血液・尿中バイオマーカーの非臨床・臨床適用に関する評価要件の確立研究

文献情報

文献番号
201427031A
報告書区分
総括
研究課題名
血液・尿中バイオマーカーの非臨床・臨床適用に関する評価要件の確立研究
課題番号
H24-医薬-指定-028
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 熊谷 雄治(北里大学医学部附属臨床研究センター)
  • 前川 京子(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部 )
  • 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
バイオマーカーの医薬品開発における利用を促進するための評価要件案作成の一環として、血液・尿中バイオマーカーに関し、特に問題となる測定用試料の採取要件、および非臨床動物で見出されたバイオマーカーのヒトへの外挿に関する評価要件案の作成を最終目標として、最終年度である平成26年度は日本人試料を用いた各種試料要件に関する検討、ヒト薬物性肝障害試料・情報の収集、および評価要件案の作成を行った。
研究方法
1)メタボローム解析
イオン性代謝物測定は、抽出後、液体クロマトグラフ-リニアイオントラップ型質量分析計及びガスクロマトグラフ-四重極リニアイオントラップ型質量分析計にて行った。疎水性代謝物測定は、抽出後、下層(有機層)及び上層(水層)を分取し、下層は、超高性能液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計を用いて、リン脂質等一般脂質代謝物を網羅的に測定した。一方、酸化脂肪酸を含む上層は、さらに固相抽出を行い、超高速液体クロマトグラフ-三連四重極リニアイオントラップ型質量分析計を用いての多重反応モニタリング法にて測定した。
2) プロテオーム解析
尿から抽出した蛋白質をトリプシン消化し、精製後、液体クロマトグラフー四重極/FT型タンデム質量分析計での解析に供した。MS/MS測定から得られたフラグメントイオンパターンより、データベースを検索して蛋白質の同定を行った。
結果と考察
1) 内在性代謝物に関する解析
日本人試料では、約500種のイオン性内在性代謝物(アミノ酸、等)を定量し、31%が若年層(25-35歳)において、25%が老年層(55-65歳)において性差を示し、23%が男性において、24%が女性において年齢差を示した。また、日本人、白人、及び黒人における人種差では、約50%以上の代謝物が、日本人と白人・黒人間で差異が認められた。また脂質代謝物に関しては、血漿で128種のグリセロリン脂質・スフィンゴ脂質を測定した。有意に異なるレベルを示した代謝物の割合は、総同定代謝物数の16%(男女差)、31%(年齢差)、及び47%(人種差)であった。イオン性代謝物と同様に、白人と黒人間では差異を示す代謝物の割合は小さいものであった。さらに、日本人における薬物性肝障害患者を用いた解析で、有意差が認められた62種中8種は、性、年齢、人種の影響を受けにくいものであった。
2) 内在性蛋白質に関する解析
尿を対象に日本人由来試料の解析を行い、白人と同様に個人差が大きいことを確認するとともに、個人差の原因となっていた蛋白質を同定した。肥満度は影響を及ぼさなかった。また、性差、年齢差を示す蛋白質を網羅的に同定した。これらの蛋白質はバイオマーカーとしては不適と考えられる。さらに、薬物性肝障害発症に関連する尿蛋白を複数の同定した。
結論
評価要件として、内在性代謝物に関しては、血液を対象に検討を行い、下記の結果を得た。
1) ラット:イオン性及び脂質代謝物のいずれでも、食餌の有無による影響が最も大きく、次いで性差と週齢差がレベル差をもたらす要因であった。一方、採血時間(午前、午後)と絶食時間による差は、相対的に小さいものであった。またラットとヒトの代謝物の性差・年齢差に関する外挿性は低く、それぞれの探索時に別々に考慮する必要性が示唆された。
2) ヒト:白人を対象にした詳細解析では、血漿と血清差が最も大きな要因となり、次いで性差と年齢差も認められた。凍結融解は脂質代謝物で大きく、一部で2倍程度の差が認められた。イオン性代謝物では凍結融解の影響が少ない血清が、脂質代謝物では凝固反応で酸化脂肪酸やリゾリン脂質の変化が大きいことから血漿が、それぞれマトリックスとして有用と考えられた。イオン性代謝物では、白人に比して日本人で性差は相対的に大きいが、脂質代謝物では逆の傾向を示した。またイオン性と脂質代謝物のいずれでも、日本人と白人または黒人間でメタボロームプロファイルが大きく異なることが示され、日本人の基礎データの蓄積が重要と考えられた。また、性差・年齢差を示す代謝物は、日本人と白人で一致する分子種も認められたが、一部、日本人特有の分子種も認められた。
蛋白質に関しては、尿を対象に検討を行い、下記の結果を得た。
1) ラット:性差が最も大きく影響し、雄または雌特異的に発現している蛋白質を同定した。週齢差については、高週齢の雄ラットの一部において高発現量の蛋白質が個体差の要因となることを明らかにした。絶食に関しては大きな影響は認められなかった。
2) ヒト:白人、日本人を対象に検討を行った。最も大きな要因としては個体差が挙げられ、その原因となる蛋白質を同定した。一部は、白人と日本人間で共通であった。また白人では、肥満度が個体差の要因となり得ることを明らかにした。さらに性差、年齢差をもたらす蛋白質を同定した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201427031B
