サリドマイド胎芽症患者の健康、生活実態の把握及び支援基盤の構築

文献情報

文献番号
201925013A
報告書区分
総括
研究課題名
サリドマイド胎芽症患者の健康、生活実態の把握及び支援基盤の構築
課題番号
H29-医薬-指定-006
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
日ノ下 文彦(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 腎臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 田嶋 強(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 放射線診断科)
  • 田上 哲也(国立病院機構京都医療センター 健診センター)
  • 芳賀 信彦(東京大学医学部附属病院 リハビリテーション科)
  • 長瀬 洋之(帝京大学医学部附属病院 内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
15,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
サリドマイド胎芽症(サ症)者の人間ドック健診を継続しつつ、医療上の問題、社会的問題に関し具体的な支援、解決策を提供する。2年前に実施した健康生活実態調査(以後、実態調査)の主な結果を論文化し、サ症者にも結果をフィードバックする。直近の研究班の成果や基礎的内容にも踏み込んだ「サ症診療ガイド2020」を発行するほか、“The 2nd International Symposium on Thalidomide Embryopathy in Tokyo”を開催し欧州やブラジルなど世界中の専門家と情報交換、意見交換を行い、国際展開を推進する。また、サ症診断のあり方を見直して新しい診断基準を策定する。
研究方法
1.人間ドック健診:従来のドック健診継続。
2.実態調査:主な調査結果をまとめて英語論文にするほか、結果を抜粋してスライド化しサ症者に
  配布した。
3.「サ症診療ガイド2020」:研究班員、研究班関係者らがサ症に関するすべての領域の臨床や歴
  史、基礎的問題などを分担執筆した。初版の「サ症診療ガイド2017」をベースにしてさらにス
  ケールアップし、人間工学的なアプローチやサ症の発症メカニズムなど新分野も取り込み充実し
  た内容のガイドブックを目指した。
4.The 2nd International Symposium on Thalidomide Embryopathy in Tokyo:2019年7月、東
  京で国際シンポジウムを開催し国内外の専門家16名に口演や特別講演を行ってもらい、最後に
  パネルディスカッションを実施。
5.サ症の診断基準策定:6名の診断基準策定委員を選定して、年度内に「サ症診断の手引き」策定
  を目指した。
6.その他:1) サ症者が直面する疼痛やADL低下、その他の臨床的問題について、リハビリテー
  ション専門医や各領域の専門医が個別に診療実施 2)海外のサ症研究者、専門家との交流継続。
結果と考察
1.サ症者21名に人間ドック健診を実施。一般的な生活習慣病(高血圧や脂質異常症、耐糖能障
  害、脂肪肝など)のほか、先天的な解剖学的異常にも注意しながら精査した。脂肪肝や体内脂肪
  の蓄積、脂質異常症、骨密度低下などが目立ったが、個々の受診者に問題点をフィードバックで
  きた。
2.実態調査結果は次の雑誌に掲載された。Hinoshita F, et al. A nationwide survey regarding
  the life situations of patients with thalidomide embryopathy in Japan, 2018: First
  report. Birth Defects Res 111: 1633-42, 2019
3.「サ症診療ガイド2020」は、サ症診断の手順から内科、整形外科・リハビリテーション科、放射
  線診断科、耳鼻咽喉科、歯科・口腔外科、眼科、精神科、麻酔科、看護に至るあらゆる臨床領域
  をカバーしたほか、サ症の歴史や発症メカニズムなどに触れ、内容豊富なガイドブックとなっ
  た。
4.The 2nd International Symposiumはサ症の臨床、活動における一流の専門家を数多く招き、有
  意義なディスカッションを行えた。特に、前回のシンポジウムで手掛けなかったサ症発症メカニ
  ズム、英国のサ症診断手順 (DATE)、英国における股関節手術、ブラジルにおけるサ症の発生状
  況に関する特別講演は特筆すべきものである。
5.診断基準策定ワーキンググループにより「サ症診断の手引き」原案が提示され、コンセンサス
  ミーティング経て、2020年3月31日、新しい「サ症診断の手引き」を公表。これは、我が国で
  時に申し出があるサ症被疑者の診断に適用できる重要な診断根拠となる。
6.その他:1)サ症者に対する医療:本年度、研究班を通じて診療を受けたサ症者数は把握している
  だけで12名。今後もニーズに合わせた臨床支援を続けたい。2)独英の専門家とは頻繁に新しい
  成果や情報の交換を行っているが、新たにブラジルの Prof. Schuler-Faccini らともメールで
  交流。European Congress of NeuroRehabilitation 2019 (Budapest, Hungary) にて学会発表
  (演題2題)。
結論
研究班で計画した活動・研究は順調に進み、意義のある数々の成果をあげることができた。今後は、国内で積み上げてきた活動実績や研究成果をもとに、世界の専門家と築き上げたネットワークから得る必須情報も活用しながら、加齢が進むサ症者の健康増進、問題の解決につなげていきたい。

