移植医療の社会的基盤に関する研究

文献情報

文献番号
201322039A
報告書区分
総括
研究課題名
移植医療の社会的基盤に関する研究
課題番号
H23-免疫-指定-018
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
篠崎 尚史(日本臓器移植ネットワーク 本部)
研究分担者(所属機関)
  • 大島 伸一(国立長寿医療研究センター)
  • 藤田 民夫(名古屋記念病院)
  • 藤堂 省(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 浅井 康文(雄心会 函館新都市病院)
  • 嶋村 剛(北海道大学病院 移植外科学)
  • 高橋 公太(新潟大学大学院 腎泌尿器病態学)
  • 星長 清隆(藤田保健衛生大学病院)
  • 有賀 徹(昭和大学医学部 救急医学)
  • 高原 史郎(大阪大学大学院 医学研究科 先端遺書億基盤医療学)
  • 相川 厚(東邦大学医学部 腎臓学講座)
  • 長谷川 友紀(東邦大学医学部 社会医学講座)
  • 福嶌 教偉(大阪大学大学院 医学系研究科 重症臓器不全医療学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
20,800,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者・篠崎尚史の所属機関変更   旧 東京歯科大学市川総合病院 角膜センター ⇒ 新 公益社団法人日本臓器移植ネットワーク

研究報告書(概要版)

研究目的
継続的なDAP(HAS,MRR)の分析と、これまでの実施結果を踏まえ、実用性の高いDAPモデルの提案を行うことで、日本の移植医療の適正な発展に必要な社会基盤について検討することを目的とする。コーディネーター教育機関の設立に向け、急性期病院の終末期ケアの質向上に焦点をあてた院内移植コーディネーター教育プログラムの設計、教育ツール、その開発、指導指針を作成、実践的教育プログラムとなる日本版TPMの作成のためのトレーナー養成セミナーを行うなどして、臓器提供者の増加と同時に提供家族への配慮がなされる提供施設構築を図ることを目指す。
研究方法
① DAP:
DAP実施病院にてHAS、MRRの調査データに関して、DAP財団の運営するWebサイトにおいてデータベース管理を行い、今年度は5病院から679人のデータが得られ、分析を進めた。DAP導入地域ごとに院内システムの構築に取り組む中心的な施設と満足度の高い医療の提供に進める医療機関を選定し、研究課題の提供と結果の提出を求めた。
② 教育機関の基盤整備:
脳死に陥った患者が移植用臓器のドナーとなり得ることを患者の家族に説明することについて、生命倫理学的な側面から体系的に敷衍することを試み、この方法論を介した「日本版TPM(移植医療研修)の構築」へと展開させた。
また、現在の移植コーディネーターの教育状況を把握し、
救急医療現場の医療スタッフ(日本救急医学会、日本臨床救急医学会、日本救急看護学会)を対象に、実施の方向性を検討し、QMSプログラムを作成した。
テストやアンケート等で参加者の理解の評価、セミナーの評価、実施スタッフの意見を基に、改訂を行い2回目、3回目を実施し、ドナー移植コーディネーターに必要な能力の要件を検討し、教育ツールの開発につなげた。
③ 提供施設支援ツール開発:
提供施設スタッフ(主治医、看護師)が、臓器提供プロセスを把握し、円滑に事例を進めることに有益なツールを開発するため、今年度はWEBを用いたポテンシャルドナー登録データの解析をより容易な様式に変更し、さらにこれまで管理者のみが可能であった解析を自施設の症例に限り、当該施設で解析できる形式に変更した。また、臨床心理士会の協力を得て、直接面談の形式で脳死・心停止後ドナー家族や生体ドナーが抱える悩みについてデータを集積、相談内容のデータは各項目をキーワード化し、のちの検索が可能となるシステムとする。
④ ドナー評価・管理及び摘出手術の呼吸循環管理の体制整備:
脳死臓器提供におけるドナー評価、管理、摘出手技、並びに摘出時の呼吸循環管理法と移植成績を調査し、国内外の死体臓器提供の現状を、提供・移植の両サイドから調査・分析し、国レベルのドナー評価・管理システムの体制を整備し、そこから得られた知見をもとに、研修システムを構築する。
結果と考察
地域、及び医療機関の実情に配慮したドナーディテクションの実現に向けた活動を念頭にした移植医療センターのような役割を担うセクションは、救命救急治療と共に家族ケアが充実しており、その信頼関係が十分であることがDAPを進める上で最も重要な要素であると推察された。また地域独自の取り組み、官民一体の活動の強化やMRRを多用した詳細な医療機関診断からのアプローチ、“救急における看取り医療の充実”などにより、家族と医療スタッフにとって満足度の高い医療が展開されていることがDAPの大きな特徴であるといえた。
教育機関の基礎整備では、ラダーで構築された本プログラムは、教育効果を達成度で図るツールとしても活用が可能であり、今後の課題は提供の現場での活用による実証である。
都道府県コーディネーターは、家族の承諾を貰う業務と、組織間の調整を主として行い、その他の過程は病院の責任において行うことから、専門の知識を有する者が、ポテンシャルドナーの発見、ドナーの評価、脳死とされうる状態の診断に関わる事ができない事が問題であり、認定等が与えられる事が望ましいと考えられた。
結論
院内システム構築の際には、患者搬入時からの取り組みこそが重要であり、そのプロセスのなかからポテンシャルドナーを見出し、患者に対する可能な限りの救命救急治療を提供するのと並行して、刻々と変わる病状を受け止めなければならない家族に対するケア、救命できなかった場合の看取りの医療から臓器提供へとつながる連続的な流れを構築していくように、医療機関啓発活動の内容を見直す事を提言したい。
DAPの手法は地域の温度差はあるものの、地域体制、院内体制などはほぼ完成形になってきており、院内コーディネーターについては教育関連の分担研究ともリンクしながら院内システムとそれを遂行するプロフェッショナルの育成が最重要課題であることも提言する。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
-

