健全な水循環を考慮した地域スケールにおける浄水・管路技術に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301366A
報告書区分
総括
研究課題名
健全な水循環を考慮した地域スケールにおける浄水・管路技術に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 正弘((財)水道技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
83,138,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、地域レベルでの水循環の健全化を目的に、水供給の起点となる水源の監視能力の向上によるリスクの回避、配管網における漏水量・作業用水量の最小化及び適正な水質管理等による水道水の輸送面におけるリスクの回避、漏水量・作業用水量の最小化による浄水システム及び水道水源への負荷の低減等を図るとともに、水処理システムにおける環境影響の低減化を軸とした水処理性能の向上を目指すことにより、健全な水循環を構築しようとするものである。
水源の汚染については、水質事故や、有害化学物質による汚染、クリプトスポリジウムなどの病原性微生物等の水源における検出等、水道事業における大きなリスクとなっている。水源水質監視システムの必要性は高く、水源水質情報は迅速かつ正確な伝達が望ましく、科学技術の進歩とともにセンサー、通信、制御、OA機器、省エネルギー技術等の高度化、高機能化が図られてきている昨今、当該技術を浄水処理システムへ積極的に導入することが必要なものと考えられる。
また、水循環から見た浄水システムでは安全な水の供給という視点だけでなく、浄水システム全体の中で水の有効利用を図り取水量の最小化、河川や下水道への負荷の最小化が求められる。浄水システムにおける回収率の向上によって浄水ロスの削減化が可能である。これは取水量の削減化と河川や下水道への負荷の削減化につながる。さらには凝集剤使用量の最小化によって発生汚泥量削減化を目指し環境影響の低減化につながる浄水システムの開発研究を行う。中でも膜ろ過法による浄水システムは精度の高い固液分離機能により、クリプトスポリジウムなどの病原性微生物への不安要素を回避することができ昨今大きく期待されているところであるが、反面、膜ろ過法はエネルギー消費が大きく、特に大規模浄水場においては最大の課題になっている。
浄水場において良質な水を造ったとしても、管路内における錆等の発生や滞留部における水質劣化により、必ずしもその水質を維持したまま需要家まで届けられているとは言い難い事例が発生している。管内水質変化に対する対策及び濁質や浮遊物の除去対策は多量排水がほとんどであり、年間5億m3(上水道事業として)を超える水が排水されている。また、管内面の錆等は、水質劣化のみならず腐食による漏水事故の一因ともなっている。水道管からの漏水量は全国で年間14億m3に達しており、これらが環境に与える負荷は看過できないものである(参考:宮ヶ瀬ダムの有効貯水量=1.8億m3)。配水管網からの作業用水及び漏水の最小化対策として、管内探査・管内清掃・濁質除去システムの構築等が考えられる。また、滞留部を生じない管網を形成することにより滞留部を最小化し、濁質の最小化を目指すことも必要である。
上記により、水道水源、浄水システム及び地域配水管網における対策を講じることにより、地域レベルにおける健全な水循環に資することを目的に研究を実施するものである。
研究方法
本研究は官・学・産の共同プロジェクトとして実施する。研究体制としては、浄水部門と管路部門のそれぞれに研究委員会を設け、全体で6委員会を設置している。さらに、浄水部門と管路部門を統括する統括委員会を設置し、各委員会において討議しながら研究を推進中である。これら委員会の委員は、国立保健医療科学院、大学、水道事業体、関連する協会、民間企業等により構成されており、合計208名の水道専門家が参画している。
なお、研究は下記のとおり実施するものである。
(1)水循環を考慮した水道水源の監視に関する開発研究: ①監視項目の整理②計測に関する最新技術動向調査③水源監視の運用事例調査④小規模水道遠隔監視技術
(2)管内の濁質原因の究明:①濁質発生管路の把握、②濁質採取、③濁質分析及び解析
(3)最適管網の調査研究:①管路内における濁質挙動解析、②実験計画の策定及び実験施設整備、③管網内強制循環実験
(4)管内水質改善のための技術開発:①除去システム構造検討、②除去効率調査実験
(5)環境影響低減化に向けた水供給システムの開発研究:①大容量膜技術の開発研究②高分子凝集剤を用いた実証実験③膜を用いた実証実験
結果と考察
下記は平成15年度の成果である。
(1)水循環を考慮した水道水源の監視に関する開発研究。
昨年度は水源監視の実状についての調査を実施し、見知を得た。今年度は下記の項目により研究を実施した。①水道水源水質リスク低減のための監視項目整理、②計測に関する最新技術動向調査③代表的な運用事例調査④リスク検出/評価/予測手法の検討
(2)管内の濁質原因の究明
管内の濁質原因について、濁質が発生している管路の事例を調査し、濁質例として錆、砂、塗膜片等があるとのデータを得た。さらに、実管路内での濁質の存在状況、赤水の発生機構について、水理特性や水質特性との関係のもとに調査し、濁質発生原因究明の一助となる知見を得た。
(3)最適管網の調査研究
実験管路を用いて、各管内流速における濁質(錆、砂、塗膜片)の挙動を透明管で観察、ビデオ撮影を行った。次に丁字管・十字管の分岐方向の流量比(流速比)を変えて、同様に濁質挙動を観察した。これらから得た知見によって、管網による基礎実験計画を作成、実験をスタートさせた。水道管路への小規模水力発電システムの適用化に関する研究で、埼玉県企業局庄和浄水場に続き、山梨県高根町受水池でパイプライン型発電水車のフィールド試験をスタートさせた。
(4)管内水質改善のための技術開発
種々のタイプの除去システム(ストレーナ、膜等)に関する情報を収集し、本研究に適用するために必要な要因(濁質形状と適当なタイプの関係)に関する知見を得た。そして、それらの装置単体での性能確認実験を実施し機能評価を行うとともに、複合型濁質除去システムの基本構造について検討した。
(5)環境影響低減化に向けた水供給システムの開発研究
平成14年度 から平成15年度にかけて、神奈川県内広域水道企業団綾瀬浄水場の実験フィールドの整備及び実験装置の設置を行った。委員会にては実験計画、処理手法、分析方法、実験成果の解析手法等について詳細を決定し、浄水処理トータルシステム開発に関する実験が開始された。環境影響低減化に向けた膜ろ過技術開発としては、大容量膜ろ過技術の開発に関する研究として、日量10万トン規模でのケーススタディを実施し、従来装置との比較を行いその優位性が確認できた。また、膜ろ過装置の高性能化・低コスト化に関する調査、膜モジュール破断に関する調査、廃棄膜モジュールのリサイクル方法の検討を行うとともに、水道事業体等への各種アンケート調査を実施し取りまとめを行った。
結論
 本年度は前年度に行った、研究の知見の整理、実験の準備、研究手法の検討に続き各種のフィールド実験及び調査を実施し一定の成果が得られた。各研究課題について整理、検討を行い最終年度にマニュアル等の作成を含め成果をまとめるものである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-