文献情報
文献番号
201227012A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルス感染状況・長期経過と予後調査及び治療導入対策に関する研究
課題番号
H22-肝炎-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
田中 純子(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院疫学・疾病制御学)
研究分担者(所属機関)
- 小山 富子(岩手予防医学協会)
- 日野 啓輔(川崎医科大学 内科学 )
- 三浦 宜彦(埼玉県立大学)
- 阿部 弘一(岩手医科大学)
- 池田 健次(虎の門病院 消化器科)
- 鳥村 拓司(久留米大学 先端癌治療研究センター)
- 酒井 明人(金沢大学附属病院 光学医療診療部)
- 相崎 英樹(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
- 内田 茂治(日赤 中央血液研究所 感染症解析部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
28,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
肝炎、肝がんによる健康被害の抑制、防止を最終的な目標とした肝炎ウイルスキャリア対策、ウイルス肝炎・肝がん対策、及び肝炎ウイルス感染予防対策を策定するための基礎的資料を収集、提示することを目的とする
研究方法
基礎医学、臨床医学、社会医学の専門家の参加を得て組織的に実施する
結果と考察
Ⅰ.肝炎ウイルス感染状況に関する疫学基盤研究
1) 2010.4月~2012.3月初回献血者1079341人を対象に、HBV曝露率(HBs抗原とHBc抗体)を検討。高齢者群でのHBV曝露率は高い(17-24%)が、若年者では低値(1%以下)
2) 広島県内6事業所、職域集団1409人(男1211人、女198人、平均年齢49歳)における肝炎ウイルス感染状況把握。検査受検率12.0%。未受診の理由は「知らない」38.5%、「機会がない」41.4%。検査推進と治療制度等情報提供と受診勧奨が重要
3)岩手県49万人の出生年コホート別HBVとHCV感染状況から1917年,47年,68年出生年群にHBs抗原陽性率のピーク。HBs抗体陽性率は1941年以降出生群では自然減、HCVキャリア率は1920年代出生群の1.77 %から、1970年代出生群の0.05%まで自然減が認められた
4)肝癌死亡推移についての数理疫学モデルの解析から、90 年代以降の時代効果による、2010年の肝癌死亡推定値からの減少が、特に男性で認められた。
5)診療報酬記録からみた肝疾患関連患者数2008-2010年の推計値を提示。HBV・HCV由来の64歳以下の肝疾患関連患者は全体で56.4~61.7万(95%CI:45.0~73.1万人)/年、HBV・HCV急性肝炎は0.2~0.4万人(0.0~1.6万人)/年と推定
6) 検診受診者を対象に前方視的検討をHCV抗体5試薬10000検体について行い「新たなC型肝炎ウイルス検査手順」を改定した。報告書を作成公開し、2013.4月からの健康増進事業および特定感染症等検査事業によるHCV検査の手順が変更
Ⅱ.感染後の長期経過と予後調査
1)C型慢性肝疾患に対する治療介入の時期を効果と医療経済から検討。肝硬変に対する発癌低減効果は慢性肝炎よりは低いが、IFN治療では発癌ハザード比は0.35~0.47、「一人の発癌を抑制する」ために必要な抗ウイルス薬費用は2279万円(慢性肝炎での費用3008万円)と効果対費用比も良好。肝硬変症例への積極的抗ウイルス療法の重要性を示した。
2)B型慢性肝疾患住民コホート1045例と、1:2マッチングをした一般住民群2,090例を対象にCox比例ハザードモデルで検討。HBs抗原陽性が継続すれば、無症候性キャリアでも予後は不良。HBV無症候性キャリアの診療継続の必要性が提示。
3)HCV・HBV持続感染者の病態推移について(Markov Model)提示。治療による肝癌抑制効果をHCVについて提示。HBV持続感染者の多岐にわたる自然病態推移モデルを提示。HBs 抗原自然消失率がHBe抗体陽性後高い。HBVおよびHCV持続感染者共に、適切な時期に適切な治療介入の必要性を提示。
4)微小肝癌の発見のためのプロトコルは昨年までの結果を総合して、肝細胞癌の診断には画像診断とPVKA等の組み合わせが効果的かつソナゾイド超音波検査による治療法選択が予後に有効であることを示した。
Ⅲ.治療導入対策に関する研究
1)公費助成による肝炎ウイルス検査後の受検者の医療機関受診動向調査を10都道府県で実施。検査陽性と判定された者の医療機関受診率は57%、肝臓専門医へは33%受診にとどまる。肝炎コーディネーター養成が治療導入対策に有効であることが示唆された。
2)40歳節目検診による肝炎検査は、節目外検診に比べ陽性率が低い。高年齢層での節目検診の必要性。
以上、考察すると、
母子感染防止事業開始以前の出生集団からのHBs抗体やHBV曝露率の低下が認められ、HCVキャリア率も同傾向であることから、戦後の医療経済の発展や衛生状況の改善に伴い、感染のリスクが徐々に低下してきたと考えられる。