文献情報

文献番号
201322039B
報告書区分
総合
研究課題名
移植医療の社会的基盤に関する研究
課題番号
H23-免疫-指定-018
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
篠崎 尚史(日本臓器移植ネットワーク 本部)
研究分担者(所属機関)
  • 大島 伸一(国立長寿医療研究センター)
  • 藤田 民夫(名古屋記念病院)
  • 藤堂 省(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 浅井 康文(雄心会 函館新都市病院)
  • 嶋村 剛(北海道大学病院 移植外科学)
  • 高橋 公太(新潟大学大学院 腎泌尿器病態学)
  • 星長 清隆(藤田保健衛生大学病院)
  • 有賀 徹(昭和大学医学部 救急医学)
  • 高原 史郎(大阪大学大学院 医学研究科 先端移植基盤医療学)
  • 相川 厚(東邦大学医学部 腎臓学講座)
  • 長谷川 友紀(東邦大学医学部 社会医学講座)
  • 福嶌 教偉(大阪大学大学院 医学系研究科 重症臓器不全医療学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
研究代表者・篠崎尚史の所属機関変更   旧 東京歯科大学市川総合病院 角膜センター ⇒ 新 公益社団法人日本臓器移植ネットワーク

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国における移植医療の適正な発展に必要な社会基盤について検討することを目的とし、継続的なDAPの分析と実施結果を踏まえた実用性の高いモデルを提案し、コーディネーター教育機関の設立に向けた基盤整備として、教育プログラムの設計、教育ツールの開発、指導指針となる日本版TPM(移植医療研修)の作成を行う。さらに将来的な事業化に向けての運用制度設計を実施し、終末期医療全体の管理を行う体制整備に必要な人材育成に関しての検討を行い、臓器提供者の増加と同時に提供家族への配慮がなされる提供施設構築を図る。
「ドナー評価・管理及び摘出手術中の呼吸循環管理の体制整備」では、国内外の死体臓器提供の現状を、提供・移植の両サイドから調査・分析し、国レベルの評価・体制整備することを目的とする。
研究方法
①DAP
これまでの実績から有効性の高い施設に限定して実施し、さらに、都道府県コーディネーターと連携し、継続的なニーズ調査を実施すると同時に、対応策・改善策を講じ、提供施設支援ツールの運用方法を検討する。
②教育機関の基盤整備
DAPから蓄積されたデータを解析し、提供施設医療従事者のニーズを分析する。その上で、移植コーディネーター教育に必要な教育プログラム、教育ツール、指導指針・マニュアル、日本版TPM、制度設計の骨子を検討する。その結果から、実際の運用に必要なマテリアルを制作し、現役の移植コーディネーターを対象とした日本版TPMセミナーを開催し、臨床的なドナーディテクション、脳死判定補助について指導者レベルに指導する。
③提供施設支援ツール
提供施設スタッフが臓器提供プロセスを把握し、円滑に事例を進めることに有益なツールを開発する。また、情報共有、ドナー家族の精神的ケア等に有益なシステム等を構築し、その運用方法を検討し、提供施設支援ツール、情報共有システム、ドナー家族の精神的ケアに関するデータベースの有用性を、DAPの手法を用いて評価する。
④ドナー評価・管理及び摘出手術の呼吸循環管理の体制整備
国内の脳死臓器提供全例におけるドナー評価、管理、摘出手技、並びに摘出時の呼吸循環管理法と移植成績を調査し、欧米におけるドナー移植コーディネーターの教育システムについて調査し、研修会を実施する。
結果と考察
DAP導入病院にみられる特徴として、医療機関や地域での連携を行い、ドナーディテクションを体制化している医療機関での情報は豊富であり、医療従事者、ドナー家族の満足度など好評価の報告があった。
臓器提供は救急の医療の延長上にあるものとの観点から、重症患者をケアする上で、適時に医学的な評価が行われ、家族などに適切に情報提供がなされ、家族のケアも併せて行われているかを確認する院内システムが重要であり、そのための院内体制立ち上げに係わる重症患者のケアにおける質管理者(クオリティー・マネジャー)の役割を担う者の育成こそが移植医療の基盤構築に繋がることが考えられた。また今後その認定などが与えられることが望ましい。
ドナー評価・管理及び摘出手術の呼吸循環管理の体制整備においては、ドナー移植及び院内コーディネーター、提供施設スタッフに対する研修会を実施した結果、参加者の所属施設で脳死臓器提供が行われ、実践された。
結論
移植医療に関する院内システムを構築する際には、家族に対するケア、看取りの医療から臓器提供へとつながる連続的な流れを構築していくように医療機関啓発活動の内容を見直す事を提言する。
DAPについては、地域展開、資質の高い担当の育成等の課題は残るものの、地域体制、院内体制などはほぼ完成しており、DAPの事業化に向けての素地として提案して結論としたい。①HAS・MRR等を活用し、医療機関のアセスメントを行う。②知識向上のための学習会、また組織的改善を図る。③院内コーディネーターは移植医療に特化することなく、クオリティー・マネジャーとしてその機関の質の向上と有効情報の取り扱いをすることを提言したい。そのためには、政策誘導や資金提供の手段が必要であり、DAPを展開する医療機関に対するメリットとして病院機能評価機構の審査とリンクさせ、支援センターやクオリティー・マネジャーが配置された場合に診療報酬に反映されるなど、施設に対するメリットとその資金調達ができれば、全国規模でDAPを導入することが可能であると考える。
「ドナー評価・管理及び摘出手術中の呼吸循環管理の体制整備」では臓器移植法改正後も、OTPD(organs transplanted per donor、ドナーあたりの移植臓器数)は5以上が維持されていた。欧米のOPO(organ procurement organization、臓器獲得機関)と連携しながら、我が国に適したドナー評価・管理システムを構築していく必要があると考えられた。


