化学物質の有害性評価手法の迅速化、高度化に関する研究-網羅的定量的大規模トキシコゲノミクスデータベースの維持・拡充と毒性予測評価システムの実用化の為のインフォマティクス技術開発

文献情報

文献番号
201236020A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の有害性評価手法の迅速化、高度化に関する研究-網羅的定量的大規模トキシコゲノミクスデータベースの維持・拡充と毒性予測評価システムの実用化の為のインフォマティクス技術開発
課題番号
H24-化学-指定-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 北野 宏明(特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部 )
  • 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
42,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、化学物質による生体影響の分子メカニズムに依拠した毒性評価手法の迅速化、高度化、及びその実用の為のインフォマティクス開発を目的とする。
即ち、先行研究にて構築済みの延べ5.8億遺伝子情報からなる高精度トキシコゲノミクスデータベースと単回暴露時の毒性ネットワーク解析技術を基盤に、これらを維持・拡充しつつ、反復暴露のネットワーク解析、及び、その予測評価技術を開発する。ここにインフォマティクス専門家によるシステムトキシコロジーの概念を導入し、網羅的毒性予測評価システムの機能強化と精度向上を図る。
研究方法
予備検討により、化学物質の反復暴露に対する生体反応は、毎回の投与の度に、①その都度の変化を示す「過渡反応」と、②回を重ねるに連れて発現値の基線(ベースライン)が徐々に移動する「基線反応」の二つの成分から構成され、単回暴露影響を単純に積算して予測する変化とは異なることが明らかとなった。
これら2成分の遺伝子発現は、従来のGlobal normalization法では測定できず、我々が開発したPercellome絶対量化法(BMC Genomics. 7, 64, 2006 / 特許441507 / 細胞1個当たりのmRNAコピー数として発現値を得る方法)を用いる必要がある。
詳細解析のために、過渡反応と基線反応の関連性を観測できる新型反復暴露実験セット(1、2、4日間の反復暴露を行い、各々最終投与から2、4、8、24時間後に単回暴露と同様の網羅的遺伝子解析を行う)を、国立医薬品食品衛生研究所の「動物実験の適正な実施に関する規程」に則り、飼育環境の照明時間等を厳密に管理して実施した。
胎児をモデルとした遺伝子発現ネットワークの描出研究を並行した。
採取した組織サンプルから、Percellome法を適用したマイクロアレイ解析により、絶対量化されたトランスクリプトームデータを得た。また研究に用いる主なアルゴリズムは独自に開発し、これを基にプログラムを作成し、解析研究に供した。
結果と考察
反復暴露実験の分子機序解析としては、四塩化炭素の新型反復暴露実験を実施した結果、過渡反応と基線反応の分離、及び、両反応の連関性、即ち過渡反応が増加する場合には基線反応も増加、減少する場合には基線反応も減少する、という基本現象を明らかにした。これは過渡反応が基線反応の成立機序に深く関与していることを示唆する。
胎児発生過程におけるマスター遺伝子を基軸とした遺伝子発現ネットワークの網羅的解析研究として、周波数解析の拡大適用と微分解析の性能限界を評価し、より信頼性と効率の良いアルゴリズムを開発するための要件を抽出した。
データ解析手法の開発研究として、まず延べ5.8億のマウス遺伝子情報からなるPercellomeトキシコゲノミクスデータベース(TGDB)に、延べ3.5億のラット遺伝子情報からなる医薬基盤研トキシコゲノミクスプロジェクト(TGP)のデータをPercellome変換して統合する手法を開発、実施した。またPercellome法を用いずに取得されたマウスデータから絶対量を推定し、PercellomeTGDBと直接比較できるように変換する絶対量推定手法及びそのソフトSnCalc.exeを開発した。これは他研究機関のデータの有効活用による、Percellome TGDBの有用性を大幅に高める。さらにはこれを外部から自由に利用できるようにPercellome WebAPIを開発した。
システムトキシコロジー解析基盤の研究開発としては、遺伝子制御関係推定アルゴリズム及び状態制御遺伝子群推定アルゴリズムの性能向上を進めた。また研究用ソフトウエアの国際共通プラットフォームGaruda Platformへの実装を進め、PercellomeWebAPI対応のGarudaソフトウエアの開発を行った。これにより研究成果の国際的な公開、活用が進むことで、共同研究等を通じた今後の研究展開への効果が見込まれる。
結論
四塩化炭素の新型反復暴露実験・解析で見いだした、過渡反応成分と基線反応成分の基本的な関連性は、生物学的・毒性学的に重要な発見であり、この分子機序を解明すれば単回暴露実験データベースからの反復毒性予測技術開発のブレイクスルーになり得る。
反復毒性機序の解析作業においては、信頼性と効率がより良いデータ解析が重要であるが、そのための技術の開発・改良を目的とした各分担研究の成果は、既に反復毒性機序解析に取り込み有効活用しつつあり、研究の精度向上と進捗加速が期待できる。
来年度は、バルプロ酸ナトリウムについて新型反復暴露実験を実施し、単回暴露の毒性ネットワーク情報からの反復暴露による生体影響の予測評価技術の開発を進める。

公開日・更新日

公開日
2013-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
201236020Z