エステティックサロンにおける身体危害の防止に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100885A
報告書区分
総括
研究課題名
エステティックサロンにおける身体危害の防止に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大原 國章(虎の門病院)
研究分担者(所属機関)
  • 戸佐眞弓(まゆみクリニック)
  • 山下理絵(湘南鎌倉総合病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
バブル経済による好景気を追い風に、エステティックサービスは1985年ころから急速に台頭してきた。しかし、エステティックを業として定める法律や、サービスを提供する技術者の身分・技能の規定等がないため、新規参入の事業者が増えるにつれ、熟練度の低い技術者が生み出されてきた。さらに、消費者を誘引するための誇大広告等ばかりが目を引き、結果として契約に関するトラブルや危害トラブルが増え続けているとされている。
2001年6月発表の国民生活センター資料(エステティックサービスによる危害の現状と安全確保のための方策概要)によると、1990年度以降のエステティックによる危害情報は4,185件(1997年=455件、1998年=479件、1999年=545件、2000年=推定484件)。エステティックサービスの種類別では、フェイシャル41.0%、脱毛エステ32.7%、ボディエステ18.4%、その他のエステ1.3%の順に多い。
こうした消費者との危害トラブルは、再三にわたりマスコミに取り上げられるなど既に社会問題化している。それに対して、国民生活センター、消費者団体等からも、エステティックサービスの安全性と公衆衛生上の位置付けについての疑念が表明され、また法的な整備を含めた資格制度の創設等について、皮膚科、美容外科等の医師をはじめ多くの意見が寄せられている。
本研究は、こうしたエステティックサービスの現状を鑑み、公衆衛生の向上及び消費者危害の防止、消費者利益の保護に資するために、エステティックサービスの各種施術における安全性や有用性、日常的に消費者に提供されているサービスの実態について医学的見地から調査した。
研究方法
本研究は、3つの方法で研究調査を行った。
第一にNTTタウンページのエステティック・カテゴリーに掲載されている全国のエステティックサービス提供事業所約11,000件の中から無作為に抽出した6,229件に「消費者危害防止対策についての実態調査 調査票」を郵送し、回答を得た。調査項目は以下の通り(抜粋)。
(1)消費者への危害トラブル発生時の対処方法
(2)消費者への施術サービス提供時の留意事項
(3)消費者への危害トラブル防止のための具体策
(4)事業所内における衛生管理に関する実行策
(5)医師との提携の有無
第二には、主任研究者及び分担研究者2名によるエステティックサービスの実地体験と面談調査。全国各地のエステティックサービス提供事業所67店に出向き、通常行われているエステティックサービスを実地体験。さらに店の責任者より安全性の確保、危害を未然に防ぐための防止策等について面談調査し、衛生管理の状態等を視察した。
第三に、近年、消費者危害が増えているケミカルピーリングに関し、安全性を確認した。つまり、エステティックサービス提供事業所で一般的に使用されているケミカルピーリング用材31品目の成分分析を行うとともに、成人女性60名を対象として臨床試験を行い、用材の安全性、刺激性を検討した。
結果と考察
調査票による「消費者危害防止対策」の集計結果では、危害が起こった場合の対処策には疑問が残る。医療施設を併設しているあるいは医師と提携しているサロン(全体の55.6%)では、医師の指示や受診させるなどの対応がとられているが、それ以外のサロンでは市販薬の塗布程度にとどまり、しかも適切な市販薬が選択されているかは不明である。また、顧客から何らかの既往症等の申し出があった場合には、慎重に対応しているといえるが、人の肌に直接触れる作業を行っているにしては、専門知識に欠けている。日常的に行っているとみられるパッチテストの意味を理解していない回答が多いことには、大いに不安を感じる。感染症に関しての理解、対応についても同様であり、技術者の知識向上を図るための教育体制確立の必要性は否めない事実である。
ヒアリング調査においても、全体的に技術者の知識レベルの向上は必須課題であると同時に、衛生管理面の徹底が必要である。不特定多数が利用するエステ施設自体が、疾病の温床になったり、感染源になるケースは十二分に想定される。
ケミカルピーリング剤の臨床試験では、平成13年3月に財団法人 日本エステティク研究財団が発表したガイドライン(pH3.0以上、グリコール酸10%以下)に沿うかぎりにおいては、エステティックサロンでケミカルピーリングが行われても、特殊な事例を除いて安全性は確保されるものと判断した。
3つの方法を用いた研究調査の結果、エステティックサロンで提供するサービスメニューの内容、技術のレベル、手法もまちまちであり、すべてにおいて安全かつ衛生的にサービスが提供されているとはいいがたい面も混在している。
言い換えれば、それぞれの事業所が独自の考え(技術者の育成方法、教育方法、サービス内容等)で消費者に対応しているため、安全性の確保に関しては、エスティックサービス業全体として、あるいは技術者における統一した意識付けはされていないものと思われる。
結論
わが国のエステティックサービスは、化粧品やエステティック機器といった、ハードが先行して形作られた産業であるため、化粧品とエステティック機器さえあれば簡単に事業所(サロン)として開設できる面ももっている。
美容を目的とするエステティックサービスにおいても、技術者が人体に直接触れたり、皮膚表面の手入れを行う以上、消費者が安心してエステティックサービスを受けられるための理論や知識の教育は不可欠である。同時に、事業所内の衛生管理の徹底や危害への対応マニュアル等の整備は急務である。
エステティックサービスを対象に、消費者危害を未然に防ぎ、消費者の利益保護に資するための研究調査は今回はじめてのことであり、今後も医学的見地からこのような研究調査を実施することは極めて重要と考える。
今回の研究調査で得られたエステティックサービスの現状を踏まえつつ、さらに技術者の教育・育成の実態と本来あるべき教育の内容、また、事業所内の衛生管理等の実態を把握することが、今後のエステティックサービスによる消費者危害の防止に向けた一助になるものと考える。

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