ウイルス性肝疾患に対する分子標的治療創薬に関する研究

文献情報

文献番号
201227003A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性肝疾患に対する分子標的治療創薬に関する研究
課題番号
H22-肝炎-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
金子 周一(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 小原 道法(公益財団法人東京都医学総合研究所ゲノム医科学研究分野)
  • 菅  裕明(東京大学大学院理学系研究科化学専攻)
  • 深澤 征義(国立感染症研究所細胞化学部)
  • 竹原 徹郎(大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学)
  • 宇都 浩文(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
  • 前川 伸哉(山梨大学大学院医学工学総合研究部)
  • 村上 周子(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 堀本 勝久(産業技術総合研究所 システム生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
46,029,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新たなウイルス性肝炎、肝がん治療薬の効果を予測する診断法を開発するとともに、ウイルス性肝炎の進展阻止、線維化阻止、発がん抑制を目指した核酸医薬および特殊ペプチド製剤の創薬研究を行うことを目的とした。
研究方法
診断薬および創薬の候補分子を抽出し開発研究を行った。
結果と考察
・研究代表者(金子周一)
EpCAMが肝がん診断と治療の標的とすべき分子であることを明らかにした。小原、菅分担研究者とEpCAM陽性細胞肝がんに対する新たな診断および分子標的薬の開発研究を行った。EOB-MRI所見との関連を明らかにし画像診断による肝がんの分類を示した。
1)EpCAMとAFP陽性の肝がんは生命予後が有意に悪い(Cancer Res 2010)。
2)EpCAM陽性は脈管浸潤が多くCD90陽性は肺転移をおこしやすい(Hepatology 2012)。
3)EpCAM陽性はdUTPaseの発現が高く5FUに対する感受性が低い(Liver Int 2010)。
4)肝がんのMRI所見(Radiology 2010、2012)とEpCAM陽性がんとの関連を明らかにし画像による肝がん分類を行った。
・研究分担者(小原道法)
1)EpCAMを標的としてEpCAM発現を強力に抑制するanti-sense配列を同定し新規のsiRNAを作製した。
2)EpCAM陽性細胞を標的とするため、分担研究者の菅が作製した高親和性環状ペプチドをリガンドとして修飾したMENDリポソームの開発を行った。
・研究分担者(菅 裕明)
1)EpCAM を標的にして1.7 nMの解離定数をもつ特殊ペプチドを獲得した。
2)C末端に蛍光ラベル、およびアイソトープ標識することでEpCAM細胞を標識可能とし、まったく新規のイメージング法を開発した。
・研究分担者(深澤征義)
HCVの生活環に係わる宿主因子の解析から新たな標的分子を同定した(J Gen Virol 2011)。HCV感染細胞の脂肪滴画分の比較プロテオーム解析からDDX3、C14orf166、PABP1、PABP4がウイルス産生に重要でありDDX1、IMP1、IMP3がHCV産生に阻害的に働くことを明らかにした。PI4KIIIα、MafBのHCV生活環への関与を明らかにした。
・研究分担者(竹原徹郎)
マイクロRNA解析を行い、肝がんに対する新たな治療標的分子としてlet-7を同定した。肝がんで高発現のBcl-xLを抑制するマイクロRNA let-7を同定した(J Hepatology 2010)。Bcl-xLが高発現するメカニズムとしてlet-7 の低発現が関与していることが示された。
・研究分担者(宇都浩文)
ウイルス性肝疾患の進展に関与する分子機序を解析し新たな診断法を作製した。C manganese superoxide dismutase(MnSOD)がHCV関連肝癌で高値であり肝予備能と関連し、関連肝癌の予後予測マーカー候補であることを示した(World J Gastroenterol 2011)。C4断片がHCV感染と関連するマーカーであることを明らかにした(Mol Med Report 2012)。
・研究分担者(前川伸哉)
ペグインターフェロン・リバビリン療法においてRANTES高値によって治療反応性が規定されることを明らかとした(Hepatol Res 2012)。
・研究分担者(村上周子)
ヒトキメラマウスを用いて解析し、高容量のHBVを接種した群はウイルス量が急増しALTの上昇が見られ肝障害も早期に認めたが、感染時のウイルス量と3ヶ月後の線維化との関連はなかった。確認後に抗マウスTLR4抗体を投与した群で線維化の抑制が認められた。
・研究分担者(堀本勝久)
単一標的候補分子の絞り込みによるドロップの危険性回避、標的候補分子に関する薬効の作用・副作用メカニズムの推定などに有用であることを示した(Gastroenterology 2010)。
結論
