ヒト多能性幹細胞試験バッテリーによる化学物質の発達期影響予測法に関する研究

文献情報

文献番号
201428002A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト多能性幹細胞試験バッテリーによる化学物質の発達期影響予測法に関する研究
課題番号
H24-化学-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大迫 誠一郎(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根 秀子(国立環境研究所 環境リスク研究センター)
  • 藤渕 航(京都大学iPS細胞研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト多能性幹細胞の利点は生体内の発生過程を再現できる点であり、化学物質のヒトへの発達毒性試験にヒトES/iPS細胞を用いた分化培養系の有効性が期待されている。しかし、ヒト多能性幹細胞を用いた分化培養系は簡便性向上という点から、遺伝子導入や培養技術など、さらなる開発研究が必要である。本研究では、複数の標的組織細胞の分化影響を簡便にモニタリングし、上記の評価手法に応用できる細胞開発の目的のために、神経系細胞の分化培養に加えて、使用するヒトES/iPS細胞を遺伝子改変でハイスループットイメージング用に加工し、複数のドナー株ならびに系統株を同一線上に配置した曝露試験「ヒト多能性幹細胞試験バッテリー」構築を目的とした。
研究方法
サブテーマ1) ヒト多能性細胞由来神経前駆細胞を用いたニューロスフィアアッセイの最適化に関する検討:ヒト胚性幹細胞(H9細胞)由来神経前駆細胞株でニューロスフィアアッセイ最適化試験を実施した。プレート種、細胞播種密度および培養時間の検討、スフィア再播種数の調整を行った。スフィアの形状定量、MAP2染色による自動画像解析による神経突起伸長を定量化した。また、アッセイの評価のため、ベンツ[a]ピレン(BaP)及び5-アザ-2'-デオキシシチジン(5-Azadc)を培地中に添加した。
サブテーマ2) TALENを用いたTH陽性細胞を検出するEGFPレポーター導入ヒトES細胞株樹立の試み:THのエクソン1直後領域を特異的に切断するTALEN左右側ベクター(mRNA変換)、ドナーDNAとしてTH-pEGFP DNAをヒトES細胞(KhES1)へ遺伝子導入した。G418によるセレクション後10日目に生存しているコロニーをピックアップしてクローン化した。レポーター遺伝子の導入をPCRにより検討した。
サブテーマ3) ヒト多能性幹細胞バッテリー毒性試験フローにおける不足要素に関する研究:近年、毒性化学物質によるエピゲノム状態の変化への影響を解析するシングルセルメチロームによる測定が重要視されているが、ES/iPS細胞研究分野ではまだ技術的に確立されていない。バイサルファイトロスを軽減する手法を設計し、従来、捨てられてしまう核酸配列の再利用に取り組んだ。また、RT-PCRやマイクロアレイ等遺伝子発現データを用いた遺伝子ネットワークを推定から、毒性予測を行うことは従来に比べて予測の高性能化をもたらすことが我々の研究で確かめられてきたが、遺伝子ネットワークの推定には大量の実験データを必要とし、毒性試験システムの大規模化に大きな障壁となっていた。このため、各種細胞毎で得られた実験データが希少であっても、全細胞種では相当なデータ数が得られることを利用してコンセンサスネットワークを生成し、そこから逆に解析したい細胞種を除去することで生じる遺伝子ネットワークへの影響を測定するサブトラクティブネットワークの手法を開発した。
結果と考察
サブテーマ1)ヒト多能性細胞由来神経前駆細胞を用いたニューロスフィアアッセイの最適化に関する検討:hPNCを用いニューロスフィアを形成させ、影響評価の検討にBaP及び5-Azadcを使用、用量反応関係を調べたところ、10日間で多検体も同時に可能なアッセイ条件を見出し、化学物質の影響を定量的に把握することができることがわかった。
サブテーマ2)TALENを用いたTH陽性細胞を検出するEGFPレポーター導入ヒトES細胞株樹立の試み:PCRによるTH遺伝子への編集をチェックしたが、目的のサイズにPCR産物が確認できるものの、陰性対象である野生型KhES1にも同様なバンドが確認されたことから、ゲノム編集は期待通りに起きていないことがわかった。
サブテーマ3)ヒト多能性幹細胞バッテリー毒性試験フローにおける不足要素に関する研究:シングルセルメチローム解析におけるバイサルファイトロス軽減法、希少データによる多種細胞の遺伝子ネットワーク推定法は、次世代の高性能な大規模ヒト幹細胞毒性試験システムを構築するために大変重要な構成要素であり、特に従来の遺伝子ネットワーク解析で課題となっていた実験データ数を軽減可能であることが示唆された。
結論
ハイスループットアッセイに最適化したヒト多能性細胞作成では、今後、更なる導入技術の改善やマーカー遺伝子の変更が必要と考えられたが、短期のニューロスフィアアッセイを確立し、化学物質曝露による評価アッセイへの有用性を提示した。また、シングルセルメチローム解析法のプロトコルの開発で、最も核心となる核酸配列の回収を可能とした。さらに、希少データでもES/iPS細胞を一度に遺伝子ネットワーク推定するサブトラクティブネットワーク手法の有効性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-15
更新日
-

