生体試料バンクを有効活用した食品および母乳の継続的モニタリング

文献情報

文献番号
201426002A
報告書区分
総括
研究課題名
生体試料バンクを有効活用した食品および母乳の継続的モニタリング
課題番号
H24-食品-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小泉 昭夫(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 原田 浩二(京都大学 医学研究科)
  • 原口 浩一(第一薬科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災では、津波により多くの沿岸部にある化学物質貯蔵庫や取扱施設が破壊され、放射能のみならず化学物質による汚染も引き起こし、多くの国民が重大な懸念を抱いている。また、我が国の食料自給率は低く食料を海外に依存している。特に震災以降東北における食糧生産は大きな減産を余儀なくされ、海外依存はさらに高まった。食の安全を確保するために、国外で不正に使用されていることが多い古典的なPOPsとともに新たなPOPsについて食事を用いモニタリングを行う必要性は、さらに増加した。また特殊な事例として乳児には、母乳を通じた間接的な曝露評価を行うことも必要になる。
我々の研究目的は、京都大学生体試料バンクを有効活用し、東日本大震災以降の食の化学物質汚染への国民の不安に対して科学的に妥当な情報を提供するとともに、引き続きモニタリングを行い、食の安全と安心の基盤を強化することである。
研究方法
1.化学物質による食品汚染を評価するための系統的サンプルの採取、および、2.食事・母乳・血清・尿試料を用いた残留性有機汚染物質のモニタリング を行なった。詳細は結果と考察に記載する。
結果と考察
1.化学物質による食品汚染を評価するための系統的サンプルの採取
尿試料は生物学的モニタリングにより食事試料からのデータを補完する目的で採取した。特に今年度は近年使用が増加しているネオニコチノイド農薬の曝露量の評価を計画し、京都府で、294名分の尿試料、食習慣についての質問紙を収集し、試料バンクに登録した。京都大学で開催された第23回日本環境化学会討論会において、京都大学生体試料バンクについてのフォーラムを行い、バンク利用の問合せが3件あり、1件は提供を実施し、他2件については詳細の検討を行った。また、市民とのフォーラムを通じて協力関係を構築し、課題終了後も継続して各種試料を採取していく。さらに、バンクの試料(尿試料102検体(1990年代~2010年)、陰膳食事試料55検体(2011年)、血清試料120検体(2007~2010年))を他機関の研究者へ提供した。

2.食事・母乳・血清・尿試料を用いた有機汚染物質のモニタリング
これまでに試料バンクに採取済みの食事・母乳・血液・尿試料で、懸念される汚染物質の測定を行った。
ネオニコチノイド農薬4種について、尿試料から摂取量を評価する方法を確立し、成人の随時尿を分析し、1日摂取量を評価した。比較した結果、食品安全委員会が2012年に公表した国民一人当たりの推定摂取量の10%程度であり、一日許容摂取量の1%未満であった。我々の手法では、一般集団で、ネオニコチノイドの曝露量を推定でき、現時点で大きなリスクはないと考えられた。我々の研究により、食品安全委員会が現在用いている曝露評価方法では国民一人当たりの曝露量が推定できないことも明らかになった。リスク評価には、曝露評価は欠くことのできない情報であり、より科学的な曝露評価手法を導入し、正確な曝露情報に基づいたリスク評価を行うことが望まれる。
母乳中の臭素系難燃剤HBCDs、2,4,6-TBP、TBBP-Aの分析を実施した。これらの物質は検出されたが、他国での報告例から大きく外れた値はなかった。
血清中の殺菌剤トリクロサンの分析を実施した。日本と韓国の成人血清で比較し、日本での血清が有意に高値であった。しかしながら、オーストラリアでの報告例と同等と考えられた。
残留性有機フッ素化合物について、近年の食事からの摂取と血清への蓄積量を評価した。1980年代から摂取量は経年的に増加していたが、摂取量は欧州食品安全機関のADIを下回っていた。摂取量の増加傾向にあわせて、血清中濃度も増加が確認された。この残留性有機フッ素化合物について、魚介類摂取と血清中濃度の関連を評価するため、ω3不飽和脂肪酸濃度との相関を評価した。これらは有意な相関を示し、食品のうち、魚介類摂取が主要な曝露源と考えられた。
結論
1.継続的・系統的な試料収集、試料収集のための協力関係の構築、および他機関への試料提供ができた。

