粉じん作業における除じん装置の有効性の検討

文献情報

文献番号
201822007A
報告書区分
総括
研究課題名
粉じん作業における除じん装置の有効性の検討
課題番号
H28-労働-一般-007
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
明星 敏彦(産業医科大学 産業生態科学研究所 労働衛生工学)
研究分担者(所属機関)
  • 大藪 貴子(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 筒井 隆夫(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 村田 克(早稲田大学 理工学術院)
  • 名古屋 俊士(早稲田大学 理工学術院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
960,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 有機溶剤中毒予防規則などでは有効な発散源対策があり、かつ作業環境測定結果が第一管理区分であれば局所排気装置がないことも承認されている。しかし、粉じん障害防止規則については有害物の除害装置の原理が異なることから別に有効な発散源対策の有効性を検討する必要がある。
 本研究では、粉じん障害予防規則11条第4項の「移動式の局所排気装置又は別表第2第7項に掲げる特定粉じん発生源に設ける局所排気装置であって、ろ過除じん方式又は電気除じん方式による除じん装置を付設したものにあっては、」排出口は、屋外に設けられなくてもよいことに着目して、この除じん装置の作業現場での性能を評価し、作業環境の現状を把握する。
 さらにろ過除じん方式除じん装置のろ材の捕集性能を実験室で検証する。除じん装置のろ材に応用することで初期捕集性能を推定する。またこのろ材が組みこまれた除じん装置の実際の性能を測定して有効性について検討する。本研究ではこれらの除じん装置の有効性についてのエビデンスを得ることを目的とする。
研究方法
 ろ過除じん方式除じん装置の性能測定を実験室(産業医科大学)において行った。標準試験粉じんである石灰粉を気中に分散し、除じん装置に導入した。除じん装置前後の粉じん濃度をPM2.5サイクロン付粉じん計で計測し、粉じん堆積と通過率の関係を測定した。同時に作業場に持ち込めない粒子径別の濃度を測定可能な電気式減圧インパクタ(ELPI)を用いて通過率を測定した。さらにろ布の断片試料について粒子径別の捕集性能の測定を行った。
 小型の除じん装置について日本粉体工業技術協会が招集しているISO/TC142/WG5国内委員会にオブザーバー参加し情報収集を行った。
結果と考察
1)粒子径別の濃度測定装置であるELPIで連続測定した結果からは、帆布フィルタは粒子径よって捕集効率がかなり異なり、ミクロン粒子(1μm以上の粒子)は通過率は粉じん計の結果と同様であったが、サブミクロン粒子(1μm以下の粒子)では十分に捕集しないことがわかった。PM2.5サイクロン付粉じん計の相当径は1.2μm程度と考えられる。
2)フィルタ接続部の人工的な漏れを速度圧(ダクト内速度の2乗)とろ布の圧力損失の関係から推定することを試み、併せて粉じん計で漏れを直接測定して、両者はよい一致をみた。
3)帆布フィルタと高性能のFFフィルタの断片試料は、清浄状態では通過率はともに高く、違いは明確ではなかった。石灰粉が堆積したフィルタでは除じん装置で示された結果と同様の違いを示した。粉じん負荷がない状態で(織物タイプの)ろ布の性能試験で性能の違いを示すことは難しいと思われる。
4)ろ布断片試料では大粒子で通過速度が速い場合に性能が下がることが示された。
5)溶接ヒュームを中心とした現場の集じん装置で使用されていたろ布断片試料についての捕集性能は高くなかった。
結論
1)通常の帆布フィルタでは初期に10%程度は漏れがあり、作業環境での使用を考えると除じん装置から作業場内への排気は適当でない。
2)ここで使用したFFフィルタのような初期の捕集性能のあるバグフィルタであれば、室内排気は可能で、フィルタ素材についてなんらかの性能保証が必要である。
3)除じん装置の通過率は粉じんの導入とともに低下し、ろ布上に粉じん層(ケーキ層)の形成を待たなくても1%以下になるので、捕集性能の測定(試験粉じん低濃度)と粉じん払落し性能の測定(試験粉じん高濃度)は分離してよいと考える。
4)粒子径1μm以上が主である粉砕や研磨でできた粉じんであれば織布のバグフィルタは有効である。しかし、粒子径1μm以下の粉じんが主である溶接ヒュームや工業用ナノ材料では捕集性能は十分とはいえず、ろ布の粉じん堆積も遅いので屋内排気は勧められない。
5)新しいゴムパッキンの場合は多少の取り付け不具合も吸収するが、ゴムの経年劣化があると漏れが懸念される。
6)バグフィルタの捕集性能が変動することは避けられないので、小型除じん装置の排気口にエアフィルタを取り付けて両者の組み合わせで性能保証(通過率1%以下)することが検討されるべきである。

