文献情報
文献番号
201426030A
報告書区分
総括
研究課題名
短鎖および中鎖脂肪酸の腸管免疫修飾作用と安全性評価
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-食品-一般-017
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
長谷 耕二(慶應義塾大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 國澤 純(独立行政法人医薬基盤研究所)
- 飯島英樹(大阪大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、「お腹の調子を整える」効果を謳った特定保健用食品が数多く普及しているが、これらは腸内細菌の発酵能を利用して短鎖脂肪酸など代謝物の産生を促すプレバイオティスクが主体である。短鎖脂肪酸はこれまで生体への有効性が強調されてきた。一方、腸管には多くの免疫担当細胞が存在しており、食品との不適切な免疫学的相互作用は、アレルギーや炎症などの発症を引き起こすことが判明している。つまり、食事性成分や発酵代謝産物には、腸管免疫応答の方向性を左右することで、各種免疫疾患の発症につながる潜在的な危険性が予想される。しかしながら、腸内発酵の推進を目的としたプレバイオティクスと各種免疫疾患との関連については、これまで安全性評価の観点から十分に検証されていない。同様に、体に脂肪がつきにくいことで食用油としての消費が高まっている中鎖脂肪酸についても、そのほとんどが健康への影響が懸念されている飽和脂肪酸であることから、免疫学的安全性を検証する必要がある。そこで本研究では、申請者らがこれまで培った食品による腸管免疫制御機構に関する学術基盤をもとに、炎症アレルギー性疾患との関連から、短鎖・中鎖脂肪酸の安全性について、基礎的・臨床的研究を遂行する。
研究方法
短鎖脂肪酸を含む特殊飼料を用いて、各種短鎖脂肪酸の免疫学的安全性を評価した。短鎖脂肪酸の管腔内濃度を高めた状態で、食物アレルギーモデル、ならびに、炎症性腸疾患モデルにおいて安全性評価を行った。
マウス大腸炎モデルとして、CD45RBhi細胞移入誘発性大腸炎モデルを用いた。病態の指標として体重測定、病理組織学的解析ならびにフローサイトメトリー解析を実施した。
食物アレルギーモデルでは、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)で全身感作後、OVAを頻回経口投与することで、アレルギー性下痢を誘導した。ヒト試料のうち炎症性腸疾患患者(クローン病、潰瘍性大腸炎)および健常者(各々30例)由来の糞便おサンプルは、研究分担者である飯島が採取し、HPLC法により各種有機酸の定量を行った。
マウス大腸炎モデルとして、CD45RBhi細胞移入誘発性大腸炎モデルを用いた。病態の指標として体重測定、病理組織学的解析ならびにフローサイトメトリー解析を実施した。
食物アレルギーモデルでは、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)で全身感作後、OVAを頻回経口投与することで、アレルギー性下痢を誘導した。ヒト試料のうち炎症性腸疾患患者(クローン病、潰瘍性大腸炎)および健常者(各々30例)由来の糞便おサンプルは、研究分担者である飯島が採取し、HPLC法により各種有機酸の定量を行った。
結果と考察
1)炎症性腸疾患モデルにおける各種脂肪酸の影響
炎症性腸疾患モデルにおける短鎖脂肪酸の影響を調べるために、炎症性腸疾患モデルマウスに短鎖脂肪酸を配合した飼料または対照飼料を与え、6週間飼育を行った。酢酸摂取群では病態に変化は認められなかった。プロピオン酸摂取群では大腸炎に伴う体重減少の改善がわずかに認められた。一方、酪酸摂取群では大腸炎に伴う体重減少が有意に観察された。さらに、酪酸摂取群では炎症性細胞の大腸組織への浸潤も減少しており、大腸粘膜組織の肥厚も抑制されていた。以上の結果より、短鎖脂肪酸のうち酪酸は大腸炎に改善に有効であるとの興味深い結果が得られた。酪酸摂取群では大腸における制御性T細胞(以下Treg細胞と略)の増加が観察された。これより、酪酸はTreg細胞を誘導することで腸管の炎症を抑制していると考えられた。
