成人先天性心疾患の診療体系の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201412022A
報告書区分
総括
研究課題名
成人先天性心疾患の診療体系の確立に関する研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
白石 公(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器部)
研究分担者(所属機関)
  • 市川 肇(国立循環器病研究センター・小児心臓外科)
  • 安田 聡(国立循環器病研究センター・心臓血管内科)
  • 森崎 隆幸(国立循環器病研究センター・分子生物学部)
  • 中西 宣文(国立循環器病研究センター・肺高血圧先端医療学研究部)
  • 大内 秀雄(国立循環器病研究センター・小児循環器部)
  • 池田 智明(三重大学医学部・産婦人科)
  • 中西 敏雄(東京女子医科大学・循環器小児科)
  • 丹羽 公一郎(聖路加国際病院・心血管センター・循環器内科)
  • 賀藤 均(国立成育医療研究センター・病院長)
  • 八尾 厚史(東京大学医学部・保健健康推進本部)
  • 赤木 禎治(岡山大学付属病院・循環器疾患治療部)
  • 市田 蕗子(富山大学付属病院・小児循環器内科)
  • 松井三枝(富山大学大学院医学薬学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療技術のめざましい進歩により、先天性心疾患患者の95%以上が小児期に救命され、90%以上の患者が成人期に到達するようになった。現在日本には約40万人以上の成人患者が存在し、今後も年間約1万人の割合で増加すると予想されている。しかしながら、患者の多くは疾患特有の遺残症や続発症により、成人期になってから不整脈や心不全などの症状が新たに出現したり、術後遠隔期に再手術が必要となることも少なくない。さらに年齢を重ねるに伴って高血圧、肥満、糖尿病などの生活習慣病のリスクが加わる。また女性では、妊娠や出産に際して心機能が悪化することが懸念される。本研究では、患者数が増加の一途をたどる成人先天性心疾患の診療体制を全国的に提案するとともに、患者が安心して診療を受ける体制を1日も早く確立し、その生命予後と生活の質の向上させることを目的とする。
研究方法
1) 循環器内科医の参加促進(ACHDネットワークの構築)
循環器内科医が主体である欧米諸国と異なり、日本では成人先天性疾患診療に参加している循環器内科医の数が極めて少ない。小児科医から内科医への診療移行が効率よく行われていないことも理由の一つである。そこで、循環器内科医、とくに若手医師の参加を進めるために、循環器内科医による「ACHDネットワーク」を立ち上げた。
2) 集学的診療グループの形成
成人期に達した先天性心疾患患者の抱える問題は、血行動態の異常にとどまらず、生活習慣病の発症 (肥満、高血圧、糖尿病、動脈硬化)、悪性疾患、脳血管/脳神経疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、肝疾患、腎泌尿器疾患、内分泌疾患、精神心理的問題、社会経済的問題、女性での妊娠出産の問題など、多岐にわたる。したがって、小児循環器医や循環器内科医、心臓血管外科医のみならず、各分野の内科専門医、外科専門医、産婦人科医、麻酔科医、精神科医、専門看護師、心理療法士、専門超音波技師、ソーシャルワーカー他による専門チームによる医療体制が必要となる。
3) 専門医制度の確立に向けた対策
診療体制の確立には、循環器内科医の参加を促すとともに、そのインセンティブを高めるために、成人先天性心疾患の認定医もしくは専門医の制度が必要になる。医師の教育システムの確立が必要である。
4) 患者の社会保障の充実に向けた活動
中等症および重症の先天性心疾患患者では、成人期以降も新たに出現する心不全や不整脈に対する内服、経過観察のためのカテーテル検査、CTやMRなどの画像検査、再手術などの高額医療の対象になる可能性が高い。しかしながら系統的な医療費補助制度はこれまでになく、難治性疾患の対象にも入っていなかった。社会的な対策が必要である。
結果と考察
1) 循環器内科医の参加促進(ACHDネットワークの構築)
2015年4月現在で全国に33の施設が参加し、全国各地域で基幹施設となって診療体制を構築しつつある。今後はこれらの施設が地域の診療体制の中核となり、地域の医療状況に応じた診療体制、移行医療を計画実施する予定である。
2) 集学的診療グループの形成
特定の循環器内科医もしくは小児循環器医が専任リーダーとなり、成人先天性診療に熱意のある各分野の医師が併任する形でグループを形成し、実際の患者の診療にあたることを提言している。
3) 専門医制度の確立に向けた対策
アメリカでは、循環器内科医および小児循環器医専門医の資格を得た後、2年間の成人先天性心疾患専門コースを修練して専門医試験を受ける形で専門医教育制度が確立し、2015年より専門医試験が開始される。日本でも近い将来に専門施設の認定と専門医制度の確立が必要になるので、現在研究班と各学会の共同作業で準備を進めている。
4) 患者の社会保障の充実に向けた活動
成人先天性心疾患患者のうち、繰り返す検査や手術や高額治療が必要な症例では、難病指定が受けられ、少しでも患者の負担が少ない状態で適切な治療が受けられるようにする努力を行っている。
結論
成人先天性心疾患の診療の確立には、1) 成人先天性心疾患診療に循環器内科医が参加することを促進する、2) 多科多職種から構成される成人先天性心疾患専門施設を全国に確立する、3) 成人先天性心疾患の専門医制度を確立する、4) 都心部や地方、大学病院やこども病院など地域の医療状況により診療体制を考慮する、5) 小児循環器医は患者が思春期になる頃に循環器内科や専門施設への紹介やおよび移行診療を進める。一方で、遺残症が問題となる複雑先天性心疾患の術後患者では、成人期以降も小児循環器医が診療に関与して循環器内科医との共同診療を行う、6) 診療体制実現のためには、厚生労働省の指導のもと、各地域の循環器医療の中心となる大学病院教授の強いリーダーシップの協力を得て行う必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
