労働災害防止対策の推進とESG投資の活用に資する調査研究

文献情報

文献番号
202223005A
報告書区分
総括
研究課題名
労働災害防止対策の推進とESG投資の活用に資する調査研究
課題番号
20JA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
永田 智久(産業医科大学 産業生態科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 金藤 正直(法政大学 人間環境学部)
  • 森 晃爾(産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室)
  • 永田 昌子(産業医科大学 医学部 両立支援科学)
  • 小田上 公法(産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,774,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、3ヵ年計画の最終年度である。上述の目的を達成するために、以下の研究を実施する。
(1)ESG情報開示制度調査
1.大企業・中小企業における労働安全衛生活動の歴史的背景と現状の整理
(2)ESG実態調査
2.米国・欧州の上場企業における労働安全衛生の情報開示に関する良好事例の整理
3.上場企業(プライム市場)における労働安全衛生活動の社外への情報開示に関する実態調査
4.健康経営偏差値と労働災害度数率との関連に関する研究
5.中小企業における労働安全衛生および健康経営の情報開示およびその効果に関する調査
(3)
6.健康経営度調査票から見た投資家との対話に関する実態調査
研究方法
既存の資料の文献レビュー、関係者へのインタビュー調査、中小企業の経営者および上場企業の労働安全衛生担当者に対する質問紙調査を行った。
結果と考察
(1)ESG情報開示制度調査では、最近の国内・国外の動向を認めた。2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表したISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)を受け、2020年にアメリカの証券取引委員会(SEC)が人的資本に関する情報開示を義務化した。情報開示が必須となる項目はまだ確定していないが、日本においてもアメリカと同様の動きがみられた。また、東京証券取引所(JPX)の動向に関しては、コーポレートガバナンス・コードの改定により、補充原則2-4①と3-1③の中で人的資本に関わる情報を「より高水準」の内容として開示すべきことが求めていることを明らかにした。
(2)ESGに関連する実態調査では、まず、欧米の上場企業の情報開示における良好事例では、「経営層が労働安全衛生に直接、関与していることを具体的に記述している」「労働安全衛生が人権の中核的な課題であることを示している。「アウトカムとなる指標(数値)を開示している。その際、指標の具体的な定義を示す、複数年の結果を示すことで経年変化を示す、結果に対する要因を分析し、その対応策について記述するという工夫をしている」「マテリアリティのなかでの労働安全衛生の位置づけについて説明している」といった特徴を認めた。
プライム市場(上場企業)の労働安全衛生について、7割を超える企業が労働安全衛生に関する状況を投資家を含む社外の利害関係者に公表していた。労働安全衛生部門が執筆を担当し、目標と計画およびその達成状況を多くの企業が開示していたが、個別施策の実施回数や参加率等、プロセス指標のデータはあまり開示されていなかった。労働災害件数や度数率・強度率は数値化して把握していたが、安全文化については把握していなかった。
健康経営と労働災害度数率との関係では、健康経営度総合偏差値が高いほど、労働災害度数率が低かった。健康経営度の総合偏差値が高いほど、企業の方針として健康経営や労働安全衛生活動に力を入れているため、必然的に労働災害度数率低下につながっているのかもしれない。
中小企業(健康経営優良法人2020)に対するアンケート調査では、労働安全衛生情報について、仕事でのストレスや熱意活力を把握したいと回答されていた。労働災害件数や度数率・強度率は数値化して把握していたが、離職意思については把握していなかった。労働災害の発生状況(労働災害件数、度数率、強度率)について開示すべきと回答されていた。
(3)ESGニーズ調査では、健康経営度総合偏差値と、企業と投資家との対話の間に関連を認めた。健康経営度の総合偏差値が高いほど、企業の方針として健康経営や労働安全衛生活動に力を入れているため、必然的に投資家との対話においても健康経営に関して話題に取り上げる事につながっている可能性がある。
結論
大企業、中小企業に関わらず、労働災害に関する指標(労働災害件数、度数率、強度率)は把握され、かつ、開示すべきと経営者は考えている。また、経年変化や特徴に対して具体的な対応策の説明を行うことが重要と考えられた。また、約4割の上場企業が労働安全衛生や健康経営に関して投資家と対話を行っていた。