一方、1970年以後増加の一途をたどってきた肝癌死亡の推移に関する解析により、90 年代以降の時代要因による2010年時点の肝癌死亡予測値からの低下が男性で認められ、先進的・積極的行われてきた治療や検査の推進等を含む医療・行政の効果とも考えられる結果が得られた。
HBV持続感染者の自然病態の解析から、HBe抗体陽性群ではHBs抗原消失例は多い一方、肝癌を含む多様な肝病態進展が推定され、診療継続の必要性が強く望まれる。
肝硬変症例への積極的な抗ウイルス治療が望まれると同時に、微小肝癌発見後の治療法選択まで含んだプロトコルの提示が予後に有効
1) 2010.4月~2012.3月初回献血者1079341人を対象に、HBV曝露率(HBs抗原とHBc抗体)を検討。高齢者群でのHBV曝露率は高い(17-24%)が、若年者では低値(1%以下)
2) 広島県内6事業所、職域集団1409人(男1211人、女198人、平均年齢49歳)における肝炎ウイルス感染状況把握。検査受検率12.0%。未受診の理由は「知らない」38.5%、「機会がない」41.4%。検査推進と治療制度等情報提供と受診勧奨が重要
3)岩手県49万人の出生年コホート別HBVとHCV感染状況から1917年,47年,68年出生年群にHBs抗原陽性率のピーク。HBs抗体陽性率は1941年以降出生群では自然減、HCVキャリア率は1920年代出生群の1.77 %から、1970年代出生群の0.05%まで自然減が認められた
4)肝癌死亡推移についての数理疫学モデルの解析から、90 年代以降の時代効果による、2010年の肝癌死亡推定値からの減少が、特に男性で認められた。
5)診療報酬記録からみた肝疾患関連患者数2008-2010年の推計値を提示。HBV・HCV由来の64歳以下の肝疾患関連患者は全体で56.4~61.7万(95%CI:45.0~73.1万人)/年、HBV・HCV急性肝炎は0.2~0.4万人(0.0~1.6万人)/年と推定
6) 検診受診者を対象に前方視的検討をHCV抗体5試薬10000検体について行い「新たなC型肝炎ウイルス検査手順」を改定した。報告書を作成公開し、2013.4月からの健康増進事業および特定感染症等検査事業によるHCV検査の手順が変更
Ⅱ.感染後の長期経過と予後調査
1)C型慢性肝疾患に対する治療介入の時期を効果と医療経済から検討。肝硬変に対する発癌低減効果は慢性肝炎よりは低いが、IFN治療では発癌ハザード比は0.35~0.47、「一人の発癌を抑制する」ために必要な抗ウイルス薬費用は2279万円(慢性肝炎での費用3008万円)と効果対費用比も良好。肝硬変症例への積極的抗ウイルス療法の重要性を示した。
2)B型慢性肝疾患住民コホート1045例と、1:2マッチングをした一般住民群2,090例を対象にCox比例ハザードモデルで検討。HBs抗原陽性が継続すれば、無症候性キャリアでも予後は不良。HBV無症候性キャリアの診療継続の必要性が提示。
3)HCV・HBV持続感染者の病態推移について(Markov Model)提示。治療による肝癌抑制効果をHCVについて提示。HBV持続感染者の多岐にわたる自然病態推移モデルを提示。HBs 抗原自然消失率がHBe抗体陽性後高い。HBVおよびHCV持続感染者共に、適切な時期に適切な治療介入の必要性を提示。
4)微小肝癌の発見のためのプロトコルは昨年までの結果を総合して、肝細胞癌の診断には画像診断とPVKA等の組み合わせが効果的かつソナゾイド超音波検査による治療法選択が予後に有効であることを示した。
Ⅲ.治療導入対策に関する研究
1)公費助成による肝炎ウイルス検査後の受検者の医療機関受診動向調査を10都道府県で実施。検査陽性と判定された者の医療機関受診率は57%、肝臓専門医へは33%受診にとどまる。肝炎コーディネーター養成が治療導入対策に有効であることが示唆された。
2)40歳節目検診による肝炎検査は、節目外検診に比べ陽性率が低い。高年齢層での節目検診の必要性。
以上、考察すると、
母子感染防止事業開始以前の出生集団からのHBs抗体やHBV曝露率の低下が認められ、HCVキャリア率も同傾向であることから、戦後の医療経済の発展や衛生状況の改善に伴い、感染のリスクが徐々に低下してきたと考えられる。
一方、1970年以後増加の一途をたどってきた肝癌死亡の推移に関する解析により、90 年代以降の時代要因による2010年時点の肝癌死亡予測値からの低下が男性で認められ、先進的・積極的行われてきた治療や検査の推進等を含む医療・行政の効果とも考えられる結果が得られた。
HBV持続感染者の自然病態の解析から、HBe抗体陽性群ではHBs抗原消失例は多い一方、肝癌を含む多様な肝病態進展が推定され、診療継続の必要性が強く望まれる。
肝硬変症例への積極的な抗ウイルス治療が望まれると同時に、微小肝癌発見後の治療法選択まで含んだプロトコルの提示が予後に有効
結論
上記、得られた知見は研究目的に適う
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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