総括研究報告書
総括研究報告書
総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
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分担研究報告書
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分担研究報告書
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分担研究報告書
分担研究報告書
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分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201412022B
報告書区分
総合
研究課題名
成人先天性心疾患の診療体系の確立に関する研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
白石 公(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器部)
研究分担者(所属機関)
  • 市川 肇(国立循環器病研究センター・小児心臓外科)
  • 安田 聡(国立循環器病研究センター・心臓血管内科)
  • 森崎隆幸(国立循環器病研究センター・分子生物学部)
  • 中西宣文(国立循環器病研究センター・肺高血圧先端医療学研究部)
  • 大内秀雄(国立循環器病研究センター・小児循環器部)
  • 池田智明(三重大学医学部・産婦人科)
  • 中西敏雄(東京女子医科大学・循環器小児科)
  • 丹羽公一郎(聖路加国際病院・心血管センター・循環器内科)
  • 賀藤 均(国立成育医療研究センター・病院長)
  • 八尾厚史(東京大学医学部・保健健康推進本部)
  • 赤木禎治(岡山大学付属病院・循環器疾患治療部)
  • 市田蕗子(富山大学付属病院・小児循環器内科)
  • 松井三枝(富山大学大学院医学薬学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性心疾患患者の多くは、複雑な血行動態のために成人期以降も主に小児科医が診療を続けてきたが、患者数の増加と成人特有の諸問題のため、小児科医が診療することは限界に達している。これらの患者に心血管イベントが発生した際、年齢の関係から小児専門施設には入院できない、また循環器内科では診療を引き受けてもらえないという理由から、患者が困惑するケースが全国で多発している。この状況を改善するには、成人先天性心疾患を専門に扱う施設を全国に早急に確立する必要がある。本研究では、今後患者数が増加の一途をたどる成人先天性心疾患の診療体制を全国的に確立するとともに、患者が安心して診療を受ける体制を1日も早く確立し、その生命予後と生活の質の向上させることを目的とする。
研究方法
成人先天性心疾患の診療体制を国内で確立するために、研究班では主に以下の点に注目して研究事業を進めてきた。
1) 循環器内科医の参加促進:
成人先天性疾患診療に参加している循環器内科医の数は極めて少ない。循環器内科医、とくに若手医師の参加を進めるために、循環器内科医による「ACHDネットワーク」が立ち上げられた。
2) 集学的診療グループの形成:
成人期に達した先天性心疾患患者の抱える問題は、血行動態異常 にとどまらず、生活習慣病の発症、悪性疾患、全身臓器の異常、精神心理的問題、社会経済的問題、女性での妊娠出産の問題など多岐にわたる。そこで基幹施設において、集学的な診療グループを立ち上げる必要がある。
3) 教育啓蒙活動:
日本循環器学会に成人先天性心疾患部会を設立し、循環器内科医への啓蒙活動を行っている。日本循環器学会学術集会でのセミナー、プレナリーやシンポジウムの提案、全国の地方会での教育講演などを提案している。
4) 専門医制度の確立に向けた対策:
診療体制の確立には、循環器内科医の参加を促すとともに、そのインセンティブを高めるために、成人先天性心疾患の認定医もしくは専門医の制度が必要になる。欧米のシステムを参照して、専門医制度を提案している。
5) 患者の社会保障の充実に向けた活動;
成人先天性心疾患患者には、系統的な医療費補助制度はこれまでになく、難治性疾患の対象にも入っていなかった。これらを解決する働きかけを行っている。
6) 診療移行の必要性:
日本の小児科医は、患者が成人期に達しても、内科医にバトンタッチすること(移行医療)を多くの場合行ってこなかった。この事態を解決すべく、研究班では移行医療に関する提言を行っている。
7) 実現のためのリーダーシップの必要性:
成人先天性心疾患の診療体制を円滑に実現するには、各地域の循環器内科診療体制を担う大学病院教授による強いリーダーシップにより、各地域に適した診療体制および教育体制を構築する必要がある。
結果と考察