公開日・更新日

公開日
2021-01-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-09-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201925013B
報告書区分
総合
研究課題名
サリドマイド胎芽症患者の健康、生活実態の把握及び支援基盤の構築
課題番号
H29-医薬-指定-006
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
日ノ下 文彦(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 腎臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 大西 真(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 病院長)
  • 田嶋 強(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 放射線診断科)
  • 今井 公文(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 精神科)
  • 田上 哲也(国立病院機構京都医療センター 健診センター)
  • 芳賀 信彦(東京大学医学部附属病院 リハビリテーション科)
  • 長瀬 洋之(帝京大学医学部附属病院 内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班はサリドマイド胎芽症(以下、サ症)者の健康管理や指導のみならず、サ症者が直面している疼痛等への対応、系統だったサ症診療体制の拡充、全国的な健康・生活実態調査の遂行、国際交流の推進に重点を置き活動した。
研究方法
1) 3医療施設で人間ドック健診継続。2) 全国的なサ症者の健康・生活実態調査と研究成果の論文化。3)「サ症診療ガイド2020」作成。4)「サ症診療ガイド 2017」の英訳本発行。5) 海外の多くの専門家を招き “The 2nd International Symposium on Thalidomide Embryopathy in Tokyo” 開催。6) 研究班員が独英のサ症専門家らと直接交流。7) 新たなサ症診断基準策定。8) サ症研究会を維持し第3回研究会(発表会)開催。9) 研究班員がサ症者交流会に参加し「健康ミーティング」実施。希望に応じリハビリテーション専門医やその他の科の診療を実施。10) 海外のサ症専門家と活発な情報交換、情報発信。
結果と考察
1) 3年間で65名の人間ドック健診を実施し、個々のサ症者に健康上の問題点をフィードバック。また、様々な生活習慣病や加齢に伴う問題点、画像検査による内臓奇形や塊椎、その他の解剖学的異常を確認。2) 2017年、サ症者の健康・生活実態調査を実施し論文発表 (Hinoshita F, et al. Birth Defects Res 111:1633-42, 2019)。3) 3年間の活動の集大成としてあらゆる分野にわたる包括的な「サ症診療ガイド 2020」を発刊。これは世界的に見ても価値の高いガイドブックである。4)「サ症診療ガイド 2017」を英訳し、サ症診療の英文標準テキストとも言える “2017 Guide for the Management of Thalidomide Embryopathy” を発行。5) 2019年7月、“The 2nd International Symposium on Thalidomide Embryopathy in Tokyo”を開催。初日には国内外の専門家5名、2日目には11名が講演し、最後に研究班長が座長となり11名の演者を中心にパネルディスカッションを開催。本シンポは直接各国の専門家間で情報交換、意見交換ができ、評価が高い。6) 2018年9月、研究班員5名(日ノ下、芳賀、栢森、藤谷、志賀)が欧州のサ症専門家を訪問し、様々な問題について情報交換、ディスカッションを行った。ドイツの Nümbrecht で、German-Japanese Symposium on Thalidomide Embryopathyも開催され、学術的な交流だけでなく日独専門家間で親睦を深めた。7)「サ症診断の手引き」を策定して、2020年3月31日、公開。21世紀の新しい「診断手順」が明確に示されたことで、サ症被疑者 (new claimer) が現れてもサ症の診断手続きに入りやすくなったほか、サ症診療の軸足が固まったと言える。8) 2019年2月9日、第3回サ症研究会を開催。東京医科大学半田宏教授に “Mechanisms of thalidomide teratogenicity”、実臨床に詳しいドイツのDr. Rudolf Beyerに“Pain and Mobility in People with Thalidomide Embryopathy” という特別講演をしてもらった。なお、サ症研究会のホームページ (http://thalidomide-embryopathy.com) を維持し内容も適宜アップ。9) 研究班員(班長、リハビリテーション専門医、理学療法士)がサ症者の地域交流会(全国5ブロック)に参加し、「健康ミーティング」やその他の活動を行った。参加した被害者と家族は計41名で、37名がリハビリテーション専門医の個別相談を受け、14名が内科の個別健康相談を受けた。10) 海外のサ症専門家らとメールで頻繁に情報交換したほか、European Congress of NeuroRehabilitation 2019 (Budapest, Hungary) で学会発表(2題)。
結論
研究班の活動は多岐にわたるが、計画した活動・研究はすべて完遂できた。人間ドック健診やサ症研究会の開催、診療ガイドブックの改訂版発行および初版の英訳化、第2回国際シンポジウムの開催、海外の専門家との交流、多彩な臨床活動、サ症研究会ホームページや海外研究者とのメールのやりとりによる情報発信を通じて、サ症者の健康増進を押し進め、サ症者が抱える問題点に対する対策を講じるとともに、サ症専門家のグローバルネットワーク構築に貢献した。

