特定健診保健指導における地域診断と保健指導実施効果の包括的な評価および今後の適切な制度運営に向けた課題克服に関する研究

文献情報

文献番号
201315015A
報告書区分
総括
研究課題名
特定健診保健指導における地域診断と保健指導実施効果の包括的な評価および今後の適切な制度運営に向けた課題克服に関する研究
課題番号
H23-循環器等(生習)-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
今井 博久(国立保健医療科学院        )
研究分担者(所属機関)
  • 津下  一代(公益財団法人愛知県健康づくり振興事業団 あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 岡村  智教(慶應義塾大学医学部)
  • 緒方  裕光(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
  • 横山  徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 成木 弘子(国立保健医療科学院)
  • 佐田 文宏(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 中尾 裕之(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の生活習慣病対策として平成20年度から特定健診保健指導制度が開始されて第一期が過ぎた。当初、本制度の実践的な部分に関するエビデンスはほとんどない状況で制度運営が開始された。しかしながら、第一期が経過して様々な有用なデータが蓄積され、本研究班では中長期にわたる施策効果の解析や効率的な制度運営の方法開発など量および質の両面における研究成果を示し、今後の第三期に向けた制度運営に繋がる研究を展開した。もともと本研究班は、総括班としての性格を有し、特定健診保健指導の制度運営に関する方法論および施策効果の総合的な評価の総括を行い、制度推進に資する成果をまとめて提示することを目的としてきた。本省の健康局がん対策・健康増進課と密接な連携を取りながら研究を進め、適切な制度運営に役立つ研究を展開した。
研究方法
(Ⅰ)特定健診保健指導の施策効果、とりわけ保健指導の効果を中心に多角的に解析を行った。すなわち1)地域保険者における保健指導介入の持続効果、2)職域における循環器疾患発症リスク分析と特定保健指導の効果、3)健診検査項目としての血清クレアチニンの意義の検討、4)保健指導の介入効果を予測するツールの開発などを行った。さらに(Ⅱ)全国の市町村保健師及び管理栄養士がPDCAサイクル分析演習で記載した結果を分析した。また保健指導の評価に関するメタ・アナリシスの実施可能性を検討した。(Ⅲ)厚生労働省生活習慣病対策のホームページのコンテンツ作成及び改訂版の解説書の発刊なども行った。
結果と考察
(1)地域保険者における保健指導介入の持続効果
保健指導の教室に参加した人たちは平均で3kg以上体重を減らしていた。不参加の人たちは0.5kg程度であった。その後、最初の年度に教室に参加した人たちは、2年後、3年後、4年後、5年後、6年後まで初年度と比較してほとんど変わりなく3kg以上の体重減少を維持し続けてきた。一方、保健指導の教室に不参加の人たちは0.5kg程度の改善であった。
(2)職域における循環器疾患発症リスク分析と特定保健指導の効果
a)対象者19,742人中238人(1.2%)が発症、年代別の発症率は30歳代0.4%、40歳代1.4%、50歳代3.1%であった。糖尿病や高血圧の治療者、尿蛋白やeGFRの異常者で発症率が高く、血圧、血糖、中性脂肪については、それぞれ正常な人と比べて有所見者では1.9倍、肥満者は非肥満者と比較して1.8倍であった。無喫煙者と比べて1日21本以上の喫煙者では発症率が3倍以上であった。b)3年間で1回以上積極的支援を実施したのは2,809人、一度も保健指導を実施しなかったのは3,560人(支援無群)であった。両群において、3年後の検査値を比較、生活習慣病薬の服用状況を分析した。積極的支援実施群は支援無群と比較して、3年後のBMI・腹囲の減少量が有意に大きかった。FPG、HbA1cは支援無群で有意に悪化したが、支援実施群では悪化が有意に抑制された。生活習慣病薬服用率も低減した。
(3)健診検査項目としての血清クレアチニンの意義の検討
男女ともに,積極的支援,動機づけ支援が減少し,メタボ判定該当者・予備群も減少(男性は予備群のみ),受診勧奨該当者も減少していた.身体計測数値,検査数値についても,全体的にみて概ね改善傾向であり,脂質の改善傾向が顕著で,男性よりも女性の方が改善のしていた.
(4)保健指導の介入効果を予測するツールの開発
健康日本21(二次)の目標設定に用いた基礎データをまとめて、危険因子の目標値を変更した時の循環器病減少割合を予測できるエクセルシートを作成した。これにより血圧、糖尿病、脂質異常症、糖尿病の各項目において、独自の目標値を設定した場合の循環器疾患死亡率を予測することができ、危険因子の条件を変更することによって種々の予測が可能である。このツールは都道府県等の独自の目標設定や事業の評価に有用と考えられた。
(5)全国の市町村保健師及び管理栄養士によるPDCAサイクル分析の総合評価
 評価に関する記述が見られたのは、①94名(98.9%)189件(35.1%)、②87名(91.6%)で件数は155件(28.8%)、③78名(82.1%)136件(25.3%)、④52名(54,7%)58件(10.8%)であった(記述件数:複数回答、延べ総数538件)。
結論
本研究班は、特定健診保健指導制度に関する研究の総括班として第一期の5年間にわたる様々なデータ解析から得られた知見をまとめて提示してきた。マクロ的およびミクロ的な視点から保健指導の効果、医療費への影響、効率的な制度運営方法などを明らかにしたことは今後の制度の進め方を検討する上で有用であり、その意義は非常に大きい。

