スモンに関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100846A
報告書区分
総括
研究課題名
スモンに関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岩下 宏(国療筑後病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小長谷正明(国療鈴鹿病院)
  • 小西哲郎(国療宇多野病院)
  • 高瀬貞夫(広南病院)
  • 早原敏之(国療南岡山病院)
  • 松本昭久(市立札幌病院)
  • 水谷智彦(日本大神内)
  • 中江公裕(獨協医大公衆衛生)
  • 宮田和明(日本福祉大社会福祉)
  • 森英俊(筑波技術短大)
  • 松岡幸彦(国療鈴鹿病院)
  • 阿部憲男(国療岩手病院)
  • 安藤徳彦(横浜市立大医療センター)
  • 池田修一(信州大三内)
  • 一居誠(大阪府健康福祉部)
  • 乾俊夫(国療徳島病院)
  • 上田進彦(大阪市立総合医療センター)
  • 上野聡(奈良県立医大神内)
  • 氏平高敏(名古屋市衛生研究所)
  • 宇山英一郎(熊本大神内)
  • 大井清文(いわてリハセンター)
  • 大竹敏之(東京都立神経病院)
  • 大見広規(北海道保健福祉部)
  • 岡本幸市(群馬大神内)
  • 岡山健次(大宮赤十字病院)
  • 蔭山博司(国療北海道第一病院)
  • 片桐忠(山形県立河北病院)
  • 加知輝彦(国療中部病院)
  • 北川達也(国療西鳥取病院)
  • 吉良潤一(九州大神内)
  • 栗山勝(福井医大2内)
  • 佐藤正久(新潟大神内)
  • 三宮邦裕(大分医大三内)
  • 塩澤全司(山梨医大神内)
  • 塩屋敬一(国療宮崎東病院)
  • 渋谷統寿(国療川棚病院)
  • 島功二(国療札幌南病院)
  • 庄司進一(筑波大臨床)
  • 神野進(国療刀根山病院)
  • 杉村公也(名古屋大保健)
  • 祖父江元(名古屋大神内)
  • 高橋桂一(国療兵庫中央病院)
  • 高橋光雄(近畿大神内)
  • 竹内博明(香川医大看護)
  • 千田富義(秋田県立リハセンター)
  • 千野直一(慶応義塾大リハ)
  • 津坂和文(釧路労災病院)
  • 椿原彰夫(川崎医大リハ)
  • 寺澤捷年(富山医薬大和漢)
  • 中瀬浩史(虎の門病院)
  • 中野今治(自治医大神内)
  • 西郡光昭(宮城教育大教育)
  • 長谷川一子(国立相模原病院)
  • 蜂須賀研二(産業医大リハ)
  • 服部孝道(千葉大神内)
  • 林正男(石川県健康福祉部)
  • 林理之(大津市民病院)
  • 松永宗雄(弘前大脳研)
  • 松本一年(愛知県健康福祉部)
  • 丸山征郎(鹿児島大臨検)
  • 溝口功一(国療静岡医療センター)
  • 森松光紀(山口大神内)
  • 森若文雄(北海道大神内)
  • 山下元司(高知県立芸陽病院)
  • 山下順章(松山赤十字病院)
  • 山田淳夫(国立呉病院)
  • 山本悌司(福島県立医大神内)
  • 雪竹基弘(佐賀医大内)
  • 吉田宗平(和歌山県立医大神内)
  • 渡辺幸夫(大垣市民病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
84,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
スモン患者の医療・福祉の現状調査とQOLの向上
研究方法
研究班内に原則として各県最低1名の班員と各ブロックに1名のリーダーからなる「医療システム委員会」を設置して、当研究班の基本であるスモン患者検診による現状調査を中心として、上記研究を実施した。検診は、「スモン現状調査個人票」と「介護に関するスモン現状調査個人票」(補足調査)の用紙を用いて構成員所属施設、在宅、保健所その他で実施した。記載された用紙をコンピュータ集計分析した。スモン風化・忘却予防のため医療従事者向けの「スモン・神経難病セミナー」とスモン患者・保護者対象の「スモンフォーラム」を当研究班主催で各地で開催した。
