老化因子と加齢に伴う身体機能変化に関する長期縦断的疫学研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300196A
報告書区分
総括
研究課題名
老化因子と加齢に伴う身体機能変化に関する長期縦断的疫学研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(国立長寿医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 納 光弘(鹿児島大学)
  • 熊谷秋三(九州大学)
  • 葛谷雅文(名古屋大学)
  • 鈴木隆雄(東京都老人総合研究所)
  • 安藤富士子(国立長寿医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
50,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は老化や老年病の成因を疫学的に解明しその予防を進めていくために、医学・心理学・運動生理学・形態学・栄養学などの広い分野にわたっての学際的かつ詳細な老化に関する縦断的調査データの収集および解析を行うことを目的にしている。
研究方法
(1)国立長寿医療センター老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA):基幹施設での地域住民を対象とした老化の学際的縦断調査である。対象者は当センター周辺の愛知県大府市および知多郡東浦町の40歳から79歳までの地域住民からの無作為抽出者である。長寿医療センターの施設内で、頭部MRIなどの各種医学検査、包括的心理調査、運動調査、写真記録を併用した栄養調査など2000名をこえる対象者の全員に2年に一度ずつ、毎日7名を朝8時半から夕方5時まで業務として行っている。
(2) 耐糖能異常者における長期介入研究:肥満を伴う男性の2型糖尿病患者(Type2DM)を対象に、内臓脂肪蓄積、持久性体力(VO2max)と性ホルモン、レプチン、アディポネクチンとの関連性を検討した。さらに病態改善に関する性ホルモン、レプチンとアディポネクチンの健康指標マーカーとしての意義を明らかにする目的で、介入研究を行い、糖代謝および心血管系危険因子改善への性ホルモンおよびadipocytokineの関与について検討した。
(3) 地域在住高齢者における神経所見の縦断的研究:1991年から2003年にわたり、人口流動の比較的少ない鹿児島県大島郡K町(人口7524名、男3618名、女3906名)の60歳以上の在宅高齢者(60歳以上の人口2410名、男性1005名、女性1405名)を対象に、神経内科専門医による神経学的診察を行った。今回は、1991年‐2001年、1992年‐2002年、1993‐2003年の各10年間隔で健診を受けた44名(初回健診時69.2±4.7歳)、男性15名(平均年齢69.3±4.6歳)、女性29名(69.1±4.9歳)を対象として解析を行った。
(4) 日本人大規模集団による飲酒習慣と血清脂質に関する縦断的研究:高脂血症未治療の男性を対象にして飲酒習慣と血清脂質との関係を検討した。横断的解析の対象者は2000年のドック男性受診者で高脂血症の治療中の者を除く12550名である。縦断的解析の対象は2000年と2001年のドック検診を両方とも受診した男性で高脂血症の治療中の者を除く7579名である。生活基本調査をもとに、1) 非飲酒群:ほとんど飲まない、2) 飲酒(非習慣的)群:2合位飲む(休肝日あり)、3) 飲酒(習慣的)群:毎日2合以上飲む(休肝日なし)とした。
(5) 地域在住高齢者における生活機能や主観的健康度の7年間の経時的変化:1992年7月に秋田県N村に在住していた65歳以上の村民のうち、会場招待型健康診査の受診者(748名:男性300名、女性448名)を追跡対象者とした。ベースライン調査翌年の1993年から2000年まで毎年実施された追跡調査のデータを解析し、生活機能や主観的健康度に加齢変化が認められるかどうか検討した。