2.残留性有機汚染物質の長期動向:食事・母乳・血清・尿試料を用い、古典的POPsに加えて今後汚染が懸念される新たな汚染物質についてもモニタリングを実施した。経年的、継続的に食事を用いた曝露評価や母乳などを用いた生物学的モニタリングが可能となり、長期動向が評価可能となった。古典的POPsの曝露量は減少が確認され、新しく導入されてきた有機フッ素化合物やネオニコチノイド農薬は使用量の増加に合わせた曝露量の変化が認められた。これらの動向から、農薬の導入などの動向、生産動向との関連が明確にされ、注目すべき化学物質の我が国へのフローがわかった。これは今後の継続的サンプリング、モニタリングへの基盤となるデータを与えるものである。

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201426002B
報告書区分
総合
研究課題名
生体試料バンクを有効活用した食品および母乳の継続的モニタリング
課題番号
H24-食品-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小泉 昭夫(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 原田 浩二(京都大学 医学研究科)
  • 原口 浩一(第一薬科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東日本大震災では、津波により多くの沿岸部にある化学物質貯蔵庫や取扱施設が破壊され、放射能のみならず化学物質による汚染も引き起こし、多くの国民が重大な懸念を抱いている。また、我が国の食料自給率は低く食料を海外に依存している。食の安全を確保するために、食事を用いたモニタリングを行う必要性は、さらに増加した。また特殊な事例として乳児には、母乳を通じた間接的な曝露評価を行うことも必要になる。我々の研究目的は、京都大学生体試料バンクを有効活用し、東日本大震災以降の食の化学物質汚染への国民の不安に対して科学的に妥当な情報を提供するとともに、引き続き継続モニタリングを行い、食の安全と安心の基盤を強化することである。
研究方法
1.東日本大震災以降の化学物質による食品汚染を評価するための系統的サンプルの採取:東北地方で陰膳食事試料、母乳試料について採取した。被災地以外でも対照として、母乳試料、血清試料を収集した。食事試料からのデータを補完する目的で、尿試料を収集した。フォーラムを通じて市民との協力関係を構築するほか、第23回日本環境化学会討論会において、京都大学生体試料バンクについてのフォーラムを行った。

2.食事・母乳の残留性有機汚染物質のモニタリング:食事、母乳、尿、血清試料で各種汚染物質を分析し、曝露量を評価した。特に近年使用が増加しているネオニコチノイド農薬の曝露量の評価を実施した。