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

文献情報

文献番号
201315015B
報告書区分
総合
研究課題名
特定健診保健指導における地域診断と保健指導実施効果の包括的な評価および今後の適切な制度運営に向けた課題克服に関する研究
課題番号
H23-循環器等(生習)-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
今井 博久(国立保健医療科学院        )
研究分担者(所属機関)
  • 津下 一代(公益財団法人愛知県健康づくり振興事業団 あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部)
  • 緒方 裕光(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 成木 弘子(国立保健医療科学院)
  • 佐田 文宏(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 中尾 裕之(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
  • 安村 誠司(福島県立医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界で初めて政府が主導する生活習慣病の予防施策が開始され第一期(5年間)が経過した。メタボリック症候群に焦点を当てたスクリーニングおよびこの疾病の該当者に対する6ヶ月間の食事と運動を中心にした保健指導を行う内容である。施策開始時には本制度に関するエビデンスはほとんどなかったが、第一期間にデータが集積され様々な観点から解析を実施され、主に地域診断の方法論、施策の効果評価、制度の適切な運営等に関する有用な知見が得られた。本研究班は、特定健診保健指導制度に関する研究の総括班として有用な知見をまとめて提示し、とりわけマクロ的およびミクロ的な視点から保健指導の効果、医療費への影響、効率的な制度運営方法、また地域診断の方法論などを明らかにした。今後の制度の進め方を検討する上で有用であり、その意義は非常に大きい。以下では、三年間の抜粋版として順番に述べる。
研究方法
(1)特定健診保健指導を軸に生活習慣病対策における地域診断の適切な方法および介入の評価に関する理論的分析:厚生労働省の「地域診断及び保健事業の評価に関する検討会」で議論されてきた内容およびその検討会に引き続いて本研究班内で分析されてきた内容を整理し論理性と理念性を中心にまとめた。基本方針は「保険者および都道府県等の保険者協議会および地域・職域連携推進協議会等において保健事業の企画・運営・評価に携わる者のための、今後の生活習慣病対策推進と見直しを行うための手引きとなることを目指した内容に最終的には落とし込んだ。
結果と考察
(2)北海道から九州に至る地域の特定健診受診者のデータを使用した。市区町村の国保加入者で特定健診の受診者355,374人のデータを基に、2009年度の積極的支援の該当者を分析対象者とし、積極的支援の利用の有無により、身体計測数値および検査数値に改善がみられるか検証を行った。分析には、傾向スコアによる重み付け推定法を用いた。2009年に積極的支援の対象となった4,052人のうち、特定保健指導を受けた者は924人、特定保健指導を受けなかった者は3,128人であった。傾向スコアで調整した結果、積極的支援を利用した群は、利用しなかった群に比べて、体重は-0.88 kg(p<0.001)、BMIは-0.33 kg/m2(p<0.001)、腹囲は-0.71 cm(p<0.001)、ヘモグロビンA1cは-0.04 %(p<0.001)、中性脂肪は-11.30 mg/dl(p<0.001)、HDLコレステロールは+1.01 mg/dl(p<0.001)と、統計学的に有意な改善がみられた。すなわち、傾向スコア法という厳密な手法によって検証した結果、明らかに施策介入効果があることが示された。
結論
(3)マクロ的およびミクロ的な観点から特定保健指導の効果の定量的な評価:①職域保健:特定保健指導(積極的支援)が2年後の服薬率に及ぼす効果を健保等のデータベースを活用して分析した。積極的支援の2年後まで追跡できた症例について、2年後までの階層化判定、服薬(降圧剤、脂質代謝改善薬、血糖降下薬)状況を積極的支援参加の有無別に比較した。10,934人を解析対象とし、2年後の検査値、階層化判定、服薬率を分析した。2年後に支援レベルが改善していたのは33.2%であった。2年間で1回以上の積極的支援実施の有無により比較すると、実施群では2年後の服薬率が有意に低かった。さらに健保の長期データ活用による生活習慣病発症、医療費に関して分析を行った。ある健保において20歳代のBMIとその後の体重増加が40歳代の高血圧、糖尿病発症ならびに医療費に及ぼす影響について検討した。1989年時点で20歳代の男性10,125人を対象とした。その結果、20歳代から40歳代にかけて20年間で平均7kgの体重増加を認めた。40歳代の総医療費は、20歳代のBMIが高いほど高額であり、20歳代でBMI22.3以上かつ40歳代で25.0以上の男性では,両年とも低い群と比べて高血圧と糖尿病の有病率は4.2倍,9.5倍であった.以上のことから、20歳代のBMIは40歳代の高血圧や糖尿病の有病率や医療費に大きく影響することがわかった。

