を行うと共に、英米については関係事情に関する現地での聴き取り調査を行った。また、日本法の特徴、長所と課題について、文献調査及び安全衛生に詳しい元労働基準監督官への聴き取り調査を行った。
最終年度は、外国法制度調査の示唆が日本で妥当性を持つかを調べるため、専門家とステークホルダーが参画する研究会を開催して意見を求めたうえで質問票を作成し、企業の安全衛生関係者らを対象とするWEBによる社会調査(電子調査)を行った。
結果と考察
英米では、労働安全衛生にかかるリスク管理の推進のため、直接的・間接的な強制と自主的取組の推進の双方を図っていることが判明した。特に労災発生率の低いイギリス(UK)の法制度には、①メリハリ(アメとムチ)、②単純明快さ、③多角性・多面性、④自律性と労使協議の重視、⑤専門性と柔軟性(法執行機関とビジネスの親和性)、⑥それらを支える物的・人的資源などの特徴があることが明らかになった。
アメリカの法制度調査からは、行政資源の開発と有効活用による、トップランナーとバックランナーの双方を対象とする支援策の要素が明らかにされた。前者の代表例が、1982年に導入されたVPP制度であり、リスク管理体制の整備を含め、結果へ向けたアウトプットを認証評価基準としている。また、同制度を支える人的資源確保のため、SGEという民間人の特別任用制度がある。後者の代表例として、現地コンサルテーション制度とSHARP(:安全衛生達成度認定プログラム)と呼ばれる制度があり、法令違反を発見しても処罰しない気軽な相談相手として、一定の機能を果たしている。
EU・ECの安全衛生枠組み指令に関する調査からは、リスク管理のエッセンスが明らかにされた。また、EUのOiRA(Online interactive Risk Assessment)に関する調査からは、バックランナー対策に有効性を発揮する可能性のあるWEB上のシステムの要素等が明らかにされた。
しかし、いずれの制度にも背景依存性のあることも明らかとなり、日本的文脈に応じて採り入れるべき要素を取捨選択する必要があることが窺われた。
結論
労働安全衛生にかかるリスク管理には、組織責任者による積極的関与、構造的・計画的・組織的取組、人的・物的資源の整備とアクセスの確保、直面課題に応じた柔軟な対応、安全衛生と組織の生産性の一体視等の要素を各事業場で展開させる必要があり、そのためには法令整備や遵法の徹底のみならず、経営者目線を意識した安全衛生文化の醸成が求められる。そのための戦略の1つとして、高齢者を焦点とした安全衛生行政の推進が考えられる。また、行政や行政官の専門性の強化を前提とした裁量の拡大も求められる。
立法技術的には、安全衛生法の業法としての性格の強化が妥当と解される。具体的には、(1)リスク創出者監理責任負担原則などの重要な原則を義務化するか、大綱で明示する、(2)法律を具体化する政省令に抽象的な文言を盛り込み、遵法立証責任を事業者に課し、専門官が判定する等の手続により要件を特定する、(3)ガイドラインの整備充実化を図り、基本的には違法ではなく遵法の判断基準として事業者らに活用させる、(4)法第98条第1項に列挙された条項違反の解釈は、当該条項を具体化する規則に捉われないことを明記する、(5)第99条第1項の要件に該当しない場合にも、複数の専門官の判断により「許容できない危険」があると認められた場合、法的措置を講じられる旨の規定を設ける等の方策が考えられる。
また、労災防止努力を行う中小事業体には、遵法上の優先順位や猶予を設ける必要がある。そこで、英米の制度に倣い、監督機関が柔軟な対応をすることやその条件を明記すると共に、公的機関が認証した専門家に監査させる等の方策が考えられる。
更に、化学物質対策、メンタルヘルス対策のように、特に不確実性の高いリスクへの対応に際しては、法規則の集積、バランスのとれた法執行、検査官の専門性の向上、国際規格の策定と普及、専門機関による関連情報の収集・分析と公表、民間団体による安全衛生の専門家の養成と適格性認証等の安全衛生インフラを増やし、そのいずれかがヒットするように図る必要がある。
以上の基本的視点に立った個別的提言(法令関係、政策関係)は、報告書の要約等に記した。