当初の計画通りに創薬を目指した分子の解析研究が進められ、EpCAM、let7、脂質代謝、線維化に対して創薬研究が進められた。診断法の開発もMnSOD、AIM、補体C4断片、RANTESの診断薬としての可能性を明らかにした。とりわけ、EpCAMに対する診断および創薬の研究は良好な進捗を示し、活性の強いsiRNA製剤および極めて高い結合を示す特殊ペプチド製剤が作製され、培養細胞および動物実験において効果が示された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201227003B
報告書区分
総合
研究課題名
ウイルス性肝疾患に対する分子標的治療創薬に関する研究
課題番号
H22-肝炎-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
金子 周一(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 小原 道法(公益財団法人東京都医学総合研究所ゲノム医科学研究分野)
  • 菅  裕明(東京大学大学院理学系研究科化学専攻)
  • 深澤 征義(国立感染症研究所細胞化学部)
  • 竹原 徹郎(大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学)
  • 宇都 浩文(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
  • 前川 伸哉(山梨大学大学院医学工学総合研究部)
  • 村上 周子(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 堀本 勝久(産業技術総合研究所システム生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新たなウイルス性肝炎、肝がん治療薬の効果を予測する診断法を開発するとともに、ウイルス性肝炎の進展阻止、線維化阻止、発がん抑制を目指した核酸医薬および特殊ペプチド製剤の創薬研究を行うことを目的とした。
研究方法
研究班として診断薬および創薬の候補分子を抽出し、その開発研究を行った。研究は、1)ウイルス性慢性肝炎、線維化、発がんに対する創薬をめざした分子の解析研究(金子、竹原、宇都、前川、村上、堀本)、2)治療効果を予測する診断法を開発する研究(金子、竹原、宇都、前川、村上、堀本)、3)HBVおよびHCVの複製を阻害する薬物、線維化の進展、発がんを抑制する薬物の開発研究(金子、竹原、深澤、小原、菅、堀本)を実施した。
結果と考察
・研究代表者
1)EpCAM、CD90およびAFPは肝がん幹細胞の分子マーカーである。
2)EpCAMとAFP陽性の肝がんは生命予後が有意に悪い。
3)EpCAM陽性は脈管浸潤が多くCD90陽性は肺転移をおこしやすい。
4)EpCAM陽性はdUTPaseの発現が高く5FUに対する感受性が低い。
5)肝がんのMRI所見とEpCAM陽性がんとの関連を明らかにし画像による肝がん分類を行った。
・研究分担者(小原道法)
1)EpCAMを標的としてEpCAM発現を強力に抑制するanti-sense配列を同定し新規のsiRNAを作製した。
2)EpCAM陽性細胞を標的とするため、分担研究者の菅が作製した高親和性環状ペプチドをリガンドとして修飾したMENDリポソームの開発を行った。
・研究分担者(菅 裕明)
1)EpCAM を標的にして1.7 nMの解離定数をもつ特殊ペプチドを獲得した。
2)C末端に蛍光ラベル、およびアイソトープ標識することでEpCAM細胞を標識可能とし、まったく新規のイメージング法を開発した。
・研究分担者(深澤征義)
1)HCV感染細胞の脂肪滴画分の比較プロテオーム解析からDDX1、IMP1、IMP3がHCV産生に阻害的に働くことを明らかにした。
2)PI4KIIIα、MafBのHCV生活環への関与を明らかにした。
・研究分担者(竹原徹郎)
1)肝がんで高発現のBcl-xLを抑制するマイクロRNA let-7を同定した。
2)Bcl-xLが高発現するメカニズムとしてlet-7 の低発現が関与していることが示された。
・研究分担者(宇都浩文)
1)MnSODがHCV関連肝癌で高値であり肝予備能と関連し、関連肝癌の予後予測マーカー候補であることを示した。
2)HCV肝疾患患者血清中に増加するタンパクとしてAIM(別名CD5L)を同定し、肝線維化マーカー候補であることを明らかにした。
3)C4断片がHCV感染と関連するマーカーであることを明らかにした。
・研究分担者(前川伸哉)
1)ペグインターフェロン・リバビリン療法においてRANTES高値によって治療反応性が規定されることを明らかとした。
2)病態進展と肝発癌に関してバイオマーカーとして用いるためには各分子のcharacterizationが必要であることを示した。
・研究分担者(村上周子)
1)高容量のHBVを接種した群はウイルス量が急増しALTの上昇が見られ肝障害も早期に認めたが、感染時のウイルス量と3ヶ月後の線維化との関連はなかった。
2)HBV感染確認後に抗マウスTLR4抗体を投与した群で線維化の抑制が認められた。
・研究分担者(堀本勝久)
1)ウイルス性肝疾患の進展を抑制する新たな分子標的創薬に貢献するための標的分子探索法を開発した。単一標的候補分子の絞り込みによるドロップの危険性回避、標的候補分子に関する薬効の作用・副作用メカニズムの推定などに有用であることを示した。