公開日・更新日

公開日
2019-06-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201822007B
報告書区分
総合
研究課題名
粉じん作業における除じん装置の有効性の検討
課題番号
H28-労働-一般-007
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
明星 敏彦(産業医科大学 産業生態科学研究所 労働衛生工学)
研究分担者(所属機関)
  • 大藪 貴子(産業医科大学 産業生態科学研究所 )
  • 筒井 隆夫(産業医科大学 産業生態科学研究所 )
  • 村田 克(早稲田大学 理工学術院)
  • 名古屋俊士(早稲田大学 理工学術院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
有機溶剤中毒予防規則などでは有効な発散源対策があり、かつ作業環境測定結果が第一管理区分であれば局所排気装置がないことも承認されている。しかし、粉じん障害防止規則については有害物の除害装置の原理が異なることから別に有効な発散源対策の有効性を検討する必要がある。
 本研究では、粉じん障害予防規則11条第4項の「移動式の局所排気装置又は別表第2第7項に掲げる特定粉じん発生源に設ける局所排気装置であって、ろ過除じん方式又は電気除じん方式による除じん装置を付設したものにあっては、」排出口は、屋外に設けられなくてもよいことに着目して、この除じん装置の作業現場での性能を評価し、作業環境の現状を把握する。
 さらにろ過除じん方式除じん装置のろ材の捕集性能を実験室で検証する。除じん装置のろ材に応用することで初期捕集性能を推定する。またこのろ材が組みこまれた除じん装置の実際の性能を測定して有効性について検討する。本研究ではこれらの除じん装置の有効性についてのエビデンスを得ることを目的とする。
研究方法
窯業や溶接の作業場において実際に使用されている小型のろ過除じん方式の除じん装置について、入口・出口の粉じん濃度、作業環境の状況、作業者の曝露状況を測定して、現状を把握した。粉じん濃度はPM2.5サイクロン付光散乱型粉じん計を使用し、連続測定することで、測定点の相互関係を把握した。また環境中の粉じん粒子の成分についても分析した。
除じん装置の仕様など情報収集を行い、ISO規格(TC142WG5)の進行状況の調査を行った。また除じん装置のメーカーや大学にも調査見学を行った。
実験室において小型除じん装置に試験粉体である石灰粉じんを供給し、PM2.5サイクロン付光散乱型粉じん計で入口・出口の粉じん濃度から捕集性能の測定、さらに高性能の測定装置による粒子径別の性能測定を行った。
除じん装置に用いる各種のろ布について、除じん性能評価のため粉じんの粒子径別捕集性能を求めた。
結果と考察
作業環境で使用されている除じん装置の前後でPM2.5サイクロン付粉じん計による粉じん濃度測定では、管理を良好に実施している場合は、平均通過率は1から4%とで良好であった。
帆布フィルタを装着した除じん装置では、初期に粉じん粒子が10%程度漏れており、粉じんの捕集堆積とともに低下し、ろ布上に粉じん層の形成を待たなくても1%以下になる。
粒子径別の濃度測定装置で測定した結果から帆布フィルタでは粒子径別に捕集効率がかなり異なり、ミクロン粒子(1μm以上の粒子)は通過率は粉じん計の結果と同様であったが、サブミクロン粒子(1μm以下の粒子)では十分に捕集しないことがわかった。試作したPM2.5サイクロン付粉じん計の相当径は1.2μm程度と考えられた。
バグフィルタは袋状の布や不織布に粉じんを流通・捕集する構造で、ろ過材そのものの捕集効率は高いとはいえず、堆積時の捕集性能の差を初期に評価することは容易ではない。
結論
安価な帆布フィルタを装着した除じん装置では、初期に粉じん計の測定で1μm程度の粒子が10%程度漏れており、作業者のばく露防止の点からは除じん装置から作業場内への排気は適当でない。石灰粉のような有害性の低い微粉体を予め供給して捕集性能を上げることが勧められる。
粒子径1μm以下の粉じんが主である溶接ヒュームや工業用ナノ材料では捕集性能は十分とはいえず、ろ布の粉じん堆積も遅いので屋内排気は勧められない。
除じん装置の性能確認には、入口・出口でここで使用したサイクロン付粉じん計による濃度測定が有効である。
新しいゴムパッキンの場合は多少の取り付け不具合も吸収するが、ゴムの経年劣化があると漏れが懸念される。バグフィルタ取り付け部の気密の確認が定期的に必要である。
小型除じん装置の捕集性能は粉じん堆積状態で変動するので、屋内排気を行う場合は排気口に中性能以上のエアフィルタを取り付けて両者の組み合わせで性能を担保することが検討されるべきである。