動物実験から得られた知見を実際のヒト疾患において確認するため、健常人および炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎またはクローン病)患者との間で糞便および血液中の短鎖脂肪酸濃度を測定した。興味深いことに、酪酸の濃度は潰瘍性大腸炎およびクローン病患者において、健常人に比べて有意に低下していた。
2)食物アレルギーモデルにおける各種脂肪酸の影響
短鎖脂肪酸の食物アレルギーに対する安全性評価を実施した結果、一部の短鎖脂肪酸摂取群では下痢症状の悪化が観察された。さらに通常食を摂取させたマウスにおいても、下痢症状を示すマウスにおいて短鎖脂肪酸の増加が観察された。本結果より短鎖脂肪酸は食物アレルギーの増悪因子であることが示唆された。短鎖脂肪酸はアレルゲン特異的なIgE産生量や肥満細胞の脱顆粒には影響しないことから、上皮細胞または神経系への作用が想定される。
脂肪がつきにくいことから健康食品として広く流通している中鎖脂肪酸含有食用油の代表であるヤシ油の免疫学的安全性を、長鎖脂肪酸を多く含むパーム油(ω3脂肪酸を含まない)および大豆油(ω3脂肪酸を含む)と比較した。既報の結果と同様に、ヤシ油の摂取は長鎖脂肪酸の摂取に比べて体重の増加を抑制することが判明した。食物アレルギーを誘導したところ、ヤシ油摂取群では、パーム油摂取群に比べて有意にアレルギー性下痢発症が抑制された。中鎖脂肪酸を多く含む油で飼育した際には、ω3長鎖脂肪酸に代わるアレルギー抑制物質としてミード酸が産生されることで免疫学的安全性が担保されていることが判明した。
炎症性腸疾患モデルにおける短鎖脂肪酸の影響を調べるために、炎症性腸疾患モデルマウスに短鎖脂肪酸を配合した飼料または対照飼料を与え、6週間飼育を行った。酢酸摂取群では病態に変化は認められなかった。プロピオン酸摂取群では大腸炎に伴う体重減少の改善がわずかに認められた。一方、酪酸摂取群では大腸炎に伴う体重減少が有意に観察された。さらに、酪酸摂取群では炎症性細胞の大腸組織への浸潤も減少しており、大腸粘膜組織の肥厚も抑制されていた。以上の結果より、短鎖脂肪酸のうち酪酸は大腸炎に改善に有効であるとの興味深い結果が得られた。酪酸摂取群では大腸における制御性T細胞(以下Treg細胞と略)の増加が観察された。これより、酪酸はTreg細胞を誘導することで腸管の炎症を抑制していると考えられた。
動物実験から得られた知見を実際のヒト疾患において確認するため、健常人および炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎またはクローン病)患者との間で糞便および血液中の短鎖脂肪酸濃度を測定した。興味深いことに、酪酸の濃度は潰瘍性大腸炎およびクローン病患者において、健常人に比べて有意に低下していた。
2)食物アレルギーモデルにおける各種脂肪酸の影響
短鎖脂肪酸の食物アレルギーに対する安全性評価を実施した結果、一部の短鎖脂肪酸摂取群では下痢症状の悪化が観察された。さらに通常食を摂取させたマウスにおいても、下痢症状を示すマウスにおいて短鎖脂肪酸の増加が観察された。本結果より短鎖脂肪酸は食物アレルギーの増悪因子であることが示唆された。短鎖脂肪酸はアレルゲン特異的なIgE産生量や肥満細胞の脱顆粒には影響しないことから、上皮細胞または神経系への作用が想定される。
脂肪がつきにくいことから健康食品として広く流通している中鎖脂肪酸含有食用油の代表であるヤシ油の免疫学的安全性を、長鎖脂肪酸を多く含むパーム油(ω3脂肪酸を含まない)および大豆油(ω3脂肪酸を含む)と比較した。既報の結果と同様に、ヤシ油の摂取は長鎖脂肪酸の摂取に比べて体重の増加を抑制することが判明した。食物アレルギーを誘導したところ、ヤシ油摂取群では、パーム油摂取群に比べて有意にアレルギー性下痢発症が抑制された。中鎖脂肪酸を多く含む油で飼育した際には、ω3長鎖脂肪酸に代わるアレルギー抑制物質としてミード酸が産生されることで免疫学的安全性が担保されていることが判明した。
結論
以上の結果から、中鎖・短鎖脂肪酸は腸管における炎症・アレルギー病態に影響を与えることが明らかとなった。食品の免疫学的安全性を考慮した場合には、食品に含有される脂肪酸の質に加えて、腸内発酵を初めとする腸内環境への食品の影響を十分に考慮する必要がある
公開日・更新日
公開日
2015-06-15
更新日
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