文献情報
文献番号
201227006A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性肝炎の病態に応じたウイルス側因子の解明と治療応用
課題番号
H22-肝炎-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
榎本 信幸(山梨大学 大学院医学工学総合研究部)
研究分担者(所属機関)
- 藤井 秀樹(山梨大学 大学院医学工学総合研究部 )
- 山下 篤哉(山梨大学 大学院医学工学総合研究部 )
- 松本 武久(独立行政法人理化学研究所)
- 朝比奈 靖浩(東京医科歯科大学)
- 黒崎 雅之(武蔵野赤十字病院)
- 坂本 直哉(北海道大学医学研究科)
- 今村 道雄(広島大学病院)
- 中本 安成(福井大学)
- 堀田 博(神戸大学)
- 鈴木 哲朗(浜松医科大学)
- 鈴木 文孝(虎の門病院)
- 中川 美奈(東京医科歯科大学)
- 加藤 直也(東京大学医科学研究所)
- 加藤 宣之(岡山大学大学院)
- 横須賀 收(千葉大学大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
50,653,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ウイルス性肝炎における治療抵抗性、病態、発癌に関与するウイルス遺伝子変異を明らかとし、病態解明を行うことにより一般診療への標準化を目指すと共に、これらの病態に関与するウイルス側因子を標的とした新規治療法の開発基盤確立を目標とする。
研究方法
肝炎ウイルス全ゲノムダイレクトシークエンス、あるいは次世代シークエンサーによって病態と関連するウイルス構造を、GWAS解析を含む宿主因子を含めた解析を通して明らかとする。さらに肝内遺伝子発現、免疫担当細胞、サイトカインの意義を明らかとし、これらの結果を踏まえ、培養細胞・ヒト肝細胞キメラマウスモデル等の系を用いて、メタゲノムや既存の化合物を含む膨大なライブラリーから高効率に治療抵抗性ウイルスに対する創薬を行う。
結果と考察
ハイスループット全ウイルスゲノム解析により、C型慢性肝炎患者でのペグインターフェロン+リバビリン(P+R)療法においてはIL28Bとコア、ISDR、IRRDRが治療効果を規定する独立因子であることを示した。Deep sequenceによって、わずかなTVR(テラプレビル)耐性NS3変異HCVが多くの症例にQuasispeciesとしてTVR未治療ながら混在し、TVR治療開始後さらに耐性変異率が増加すること、さらにcore 70のquasispeciesと肝癌病態の間には密接な関連があることを示した。NS3-Tyr1082/Gln1112は肝癌発症リスクファクターとして予後診断に有用なことを示した。HCV関連HCCにおけるhetero なHCCの性質を、対応する非癌部発現遺伝子の解析によって分類できる可能性を示した。治療抵抗症例にIL28B minor typeおよびRIG-Iなどの自然免疫系遺伝子やIFN誘導遺伝子の治療前の肝内高発現が関与することを明らかとした。HCC患者において制御性Tリンパ球(Treg)および骨髄由来抑制細胞(MDSC)が抗腫瘍免疫抑制、がんの進展に作用している可能性を示した。C型慢性肝炎に対するTVRとP+Rの3者併用療法の治療効果は高いこと、NS5A阻害剤とP+R併用療法、NS5A阻害剤とプロテアーゼ阻害剤併用も高い効果が得られること、B型慢性肝疾患に対する核酸アナログ製剤長期投与では、多剤耐性ウイルスが出現する症例があることを示した。IL-6はC型慢性肝炎における治療抵抗性に加え、肝線維化および肝発癌に関与することを示した。ゲノムワイド関連解析を行い、C型慢性肝炎の進展を規定する宿主因子についてHLA-DRB1/DQA/DQB1の発現量を制御している2つのSNPを見出した。C型慢性肝炎の治療効果予測においてIL28Bに加えて治療前肝細胞内STAT1の核内移行を評価することが有用であること、IL28B SNPはHCVコア変異や脂質代謝と関連することを示した。IFN あるいはRBVに抵抗性を示す細胞株を樹立、抵抗性細胞内のHCVは遺伝系統樹上クラスターを形成していることを明らかとした。RBV感受性の異なる細胞を用いたcDNAマイクロアレイ解析によりRBV抵抗性の違いで発現レベルの異なる遺伝子を同定した。NS4AアンタゴニストでNS3-4Aプロテアーゼ活性を阻害するACH806またMTP阻害剤でHCV粒子産生を抑制するBMS-201038について長期間添加による耐性ウイルス出現の可能性を検討した。抗NS2化合物を見出し、HCV持続感染細胞へ長期間添加することにより耐性ウイルスが出現すること、アミノ酸981番セリンのグリシンへの置換変異を見出した。C型肝炎患者中HCVのプロテアーゼ阻害剤に対する感受性について酵素活性を指標として評価するため、HCV複製検体からHCV NS3プロテアーゼを簡便に調製しNS5A/5B切断活性を定量する技術開発を行った。抗HCV活性を有する海洋生物抽出物の検索にてウミシダAlloeocomatella polycladiaの酢酸エチル抽出分画、カイメンAmphimedon spの酢酸エチル抽出分画に抗HCV活性があることを見出した。
結論
治療反応性、肝発癌に対するHCV core、NS3、あるいはNS5A遺伝子領域変異の関与が明らかとなる一方、IL28Bの病態への関与も示された。また創薬に関して酵素活性を指標にした抗ウイルス剤スクリーニングの系を確立しつつある。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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