生体親和性材料によるナノ表面処理を用いた画期的な人工膝関節の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201307019A
報告書区分
総括
研究課題名
生体親和性材料によるナノ表面処理を用いた画期的な人工膝関節の開発に関する研究
課題番号
H23-政策探索-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
茂呂 徹(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 川口 浩(東京大学 医学部附属病院)
  • 石原 一彦(東京大学 大学院 工学系研究科)
  • 村上 輝夫(九州大学 バイオメカニクス研究センター)
  • 宮本 比呂志(佐賀大学 医学部)
  • 塙 隆夫(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
  • 武冨 修治(東京大学 医学部附属病院)
  • 岡 敬之(東京大学 医学部附属病院)
  • 京本政之(京セラメディカル株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
26,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、親水性と生体親和性に優れた合成リン脂質、2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine(MPC)ポリマー(PMPC)のナノ表面処理技術を応用し、耐久性と抗感染能に優れた画期的な人工膝関節を開発することである。
研究方法
 摺動面材料の検討、荷重支持性の検討、摩耗抑制効果の検討、抗感染性の検討を行った。
結果と考察
 摺動面材料の検討では、滅菌法として一般的なガンマ線照射法、ガスプラズマ法およびエチレンオキサイドガス法について、各滅菌がPMPC処理架橋ポリエチレン(CLPE)の機械的特性、物理的特性および化学的安定性に与える影響を評価した。ガスプラズマおよびエチレンオキサイド滅菌法について、PMPC処理CLPEの機械的特性に影響を与える可能性が示唆されたものの、いずれの機械的特性もASTM F648を満たした。これに対し、物理的特性および化学的安定性は、いずれの滅菌方法からも影響を受けなかった。以上の結果より、PMPC処理CLPEへはいずれの滅菌も選択可能であると考えられた。
 荷重支持性の検討では、Pin-on-disk型摩耗試験機を用いて、膝関節に生じるリフトオフ後の衝突を再現した衝撃-摺動試験を行い、PMPC処理CLPEの摩耗抑制効果と材料の耐久性について評価した。衝撃-摺動条件下において、PMPC処理CLPEは未処理CLPEに比べて摩耗を抑制されることが示された。厚さ3 mmのCLPEでは、6 mmのCLPEに比べて、スクリューホールによる背面の変形が増大することが明らかとなった。いずれの試験片においても、デラミネーションなどの異常摩耗や、内部クラックの発生は認められなかった。適切な厚さを有するPMPC処理CLPEは、衝撃-摺動という特異的な条件下においても、十分な強度と低摩耗性を両立するする優れた人工膝関節材料となり得ることが示された。
 摩耗抑制効果の検討では、滅菌操作がPMPC処理CLPEに与える影響を検討するため、手術後の歩行動作を模擬する膝関節シミュレーター試験機を用いてISO 14243に準拠した評価を行った。ガンマ線滅菌またはガスプラズマ滅菌を行ったPMPC処理CLPEインサートを、コバルトクロムモリブデン(Co-Cr-Mo)合金製の大腿骨コンポーネントと組み合わせ、500万サイクルの摩耗試験を実施した。この結果、どちらのCLPEインサートでもPMPC処理による摩耗抑制効果が確認された。人工膝関節に用いるCLPEインサートへのPMPC処理は、滅菌の方法に関わらずその耐摩耗性を向上させる技術であることが明らかとなった。
 抗感染性の検討では、PMPC処理表面における細菌付着およびバイオフィルム形成の抑制効果について検討した。人工関節材料の純チタンの表面にPMPC処理をディップコーティング法およびグラフトコーティング法にて施したところ、両法ともに細菌の付着を顕著に阻害した。PMPC処理による細菌付着阻害効果は、Co-Cr-Mo合金表面においても確認された。さらに、純チタン表面のPMPC処理は、バイオフィルム形成を劇的に抑制した。PMPC処理金属は、その高親水性によるタンパク質吸着阻害効果により、細菌付着およびバイオフィルム形成を抑制する表面を有することが明らかとなった。
結論
 以上の研究成果は、生体親和性材料によるナノ表面処理を用いた画期的な人工膝関節の開発を推進しうるものであり、革新的な人工膝関節の臨床応用が期待できる内容であった。

