神経再生性人工細胞外マトリクスを用いた神経疾患治療法の検討

文献情報

文献番号
201419090A
報告書区分
総括
研究課題名
神経再生性人工細胞外マトリクスを用いた神経疾患治療法の検討
課題番号
H24-神経・筋-若手-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
柿木 佐知朗(独立行政法人国立循環器病研究センター 生体工学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会の急速な進展により、パーキンソン病などの内因性神経疾患や糖尿病・脳卒中による神経変性疾患などの外因性神経疾患は増加傾向にある。これらに対する治療法として、神経幹細胞の移植や末梢神経の再生などの組織再生医工学的なアプローチが注目されている。これらを達成するためには、内・外因性神経疾患における神経再生に特化した細胞外環境を構築できる、生体安全性に優れた人工マテリアルの開発が求められる。
これまでに我々は、神経再生医療への応用を志向した神経再生性人工細胞外マトリクス(人工タンパク質)の生合成を試みてきた。この人工細胞外マトリクスは、エラスチン骨格の繰り返し配列((VPGIG)n)(Yamaoka T. et al., Biomacromolecules 4(2003)1680) とラミニン-I由来配列(AG73)(Nomizu M. et al., J. Biol. Chem. 273(1998)32491)を組み合わせた単純な構造であり、エラスチン配列に特徴的な温度応答性とAG73の優れた神経再生促進性を兼備している。本研究は、この人工細胞外マトリクスの内・外因性神経疾患治療への応用の可能性を模索することを目的として、平成24年度に開始した。
 既有の人工タンパク質(Histag-RKRLQVQLSIRT-GRL-(VPGIG)30-VPLE;VP-AG)が、in vivoにおいて想定していたほどの神経再生性を示さなかったことから、前年度より新たにエラスチン骨格にラミニン由来IKVAV配列を組み込んだ人工タンパク質のベクター作製に着手した。本年度は、その発現用ベクターを用いた大量発現系を構築し、ポリ乳酸/人工タンパク質混合配向ファイバーの作製とその機能評価を目的とする。
研究方法
新規人工細胞外マトリクス(IKVAV-(VPGIG)60) (IK-VP)の発現用大腸菌株を作製し、Overnight ExpressTM Autoinduction Systemを用いて30℃でIK-VPを発現誘導した。His-tagアフィニティーカラムと透析で精製した。
 ポリL-乳酸(Mw=106000)とIK-VPを質量比1:1で、最終濃度がそれぞれ10%となるように1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、円板型ターゲットを用いたエレクトロスピニング法で、ファイバーの配向が揃う条件を検討した。ポリL-乳酸/IK-VP混合配向ファイバーをリン酸緩衝溶液中に浸漬し、24時間後に走査型電子顕微鏡でファイバーの安定性を観察した。さらに、ポリL-乳酸/IK-VP混合配向ファイバー上にDRGニューロンを播種し、Neurofilamentを免疫染色して突起の伸長を評価した。
結果と考察
 IK-VPのアミノ酸配列をコードした発現用ベクターの作製と、それによって形質転換された大腸菌株(RosettaTM(DE3)pLysS)を得た。さらに、その大量発現系と精製条件を最適化し、約120mg/1L培養の高純度IK-VPを生合成することができた。
 得られた高純度IK-VPとポリL-乳酸の混合溶液を1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールで調製し、様々な条件(ターゲット回転数、電位差、ニードル-ターゲット間距離、溶液濃度など)でエレクトロスピニングしてファイバーの配向化を検討した。その結果、ターゲット回転速度1300rpm、印加電圧±6.0kV、ニードル-ターゲット間距離15cmの条件で配向の揃ったファイバーを作製できた。IK-VPとポリL-乳酸との混合マイクロファイバーを37℃のPBSに24時間浸漬させて、その安定性を評価したところ、形状は変化せず安定に保持されていた。
 IK-VPとポリL-乳酸との混合配向性マイクロファイバー上でラットDRGニューロンを72時間培養したところ、接着数が増加し、ニューロフィラメント陽性の長い軸索がファイバーの配向に沿って伸長している様子が見られた。
結論
本年度は、昨年度に得たエラスチン様繰り返し骨格配列((VPGIG)60;VP)へのラミニン由来神経再生性IKVAV配列の導入とその大量発現系の確立、さらにそれら人工タンパク質とポリL-乳酸の配向型混合マイクロファイバーの作製とラットDRGニューロンの接着および軸索伸長性をin vitroで評価した。
 IK-VPの大量発現系を確立でき、その高い突起伸長活性が認められたことから、IK-VPが神経再生に特化した人工細胞外マトリクスとして、細胞移植補助材や末梢神経再生チューブ基材などに利用できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-16
更新日
-