3.新たなPOPsの汚染源の調査:食事からの摂取量への影響、比較を行うため、残留性有機汚染物質候補である塩素化パラフィンについて、発生源を評価するため、大気輸送モデリングを行った。また残留性有機フッ素化合物について、パーソナルケア製品における残留量を調査し、水系への汚染負荷とその影響を推定した。
結果と考察
 京都大学生体試料バンクへ、陰膳法では福島県で429食日分の検体、京都府において血清、全血試料各312検体、国内3地域において母乳試料196検体、尿試料294検体を収集した。また他機関へ、尿試料102検体、母乳試料30検体、陰膳食事試料85検体、血清試料120検体を試料バンクから提供した。
これまでに試料バンクに採取済みの食事・母乳・血液・尿試料で、懸念される汚染物質の測定を行った。
 ネオニコチノイド農薬4種について、尿試料から摂取量を評価する方法を確立し、成人の随時尿を分析し、1日摂取量を評価した。比較した結果、食品安全委員会が2012年に公表した国民一人当たりの推定摂取量の10%程度であり、一日許容摂取量の1%未満であった。我々の手法では、一般集団で、ネオニコチノイドの曝露量を推定でき、現時点で大きなリスクはないと考えられた。我々の研究により、食品安全委員会が現在用いている曝露評価方法では国民一人当たりの曝露量が推定できないことも明らかになった。リスク評価には、曝露評価は欠くことのできない情報であり、より科学的な曝露評価手法を導入し、正確な曝露情報に基づいたリスク評価を行うことが望まれる。
 既存の残留性有機汚染物質、残留性農薬ジコホール、エンドスルファン、天然ハロゲン化物、臭素系難燃剤、代謝物、水酸化PCB、ハロゲン化フェノール、有機フッ素化合物の新規汚染物質を分析し、地域間での差、経年的な動向を把握し、陰膳試料、母乳試料、血清試料に検出されたが、これらの摂取量はADIが定まっているものについては下回っていた。ADIが定まっていない物質でも、他国での報告例から大きく外れた値はなかった。
 短鎖塩素化パラフィンについて、大気輸送モデリングにより中国からの流入のほか、日本国内にも発生源があることを示した。また有機フッ素化合物が生活用品に非意図的に混入していることを示し、淀川水系の河川水45地点の分析から、下水処理場を通じた排出量は淀川全体では237 g/dayとなり、食料品製造業統計との関連が示唆され今後食品の汚染の評価が必要と考えられた。
結論
1.継続的・系統的な試料収集、試料収集のための協力関係の構築、および他機関への試料提供ができた。

2.残留性有機汚染物質の長期動向:食事・母乳・血清・尿試料を用い、古典的POPsに加えて今後汚染が懸念される新たな汚染物質についてもモニタリングを実施した。経年的、継続的に食事を用いた曝露評価や母乳などを用いた生物学的モニタリングが可能となり、長期動向が評価可能となった。古典的POPsの曝露量は減少が確認され、新しく導入されてきた有機フッ素化合物やネオニコチノイド農薬は使用量の増加に合わせた曝露量の変化が認められた。これらの動向から、農薬の導入などの動向、生産動向との関連が明確にされ、注目すべき化学物質の我が国へのフローがわかった。これは今後の継続的サンプリング、モニタリングへの基盤となるデータを与えるものである。

