複合予防戦略による多様な若者を対象とした予防啓発手法の開発・普及に関する社会疫学的研究

文献情報

文献番号
201421011A
報告書区分
総括
研究課題名
複合予防戦略による多様な若者を対象とした予防啓発手法の開発・普及に関する社会疫学的研究
課題番号
H24-エイズ-一般-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木原 雅子(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻社会疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 鬼塚 哲郎(京都産業大学文化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,990,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会疫学的手法を用いて、サイバー戦略とスクール戦略により、アプローチ困難で支援ニーズの高い若者(セクシュアルマイノリティーの若者、性行動の活発な非就学の若者)に対する予防啓発モデルの開発・評価を行う。
研究方法
(1) サイバー戦略を用いた予防介入研究
1) セクシャルマイノリティーの生徒のためのサイト開発研究:国内外のセクシャルマイノリティー向けサイトの帰納的内容分析の結果と、ネット調査の結果に基づいて、ピアと協働で、Webサイトの開発および改善を行った。
2) 開発したサイトの効果評価に関する研究:某社の登録webモニター(18~24歳男女:高校生を除く)のうち研究参加の同意の得られた1,548人を対象にランダム化比較試験を実施し、介入群にはサイト閲覧、対照群には閲覧なしで、サイト閲覧の効果を比較した。
(2)スクール戦略を用いた予防介入研究
開発したサイトのURLを学校、保健所で紹介するQRコード付き紹介カード(注:申請者が開発した、配布場所・配布者を標識でき、かつ転送を追跡できるQRコード)を配布し、その効果(アクセスの広がりと波及効果)を、アクセス解析で測定した。
結果と考察
(1) サイバー戦略を用いた予防介入研究
1) セクシャルマイノリティーの生徒のためのサイト開発研究:日本の既存サイトには、思春期若者に特化したサイトがほとんど存在しないこと、文部科学省の学習指導要領には性的少数者に関しての集団指導が明記されていないことを考慮し、自らのセクシャリティーに揺らぐ児童生徒も入りやすく、かつセクシャルマイノリティーに対する学校の受容的雰囲気(school climate)の醸成を促すために、多くの中学生や高校生が抵抗感なく自然な形でアクセスしやすいサイトを開発した。多くの生徒が興味を持つように、セクシャルヘルスだけに限定せず、いじめや自傷行為、自殺を含むメンタルヘルスの情報も含めた。開発したサイトに対するネット調査の結果に基づき、さらにサイトに改善を加えた。
2) 開発したサイトの効果評価(ランダム化比較試験):介入群774名、非介入群774名、合計1,548名の結果を比較した。性感染症、HIVに関する知識の正解率は、全項目で介入群の方が非介入群よりも高値で、男性では16~28%、女性では11~26%高値であった。STI感染へのリスク認知率は、男女とも介入群で非介入群よりも5%程度の高値を示し、HIV感染へのリスク認知は介入群の方が男性で14%、女性では7%高値であった。一方、性的多様性に関する知識の質問については、性感染症やHIVに関する質問ほどの大きな差はないが、全項目で介入群が非介入群よりも、男性では10%前後高く、女性では、5%高値であった。また、性的多様性に対する情報提供の必要性、学校における教育の必要性、セクシャルマイノリティーに対する差別偏見減少の教育の必要の質問では、男性では8%前後の高値を示し、女性では、6%前後の高値を示した。以上の結果より、サイト閲覧という簡単な方法により、性感染症やHIVに関する知識の大幅上昇、リスク認知の上昇、さらに性的多様性に関する知識の上昇、性的多様性に対する教育の必要性に対する肯定的態度の上昇が認められた。この効果は学校で、授業を1コマ実施時と同等の効果であり、本研究により継続実施可能性が高く費用対効果のある啓発モデルが開発された。
(2)スクール戦略を用いた予防介入研究
WYSH教育の全国ネットワークを用いて、17都府県の36高校に対し2631枚のQRコード付き紹介カードを配布した。アクセス数は合計196件(アクセス効率7.4%)で、昨年のアクセス効率1%からは大幅に増加した。しかし、学校での生徒全員へのカード配布であるにもかかわらず、まだアクセス状況は十分とは言いがたい。さらなるアクセス率向上のための誘導方法の開発研究が必要であることが示唆された。
結論
多様な若者(セクシャルマイノリティー、活発で無防備な性行動をとる若者)(就学・非就学)に適した科学的予防介入モデルの開発の基礎研究実施という当初の目標を予定通り達成した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201421011B
報告書区分
総合
研究課題名
複合予防戦略による多様な若者を対象とした予防啓発手法の開発・普及に関する社会疫学的研究
課題番号
H24-エイズ-一般-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木原 雅子(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻社会疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 鬼塚 哲郎(京都産業大学文化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会疫学的手法を用いて、サイバー戦略とスクール戦略により、アプローチ困難で支援ニーズの高い若者(性的少数派若者、性行動の活発な非就学・就労の若者)に対する予防啓発モデルの開発・普及を行う。
研究方法
(1)サイバー戦略を用いた予防介入研究
1)セクシャルマイノリティー生徒のためのサイト開発(初年度~2年度): 初年度に、国内外のセクシャルマイノリティー向けサイトの帰納的内容分析と性行動等に関するネット調査を実施し、2年度には、その結果に基づき、当事者と協働で、Webサイトの開発をした。