結果と考察
1.スモン検診結果 ; 平成13年度は全国で1,036例のスモン患者の検診を行った。北海道110例、東北88例、関東・甲越215例、中部158例、近畿167例、中国・四国191例、九州地区107例で、男298例、女738例であった。患者の状況は、「新聞の大見出しは読める」以上の視力障害は38.3%に、「1本杖歩行」以上の歩行障害は45.7%に、中等度以上の下肢筋力低下は42.0%に、中等度以上の下肢痙縮は24.6%に、上肢運動障害は30.3%に、中等度以上の異常知覚は78.2%に、尿失禁は52.5%に、便失禁は27.4%にみられた。合併症では、何らかの合併症を有するものが94.2%で、とくに白内障53.2%、高血圧36.4%、脊椎疾患35.7%、四肢関節疾患28.8%が高頻度であった。障害度では、極めて高度4.0%、高度18.1%、中等度43.9%、軽度26.6%、極めて軽度3.6%であった。北海道地区では、110名中8名は施設入所であった。介護保険の関連では、65歳以上の78中31名(40%)が福祉サービス
利用のための要介護認定申請をした。認定内容は要介護5が2名、要介護4が1名、要介護3が3名、要介護2が10名、要介護1が12名、要支援が1名であった。東北地区では、介護認定の申請者は20名、認定を受けた19名のうち自立2名、要支援1名、要介護14名であった。介護保険制度に基づいた介護サービス利用者はホームヘルパーの派遣10名、福祉タクシーサービス6名、ガイドヘルパー2名、デイサービス3名、入浴及び給食サービス各1名が利用しており、昨年の23.6%に比し26.1%とわずかに増加している。関東・甲越地区では、合併症は94%の患者に起きており、脊椎疾患・四肢関節疾患を合わせた整形外科的疾患と白内障が最も多く、加齢に関連しているものが多かった。患者の高齢化、患者にみられる障害の種類と障害度、合併症の増加とその種類は、他の地区の結果とほぼ同様であった。中部地区では、検診患者の高齢化を反映し、在宅検診の占める割合は年々増加傾向にあった。また、大多数のスモン患者が何らかの合併症を有していた。特に歩行障害の増悪による転倒に伴う外傷・骨折を誘因としてADLを悪化させる症例が多数認められ、これに対する対応が重要であると考えられた。近畿地区では、平均年齢は73.7歳(50~94歳)で、42名(25%)が81歳以上の超高齢者であった。各種の合併症のうち、白内障と整形外科領域の疾患および排尿障害が高齢化に伴って罹患頻度が増加した。70代以降の高齢化に伴う歩行状態の悪化と歩行不能患者の割合増加が対応していた。中国・四国地区では、訪問検診は、全体の20% を越え、過去最高になった。個別的には死亡したり、種々の高齢化の影響が認められるが、受診者全体としての最近5年間の変化を見ると、身体的所見や合併症、障害度などには大きな変化を認めなかった。九州地区では、現在年齢では70~74歳25名(23.4%)で最多、75~84歳29名では男女比ほぼ1.0であったが、85歳以上18名では女が男の2倍であり、スモンでも女の長寿がみられた。8名(7.5%)が、1988~2001年の14年間連続して検診を受けていたが、その半数のBathel Index はこの間不変であった。約46%が何らかの精神症候を有していたが、痴呆の頻度は5.6%と低かった。また、関東・甲越地区の1都3県、新潟県、福井県、兵庫県、鳥取・島根県、山口県、徳島県におけるスモン患者の実態が報告された。