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201426002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
生体試料バンクは国際的に極めてユニークであり、長期曝露傾向を再構築することで、汚染動向のみならず汚染源の推定にも成功してきた。既存の残留性有機汚染物質のみならず、東日本大震災という稀有の災害においてもサンプルを採取し、汚染の実態を明らかにした。本研究で試料の系統的な収集を行い、研究終了後も単に環境汚染のみならず、自然災害においても汚染の予測や解明など有用な生物資源を提供可能となる。
臨床的観点からの成果
本研究課題は臨床研究ではない。
ガイドライン等の開発
なし。
その他行政的観点からの成果
食事からの被ばく評価を含む成果が、WHO報告書、UNSCEAR報告書に引用された。
その他のインパクト
2012/11/27 読売新聞「川内村被曝量「問題なし」」、2013/11/22 毎日新聞「福島第1原発事故 川内・相馬・南相馬、被ばくの99%が外部」、2014/2/9 福島民友・福島民報「京都大の川内村民被ばく調査」、2014/7/16 毎日新聞・朝日新聞「放射性粉じん50キロ先にも」。
また、発表論文(内容:福島県の避難区域を除く地域の現在と将来の被ばく線量率でのがんリスクは低い)について記者レクを行い、以下に掲載された。2014/2/25朝日・産経・日本経済・毎日・読売・京都新聞、他。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
34件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
48件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fujii Y, Harada KH, Koizumi A.
Analysis of perfluoroalkyl carboxylic acids in composite dietary samples by gas chromatography/mass spectrometry with electron capture negative ionization
Environ Sci Technol. , 46 (20) , 11235-11242  (2012)
10.1021/es302536g
原著論文2
Fujii Y, Harada KH, Koizumi A.
Occurrence of perfluorinated carboxylic acids (PFCAs) in personal care products and compounding agents
Chemosphere. , 93 (3) , 538-544  (2013)
10.1016/j.chemosphere.2013.06.049
原著論文3
Harada KH, Fujii Y, Koizumi A, et al.
Dietary Intake of Radiocesium in Adult Residents in Fukushima Prefecture and Neighboring Regions after the Fukushima Nuclear Power Plant Accident: 24-h Food-Duplicate Survey in December 2011
Environ Sci Technol. , 47 (6) , 2520-2526  (2013)
10.1021/es304128t
原著論文4
Fujii Y,Harada KH, Koizumi A, Haraguchi K, et al.
Temporal trend and age-dependent serum concentration of phenolic organohalogen contaminants in Japanese men during 1989--2010
Environ. Poll. , 185 , 228-233  (2014)
10.1016/j.envpol.2013.11.002
原著論文5
Fujii Y,Harada KH, Koizumi A, Haraguchi K, et al.
Dietary exposure to phenolic and methoxylated organohalogen contaminants in relation to their concentrations in breast milk and serum in Japan
Environ. Int. , 63 (1) , 19-25  (2014)
10.1016/j.envint.2013.10.016
原著論文6
Fujii Y, Harada KH, Koizumi A, et al.
Toxicokinetics of perfluoroalkyl carboxylates with different carbon chain lengths in mice and humans
J Occup Health. , 57 (1) , 1-12  (2015)
10.1539/joh.14-0136-OA
原著論文7
Zhao C, Harada KH, Koizumi A, et al.
Pentafluorobenzyl esterification of haloacetic acids in tap water for simple and sensitive analysis by gas chromatography/mass spectrometry with negative chemical ionization
Chemosphere. , 119 , 711-718  (2015)
10.1016/j.chemosphere.2014.07.048
原著論文8
Harada KH, Tanaka K, Sakamoto H, et al.
Biological Monitoring of Human Exposure to Neonicotinoids Using Urine Samples, and Neonicotinoid Excretion Kinetics.
PLoS One , 11 , e0146335-  (2016)
10.1371/journal.pone.0146335
原著論文9
Ueyama J, Harada KH, Koizumi A, et al.
Temporal Levels of Urinary Neonicotinoid and Dialkylphosphate Concentrations in Japanese Women Between 1994 and 2011.
Environ Sci Technol , 49 (24) , 14522-14528  (2015)
http://dx.doi.org/10.1021/acs.est.5b03062
原著論文10
Fujii Y, Harada KH, Haraguchi K, Koizumi A.
Long-term trends in dietary intake of perfluoroalkyl carboxylic acids in relation to their serum concentration in two regions in Japan from 1979 to 2011.
Chemosphere , 176 , 165-174  (2017)
doi: 10.1016/j.chemosphere.2017.02.073
原著論文11
Cao Y, Harada KH, Hitomi T, Niisoe T, Wang P, Shi Y, Yang HR, Takasuga T, Koizumi A.
Lactational exposure to short-chain chlorinated paraffins in China, Korea, and Japan.
Chemosphere , 173 , 43-48  (2017)
doi: 10.1016/j.chemosphere.2016.12.078
原著論文12
Haraguchi K, Ito Y, Takagi M, Fujii Y, Harada KH, Koizumi A.
Levels, profiles and dietary sources of hydroxylated PCBs and hydroxylated and methoxylated PBDEs in Japanese women serum samples
Environ Int , 97 , 155-162  (2016)
doi: 10.1016/j.envint.2016.08.022.
原著論文13
Fujii Y, Kato Y, Masuda N, Harada KH, Koizumi A, Haraguchi K.
Contamination trends and factors affecting the transfer of hexabromocyclododecane diastereomers, tetrabromobisphenol A, and 2,4,6-tribromophenol to breast milk in Japan
Environmental Pollution , 237 , 936-943  (2018)
doi: 10.1016/j.envpol.2018.03.015

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
2018-07-06

収支報告書

文献番号
201426002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,800,000円
(2)補助金確定額
6,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 281,082円
人件費・謝金 4,588,504円
旅費 42,060円
その他 319,354円
間接経費 1,569,000円
合計 6,800,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-29
更新日
-