文献情報
文献番号
201325010A
報告書区分
総括
研究課題名
大震災におけるMRI装置に起因する2次災害防止と被害最小化のための防災基準の策定
課題番号
H24-医療-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中井 敏晴(独立行政法人 国立長寿医療研究センター 神経情報画像開発研究室)
研究分担者(所属機関)
- 町田 好男(東北大学大学院医学系研究科 画像情報学分野)
- 礒田 治夫 (名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻)
- 野口 隆志 (独立行政法人 物質・材料研究機構 超伝導線材ユニット)
- 山口 さち子(独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 健康障害予防研究グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,776,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
MR装置は国内で6000台近くが稼働し、日常診療でも重要な役割を果たしている。本調査研究では超高磁場、低温冷媒、高電圧を扱うMR装置の東日本大震災による被災状況を調査し、MR検査室における安全な避難、MR装置の被害の最小化、二次災害防止のための緊急措置についての指針を策定するとともに、効果的なMR検査室の防災対策を立てる上で考慮すべき事項を集約した防災基準を提案する。平成24年度に実施したMR検査室の被災調査では、従来の想定を越えた被害が発生し、特に震災後のインフラ障害がMR装置の稼働復帰の妨げになるだけでなく新たなリスク要因となりうること、外部からの支援が無い状態で施設のスタッフによる安全点検、復帰作業の試みが不可避となったことが明らかになった。本年度は、その調査結果に基づき、震災発災時の緊急対処、平時の防災対策、MR装置の緊急停止ボタンの仕様の統一に関する指針と提言を策定する。
研究方法
MR検査室の防災に関する指針と提言を策定するために、緊急停止ボタンの規格標準化、免震技術・設置上の課題、発災直後の緊急対応訓練、標準的な復帰手順の策定、緊急地震速報の活用の5課題について研究協力者も含めたワーキンググループを設置し検討を行う。その結果を基にして指針原案を作成し、東日本大震災の直接の体験者を中心とした本調査の協力者以外に、1)必ずしも大震災による被害を直接体験していない被災地域以外のMR検査担当者、2)医療、建築、防災等が専門の外部有識者、3)MR装置の製造メーカー5社、の意見も聴取して修正を行い、最終案を策定する。また、医療従事者のMRの安全に関する基礎知識の実情調査、東南海地区におけるMR 検査室の防災対策に関する詳細調査と東日本大震災の調査から得た情報の普及、クエンチ発生の予防に関する調査研究を行ない、個々の施設が具体的な防災手順を作成するために必要な情報の提供を行う。
結果と考察
「災害時におけるMR装置の安全管理に関する指針」、「MR検査室の防災指針」、「MR装置の緊急停止システムの仕様統一に関する提言」を策定し、日本磁気共鳴医学会から平成26年1月15日に2指針を公表した。医療従事者全般のMRの安全に関する知識の傾向分析では、静磁場の影響については認知度が高い一方で、検査の施行については,過去にMR検査を受けた経験が無い限り認知度は必ずしも高くなく、MR装置のハードウェアについては認知度は低いことが判明した。震災時においてMR検査室への立ち入り制限や関連する安全管理を行う際に、出入りする関係者の行動を予測する上で有用な知見と考えられた。東南海地区におけるMR検査室の防災対策の状況調査では、緊急地震速報システムの導入はまだ本格的に進んでおらず、1982年の建築基準法改正以前の建物に設置されているMR装置が存在すること、過半数のMR装置で非常電源への切替設定がなされていないこと、ほとんどの施設で停電時に液体ヘリウムのモニタが不可能であること、海岸に極めて近く標高が10m位置に設置されているMR装置が多数存在すること、などが判明した。震災後は安全管理だけでなく、MR装置の復帰を円滑にするためにもマグネットのクエンチリスクを予見する必要があり、特に液体ヘリウムの残量確認が重要である。しかし、停電下でもヘリウムメーターが使えるように設置されているMR装置は非常に少ないことが判明した。また停電下での液体ヘリウムの減少速度についても十分な情報が行き渡っておらず、MR装置メーカーに対して今後の改良を求めた。
結論
医療機関は震災が起きても業務を中止できない。震災発生の有無とは関係なく疾病は一定数発生するが、震災による直接の受傷だけでなく、震災後の生活環境の悪化のために慢性疾患の悪化が生じるため、患者数が急激に増える。MR装置もこのような災害後医療において重要な役割を果たすが、検査再開の前に地震による衝撃やインフラ障害の影響を十分に確認して安全確保に努めなければならない。今後の防災対策としては、①建屋の免震構造化、②緊急地震速報の活用、③患者救出を含めた実地訓練、④設置されているマグネットに関する正確な情報収集、⑤非常電源、非常照明の確認、⑥停電も含めた非常時における電子マニュアル等の利用方法の確認、⑦立ち入り禁止等、現場の安全確保処置の準備、⑧MR装置の再稼働前の十分な点検、などが重要項目と考えられる。MR検査室の防災対策をその医療施設全体の防災対策の中で位置づけることが周囲との円滑な連携に重要である。MR検査室においても可能な限りの減災を実現して医療施設の機能維持を果たせれば地域医療への大きな貢献となろう。
公開日・更新日
公開日
2015-05-19
更新日
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