2.治療・QOL・介護 ; 松本らは、スモン患者50名(平均年齢72.1歳:男性5名、女性45名)について、肩痛、腰痛、膝痛を訴えたもの20名であり、転倒による圧迫骨折・捻挫、変形性膝関節症、反張膝、痙性によることが多かったと報告した。西郡らは、スモン患者60名中16名(26.7%)で生活満足度が低下しており、これらの群では上記の日常生活動作能力(ADL)が低下している者の割合がこれ以外の群に比べて多く、その傾向は生活満足度が大きく低下した群で顕著であったと報告した。小西らは、看護相談を実施した12名中、10名が、日常生活において、なんらかの不自由さを抱え生活していることがわかった。相談内容は、疾患からくるものに限らず、加齢や合併症によるものまでさまざまだったと報告した。吉良らは、スモン患者25名のアンケート調査で、ビタミン剤長期服用は必ずしも自覚症状の改善に有用とは言えなかったと報告した。宮田らは、スモン患者29名のうち、1997年度にも受診し、2001年度のデータとの比較が可能であった18 名についてみると、この4年間に介護の必要度が高まっている。1997年度には比較的自立度の高かった「食事」「入浴」「用便」「更衣」などの面で介護を必要とするものが増加していると報告した。
3.合併症・死因 ; 松岡らは、1990年には、尿失禁が常にあるものが3.3%、時々あるものが34.6%であった。10年後には、常にあるものが6.2%、時々あるものが54.2%へ増加したと報告した。中江らは、スモン患者の最近の死亡の実態をコホート的手法を用いて検討した結果、標準化死亡比(0/E比)は1.0(男1.05、女0.98)で、同年齢の日本人集団と同一であったと報告した。神野らは、死亡スモン患者14名の死因は心筋梗塞3名、癌2名(外耳道癌、舌癌各1名)肺炎2名、脳梗塞1名、腎不全1名、胸部大動脈瘤破裂1名であった。老衰死は3名、不明1名であったと報告した。山田らは、平成6年から13年の8年間、連続して検診を受けた30名の身体的合併症の推移は、白内障と脊椎疾患の増加が顕著であったと報告した。
4.重症度と病態ほか ; 中江らは、この30年間でスモン患者の重症度の変化に、30年前のキノホルム投与量は直接関係していないが、性差に関しては重症化群に女性の割合が有意に多かった。また高齢になるほど重症度が悪化する傾向がみとめられたと報告した。安藤らは、知的活動性、社会的役割が身体機能を維持させる原因になり、身体機能維持とともに精神的活動性を維持する援助の重要性が推測されたと報告した。杉村らは、スモン患者60名について、患者の基本動作能力における経時的な低下の特徴として、歩行や横移動などの直線的な動作は比較的維持され易く、軸足となる左足で体重を支持したり、バランスを保持したりする能力が低下し易いなどがあげられると報告した。林らは、スモン患者の腰椎では87% に配列異常 (すべり症44%を含む)、57%に不安定性を、52%に高度の椎間板変性を認めた。配列異常や不安定性は比較的若年患者に多く、高度の椎間板変性は高齢者に多かったと報告した。池田らは、医療・行政関係者のスモンおよび難病患者の療養環境についての意識調査を、松本市で開催した神経難病セミナー出席者を対象に行いスモン、難病患者の療養環境を改善するには、療養環境の改善を推進するとともに、実際に介護に携わる専門職に対する啓蒙活動が重要であると報告した。岩下は、スモン研究班の最近の研究班活動をスモン患者・保護者へ伝達し、かつ交流を図る目的で1999年東京都(出席者総数129名)、2000年大阪市(同171名)、および岡山市(同140名) で当研究班主催により集会を開催し、重症者は出席できにくいなど限界があるが、一般に出席者には好評だったと考えられると報告した。 
結論
全国的なスモン患者の医療と福祉の現状調査を平成13年度も継続し、・全国で1036名(北海道110、東北88、関東・甲越215、中部158、近畿167、中国・四国191、九州107、男女比1:2.5)を検診した。何らかの合併症を有するもの94.2%で、高齢化等による合併症が今日のスモン患者障害度を決めていた。・スモンについて研究チームを構成しているのは、現在わが国だけであるので、最近のスモン患者の医療・福祉に関する研究成果は世界的にみても貴重なものといえる。

公開日・更新日

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