(6) 血中シアル酸と総頸動脈内膜中膜厚(IMT)―糖尿病との関連:血中炎症性物質の一つであるシアル酸と総頸動脈内膜中膜厚(IMT)との関係を耐糖能障害の有無に着目しsubclinicalな動脈硬化と炎症との関わりが糖尿病の存在によって異なるかどうかを明らかにすることを目的としている。対象はNILS-LSAの第一次調査参加者の中の男性であり、非糖尿病群(n=623)、糖尿病群(n=130)、耐糖能異常群(n=308)の3群に分類した。
(倫理面への配慮)基幹研究に関しては国立長寿医療センターにおける倫理委員会での研究実施の承認を受けた上で実施し、全員からインフォームドコンセントを得ている。人間ドック受診者に関しては個人のデータの秘密保護に関して十分に配慮し研究を実施している。また分担研究では個々の研究者がその責任において自由意志での参加、個人の秘密の保護など被験者に対して十分な説明を行い、文書での合意を得た上で調査を実施している。
結果と考察
(1)長寿医療研究センター老化縦断研究(NILS-LSA):平成9年11月から国立長寿医療センターにて老化の長期縦断疫学調査(NILS-LSA)を開始した。今年度は平成15年9月までの第3次調査に参加した1657名の千項目以上の各種検査についてデータのチェック・修正等を行い、性別年齢別標準値を老化の基礎データとして中間結果のモノグラフを作成した。またすでにインターネットに公開をしている第1次調査、第2次調査の結果(http://www.nils.go.jp/ organ/ep/index.html)と並べてインターネット上に公開を行う。このように包括的かつ詳細な老化の基礎データの公開は他に例のないものである。
(2)耐糖能異常者における長期介入研究:性ホルモンに関する成績から、性ホルモン結合蛋白と遊離テストステロン濃度の変化は、糖尿病患者の病態改善に関するマーカーの一つであると考えられた。レプチン(L)、アディポネクチン(A)と代謝性症候群(MS)の関連性に関する横断的な解析において、低レプチン群はMS発現を抑制し、逆に低アディポネクチンおよび低A/L比は、MS発現を有意に高めた。介入研究の成績では、肥満度、糖・脂質代謝、持久性体力およびMSを構成する危険因子数に有意な改善を認めたが、レプチン、アディポネクチン濃度は変化しなかった。
(3)地域在住高齢者における神経所見の縦断的研究:10年間隔の検討では、握力、下肢バランス機能が加齢の影響を最も受けやすいことが明らかとなった。しかしMMSEの縦断的変化と加齢との有意な関係は認められなかった。
(4)日本人大規模集団による飲酒習慣と血清脂質に関する縦断的研究:飲酒習慣があるほど総コレステロール、LDLコレステロール、βリポ蛋白は低値で、逆に中性脂肪、HDLコレステロールは高値を示した。一年間で飲酒習慣が変化し、非習慣だったものが習慣になると、LDLコレステロールは低下し、中性脂肪、HDLコレステロールは増加した。
(5)地域在住高齢者における生活機能や主観的健康度の7年間の経時的変化:縦断解析の結果、7年間の追跡期間において統計学的に有意な加齢変化が認められた生活機能はPADL、IADL、社会的役割であった。主観的健康度については、7年後の不健康者割合のオッズ比は統計学的には有意であったが、変化の程度は小さかった。
(6)血中シアル酸と総頸動脈内膜中膜厚(IMT)―糖尿病との関連:糖尿病群では、年齢調整後もシアル酸とIMTとの間に有意な正の関連が認められた。シアル酸およびその他の動脈硬化関連要因を独立変数、IMTを目的変数とした多変量解析の結果、糖尿病患者群では血中シアル酸が高いほど、IMTが肥厚しているという結果であった。一方非糖尿病群ではシアル酸はIMTと関連しておらず、炎症と動脈硬化との関わりは糖尿病の存在下でより重要であると考えられた。
結論
本研究は老化や老年病の成因を疫学的に解明しその予防を進めていくために、医学・心理学・運動生理学・形態学・栄養学などの広い分野にわたっての学際的かつ詳細な縦断的調査研究を行うことを目的にしている。基幹施設である長寿医療センターでの地域住民への疫学的調査に基づく縦断研究では平成14年度に第3次調査を開始し、平成16年2月末現在で2131名の調査が終了している。第3次調査の中間結果から性別年齢別標準値を老化の基礎データとして作成した。各班員はそれぞれのコホートで縦断的個別研究を行い、日本人における老化縦断研究をすすめた。

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