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202223005B
報告書区分
総合
研究課題名
労働災害防止対策の推進とESG投資の活用に資する調査研究
課題番号
20JA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
永田 智久(産業医科大学 産業生態科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 金藤 正直(法政大学 人間環境学部)
  • 森 晃爾(産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室)
  • 永田 昌子(産業医科大学 医学部 両立支援科学)
  • 小田上 公法(産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は安全衛生活動に関するESG情報開示のエビデンス・良好事例集、および、行政の関与方法に関する提言を作成することを目的とする。
研究方法
既存の資料の文献レビュー、公開情報の収集と解析、関係者へのインタビュー調査、質問紙調査、健康経営度調査票の解析を行った。
結果と考察
(1)ESG情報開示制度調査では、まず2020年度にLexisデータベースを利用して、英米法を中心とする法令を検索したが、ヒットしなかった。2022年度に再度、同データベースで法令検索を行ったところ、いくつかの文献を検索できた。そのため直近で法令関連の文書が発出されていることがわかった。内容は、主に情報開示やデューディリジェンスなどについてであった。ESG評価インデックスを作成している会社の情報は、インタビューと公開情報から収集した。いずれの評価にも労働安全衛生が入っていること、また、業種によって何を重要視するか、内容による重み付けがされていた。有価証券報告書では、「第2 事業の状況」「第4 提出会社の状況」「第5 経理」のなかに労働安全衛生を記載していた。また、東京証券取引所(JPX)は、コーポレートガバナンス・コードの改定により、補充原則2-4①と3-1③の中で人的資本に関わる情報を「より高水準」の内容として開示すべきことが求めていた。
(2)ESGに関連する実態調査では、日本および台湾で2020年度にCSR関連報告書、統合報告書の記述内容を調査した。報告書を発行している企業の8割は労働安全衛生を記述しており、最近では特に統合報告書で発行している企業が増えていた。2022年度に実施した労働安全衛生担当者に対する質問紙調査では、労働災害件数や度数率・強度率等の労働安全衛生に関する指標は数値化して把握しており、また、多くの者が開示すべきと考えていた。関連分野である健康経営に関して、健康経営度総合偏差値が高いほど、労働災害度数率が低く、これらの相関を認めることが明らかとなった。労働安全衛生を確実に実施することは、健康経営の評価をあげるうえでも重要である可能性があり、この点は企業が労働安全衛生に取り組むインセンティブになるかも知れない。開示の良好事例では、経営層が労働安全衛生に直接、関与していることを具体的に記述していること、労働安全衛生が人権の中核的な課題であることを示していること、アウトカムとなる指標(数値)を開示しており、その際、指標の具体的な定義を示し、複数年の結果を示すことで経年変化を示していること、結果に対する要因を分析し、その対応策について記述するという工夫をしていること等の特徴を認めた。中小企業では、2022年度での質問紙調査で、労働災害件数や度数率・強度率等の労働安全衛生に関する指標は数値化して把握しており、また、多くの経営者が開示すべきと考えており、上場企業と同様の結果であった。2020年度の質問紙調査では、情報開示することにより人材採用場面で効果が出ることが明らかとなった。
(3)ESGニーズ調査では、機関投資家は労働安全衛生に関して、労働災害件数(死傷者数も含む)、労働安全衛生の基本方針の制定、労働安全衛生の担当者への教育・研修、労働安全衛生に関する労働者研修に関心が高かった。健康経営度偏差値の高い企業は、健康経営に関して投資家と対話を行っていた。
結論
・現時点でESGと労働安全衛生に関連する法的義務が出されている国は存在しないが、証券取引所が定めたルールにより、上場企業は労働安全衛生を開示する企業が存在する。ESGインデックスを作成する会社の評価項目に労働安全衛生が含まれており、上場企業は開示することへの環境は一定程度、整っているが、開示の程度は企業によりばらつきがある。最低限の労働安全衛生に関する開示項目を定め、開示を促す指針が必要かも知れない。労働安全衛生分野以外では、人的資本可視化指針等が発出され始めている。
・中小企業の経営者、上場企業の労働安全衛生担当者は、労働災害件数や度数率・強度率等の労働安全衛生に関する指標は数値化して把握しており、また、多くの者が開示すべきと考えていた。労働安全衛生分野で開示を促すべき項目は、これらが優先順位が高いと考えられる。
・労働安全衛生と健康経営は、そのパフォーマンスに相関をみとめる可能性がある。今後、労働安全衛生と健康経営は統合して進めることも一案である。これらの情報開示について、中小企業への調査で、いずれの活動も、開示している企業は人材場面での効果が高かった。この点は情報開示することのインセンティブとなる。機関投資家からは、労働安全衛生はリスクマネジメント、健康経営は人的資本への対応を捉えられており、社外への情報開示や対話ではその点を踏まえた説明が必要となる。

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
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研究成果の刊行に関する一覧表
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公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202223005C

収支報告書

文献番号
202223005Z