成人先天性心疾患患者の診療には、多科多職種から構成される集学的グループを形成し、患者を多方面から支援する必要がある。日本では特に循環器内科医の診療参加が乏しく、また小児科医から内科医の診療移行が円滑でない。その点を改善するため、循環器内科医による全国規模のACHDネットワークを立ち上げ、内科医の参加を促すとともに、小児科と内科の連携体制の構築を提案している。現在までに全国33施設が参加し、同時に患者の登録システムも運用開始している。また若手医師、看護師、検査技師への様々な教育機会を作り、成人先天性心疾患診療の必要性を訴えてきている。さらに循環器内科医の参加を促進し、小児科医との診療移行を円滑に行うことを目的に、日本循環器学会学術委員会に成人先天性心疾患部会を設定し、議論を積み重ねて様々な対策案を打ち出している。学会の地方会における教育講演も開始されるようになった。さらに将来に成人先天性心疾患診療科が独立することを目指して、欧米のシステムを参考に専門医制度の具体案の作成を進めている。また患複雑先天性心疾患の現状調査として、フォンタン術後患者、先天性心疾患合併妊娠出産の調査を開始した。最後に、患者の医療支援体制の改築を目指して、特定の難治性成人先天性心疾患を難病指定されるようにするため、さまざまな資料提供と提案を行ってきた。その結果、成人先天性心疾患の一部は難治疾患として認可されようとしている。
結論
本研究班では、以上のような成人先天性心疾患診療体制確立のための調査研究、提案提言、学会との共同事業を行ってきた。今後も継続的にこれらの事業を行う必要性があるとともに、今回の研究事業を通して感じられたことは、このような成人先天性心疾患の診療体制を円滑に実現するには、厚生労働省の主導のもと、実際に各地域の循環器内科診療体制を担う大学病院教授による強いリーダーシップにより、各地域に適した診療体制および教育体制を構築する必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201412022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
成人先天性心疾患の診療体制の確立に向けた臨床研究に関して、診療実態調査、各種アンケート調査の結果を学会で発表し論文にまとめた。また総論や解説的な論文を多数発刊した。日本循環器学会でシンポジウムやジョイントセッション、教育セッションなどを多数新設して、循環器内科医の教育啓蒙に努力した。また成人先生心疾患の特徴的な病態であるアイゼンメンガー症候群、フォンタン手術後、成人先天性心疾患患者の妊娠および出産などについてデータを集積し、学会発表および論文発表を行った。
臨床的観点からの成果
多数の若手の循環器内科医に向けた教育啓蒙活動を行うことができた。その結果、教育セミナーや学会セッションはどこも満席になる程、成人先天性心疾患の診療に対する機運が循環器内科医にも高まってきたと言える。また患者会とも連携し、患者レジストリー制度の確立み向けた努力を行うとともに、難病指定に向けた努力を行った結果、平成27年度中に一部の成人先天性心疾患が難病に指定される見込みである。
ガイドライン等の開発
平成26年3月末に研究班により「成人先天性心疾患診療体制の確立に向けた提言」を作成した。その中で、基幹施設認定の問題、患者登録制度、専門医制度、教育啓蒙活動、移行医療、患者の社会経済的問題、遺伝カウンセリングの問題、看護体制の問題、患者の社会心理的問題、妊娠出産の問題などについて提言をまとめた。
その他行政的観点からの成果
小児慢性疾患研究事業が無効になる18歳から20歳以降は、多くの成人先天性心疾患患者の医療補助がなくなる。成人期以降に、再カテーテル検査治療、再手術、心不全治療、不整脈治療など、高額医療費を必要とする機会が増えてくるにもかかわらず、これまで医療補助制度がなかった。日本成人先天性心疾患学会と研究班が主体となり、成人先天性心疾患の難病指定に向けた努力を行った結果、平成27年度中に一部の成人先天性心疾患が難病に指定される見込みである。
その他のインパクト
平成27年4月19日の読売新聞に日本医学会総会の特集記事が掲載され、その中で、小児期特有の疾患の成人期への「移行医療」の問題が取り上げられ、白石が発表した「成人先天性心疾患診療体制の確立」が取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
17件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
成人先天性心疾患診療体系の確立に関する提言
その他成果(普及・啓発活動)
5件
成人先天性心疾患セミナー、日本循環器学会でのシンポジウム、プレナリーセミナー、合同シンポジウムなど

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
落合亮太、丹羽公一郎、白石 公 et al.
成人先天性心疾患対策委員会参加施設における診療実績.
日本成人先天性心疾患学会雑誌 , 3 (1) , 25-34  (2014)
原著論文2
Ochiai R, Kato H, Akiyama N, et al.
Nationwide Survey of the Transfer of Adults With Congenital Heart Disease From Pediatric Cardiology Departments to Adult Congenital Heart Disease Centers in Japan.
Circulation Journal , 80 (5) , 1242-1250  (2016)
doi: 10.1253/circj.CJ-15-0937.

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201412022Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,800,000円
(2)補助金確定額
7,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,925,984円
人件費・謝金 290,937円
旅費 1,823,920円
その他 1,962,758円
間接経費 1,800,000円
合計 7,803,599円

備考

備考
自己資金 3,599円

公開日・更新日

公開日
2015-10-16
更新日
-