文献情報
文献番号
201403001A
報告書区分
総括
研究課題名
グローバルエイジングへの国境なき挑戦-経験の共有と尊重を支える日本発学際ネットワークによる提言に関する研究
課題番号
H24-地球規模-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(筑波大学 医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野)
研究分担者(所属機関)
- 本澤巳代子(筑波大学人文社会系 法学)
- 山本秀樹(帝京大学大学院公衆衛生学研究科保健医療政策学分野)
- 野口晴子(早稲田大学政治経済学術院・公共経営研究科)
- 増田 研(長崎大学多文化社会学部)
- 上杉 礼美 (陳 礼美)(関西学院大学人間福祉学部 高齢者福祉、社会政策)
- 柏木 聖代(横浜市立大学医学部看護学科)
- 高橋 秀人(福島県立医科大学医学部放射線医学県民健康管理センター情報管理・統計室)
- 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所、人口学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,674,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、我が国、欧米の介護先進国、および今後高齢化を迎える各国の現状および課題について、学際的に分析を行い、国際的・学際ネットワーク形成を通じて、お互いを尊重しつつ、国境を越えて経験を共有し、今後の高齢社会のあり方への提言を行うことを目的としている。
研究方法
世界的視点からの経験の共有と尊厳を重視し、4領域、1.日本の現状分析から続く国に伝えること、2. 高齢化を先に迎えた諸外国の実態と課題、3.今後高齢化が進行する国における研究、4.国際的学際ネットワークの整備(研究および教育)に分けて実施した。
結果と考察
平成26年度における研究の成果を、4領域ごとに記載する。1.日本の現状分析では、まず、高齢者虐待防止法に従って厚生労働省から毎年公表されている調査結果を基に、高齢者虐待の現場において、相談・通報及び対応策として介護保険サービスがどのような成果を上げているかについて分析した。その結果、相談・通報の場面では介護支援専門員が活躍していること、介護保険サービスの利用が虐待の深刻度の軽減に役立っていることまた事態が深刻な場合には、市区町村長申立による成年後見制度が活用されていることなどが明らかとなった。また、高齢者ボランティアが利用するプログラムの担当者およびコーディネーターを対象とした調査により、役割指定や柔軟性のある役割および熟練したスキルなどの組織的能力があることを示した。2.では、まず、2010年センサス・ラウンドでIPUMSより個票データの得られる29ヶ国及び日本の障害(Disability)データを比較し、人口高齢化率と障害率には高い正の相関があることが明らかとなった。次に、英国Care Act2014の我が国への和文紹介を試みた:2016年より、中央・地方政府が利用者とケアラーに対しより優れたケアを提供するために、新データを収集し始めた。我が国はケアラーの実態把握がほとんどない点から学ぶことは多い。婚姻と健康との関係に関する国際比較研究では、東アジア諸国において、身体・精神両面での健康状態に婚姻はプラスに作用していることがわかった。3.では、アフリカにおける高齢者の生活とケア、共助について、タイにおける高齢者の実態、ウガンダと南アフリカにおける高齢者のメンタルヘルスとウェルビーイングについて研究を行った。まず、東アフリカにおける高齢者に関する研究では社会人類学的観点より、高齢者の分布には地域的な偏りがあると推測される一方、地域的な文化多様性を考慮すると、サーベイでは明らかにできないミクロレベルの調査と、それに基づいた提言の必要であることが明らかとなった。次に、発展途上国(アジア・アフリカ地域)における高齢者の生活を支援する「共助」に関する研究では、わが国の地域社会が有する「共助」の一つである公民館をモデルにしたCLC(Community Learning Center)が、海外で活用できる可能性が示唆された。タイにおける高齢者介護の実態では、介護負担軽減には介護者のQOLの改善、介護への満足度を高める余地があることが示された。WHOの“Study on global AGEing and adult health (SAGE)”を用いた多国間研究:ウガンダと南アフリカの分析では、ヘルスサービスと高齢者の所得を保障することが、高齢者のメンタルヘルスとウェルビーイングを改善させることが明らかとなった。4.では、「筑波大学国際シンポジウム グローバルエイジングへの国境なき挑戦 人を支える医療と介護」として、アメリカ、イギリス、ドイツ、韓国、日本のエイジング研究者4名を招へいし実施し、議論した。韓国のデータがOECD諸国と比較可能なレベルに整備、公表されているのに対し、日本のデータの整備の遅れが指摘された。また、グローバルエージングに向けた教育・研究ネットワーク基盤整備としてG30特別講義およびグローバルエイジングセミナーを実施し、今後の急速な高齢化への対応として、次世代を担う若い力への教育が重要であることを実感した。
結論
平成26年度の多角的交流活動を通して、高齢者の状況・課題を議論の土俵にあげる事がまず第一歩であることが再確認された。我が国は世界一の高齢化フロントランナーであり、失敗も成功も含めて共有できることが多いが、一方で、共有の土俵にあがるためのデータが大変不足している。グローバルエイジング研究においては、データを整備した上で各国の経験を共有することの意義がなおさら大きく、二次データ活用と分析を学際的フィールド調査を補完しつつ進め、成果を海外に発信しうる仕組みづくりを推進していきたい。
公開日・更新日
公開日
2015-06-10
更新日
-