報告書区分
総合
研究課題名
血液・尿中バイオマーカーの非臨床・臨床適用に関する評価要件の確立研究
課題番号
H24-医薬-指定-028
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 熊谷 雄治(北里大学医学部附属臨床研究センター)
  • 鈴木 孝昌( 国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部 )
  • 前川 京子( 国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
バイオマーカー測定用試料として、血液・尿試料の採取や非臨床動物からヒトへの外挿性に関する評価要件を明確化し、バイオマーカー探索時に考慮すべき事項を明らかにすることを目的として、試料採取・保管条件の違いが血液・尿中の蛋白質・内在性代謝物濃度へ与える影響を、非臨床動物(ラット)及びヒトを対象に網羅的に明らかにした。
研究方法
1) 資試料の収集とデータベース構築
解析用として、正常ラット、ヒト健常人(白人、黒人、日本人)、およびヒト副作用 (薬物性肝障害) の試料収集を行った。また、高品質かつ効率的な情報管理のための新たなデータベース構築を行った。
2)メタボローム解析
イオン性代謝物測定は、抽出後、液体クロマトグラフ-リニアイオントラップ型質量分析計及びガスクロマトグラフ-四重極リニアイオントラップ型質量分析計にて行った。疎水性代謝物測定は、抽出後、下層(有機層)及び上層(水層)を分取し、下層は、超高性能液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計を用いて、リン脂質等一般脂質代謝物を網羅的に測定した。一方、酸化脂肪酸を含む上層は、さらに固相抽出を行い、超高速液体クロマトグラフ-三連四重極リニアイオントラップ型質量分析計を用いての多重反応モニタリング法にて測定した。
3) プロテオーム解析
尿から抽出した蛋白質をトリプシン消化し、精製後、液体クロマトグラフー四重極/FT型タンデム質量分析計での解析に供した。MS/MS測定から得られたフラグメントイオンパターンより、データベースを検索して蛋白質の同定を行った。
結果と考察
バイオマーカー探索時に考慮すべき評価項目を明らかにするため、蛋白質は尿を、内在性代謝物は血液を対象に、試料採取や保管要件の検討を行った。
1) 蛋白質
ラットで蛋白質レベルに与える影響を検討した結果、性差が最も大きく影響した。週齢差を示す要因として、高週齢雄ラットにおける高発現量蛋白質を同定した。食餌摂取は大きな影響を認めなかった。白人尿を対象に、性差、年齢差を示す蛋白質を同定したが、検体間での各蛋白質レベルのバラツキはラットに比べて大きく、肥満度が要因であった。日本人でも、性差、年齢差を示す蛋白質を同定すると共に、大きな個人差をもたらす蛋白質群を同定した。
2-1) イオン性代謝物
ヒト血漿及び血清間で顕著な代謝物レベルの差が認められ、次いで性差・年齢差が認められた。凍結融解による影響は血清において少なかった。一方、日本人における血清中代謝物の性差は、白人よりも顕著であった。また、日本人、白人、及び黒人間における人種差では、日本人とそれ以外の人種において顕著で、白人と黒人間の人種差はほとんど認められなかった。ラットを用いた検討では、ヒトと同様に性差・年齢差が認められたが、ヒトとラットにおいて共に測定可能であった代謝物は全体の約2/3であり、そのほとんどがヒト・ラット間で共通した性差・年齢差を示さなかった。また、食餌の有無によってほとんどの代謝物に差異が認められ、一部ではあるが採血時間によっても差異が認められた。
2-2) 脂質代謝物
ラットの解析では、食餌の有無による血漿中代謝物のレベル差は最も大きく、性差及び年齢差を示す代謝物も認められたが、採血時間による差は小さかった。白人を対象にした解析で、血液凝固反応に関与する代謝物についても生体内の濃度を反映すると考えられる血漿が好ましいと考えられた。また白人においても、性別及び年齢は考慮すべき要因であった。一部の代謝物では、凍結融解の影響は大きかった。ラットとヒト間の性差・年齢差に関する外挿性は低く、別々に考慮する必要性が示唆された。また日本人では、白人に比して、性差は小さいものであった。さらに、日本人と白人または黒人間で脂質メタボロームプロファイルが大きく異なることが示され、日本人の基礎データの蓄積が重要と考えられた。また性差・年齢差を示す代謝物では、日本人と白人で一致する分子種も認められた。
3) 薬物性肝障害のマーカー候補解析
 バイオマーカーを実践的に探索するため、薬物性肝障害を発症した患者の急性期と回復期の血液・尿の解析を行い、尿蛋白質及び血中代謝物から複数のバイオマーカー候補を同定した。イオン性と脂質代謝物、それぞれ4種は性、年齢、人種の影響を受けにくいものであった。
結論
3年間の研究結果から、臨床試験においてバイオマーカーを探索する際には、性、年齢、人種、凍結融解の回数等の試料背景が交絡因子となりうることが示唆された。バイオマーカーの探索・検証における評価要件として、各因子の影響を明確に示すことが必要である。さらに本研究では、各分子毎にその影響の大きさを明らかにしたことから、今後、論文発表後に国立衛研のホームページ上に公開してバイオマーカー探索時に広く利用頂く予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201427031C

