文献情報
文献番号
201421002A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV母子感染の疫学調査と予防対策および女性・小児感染者支援に関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
塚原 優己(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター産科)
研究分担者(所属機関)
- 喜多 恒和(奈良県総合医療センター周産期母子医療センター)
- 外川 正生(大阪市立総合医療センター小児総合診療科・小児救急科)
- 吉野 直人(岩手医科大学微生物学講座)
- 大島 教子(獨協医科大学産科婦人科学講座)
- 明城 光三(国立病院機構仙台医療センター情報管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,660,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国のHIV感染妊娠例の掌握、予防対策の充実と周知による母子感染の阻止、HIV感染妊婦・出生児の支援体制の整備。
研究方法
1.全国産婦人科病院を対象に妊婦HIV検査実施率とHIV感染妊婦の診療経験を、また全国小児科標榜病院を対象に感染妊婦より出生した児の診療経験の有無を調査する(一次調査)。2.(1)産婦人科二次調査:一次調査で診療経験ありと回答した施設からHIV感染妊婦の疫学的・臨床的情報を集積する。(2)産婦人科・小児科(二次調査)の統合データベースに平成25年度調査で新規報告された症例を追加する。これを基にわが国の現状を解析し、介入の可能性などを検討する。3.(1)全国小児科二次調査:一次調査で診療経験ありと回答した施設から母児の情報を集積する。(2)妊婦・新生児に投与された抗ウイルス薬の影響につき、児の長期予後調査を行なう。(3)告知に関する聞き取り調査を基に、告知に有効と思われる仮想事例・具体的対応の留意点・ステップを作成する。(4)HIV陽性女性の経験を基に女性に対して必要な情報をまとめた冊子を作成し、女性感染者同士のつながりを目指す。4.全国エイズ拠点病院と周産期母子医療センターを対象に、HIV感染妊婦の受け入れの実績、受け入れの可否、地域内での対応などについて調査し、実効性を伴う地域連携のあり方について検討する。5.(1)感染女性向け小冊子を刷新する。(2)市民参加型のAIDS文化フォーラムで、HIV母子感染予防に関する公開講座を開催する。(3)「HIV検査相談の充実と利用機会の促進に関する研究」班に協力し、保健所のHIV検査相談を利用した妊婦の受検動機等について調査する。
結果と考察
1.産婦人科病院の妊婦HIV検査実施率は99.7%(前年同率)だった。2.産婦人科小児科統合データベースでは、平成25年末までのHIV感染妊娠は857例(前年+53例)だった。報告数は毎年30例~40例で報告地域も変動ない。この10年日本国籍例が増加していた。選択的帝切が定着し経腟分娩は年間1例程度である。2000年以降、91.3%に抗ウイルス薬が投与されていた。母子感染率は、抗ウイルス薬投与+選択的帝切が0.4%、投与なしで選択的帝切:5.8%、投与ありで経腟:0.0%、投与なしで経腟:20.0%となった。抗ウイルス療法+経腟での母子感染はなかった。この5年間、90.1%がエイズ拠点病院で妊娠転帰されていた。感染判明後の再妊娠について、HIV感染妊婦累計648人中230人は妊娠前からHIV感染を認識しており、うち73人は2回以上妊娠していた。2008年以降は複数回妊娠が毎年10例前後(約3割)と増加していた。この間の複数回妊娠の人工妊娠中絶は年間2~5例で、HIV感染妊娠全体の人工妊娠中絶率と大差なかった。3.小児科二次調査では、貧血、低血糖、新生児一過性多呼吸、低カルシウム血症、HFD等の新生児期異常があった。奇形は2例だった。17ヵ月齢までの観察では、運動発達障害、精神発達障害、反復する痙攣、片麻痺、対麻痺、四肢麻痺、ミオパチー、心筋機能障害、乳酸持続高値、早期死亡、ニアミスの報告はなかった。養育上の問題として、子どもの発育発達異常、両親の別居、母親の経済的困窮、母の精神状態不安定、集団生活での告知、母に養育する気持ちがないが挙げられた。長期予後調査では、死亡率は感染児14.8%、非感染児2.6%で、いずれも日本の5歳未満死亡率より高率だった。非感染児死亡は、SIDS有病率よりも高率であった。死亡例全例が母体への多剤併用が普及した2000年以降であったことは注目すべきだろう。感染児への告知に際して重要な問題点を抽出し、告知準備に有効と思われる仮想事例・具体的対応の留意点・ステップを作成し取りまとめた。4.県単位医療圏におけるHIV感染の早産例の受入れ体制は、県内で早産HIV妊婦を取り扱うことが可能であり概ね良好な医療体制が構築されていた。5.感染女性に特化した解説書「女性のためのQ&A-貴女らしく明日を生きるために-」を、女性特有のライフステージを軸に刷新した。一般市民向け普及啓発活動は、横浜と京都のAIDS文化フォーラムで市民公開講座を開催した。保健所で検査相談を利用している妊婦事例が少なからず存在することが明らかとなった。
結論
HIV母子感染の動向に変化は見られていない。感染妊娠がエイズ拠点病院に集約化されることは、症例が稀少な現状を考えれば有効な医療体制と考えられる。しかし日本人同士カップルの占める比率が増加しており、今後日本国籍女性にもHIV感染が増加する可能性もあり、HIV感染に対する関心や正確な知識高揚を目指した普及啓発活動が望まれる。
公開日・更新日
公開日
2015-06-16
更新日
-