これらの研究成果を用いて、今後は新規の診断と治療法の開発を行い、実用化を目指すことが重要であると思われる。また、学術的には、とりわけ幹細胞を中心とする肝組織に及ぼす分子病態を解明すること、肝炎ウイルス感染などの侵襲がEpCAM陽性がん幹細胞などに及ぼす影響を明らかにすることが必要と考えられた。
結論
計画通りに創薬を目指した分子の解析研究が進められ、EpCAM、let7、脂質代謝、線維化に対して創薬研究が進められた。診断法の開発もMnSOD、AIM、補体C4断片、RANTESの診断薬としての可能性を明らかにした。とりわけ、EpCAMに対する診断および創薬の研究は良好な進捗を示し、活性の強いsiRNA製剤および極めて高い結合を示す特殊ペプチド製剤が作製され、培養細胞および動物実験において効果が示された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201227003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ウイルス性肝疾患の進展、とりわけC型慢性肝炎の進展と、肝細胞癌の発生に関与する複雑な分子機序の解明と、EpCAMなど診断および治療の重要な標的分子の抽出に成功した。この成果をもとに、ウイルス性肝疾患のEpCAMなど重要な標的因子に対する画像診断および血液新規診断法の開発研究を行った。本研究の成果を用いてMRIと腫瘍マーカーを用いた肝がんの分類を行うことが可能となった。また、発がんにいたる解析から新規の薬剤を開発する基盤研究を行った。
臨床的観点からの成果
C型慢性肝炎に対する新しい薬剤の登場によってウイルスが安全に効率よく排除できる。しかし、肝細胞がんの発症は今後も多いことが予想されている。本研究の成果によって、新たなウイルス性肝炎、肝がん治療薬の進展を予測する新規の診断法を開発することが可能となった。また、ウイルス性肝炎の進展阻止、線維化阻止、発がん抑制を目指したsiRNAおよび特殊ペプチド製剤の創薬が可能となった。とりわけ、肝細胞癌の進展に関与する分子の診断と、治療法の標的とする分子が明らかにされ、臨床に使用できる方法を発表した。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は肝炎対策基本法に沿って行われたものであり、厚生労働省の肝炎治療戦略会議の研究課題であるウイルス性肝疾患の診断と治療法の開発にあたる研究が実施された。今後、慢性肝炎治療指針および肝癌診療ガイドラインなどに使用される新たな診断法および治療法になりうる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
国民病とされてきたウイルス性肝疾患が適正に診断され治療されることは、国民の衛生に大きく貢献する。また、長期にわたる障害を改善し、肝細胞癌の発生および肝細胞癌による死亡数を低下させることは医療経済上の意義が大きい。環状ペプチドおよびsiRNAによる診断および治療法の開発は、他の疾病にも応用が可能であり、我が国の医療機器および医薬品開発に大きく貢献することが期待される。
その他のインパクト
本研究の成果は評価の高い国際誌であるHepatology、Cancer Research、Radiology、Gastroenterologyなど多数の一流誌に掲載された。また、アメリカ肝臓学会をはじめとして国際学会および日本消化器病学会、日本肝臓病学会など国内学会において発表された。また、本研究をもとに、ウイルス性肝疾患以外の領域の研究者と新しい共同研究が多数始まっており、本研究の成果が学際的な広がりをしめしている。また、企業の参加も始まっており、経済的な波及効果も大きかった。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
83件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
56件
学会発表(国際学会等)
45件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
2018-03-20

収支報告書

文献番号
201227003Z