2)開発したサイトについての調査(2年度):某社の登録webモニター(18~19歳男女)1,030人を対象にネット調査を実施し、開発したサイトについて閲覧後の感想(自由記載)の内容分析を実施した。3年度には、この結果に基づいて、サイトをさらに改善した。
3)サイトへのアクセス解析(2年度、3年度):開発したサイトのURLを学校、保健所で紹介するQRコード付き紹介カード(注:申請者が開発した、配布場所・配布者を標識でき、かつ転送を追跡できるQRコード)を配布し、その効果(アクセスの広がりと深さと波及効果)を、アクセス解析で測定した。2年度は保健室配布を中心としたが、3年度には、カードのデザインを改良するとともに、スクール戦略と統合し、配布方法をクラスでの全員配布とした。
4)開発したサイトの効果評価(3年度):某社の登録webモニター(18~24歳男女:高校生を除く)のうち研究参加の同意の得られた1,548人を対象にランダム化比較試験を実施し、介入群にはサイト閲覧、対照群には閲覧なしで、サイト閲覧の効果を比較した。
(2)スクール戦略を用いた予防介入研究
初年度に、WYSH教育(主任研究者が開発した独自の学校集団教育プログラム)の普及版、及び保健室に来室する性的指向等に関して多様な若者に対する個別支援プログラムをNGOと共に開発した。2年度には、同プログラムを、最新の青少年の性行動の現状に即して改善するために、某社の登録webモニター(18~19歳男女)1,030人を対象に青少年の性に関するKAP調査(ネットサーベイ)を実施した。3年度は、同プログラムの普及を継続するとともに、サイバー戦略と連結し、QRコード付きサイト紹介カードをクラス配布した。
結果と考察
(1)サイバー戦略を用いた予防介入研究
1.セクシャルマイノリティー生徒のためのサイト開発(初年度~2年度):日本の既存サイトには、思春期若者に特化したサイトが殆ど存在しないことが初年度の研究で明らかとなったことから、自らのセクシャリティーに揺らぐ児童生徒も入りやすく、かつセクシャルマイノリティーに対する学校の受容的雰囲気の醸成を促すために、多くの中高校生が抵抗感なくアクセスしやすいサイトを開発した。セクシャルヘルスだけに限定せず、いじめや自傷行為、自殺を含むメンタルヘルスの情報も含めた。
2.開発したサイトについての調査(2年度):肯定的意見は626人(61%)、否定的意見は190人(18%)で、全般的に肯定的であった。
3.サイトへのアクセス解析(2年度、3年度): 2年度は、アクセス効率は、高校2%、保健所11.0%で、高校におけるアクセス効率が著しく低かったことからその改善を図る必要が示唆された。3年度は、カードデザインの改善と全員配布に配布法を切り替えたことにより、アクセス効率は7.4%にまで上昇した。
4)開発したサイトの効果評価(3年度):介入(サイト閲覧により、性感染症、HIVに関する知識、HIV/STI感染へのリスク認知、性的多様性に関する知識、性的多様性に対する情報提供の必要性の認識、学校における教育の必要性の認識、セクシャルマイノリティーに対する差別偏見減少の教育の必要性の認識が有意に上昇した。この効果は学校で、授業を1コマに相当する効果であり、本研究により継続実施可能性と費用対効果の高い啓発モデルが開発された。
(2)スクール戦略を用いた予防介入研究
初年度に、WYSH教育の普及版、及び保健室における個別支援プログラムを開発した。2年度の性行動では、1999年に我々が実施した全国調査の同年齢と比較した結果、性経験率、生涯パートナー数3人以上の割合、同時に複数の相手のいる人の割合、金銭の授受を介したセックスに対する容認度の全項目において、男性では15年前に比べて微増であるのに対し、女性では全項目で大幅な上昇が観察され、女性の性行動が活発化し無防備化していることが示唆された。
結論
多様な若者(セクシャルマイノリティー、活発で無防備な性行動をとる若者)(就学・非就学)に適した科学的予防介入モデルの開発の基礎研究実施という当初の目標を予定通り達成した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201421011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究はアプローチ困難な多様な若者の社会文化に適した科学的予防啓発モデルの創出と普及という困難で重要な課題に取り組んだ社会的意義の高い研究であり、また就学している若者を対象とした対策(スクール戦略)のみならず非就学の若者もアクセスし得るITを用いた対策(サーバー戦略)により、包括的で、経済性、効率性、応用性に優れた新しい予防啓発モデルの可能性を示したという意味で学術的意義が高い。
臨床的観点からの成果
臨床的研究ではないので該当しない。
ガイドライン等の開発
該当するものはない。
その他行政的観点からの成果
研究期間中に、大阪市エイズ対策評価検討会議の専門家委員及び大阪府エイズ対策検討会委員として、行政施策の検討に貢献した。その他、財団法人エイズ予防財団の青少年対策事業を支援し、保健所による青少年対策の普及に貢献した。
その他のインパクト
研究成果は、133回にわたる招待講演(対象:学校の教師、PTAメンバー、小児科医・産婦人科医等)で、広く社会的に普及するとともに、毎年独自に全国から学校教師が参加する研修会を開催し、全国的かつ系統的な普及に努めた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
7件
和文著書
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
136件
3回の研修会を含む

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suguimoto SP, Techasrivichien T, Musumari PM他
Changing patterns of HIV epidemic in 30 years in East Asia
Curr HIV/AIDS Rep , 11 (4) , 134-145  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
2018-06-19

収支報告書

文献番号
201421011Z