文献情報

文献番号
201428002B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト多能性幹細胞試験バッテリーによる化学物質の発達期影響予測法に関する研究
課題番号
H24-化学-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大迫 誠一郎(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根 秀子(国立環境研究所 環境リスク研究センター)
  • 藤渕 航(京都大学 iPS細胞研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)を利用した発達毒性試験等、安全性試験代替法は早期実現が期待されている。しかしながら、ハイスループット化を睨んだ分化培養系には遺伝子導入や新規培養技術など、さらなる開発が必要である。本研究では、複数の標的組織細胞の分化影響を簡便にモニタリングし、上記の評価手法に応用できる細胞の開発のために、神経系細胞の分化培養に加えて肝細胞分化培養も導入し、使用するヒト多能性幹細胞を遺伝子加工、複数のドナー株ならびに系統株を同一線上に配置した曝露試験「ヒト多能性幹細胞試験バッテリー」構築を目的とした。作出された加工ES細胞株は限られたものとなったが、ハイスループットアッセイに耐えうるいくつかの細胞を樹立することができた。また、将来的にインフォマティクスに使用するための数理工学的検討を多数実施して発達期影響予測法の確立に向けた基盤を確立した。
研究方法
サブテーマ1) ヒトES細胞株へのレポーター遺伝子導入と遺伝子編集による細胞の樹立に関する研究: 多能性幹細胞試験バッテリーの構築のためいくつかの細胞加工を実施した。まず、ダイオキシン等により誘導のかかる薬物代謝酵素であるCyp1a1遺伝子プロモーターでEGFPをドライブさせたコンストラクトをヒトES細胞(KhES1)へ遺伝子導入した。また、Transcription activator-like effector nuclease(TALEN)を用いたゲノム編集でTyrosine hydroxylase(TH)遺伝子へのEGFP挿入を試みた。
サブテーマ2) ハイスループットアッセイに向けたニューロスフィアアッセイの最適化および神経細胞分化マーカー導入ヒトNPCの構築に関する研究: 主にヒト由来神経前駆細胞株(hNPC)を用いハイスループットアッセイに向けたニューロスフィアアッセイを確立するため、hNPC三次元培養後形成されるスフィア培養条件の最適化を行いった。また、hNPCに神経系細胞分化マーカーの導入を試みた。
サブテーマ3) ヒト多能性幹細胞バッテリー毒性試験構築のための情報解析パイプラインに関する研究: ヒト多能性幹細胞バッテリーを実現化する上で、重要となるデータの情報解析パイプラインの構築を行った。
結果と考察
サブテーマ1) ヒトES細胞株へのレポーター遺伝子導入と遺伝子編集による細胞の樹立に関する研究: 樹立されたKhES1CYPEGFPは胚様体の状態でTCDDによりEGFP強度が増し、導入遺伝子も野生型で観察した内因性CYP1A1と類似の分化に連動した挙動を取ることが示された。さらに、肝細胞分化培養系に持ち込んだ際のTCDDによる蛍光強度増加も著しいことがわかった。また、TALENを用いTH遺伝子へのEGFP挿入を試みたが、ゲノム編集は期待通りに起きなかった。
サブテーマ2) ハイスループットアッセイに向けたニューロスフィアアッセイの最適化および神経細胞分化マーカー導入ヒトNPCの構築に関する研究: hNPCを用いて10日間で終了する多検体同時解析可能なアッセイ条件を確立し、BaPと5-Azadcで毒性評価を行ったところ十分な定量的解析ができることが示された。また、分化後の神経細胞をライブイメージング出来るようMap2あるいはTH遺伝子で蛍光タンパク質等をドライブした種々の遺伝子導入をTALENによる遺伝子編集も含めて試みたが、期待される遺伝子導入は確認できなかった。
サブテーマ3) ヒト多能性幹細胞バッテリー毒性試験構築のための情報解析パイプラインに関する研究: 多変量解析によるマーカー遺伝子の抽出、qRT-PCR実験データのバッチノイズ除去、レプリカ交換法10並列によるベイジアンネットワーク推定、サポートベクターマシンによる毒性推定という一連のパイプラインを用いて予測率97%以上の高性能な毒性予測に至る可能性があることが示唆された。
結論
ヒトES細胞にCyp1a1遺伝子によりドライブされるEGFPレポーターをもった安定導入ES細胞の作成に成功した。この細胞はTCDDなどの環境汚染物質のヒト胎児細胞の発生影響をリアルタイムでモニタリングできる可能性をもつ。また、ハイスループットアッセイ最適化のために、hNPCを用いて短期のニューロスフィアアッセイ法を確立し、化学物質曝露実験で有用性を確認した。また、3年間の研究を通じて多能性幹細胞バッテリーシステムからのマルチプロファイリングデータから、ノイズを軽減し、ベイズ統計に基づくネットワーク構造の推定を迅速に行い、毒性物質の晩発影響を97%以上で予測する実用に耐えうるインフォマティクスパイプラインの開発を完成させた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201428002C

収支報告書

文献番号
201428002Z