公開日・更新日

公開日
2021-01-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-09-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201925013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Hinoshita F, et al. A nationwide survey regarding the life situations of patients with thalidomide embryopathy in Japan, 2018. Birth Defects Res 111:1633-42, 2019. 日ノ下文彦. 医療 71:372, 2017. Hinoshita F. Med J Clin Trials Case Stud. 3:000217, 2019
臨床的観点からの成果
「サリドマイド胎芽症診療ガイド2020」発行(2020年3月31日)。
“2017 Guide for the Management of Thalidomide Embryopathy”発行(2018年7月)。
第3回のサリドマイド胎芽症研究会開催(2019年2月9日)。
研究班員がサ症者のすべての地域交流会に参加して「健康ミーティング」を開催。
3年間で65名の人間ドック健診を実施。
ガイドライン等の開発
研究班員からサリドマイド胎芽症診断基準策定ワーキンググループを選任し(委員は6名)、「サリドマイド胎芽症診断の手引き」を策定して、2020年3月31日、公開した。
研究班員が主体となって分担執筆した「サリドマイド胎芽症診療ガイド 2020」を2020年3月31日に発行した。
その他行政的観点からの成果
2018年6月1日、研究班長が厚生労働省が提示した「サリドマイド等の安全管理手順を緩和へ」に対するパブリックコメント(受付番号 201806010000476947)を発出した。これは、サリドマイドや類似化合物の臨床使用においてその管理基準を緩和することに対する危険性を警告する内容であった。

その他のインパクト
2019年7月、The 2nd International Symposium on Thalidomide Embryopathy in Tokyo 開催。2日間で国内外の専門家16名が講演し、最後に研究班長が座長となりパネルディスカッションを行い終了。
2018年9月19日、ドイツの Dr. Becker Rhein-Sieg-Klinik で German-Japanese Symposium on Thalidomide Embryopathy が開催され研究班の訪欧使節団が参加・発表。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
サリドマイド胎芽症診断の手引き策定
その他成果(普及・啓発活動)
4件
「サリドマイド胎芽症診療ガイド2020」発行“2017 Guide for the Management of Thalidomide Embryopathy”発行他

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hinoshita F, Beppu H, Shioji S, et al.
A nationwide survey regarding the life situations of patients with thalidomide embryopathy in Japan, 2018: First report.
Birth Defects Research , 111 (2) , 1633-1642  (2019)
10.1002/bdr2.1558.

公開日・更新日

公開日
2024-06-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
201925013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
19,000,000円
(2)補助金確定額
19,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 199,876円
人件費・謝金 2,861,610円
旅費 3,639,912円
その他 8,452,602円
間接経費 3,846,000円
合計 19,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
-