公開日・更新日

公開日
2017-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201307019B
報告書区分
総合
研究課題名
生体親和性材料によるナノ表面処理を用いた画期的な人工膝関節の開発に関する研究
課題番号
H23-政策探索-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
茂呂 徹(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 川口 浩(東京大学 医学部附属病院)
  • 石原 一彦(東京大学 大学院 工学系研究科)
  • 村上 輝夫(九州大学 バイオメカニクス研究センター)
  • 宮本 比呂志(佐賀大学 医学部)
  • 塙 隆夫(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
  • 武冨 修治(東京大学 医学部附属病院)
  • 岡 敬之(東京大学 医学部附属病院)
  • 京本 政之(京セラメディカル株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、親水性と生体親和性に優れた合成リン脂質、2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine(MPC)ポリマー(PMPC)のナノ表面処理技術を応用し、耐久性と抗感染能に優れた画期的な人工膝関節を開発することである。
研究方法
 摺動面材料の検討、荷重支持性の検討、摩耗抑制効果の検討、抗感染性の検討を行った。
結果と考察
 摺動面材料の検討では、最大100 kGyのガンマ線照射を行うことで各種の架橋ポリエチレン(CLPE)試験体を作製し、機械的特性、物理特性について評価した。種々の分子構造特性(分子量)をもつ、ポリエチレン(PE)レジンを準備し、ガンマ線照射による架橋効果について同様に機械的特性、物理特性を評価した。得られた結果から、至適な架橋照射線量は75 kGy、至適PEレジンはGUR1020であることを明らかにした。また、PMPC処理CLPEの滅菌には、一般的な医療機器の滅菌法であるガンマ線照射法、ガスプラズマ法、エチレンオキサイドガス法のいずれも適応が可能であることを明らかにした。さらに、表面損傷による異常摩耗を防ぐため、コバルトクロム(Co-Cr-Mo)合金に表面から傾斜的に炭素を固溶させ、合金表面を硬質化した、超硬質表面化Co-Cr-Mo合金を創出した。
 荷重支持性の検討では、PMPC処理CLPEについて、Roller-on-flat摩擦試験機を用いて、接触面圧、摺動速度および潤滑液成分を変化させたときの摩擦係数を測定し、PMPC処理による水和ゲル層の潤滑モードを評価した。この結果、人工膝関節に近い摺動速度において、PMPC処理により摩擦係数が低下することを確認し、人工膝関節へのPMPC処理適用の可能性が示された。また、Pin-on-disk型摩耗試験機を用いた衝撃-摺動試験により、膝関節摺動環境下においても、PMPC処理により摩耗量が減少すること、基材の厚さを薄くすると摩耗量が増加することを確認した。適切な基材厚さを持つPMPC処理CLPEは、長寿命な人工膝関節材料として適当であることが示唆された。
 摩耗抑制効果の検討では、膝関節特有の動作が基材であるPEに与える影響を検討するため、手術後の歩行動作を模擬する膝関節シミュレーター試験機を用いて、種々の照射線量でガンマ線架橋されたPEインサートの摩耗特性、PMPC処理CLPEインサートの摩耗特性、滅菌がPMPC処理に与える影響を評価した。この結果、ガンマ線架橋を施すことで、PEの摩耗が低減することが明らかとなった。ガンマ線架橋PEインサートに層状剥層やひび割れなどの劣化、破損は認められず、新たな人工膝関節用材料として有用であることが示唆された。また、PMPC処理をCLPE表面に施すことによって、インサートの摩耗が著しく抑制されることが示された。さらに、ガンマ線滅菌およびガスプラズマ滅菌したインサートの両方で、PMPC処理の摩耗抑制効果が示された。以上の成果により、PMPC処理CLPEは、人工膝関節インサートの基材として非常に適した材料であることが示唆された。
 抗感染性の検討では、まず金属表面のPMPC処理について、溶液濃度・処理時間等の至適条件を確立した。次に、PMPC処理した金属表面のタンパク質吸着量をビシンコニン酸(BCA)Protein Assay試薬を用いて測定し、表面へのタンパク吸着抑制効果を確認した。また、表面の親水性を、接触角測定により計測した。さらに、PMPC処理表面における細菌付着およびバイオフィルム形成の抑制効果について検討した。人工関節材料の純チタンの表面にPMPC処理をディップコーティング法およびグラフトコーティング法にて施したところ、両法ともに細菌の付着を顕著に阻害した。PMPC処理による細菌付着阻害効果は、Co-Cr-Mo合金表面においても確認された。さらに、純チタン表面のPMPC処理は、バイオフィルム形成を劇的に抑制した。PMPC処理金属は、その高親水性によるタンパク質吸着阻害効果により、細菌付着およびバイオフィルム形成を抑制する表面を有することが明らかとなった。
結論
 以上の研究成果は、生体親和性材料によるナノ表面処理を用いた画期的な人工膝関節の開発を推進しうるものであり、革新的な人工膝関節の臨床応用が期待できる内容であった。

