住宅における生活環境の衛生問題の実態調査(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000760A
報告書区分
総括
研究課題名
住宅における生活環境の衛生問題の実態調査(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田辺 新一(早稲田大学理工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 真鍋重夫(日本たばこ産業)
  • 渡辺弘司(健康住宅普及協会)
  • 岸田宗治(健康住宅普及協会)
  • 松本真一(秋田県立大学)
  • 龍有二(九州大学)
  • 秋元孝之(関東学院大学)
  • 岩下剛(鹿児島大学)
  • 岩田利枝(東海大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
29,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、シックハウス症候群に関してその実態、住宅供給者及び消費者の意識・対策を調査し、被害実態の把握、有効な対策を立てるための基礎データを収集することである。
研究方法
継続研究に東北地方、九州地方における住宅調査、カビ・ダニ等の衛生環境に関する調査研究を加えた。分担研究として以下の研究を行った。1)国内外の関連研究調査、2)建材から発生するアルデヒド類のパッシブ測定法(ADSEC)の開発、3)戸建新築住宅における入居前後による衛生環境調査、4)床面からのアルデヒド類放散量が気中濃度に与える影響に関する実測、5)工業化住宅における室内温熱環境及び空気環境に関する研究、6)九州地方におけるシックハウスの調査研究、7)東北地域の高断熱高気密戸建住宅における健康性に関する実態調査、8)カビ、ダニ等の衛生問題に関する調査、9)シックハウス対策の経済的側面からの分析、10) シックハウス症候群の有病率の調査、11) 一般住宅における痒み被害と人咬性ダニに関する実態調査
結果と考察
1)国内外の関連研究調査:室内化学物質汚染についての研究成果を把握するため、国内外の文献調査を行った。ホルムアルデヒドについては近年対策を施した住宅が多くなってきたが、VOCsについてはガイドラインを超えるものが多く見受けられた。調査結果をホームページで検索できるようにした。
2)建材から発生するアルデヒド類のパッシブ測定法(ADSEC)の開発:拡散サンプラ―を利用した建材からのアルデヒド類の放散速度を測定する器具、ADSECを開発した。捕集時間、建材測定表面積と捕集量の関係を示した。ADSECとFLEC放散速度の間に、環境条件が一定であれば、高い相関性が認められた。サンプラーの測定値はADSEC容器内の平衡濃度を表していることがわかった。既存のチャンバー法との比較を行い、ADSECによる放散速度測定値の精度を確認した。
3)戸建新築住宅における入居前後による衛生環境調査:高気密・高断熱住宅10軒を対象に室内空気環境、ダニ対応、カビ対応について居住前後でどのように変化するか実態調査を行った。屋外の落下真菌数と屋内の落下真菌数が連動している傾向が認められた。在来工法の住居より高気密・高断熱住宅の方が、室内床面の落下真菌数が多い傾向が認められた。これは給気方法の相違によると推定された。
4)床面からのアルデヒド類放散量が気中濃度に与える影響に関する実測:ホルムアルデヒドの気中濃度・ADSECによる床材からの放散速度・温湿度の測定とともに、アンケートによる生活習慣の調査を行った。全国25軒の木造戸建住宅を対象として測定を行った。温度、絶対湿度が高いほど、ホルムアルデヒド気中濃度、床材からの放散速度が大きい結果を得た。また、放散速度が高いと室内濃度が高い傾向を示した。
5)工業化住宅における室内温熱環境及び空気環境に関する研究:工業化住宅の室内空気質実測調査を行った。すべての新築住宅におけるトルエン濃度は他のVOCsと比較すると高めの傾向を示した。ホルムアルデヒド濃度は、新築住宅及び既存住宅においてガイドライン値100μg/m3を下回る結果となった。また、新築住宅に比べ既存住宅におけるホルムアルデヒド濃度は高めの傾向を示す場合があった。
6)九州地方におけるシックハウスの調査研究:九州地方におけるシックハウスに関する調査研究を行った。調査対象は九州北部(福岡県、佐賀県)の木造戸建住宅6軒とRC造集合住宅1軒とした。2001年3月築の新築住宅以外はホルムアルデヒドの室内気中濃度に関してはほとんどの住宅で厚生労働省のガイドラインである100μg/m3をほぼ下回っており、床材からの放散も少量であった。トルエンの放散は少なかった。
7)東北地域の高断熱高気密戸建住宅における健康性に関する実態調査:ホルムアルデヒドに関しては対象住宅で厚生労働省の指針値である100μg/m3を超えるものはなかったが、TVOCに関しては、竣工後1ヶ月の住宅、居住後1年以上の住宅、建築後20年以上の従来型住宅で厚生労働省の暫定指針値400μg/m3を上回っていた。建築後20年以上の従来型住宅においても、D-リモネンやノナン、デカンなどが比較的高い濃度で検出されており、VOCsの発生している実態が明らかになった。
8)カビ、ダニ等の衛生問題に関する調査:住宅におけるカビ・ダニ汚染の実態を把握することを目的に、住宅内外の浮遊真菌数、付着真菌数、落下真菌数、ダニの個体数と種類の測定調査を行った。浮遊真菌数と乾性落下真菌数の相関は見られたが、浮遊真菌数と湿性落下真菌数の間には、相関は見られなかった。落下真菌数(湿性、乾性とも)とダニの個体数の相関係数は小さかった。
9)シックハウス対策の経済的側面からの分析:生活拠点としての住宅のあり方を多角的に捉えることにより、経済的側面からみたシックハウス対策の有用性を分析した。既存の住宅を有効活用するための中古住宅市場、賃貸住宅市場、リフォーム市場の発達を背景に検討していく必要があることがわかった。
10)シックハウス症候群の有病率の調査: WHOのシックビルディング症候群の定義に従って診断した。さらに、戸建住宅における本症候群の有病率を調査すると共に、発症要因を疫学的、建物の建築構造そして室内空気汚染の観点から検討した。120戸に質問票を配布し、郵送で回収すると共に診察を行った。その結果、シックハウス症候群が女性に多く、新しい住宅で発症例が多いとする従来の報告と一致した。シックハウス症候群の発症原因は現在も明らかにされていないが、室内環境、特に換気不十分が発症に関連していることを再確認した。VOCsやホルムアルデヒドの気中濃度の測定を行ったところ発症した住宅ではTVOC、ホルムアルデヒド濃度が有意に高かった。
11)一般住宅における痒み被害と人咬性ダニに関する実態調査:主に痒み被害が発生した97戸の一般住宅におけるハウスダスト中のダニを検査して、痒み被害と検出ダニとの関連を調査した。痒み被害を訴えている住宅の方が、被害無しの住宅より、ツメダニのみならず、他の主な屋内性ダニ類の検出数が高かった。畳とカーペット、フローリングの間にはツメダニの検出数に10倍以上の顕著な差があった。
結論
本研究は、シックハウス症候群に関してその実態を調査し、問題解決のために有益なデータを収集することを目的とし分担研究に分けて実施した。パッシブ法を用いた床からのホルムアルデヒド放散速度の測定法を確立した。室内のTVOC濃度に関しては新築住宅で高かった。ムク材を用いた木造住宅でTVOCに占める木材からの放散割合が高い例が見られ、TVOC計算法に関する検討が必要なことがわかった。室内環境、特に換気不十分がシックハウスの発症に関連していることを確認した。シックハウス症候群と見られる症状が出た住宅ではTVOC、ホルムアルデヒド濃度が有意に高かった。カビ、ダニに関する衛生調査を行い、畳とカーペット、フローリングの間にはツメダニの検出数に10倍以上の顕著な差があることがわかった。

公開日・更新日

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