公開日・更新日

公開日
2017-03-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-03-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201621001B
報告書区分
総合
研究課題名
リスクアセスメントを核とした諸外国の労働安全衛生制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究
課題番号
H26-労働-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
三柴 丈典(近畿大学 法学部法律学科)
研究分担者(所属機関)
  • 水島 郁子(大阪大学 高等司法研究科)
  • 井村 真己(沖縄国際大学 法学部)
  • 鈴木 俊晴(茨城大学 人文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の安衛法における規定の複雑化・膨大化や形式的コンプライアンスがもたらす弊害への対応、中小企業における遵法の促進と安全衛生の強化、限られた行政資源の有効活用等の必要性にかんがみ、リスクアセスメントに関する外国法制度の調査に基づき、有効な対策について政策提言を行うこと。
研究方法
初年度と次年度は、英米及びEUの関連法制度について、主に第一次資料に基づく文献調査を行うと共に、英米については関係事情に関する現地での聴き取り調査を行った。また、日本法の特徴、長所と課題について、文献調査及び安全衛生に詳しい元労働基準監督官への聴き取り調査を行った。
最終年度は、外国法制度調査の示唆が日本で妥当性を持つかを調べるため、専門家とステークホルダーが参画する研究会を開催して意見を求めたうえで質問票を作成し、企業の安全衛生関係者らを対象とするWEBによる社会調査(電子調査)を行った。
結果と考察
英米では、労働安全衛生にかかるリスク管理の推進のため、直接的・間接的な強制と自主的取組の推進の双方を図っていることが判明した。特に労災発生率の低いイギリス(UK)の法制度には、①メリハリ(アメとムチ)、②単純明快さ、③多角性・多面性、④自律性と労使協議の重視、⑤専門性と柔軟性(法執行機関とビジネスの親和性)、⑥それらを支える物的・人的資源などの特徴があることが明らかになった。
アメリカの法制度調査からは、行政資源の開発と有効活用による、トップランナーとバックランナーの双方を対象とする支援策の要素が明らかにされた。前者の代表例が、1982年に導入されたVPP制度であり、リスク管理体制の整備を含め、結果へ向けたアウトプットを認証評価基準としている。また、同制度を支える人的資源確保のため、SGEという民間人の特別任用制度がある。後者の代表例として、現地コンサルテーション制度とSHARP(:安全衛生達成度認定プログラム)と呼ばれる制度があり、法令違反を発見しても処罰しない気軽な相談相手として、一定の機能を果たしている。
EU・ECの安全衛生枠組み指令に関する調査からは、リスク管理のエッセンスが明らかにされた。また、EUのOiRA(Online interactive Risk Assessment)に関する調査からは、バックランナー対策に有効性を発揮する可能性のあるWEB上のシステムの要素等が明らかにされた。
しかし、いずれの制度にも背景依存性のあることも明らかとなり、日本的文脈に応じて採り入れるべき要素を取捨選択する必要があることが窺われた。
結論
労働安全衛生にかかるリスク管理には、組織責任者による積極的関与、構造的・計画的・組織的取組、人的・物的資源の整備とアクセスの確保、直面課題に応じた柔軟な対応、安全衛生と組織の生産性の一体視等の要素を各事業場で展開させる必要があり、そのためには法令整備や遵法の徹底のみならず、経営者目線を意識した安全衛生文化の醸成が求められる。そのための戦略の1つとして、高齢者を焦点とした安全衛生行政の推進が考えられる。また、行政や行政官の専門性の強化を前提とした裁量の拡大も求められる。
立法技術的には、安全衛生法の業法としての性格の強化が妥当と解される。具体的には、(1)リスク創出者監理責任負担原則などの重要な原則を義務化するか、大綱で明示する、(2)法律を具体化する政省令に抽象的な文言を盛り込み、遵法立証責任を事業者に課し、専門官が判定する等の手続により要件を特定する、(3)ガイドラインの整備充実化を図り、基本的には違法ではなく遵法の判断基準として事業者らに活用させる、(4)法第98条第1項に列挙された条項違反の解釈は、当該条項を具体化する規則に捉われないことを明記する、(5)第99条第1項の要件に該当しない場合にも、複数の専門官の判断により「許容できない危険」があると認められた場合、法的措置を講じられる旨の規定を設ける等の方策が考えられる。
また、労災防止努力を行う中小事業体には、遵法上の優先順位や猶予を設ける必要がある。そこで、英米の制度に倣い、監督機関が柔軟な対応をすることやその条件を明記すると共に、公的機関が認証した専門家に監査させる等の方策が考えられる。
更に、化学物質対策、メンタルヘルス対策のように、特に不確実性の高いリスクへの対応に際しては、法規則の集積、バランスのとれた法執行、検査官の専門性の向上、国際規格の策定と普及、専門機関による関連情報の収集・分析と公表、民間団体による安全衛生の専門家の養成と適格性認証等の安全衛生インフラを増やし、そのいずれかがヒットするように図る必要がある。
以上の基本的視点に立った個別的提言(法令関係、政策関係)は、報告書の要約等に記した。