成果

専門的・学術的観点からの成果
血中の内在性代謝物および尿中の蛋白質に関し、それぞれメタボロームおよびプロテオーム技術を用いて、ラットおよびヒトに関して網羅的に男女(雌雄)差、年齢差、食事影響を明らかにすると共に、一部は日本人と白人・黒人間の人種差、及び採血時間や凍結融解の影響を明らかにした。これらはバイオマーカーの探索研究を始めとする、血中内在性代謝物および尿中蛋白質を対象とするあらゆる研究の基盤的情報として有用である。
臨床的観点からの成果
少数例ではあるが、薬物性肝障害を発症した患者の急性期と回復期の血液・尿の解析を行った。尿では有意に変化した蛋白質が複数同定され、この中には炎症反応の初期段階に上昇することが知られている糖蛋白質が含まれていた。また血液中のイオン性代謝物49種、脂質代謝物13種が有意差を示したが、このうち、イオン性4種、脂質4種の代謝物が性、年齢、人種の影響を受けにくいものであった。これらは検証過程を経て、薬物性肝障害のバイオマーカーになり得ると考えられる。
ガイドライン等の開発
非臨床試験及び臨床試験においてバイオマーカーを探索する際には、性、年齢、人種、凍結融解回数等の試料背景が交絡因子となりうることが示唆され、その影響の程度から評価すべき項目を明らかにした。これらの知見は、蛋白質、内在性代謝物を対象とするバイオマーカーの探索・検証時における評価要件として、ガイドライン作成において一部の項目になり得るものであり、また実際の解析では、各因子の影響を明確に示すことが必要である。
その他行政的観点からの成果
本研究では、性、年齢、人種、凍結融解の回数等の試料背景要因に関し、各分子毎にその影響の大きさを明らかにしたことから、今後、論文発表後に国立衛研のホームページ上に公開して、バイオマーカー探索時における参考情報として広く利用頂く予定である。
その他のインパクト
本研究成果は、日本臨床薬理学会学術総会、日本薬物動態学会年会等の学会で、シンポジウム発表及び一般発表を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
24件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishikawa M, Tajima Y, Murayama M, et al.
lasma and serum from nonfasting men and women differ in their lipidomic profiles.
Biol Pharm Bull.  (2013)
原著論文2
Ishikawa M, Maekawa K, Saito K, et al.
Plasma and serum lipidomics of healthy white adults shows characteristic profiles by subjects' gender and age.
PLoS One  (2014)
原著論文3
Saito K, Maekawa K, Pappan KL, et al.
Differences in metabolite profiles between blood matrices, ages, and sexes among Caucasian individuals and their inter-individual variations.
Metabolomics  (2014)
原著論文4
Saito K, Ishikawa M, Murayama M, et al.
Effects of sex, age, and fasting conditions on plasma lipidomic profiles of fasted sprague-dawley rats.
PLoS One  (2014)
原著論文5
Ishikawa M, Saito K, Urata M, Kumagai Y, Maekawa K, Saito Y.
Comparison of circulating lipid profiles between fasting humans and three animal species used in preclinical studies: mice, rats and rabbits.
Lipids Health Dis.  (2015)
原著論文6
Saito K, Maekawa K, Kinchen JM, Tanaka R, Kumagai Y, Saito Y
Gender- and age-associated differences in serum metabolite profiles among Japanese populations.
Biol. Pharm. Bull.  (2016)
原著論文7
6.Maekawa K, Okemoto K, Ishikawa M, Tanaka R, Kumagai Y, Saito Y
Plasma Lipidomics of Healthy Japanese Adults Reveals Gender- and Age-Related Differences.
J Pharm Sci  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
2018-02-22

収支報告書

文献番号
201427031Z