公開日・更新日

公開日
2019-06-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-06-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201822007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小型除じん装置は作業環境で広く使用されているが、性能評価は発生した粉じんを除去する点に主眼が置かれ、流入した総粉じん量に対して流出した粉じん量の比で示されている。しかし、労働者のじん肺予防の観点からは吸入性粉じんなど微細な粉じん粒子の捕集性能の評価が求められる。本研究では、流入粒子中の吸入性粉じんと流出した粉じんの濃度を2台の粉じん計を用いてその比から捕集性能を評価した点が新しい。PM2.5分粒装置付粉じん計は1μm程度の粒子の捕集性能を示すことが他の粒子径別濃度測定装置との関係から示された。
臨床的観点からの成果
該当せず。
ガイドライン等の開発
以下の小型集じん装置のISO/TC142/WG5国内委員会にオブザーバー参加し、議論に加わった。国内委員会は日本粉体工業技術協会の集じん分科会が担当し、平成28年度から現在まで参加した。当該ISO案はPart 1(大型集じん装置)の部分で一部の参加国の反対でPart 2も含めて進んでおらず現在も検討が続いている。しかし、試験粉体の分散方法や粉じん測定方法について本研究の結果を元に意見を述べた。
その他行政的観点からの成果
粉じん障害予防規則にある小型で可搬のろ過除じん方式の除じん装置の性能を粉じん作業時に評価し、現状の問題点を把握した。さらに除じん装置とそのろ材の性能を実験室で検証した。本報告書が「第15回職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」(令和4年1月)に発散抑制措置の柔軟化のための資料に引用。
その他のインパクト
該当なし。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
厚生労働省告示第265号(令和2年7月20日付)隧道建設工事における粉じん測定で本研究の粉じん計用サイクロンが利用。他令和4年1月の検討会での議論資料1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
明星 敏彦, 大藪 貴子, 筒井 隆夫 他
粉じん計に取り付ける小型サイクロン分粒装置の開発と性能評価
産業医科大学雑誌 , 41 (4) , 425-430  (2019)
DOIhttps://doi.org/10.7888/juoeh.41.425
原著論文2
明星 敏彦, 大藪 貴子, 筒井 隆夫 他
小型集じん装置の粉じんばく露低減の有効性
粉体工学会誌 , 57 (5) , 224-232  (2020)

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
2023-05-25

収支報告書

文献番号
201822007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,200,000円
(2)補助金確定額
1,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 726,000円
人件費・謝金 0円
旅費 234,000円
その他 0円
間接経費 240,000円
合計 1,200,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-02-20
更新日
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