虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考案および検証を目的とした調査研究

文献情報

文献番号
201217016A
報告書区分
総括
研究課題名
虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考案および検証を目的とした調査研究
課題番号
H24-長寿-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
飯島 勝矢(東京大学 高齢社会総合研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 大内 尉義(東京大学医学部付属病院)
  • 菊谷 武(日本歯科大学大学院生命歯学研究科)
  • 東口 高志(藤田保健衛生大学 医学部)
  • 高田 和子((独)国立健康・栄養研究所 栄養教育研究部)
  • 大渕 修一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
24,768,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
虚弱には加齢性筋肉減弱症(サルコペニア:sarcopenia)が重要であり、介護予防の達成には虚弱とサルコペニアの概念整理が必要である。本研究は「高齢者における食の問題を今改めてどう考えるか」という点から出発し、高齢者の虚弱対策をより早期から見直すため「虚弱化をどう簡便に評価し、食への早期の気づきを与え行動変容に繋げるか」という点に焦点を当てた。そこで食環境の悪化から始まり筋肉減少を経て、最終的には生活機能障害に至る構造に着目した新概念『食の加齢症候群』として位置付け、大規模調査を行った。
研究方法
千葉県柏市在住の満65歳以上の高齢者2044人(無作為抽出、平均73.0±5.5歳、男女比1:1、前期:後期高齢者6:4)を対象とし、来場型(全28回)の『栄養とからだの健康増進調査』を実施した。調査項目は歯科口腔系、身体能力及び計測、体組成測定からの筋肉量推定、社会・生活・心理・認知機能面にわたり調査を行った。
結果と考察
以下の4つに関して検討を行った。
①65~69歳のデータを基準(ゼロ)とし、男女別に5歳刻みでの加齢変化(低下傾向)を検討した。まず四肢筋肉量が特に顕著であり、下腿周囲径も加齢変化で著明に低下した。身体機能としては立ち回り(TUG)が男女とも著減であり、他の測定項目も全て低下傾向を示した。逆に体格指標であるBMIは男女とも著明に低下は示さなかった。口腔では残存歯数が著減で、続いて義歯装着率やガム咀嚼、ディアドコ(カの発音)、舌圧、咬合力などが著明であった。(逆に舌厚や嚥下機能は男女とも著変なし)食品多様性は加齢変化で比較的増加しやすい項目であった。代表的栄養指標である血清アルブミンおよび総コレステロールは著明な低値を示した集団はおらず、栄養障害が顕在化する前の早期指標の検討が課題と考えられた。
②男女別にSarcopenia群、Intermediate-Sarcopenia群、Non-Sarcopenia群の3群比較を行ったところ、S群になるほどに骨粗鬆症、骨折既往、脳卒中が多く、内服薬剤数も多く、また「肉類が噛みにくいため食べる量が減っている」と自己評価が多かった。また全ての身体能力、BMIおよび3部位の周囲長(下腿、大腿、上腕)、上腕筋周囲長は著減した。口腔系では咀嚼力や残存歯数、ディアドコ、舌圧、GOHAI得点などの低下が有意であった。また、女性においては人とのつながりが著明に低下しており、共食よりも孤食の頻度が増えていた。
③サルコペニア早期診断のために簡便に測定できる項目を用いたスクリーニング法を開発した。それに用いるのにふさわしいと考えられた7測定項目(年齢、BMI、握力、大腿周囲長、下腿周囲長、上腕周囲長、第1-2指間厚)のサルコペニア予測の有用性を検討し、男性では年齢、BMI、握力、大腿周囲長の4項目が、女性ではその4項目に上腕周囲長を加えた5項目が有用であり、その予測力は男女とも極めて高かった。さらに、これらを用いて簡易スコア表を作成し、スクリーニング時のカットオフ値についても検討し有用であった。
④3種類の新たな簡便な検査(指輪っかテスト、ピンチ力測定、第1・2指間厚測定)を導入し、他の調査項目との関連を検討した。特に指輪っかテストにおいて、隙間が出来てしまった集団(体格の割には下腿筋肉量が少なめと推測)はそうでない集団と比較し、握力に代表される様々な身体能力や身体計測などが有意に低下しており、さらに1日の食事量が少ないと自己判断している方々が多かった。本研究において従来踏込みの弱かった食と虚弱の関係に対しての最新の取組みを行った。自立・要支援の高齢者におけるデータを基に、サルコペニアの有無3群比較から身体機能や計測だけではなく、口腔データ不良や咀嚼力を有する歯ごたえのある食品群への対応の限界がはっきり見えてきた。2年目に向けて同受診者を追跡調査し、サルコペニアを背景とした虚弱が進んだ対象者においてどのような要素を持ち合わせているのかを解析する。
結論
栄養・運動・口腔の3要素は重要であり、医療機関への受療機会のみではなく、普段の生活において自助・互助・共助の精神の下、高齢者自身に低筋肉量・低筋力に対する早期の気づきを与え、顕在化していない生活機能障害や食欲減退因子の存在などに対して、より早くから意識させることが必要である。またそれを達成でき得れば、高齢者自身の興味の機運も高まり、継続性の高いコミュニティー活動に発展していく可能性がある。地域における事業や介護保険さらには医療保険における予防の取り組みを改善するとともに、『食の加齢症候群』に基づく食の虚弱モデルや標語を国民に広く知らしめ、メタボ、ロコモに並ぶ自助・共助・互助の下、有効な国民運動とすることに寄与するものと考える。

公開日・更新日

公開日
2013-07-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-12-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
201217016Z