公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-02-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201322039C

成果

専門的・学術的観点からの成果
DAP導入病院にみられる特徴として、医療機関や地域での連携を行い、ドナーディテクションを体制化している医療機関での情報は豊富であり、医療従事者、ドナー家族の満足度は好評価の報告があった。臓器提供は救急医療の延長上との観点から、重症患者をケアする上で、適時医学的な評価、家族への適切な情報提供、家族ケアも併せて行われているかを確認する院内システムが重要で、そのための院内体制立ち上げに係わる重症患者のケアにおける質管理者(クオリティー・マネジャー)の役割を担う者の育成こそが移植医療の基盤構築に繋がる。
臨床的観点からの成果
移植医療に関する院内システムを構築する際には、家族に対するケア、看取りの医療から臓器提供へとつながる連続的な流れを構築していくように医療機関啓発活動の内容を見直し、DAPの事業化に向けて①HAS・MRR等を活用し、医療機関のアセスメントを行う。②知識向上のための学習会、また組織的改善を図る。③院内コーディネーターは移植医療に特化することなく、クオリティー・マネジャーとしてその機関の質の向上と有効情報の取り扱いをすること、といった具体的方法を見いだせたことが成果である。
ガイドライン等の開発
平成23年 臓器提供施設マニュアルの発刊にあたり本当該研究班からの協力を行なった。また、本研究班の分担であった脳死患者対応セミナーもその後、日本臓器移植ネットワークとの共催で実施されており法的脳死判定の基本的研修となっている。
https://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/pdf/flow_chart01.pdf
その他行政的観点からの成果
本件研究では臓器提供のオプション提示は意識の無い患者の治療の一環と考えるとの救急関連学会の前提で教育を行い患者の権利を活かす体制整備に必要な項目が明確となった。しかし医療機関側にはそれらの活動に対する評価が無く、例えば施設基準としてDPC係数の付与、脳死判定の保険点数化等の具体的な支援策が必要であるとの結論を得た。
その他のインパクト
クオリティーマネージャーの設置に関する取り組みにおいては、日本救急医学会、日本臨床救急医学会、日本救急看護学会、日本脳神経外科学会のいわゆる救急関連4学会にコンセンサスを得ることができたことは、今までにない協力体制を構築できた。

発表件数

原著論文(和文)
53件
原著論文(英文等)
27件
その他論文(和文)
19件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
178件
学会発表(国際学会等)
55件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
高橋公太
序-腎移植連絡協議会からの提言-
腎移植蓮なく協議会からの提言 移植医療と保険診療-移植患者の外来管理料の創設に向けて-  (2011)
原著論文2
高橋公太
総合討論
腎移植連絡協議会からの提言 変豹する腎移植 , 75-89  (2012)
原著論文3
小野 元 
腎臓提供にかかわる提供側の課題と今後の展望
変革する透析医学 , 445-449  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-06-10
更新日
2018-06-06

収支報告書

文献番号
201322039Z