文献情報

文献番号
201419090B
報告書区分
総合
研究課題名
神経再生性人工細胞外マトリクスを用いた神経疾患治療法の検討
課題番号
H24-神経・筋-若手-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
柿木 佐知朗(独立行政法人国立循環器病研究センター 生体工学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
iPS細胞などより作製される神経幹細胞の、これら内因性・外因性疾患の治療への応用に期待が寄せられている。幹細胞移植療法や組織工学的治療の臨床応用を実現するためには、移植した幹細胞の生着や分化の制御、生体組織再生に最適な細胞外環境の構築が重要である。
我々は、神経再生医療への応用を志向した神経再生性人工細胞外マトリクスの生合成を試みてきた。この人工細胞外マトリクス(AG-VP)は、エラスチン骨格の繰り返し配列((VPGIG)n)(Yamaoka T. et al., Biomacromolecules 4(2003)) とラミニン-I由来配列(AG73)(Nomizu M. et al., J. Biol. Chem. 273(1998))組み合わせたもので、温度凝集性と神経突起伸長活性を兼備している。本研究では平成24年度より、このAG-VPの内・外因性神経疾患治療への応用の可能性を模索することを目的として遂行した。初年度と次年度は、AG-VPとポリL-乳酸との混合ファイバーでなる神経誘導チューブを作製し、その生理活性を評価した。その結果、in vivoにおける神経再生性がin vitroの結果からの想定よりも遥かに乏しかったため、最終年度は、エラスチン骨格にラミニン由来IKVAV配列を組み込んだ人工タンパク質の発現系の確立と、ポリL-乳酸との混合配向ファイバーの作製およびその機能評価に取り組んだ。
研究方法
まず、AG-VPを様々な条件で大腸菌から発現誘導し、その大量発現系を最適化した。高純度のAG-VPとポリL-乳酸(Mw=106000)を種々の組成比で、最終濃度が20w/v%となるように1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールで混合溶液を作製した。それら溶液を用いて、エレクトロスピニング法でマイクロファイバー不織布を作製した。ポリL-乳酸のみ、およびAG73ペプチドを混合したマイクロファイバーも同様に作製し、そのリン酸緩衝溶液浸漬時の安定性、PC12細胞の接着性および突起伸長を比較検討した。さらに、内層にポリL-乳酸/AG-VP混合、中層にポリL-乳酸、外層にはポリL-乳酸にポリエチレングリコールを混合したそれぞれマイクロファイバーでなる三層構造の神経誘導チューブをエレクトロスピニング法で作製し、ウサギの脛骨神経欠損(2cm)に埋入して2および3ヶ月後に神経再生の程度を電気生理学的に評価した。
 さらに、新たな人工細胞外マトリクスとして、エラスチン骨格にラミニン由来IKVAV配列を組み込んだIKVAV-(VPGIG)60 (IK-VP)の発現クローンの作製と、大量発現系の最適化を上述と同様の方法で検討した。また、ポリL-乳酸とIK-VPとの配向性混合マイクロファイバーを作製し、その安定性とDRGニューロンの接着および突起伸長について評価した。
結果と考察
AG-VPの発現条件を最適化することで、約50mg/1L培養の大量発現系を確立できた。エレクトロスピニング法で作製したAG-VPとポリL-乳酸との混合マイクロファイバーは、リン酸緩衝溶液中で長期間安定に形状を保持し、ポリL-乳酸のみ、もしくはAG73ペプチドを混合したファイバーと比較してPC12細胞の接着性および突起伸長を有意に向上させた。しかし、AG-VP/ポリL-乳酸混合マイクロファイバーを内層とする神経誘導管をウサギ脛骨神経欠損(2cm)に移植したところ、2および3カ月後に神経の再生が僅かに促進されたのみで、期待していた効果は得られなかった。そこで、タンパク質1分子当りの活性配列を6つに増やした、新たなIK-VPの大腸菌発現系を設計し、約120mg/1L培養の大量発現系を確立した。同じくエレクトロスピニング法で、配向の揃ったIK-VPとポリL-乳酸の混合マイクロファイバーを作製することができた。IK-VPとポリL-乳酸の混合マイクロファイバーも、生理的な条件下で溶解せずに形状を長期間保持できた。また、IK-VPとポリL-乳酸の混合マイクロファイバー上でラットDRGニューロンの接着性および軸索伸長が強く促進され、かつ軸索がファイバーの配向に沿って一方向に伸長することを明らかとした。これらの結果から、IK-VPとポリL-乳酸の混合配向性マイクロファイバーは、末梢神経再生誘導管の基材として有用と期待される。
結論
高い突起伸長活性を持つIK-VPの大量発現系を確立できたことから、IK-VPが神経再生に特化した人工細胞外マトリクスとして、細胞移植補助材や末梢神経再生チューブ基材などに利用できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419090C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究課題において、より高い神経再生性を持つ人工細胞外マトリクスの開発が必要であることが明確となったため、エラスチン様骨格1分子に6つの活性配列を挿入した新たな人工細胞外マトリクスの合成を進め、それに成功している。この人工細胞外マトリクスの、ポリ乳酸のゼノフリー細胞機能化分子として有用性を、培養細胞を用いた評価で検証している。
臨床的観点からの成果
特段の成果はまだ挙がっていないものの、新たに生合成した人工細胞外マトリクスをポリ乳酸へ混合することで、簡便でかつ安定に神経再生性を導入できる可能性を示唆する結果をin vitroの評価で得ている。臨床的な観点からは、現在用いられている動物由来コラーゲンなどに置き換わりうる、ゼノフリーな高機能人工細胞外マトリクスとして有効であることが期待できる。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
該当なし。
その他のインパクト
該当なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
柿木佐知朗、山田賢、平野義明、山岡哲二、ラミニン由来IKVAV配列を持つエラスチン様人工タンパク質の混合電界紡糸によるポリ乳酸マイクロファイバーの生理的機能化、第53回日本人工臓器学会
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
該当なし
詳細情報
分類:

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419090Z