公開日・更新日

公開日
2017-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2018-06-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201307019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の目的は、親水性と生体親和性に優れた合成リン脂質、MPCポリマーのナノ表面処理技術(PMPC処理)を応用し、耐久性と抗感染能に優れた画期的な人工膝関節を開発するための基礎研究を関せさせることである。本研究では、PMPC処理を人工膝関節に応用するための関節摺動面材料の検討をするとともに、この表面処理により、関節摺動面の衝撃耐久性、耐摩耗特性が向上することを明らかにした。また、人工膝関節に用いられる金属表面へのPMPC処理技術を確立させ、表面への細菌の付着が抑制されることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
人工膝関節手術は、疾患や外傷により荒廃した膝関節機能を再建する優れた治療法であるが、高齢化が急速に進むわが国において手術件数は増加し続けている。膝関節の機能障害は、支援・介護の原因となる歩行障害を引き起こすことから、その治療法である人工膝関節の合併症を制御し、手術成績を向上させることは、重要な課題といえる。本研究により「ナノ表面処理を用いた画期的な人工膝関節」の基盤研究を完成させ、今後の実用化への橋渡しをすることができれば、「国民の健康の向上」、「医療福祉の向上」に多大な貢献をすることができる。
ガイドライン等の開発
本研究開発は基礎研究であり、現時点では本項目に該当する内容のものはない。今後の実用化研究は、人工膝関節審査ガイドライン(平成21年3月6日、薬食機発第0306004号)、「医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(医療機器GLP省令)、厚生労働省医薬審発第0213001号「医療用具の製造承認申請に必要な生物学的安全性試験の基本的考え方について」のガイドラインに従って推進する。
その他行政的観点からの成果
本研究で得た基盤研究成果を、今後実用化することができれば、「国民の健康の向上」、「医療福祉の向上」に加え、「医療費・介護サービス費用の削減」、「医療機器市場における国際競争力の向上」、「労働力の確保」という点で、波及効果が期待できる。医療費・介護サービス費用を例にとると、国民生活調査では、要支援者の33%、要介護者の18%において、関節疾患と骨折・転倒が原因であるので、介護サービス費用の削減が期待できる。
その他のインパクト
本研究に関連した内容は2011年6月23日付けで、プレスリリース、メディアセミナーを行った。また、PMPC処理の医療機器への応用研究については、新聞、雑誌等のメディアで紹介されている。今後、本研究成果を学会発表・学術論文として、引き続き学術的に国内外に公開していく。また、本基礎研究成果の実用化を進めていく過程においては、これまでの医薬品、医療機器への臨床応用研究・実用化の経験をいかし、公開シンポジウムの開催、ホームページの利用等を通じ、広く社会に情報発信をしていく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
103件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
133件
学会発表(国際学会等)
77件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kyomoto M, Moro T, Saiga K, et al.
Biomimetic hydration lubrication with various polyelectrolyte layers on cross-linked polyethylene orthopedic bearing materials.
Biomaterials  (2012)
原著論文2
Kyomoto M, Moro T, Yamane S, et al.
Poly(ether-ether-ketone) orthopedic bearing surface modified by self-initiated surface grafting of poly(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine).
Biomaterials  (2013)
原著論文3
Kyomoto M, Moro T, Yamane S, et al.
Effect of UV-irradiation intensity on graft polymerization of 2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine on orthopedic bearing substrate.
J Biomed Mater Res A  (2014)
原著論文4
Moro T, Takatori Y, Kyomoto M, et al.
Long-term hip simulator testing of the artificial hip joint bearing surface grafted with biocompatible phospholipid polymer.
J Orthop Res  (2014)
原著論文5
4. Kyomoto M, Moro T, Yamane S, Watanabe K, Takatori Y, Tanaka S, Ishihara K
Smart PEEK modified by self-Initiated surface graft polymerization for orthopedic bearings.
Reconstructive Review  (2015)
原著論文6
Moro T, Takatori Y, Kyomoto M,et al.
Wear resistance of the biocompatible phospholipid polymer-grafted highly cross-linked polyethylene liner against larger femoral head.
J Orthop Res  (2015)
原著論文7
Yarimitsu S, Moro T, et al.
Influences of dehydration and rehydration on the lubrication properties of phospholipid polymer grafted cross-linked polyethylene.
Proc Inst Mech Eng H  (2015)
原著論文8
Uehara S, Yarimitsu S, Moro T, et al.
Evaluation of wear suppression for phospholipid polymer-grafted ultra-high molecular weight polyethylene at concentrated contact.
Tribology International  (2016)
原著論文9
Moro T, Takatori Y, Tanaka S, et al.
Clinical safety and wear resistance of the biocompatible phospholipid polymer-grafted highly cross-linked polyethylene liner.
J Orthop Res  (2017)
原著論文10
Watanabe K, Moro T, Kyomoto M, et al.
The effects of presence of a backside screw hole on biotribological behavior of phospholipid polymer-grafted cross-linked polyethylene.
J Biomed Mater Res B Appl Biomater  (2017)
原著論文11
Saiga K, Kyomoto M, Moro T, et al.
Effects of material thickness and surface modification of cross-linked polyethylene with poly(2-methacryloyloxyetheyl phosphorylcholine) on its deformation behavior, wear resistance and durability under repetitive impact-to-sliding motion.
Biotribology  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-06-08

収支報告書

文献番号
201307019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
34,125,000円
(2)補助金確定額
34,125,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 10,391,597円
人件費・謝金 3,691,559円
旅費 795,778円
その他 11,587,150円
間接経費 7,875,000円
合計 34,341,084円

備考

備考
当課題に必要となった物品を購入するにあたり、少額の不足額が発生した。
研究遂行のために自己資金にて補填した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-