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201315015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
様々な有用なデータが蓄積され、本研究班では中長期的にわたる施策効果の解析や効率的な制度運営の方法開発など量及び質の両面における研究成果を示し、今後の第三期に向けた制度運営に繋がる研究を展開した。
臨床的観点からの成果
地域保険者における保健指導介入の持続効果、職域における循環器疾患発症リスク分析と特定保険指導の効果、検診検査項目としての血清クレアチニンの意義検討。
ガイドライン等の開発
厚生労働省生活習慣病対策のホームページのコンテンツ作成及び改訂版の解説書の発刊
その他行政的観点からの成果
本研究班で得られた知見を使用した研修会を全国の国保連合会で開催した。
研修会では、保健師および管理栄養士を対象にPDCAサイクルを活用しながら
保健事業の定量評価の演習を行った。
その他のインパクト
保険指導の介入効果を予測するツールの開発を行った。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
石川善樹、今井博久、中尾裕之 他
特定保健指導の予防介入施策の効果に関する研究
厚生の指標 , 60巻 (5号) , 1-6  (2013)
原著論文2
今井博久、中尾裕之
A(改善策)をP(計画)に落とし込むポイント
保健師ジャーナル , 69巻 (12号) , 1020-1025  (2013)
原著論文3
今井博久、中尾裕之
C分析からA検討の実践例 A(改善策)が見えてくるようなC分析を
保健師ジャーナル , 69巻 (11号) , 922-927  (2013)
原著論文4
今井博久、中尾裕之
C分析における基礎的な事項
保健師ジャーナル , 69巻 (10号) , 824-829  (2013)
原著論文5
今井博久、中尾裕之
「標準的な健診・保健指導プログラム【改訂版】」のポイント
保健師ジャーナル , 69巻 (9号) , 728-733  (2013)
原著論文6
今井博久
第2期の特定保健指導の効果的な実施 定量的な評価を基盤に飛躍を
埼玉の国保 ,  (258号) , 4-7  (2013)
原著論文7
中村誉、秋元悠里奈、松尾智恵子 他
特定健康指導による運動量・エネルギー摂取量の変化と体重減少・検査値変化との関連
東海公衆衛生学会雑誌 , 1巻 (1号) , 64-70  (2013)
原著論文8
津下一代
特定健康・特定保健指導と糖尿病
月刊糖尿病 , 5巻 (10号) , 79-88  (2013)
原著論文9
津下一代
特定健康・特定保健指導-5年間の評価と見直し
臨床栄養 , 122巻 (1号) , 65-70  (2013)
原著論文10
岡村智教
健康日本21(第二次)における生活習慣病の重症化予防の考え方
地域保険 , 44巻 (10号) , 12-15  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201315015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,700,000円
(2)補助金確定額
7,698,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 660,855円
人件費・謝金 601,011円
旅費 1,617,260円
その他 4,819,038円
間接経費 0円
合計 7,698,164円

備考

備考
自己負担164円。

公開日・更新日

公開日
2017-09-04
更新日
-