公開日・更新日

公開日
2017-03-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-03-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201621001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究課題に関する英米、EUの最新の幅広い制度情報が得られ、その文化的・歴史的背景も考察された。そのうえで、日本の学識経験者や行政官(経験者)、企業関係者、専門家が参加する検討会と、そこでの議論を踏まえて実施した社会調査により、日本の事情に応じた具体的な政策提言が考案された。
臨床的観点からの成果
本質的に安全衛生行政向けの研究であるため、臨床的観点での直接的な成果は得られていないが、リスクアセスメントの本質、実効的な促進策、安全衛生文化の醸成策などは、各事業体での臨床的応用が可能と思われる。
ガイドライン等の開発
研究代表者が労働政策審議会安全衛生分科会公益代表委員の職にあるため、最近では産業医制度に関する発言等で本研究成果を活かして来た。また、第13次労災防止計画のうち、企業トップの安全衛生意識の向上、高齢者向けの安全衛生対策、安全衛生人材の育成等の項目の起案に際して参考にして頂けたように思われる。
その他行政的観点からの成果
同上。
その他のインパクト
平成29年2月16日には、労働安全衛生総合研究所主催の国際ワークショップでの講演、平成29年7月3日には、ゼロ災大阪「安全見える化運動」推進大会での基調講演等、様々な場面で調査研究成果が発表されている(いずれも研究代表者による)。
なお、上記国際ワークショップでの講演内容を所属大学の研究紀要で論説として英語で公表したところ、約5000件のダウンロード数を記録しており、国際的関心を得ていることが窺われる。

発表件数

原著論文(和文)
1件
分担研究者の井村教授が、アメリカの法制度に関する分担研究成果を補充して、所属先の研究紀要で公表した。
原著論文(英文等)
1件
研究代表者が所属先の研究紀要で、下掲の国際ワークショップで報告した内容を文章化して公表した。
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
1件
平成29年2月16日、労働安全衛生総合研究所主催「労働安全衛生に関する国際ワークショップ」における講演。
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
参考にされた施策もあると思われるが、不明。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takenori Mishiba
Risk assessment from a legislative perspective: The relationship between characteristics of laws and policies and the concept of risk in various countries
Kindai University Law Review , 65 (1) , 1-31  (2017)
原著論文2
井村真己
アメリカの労働安全衛生におけるリスクアセスメントに関する考察―自発的防護プログラム(VPP)に関する制度概要を中心として―
沖縄法学 ,  (45) , 1-39  (2017)

公開日・更新日

公開日
2017-06-19
更新日
2020-06-17

収支報告書

文献番号
201621001Z