文献情報
文献番号
202109010A
報告書区分
総括
研究課題名
産業別・地域別における生活習慣病予防の社会経済的な影響に関する実証研究
課題番号
19FA1013
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
野口 晴子(早稲田大学 政治経済学術院)
研究分担者(所属機関)
- 朝日 透(早稲田大学 理工学術院)
- 阿波谷 敏英(高知大学医学部)
- 川村 顕(早稲田大学 人間科学学術院)
- 玉置 健一郎(早稲田大学 政治経済学術院)
- 花岡 智恵(大阪大学社会経済研究所)
- 富 蓉(フ ヨウ)(早稲田大学 商学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
6,923,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
超高齢社会に突入した我が国にとって、生活習慣病発症あるいは重症化の抑制は、住民のQOL向上や医療費抑制の観点から喫緊の課題であり、そのためには予防対策が不可欠である。しかし、既存研究では、(1)生活習慣の違いの類型化と予防対策の効果との関係、(2)生活習慣病の重症度と労働生産性との関係、について十分に研究されてきたとは言えない。そこで本研究では、以下の4つを研究課題として設定する。(1)業種別・地域別の生活習慣病の実態について分類・整理し、重症度の算出を試みる;(2)健診受診や特定保健指導が生活習慣病の発症・重症化抑制に(どの程度)寄与するか業種別・地域別に統計的検証を行う;(3)生活習慣病が就労に(どの程度)影響するか業種別・地域別に統計的検証を行う; (4)生活習慣病の発症・重症度が就労状況に与える影響をシミュレーションにより推計する。
研究方法
本研究では、渉猟された先行研究を参考にしながら、日本を中心に、米国・カナダにおける地域間で異なる多様な政策変更、自然災害の発生、マクロの経済状況の変動に係る時期のズレを「自然実験(外生ショック)」と見做し、主として厚生労働省が管轄する大規模な行政管理情報やサーベイデータに、差の差推定(difference-in-differences:以下、DID)、固定効果操作変数推定(fixed effects instrumental variable estimation:以下、FEIV)。を応用し、各研究が分析対象とするテーマに応じた効果推定を行う。尚、DIDでは、介入前における処置群と対照群に共通トレンドの仮定が満たされていることが前提となる。したがって、event studies等を用い、介入前において、処置群と対照群のアウトカムの差が統計学的に有意でないことを確認した上で、推定行う。
結果と考察
分析の結果、第1に、先行研究渉猟では、生活習慣病の罹患は就労状況にネガティブな影響を与える傾向にあるが、その影響の大きさや統計学的有意性は、性別・人種・年齢・教育水準・疾患の種類や重症度等の個人属性、職業類型や国・地域による違いがあり、そのメカニズムの解明にはいまだ至っていないことがわかった。第2に、記述統計量による現状分析の結果、日本国内では、①第2・3次産業よりも第1次産業における平均罹患率が高い傾向にあること;②疾患の職業による違いにあまり大きくなく、全職業を通じて、最も罹患率が高いのが高血圧症であること;③地域別にみると、都市部における生活習慣病(糖尿・肥満・高脂血・高血圧)の罹患率は低く、地方で高い傾向にあること;④肥満に関しては西高東低、高脂血症については、日本海側で高く、太平洋側で低く、高血圧については、東北・四国・南九州で高い傾向にあること、等が明らかにされた。第3に、様々な「自然実験(外生ショック)」を活用して分析を行った結果、地域における健診や保険収載(保険へのアクセスの公平性)等の「介入」、地域における医療へのアクセスの公平性、職場の労働環境等が、人々の健診受診行動、生活習慣病に係るリスク行動とhealth outcomeに統計学的に有意な影響を与える可能性が示唆された。
結論
本研究では、大規模な行政管理情報やサーベイデータ等の非実験(観察)データに、国内外における様々な「自然実験(外生ショック)」を活用した分析を行った。結果、地域における健診や保険収載(保険へのアクセスの公平性)等の「介入」、地域における医療へのアクセスの公平性、職場の労働環境等が、人々の健診受診行動、生活習慣病に係るリスク行動とhealth outcomeに統計学的に有意な影響を与える可能性が示唆され、こうした知見が、職域間・地域間での健康格差解消への「手がかり」になりうることがわかった。
公開日・更新日
公開日
2023-08-01
更新日
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