室内環境の評価法及び健康影響の予測法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200201119A
報告書区分
総括
研究課題名
室内環境の評価法及び健康影響の予測法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
田辺 新一(早稲田大学理工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 東敏昭(産業医科大学)
  • 加藤信介(東京大学)
  • 渡辺弘司(健康住宅普及協会)
  • 岸田宗治(健康住宅普及協会)
  • 松本真一(秋田県立大学)
  • 龍有二(北九州市立大学)
  • 秋元孝之(関東学院大学)
  • 岩田利枝(東海大学)
  • 岩下剛(鹿児島大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、シックハウス症候群に関してその室内環境の評価方法及び健康影響の予測法の開発を行うことである。
研究方法
化学物質の室内濃度に影響を与えるのは、建材・施工材等からの放散量、換気量、室内温湿度、時間などである。それらのパラメータを検討するために以下の研究を行った。
1)パッシブ法による放散速度測定法の開発:VOC-ADSECの捕集時間を変更し、捕集量の変動を調べた。ADSECの精度を上げるための工夫を行った。
2)PFT法による換気量の測定:トレーサーガス源の放散特性、サンプラーのサンプリングレイトを追加して実験を行い、換気量算出式の精度を向上させた。
3)新築集合住宅における室内空気質調査:新築集合住宅で夏季にパッシブ法による気中濃度・放散速度・換気量測定、ヒアリング調査を行い、パッシブ測定法の有用性を確認した。
4)季節による新築戸建て住宅室内空気質調査:新築戸建住宅において夏季、冬季に室内空気環境を測定して評価し、居住影響などを検討した。
5)健康影響予測に関わる室内空気中の化学物質要因による生体影響知見の整理:文献調査の後、室内環境を配慮した新築建造物において、VOCsを測定した。また質問紙を作成した。
6)吸着性建材による室内化学物質濃度の低減に関する実験と数値解析:吸着現象をモデル化し、実大スケールの居室モデルに適用した場合の濃度低減効果をCFDにより検討した。
7)東北地域の住宅における健康性に関わる室内環境の実態調査:寒冷地の高断熱高気密住宅において、冬季に気中濃度、床放散速度、換気量を実測した。
8)計画換気を用いた工業化住宅における室内空気質に関する研究:新築木造住宅において空気質を測定し、気中濃度の経時変化、各部位からの影響、換気システムの違いの影響を検討した。
9)新築集合住宅におけるホルムアルデヒド濃度・揮発性有機化合物濃度・浮遊真菌の実測調査:新築集合住宅において、VOCs、ホルムアルデヒド濃度、浮遊真菌を測定した。
10)住宅における室内空気環境・ダニ生息実態調査:築後年数、建築工法の異なる一般住宅においてダニ生息調査を行い、新築住宅入居後にダニ生息密度及び室内空気環境を追跡調査した。
11)文教施設における室内空気環境の調査研究:鹿児島市内にある9小学校、22教室において夏季にVOC濃度測定を行った。
12)煉瓦造住宅の内壁に設置した窯業系内装ボードのホルムアルデヒド吸着性能に関する研究及び北部九州の基礎断熱住宅における室内空気質実測調査:乾式施工可能な窯業系内装ボードを用いた場合の室内空気質を実測し、ホルムアルデヒドに対する吸着効果を確認した。また、基礎断熱とした住宅において床下空間を含めた空気・熱環境について実測調査した。
結果と考察
1)VOC-ADSECの捕集時間変更実験において、高放散建材を測定したパッシブサンプラーVOC-SD、及び低放散建材を測定したパッシブサンプラーVOC-TDでは捕集時間と捕集量が比例して増加した。また、改良したシリコンシート、重りを用いることでADSECと測定面との隙間をなくし、測定精度を向上させた。
2)雰囲気温度とトレーサーガス放散量の関係を求めた。製作したトレーサーガス源が利用できることがわかった。また、実験によりサンプリングレイトを求め、換気量の算出が可能となった。さらに、1週間のサンプリングレイトなど精度向上のための実験が必要であると考えられる。
3)24時間換気システムの有無による換気効果が確認された。また、居住者の有無で住戸を比較することにより、居住行動が空気質に与える影響が確認された。PFT法による換気量測定を行い、非居住で換気システム稼動時の換気回数は0.41回/h、居住で換気システム稼動時は10.9回/hであった。
4)測定した気中濃度は低く、居住者が意識的に換気を行っている効果と考えられた。床・壁・天井のホルムアルデヒド、アセトアルデヒドの放散速度に違いが見られた。しかし、低放散建材使用のため、放散速度は低く、気中濃度も低かった。ヒアリング調査結果と測定結果を併せて、飲酒行動によるアセトアルデヒドの気中濃度増加が確認された。
5)PC工法を用いて建設された鉄筋コンクリート造の新築ビルにおいてVOCs濃度を実測し、従来の住宅やビルと比較した結果、厚生労働省から指針値が示されている化学物質のうち、トルエン以外は検出されなかった。検出されたトルエンも従来よりも低く、室内環境に配慮した効果が見られた。しかし、TVOCは416μg/m3と暫定目標値を超えており、対策が必要であると考えられた。
6)室内において汚染質が床面から発生し、床四周の外気による換気のみの場合、床面付近に汚染質が滞留し高濃度になりやすかった。実スケールの居室モデルにおいて、吸収分解石膏ボードの設置は室内空気中のホルムアルデヒド濃度の低減に効果があった。特に汚染物質が発生し、室内気流により排出される間、上流側での設置による濃度低減効果が大きかった。
7)ホルムアルデヒド濃度は対象住宅3戸とも厚生労働省の指針値以下であったが,TVOC濃度は3戸中2戸の住宅で指針値を上回った。在来型住宅を除く2戸では気中濃度は床からの影響を受けていると考えられた。また、自然換気量が大きい在来型住宅へのPFT法による換気量測定法の適用には課題が残った。
8)ホルムアルデヒド濃度は全ての施工段階において厚生労働省の指針値を満たしており、対策が十分に成されていると考えられたが、アセトアルデヒドについては引渡完了直後において指針値を上回った。トルエンを除き、各施工段階においてVOCsは指針値を満たした。トルエンの要因としては、床、壁、天井以外に室内に存在している接着剤や施工材等が考えられた。しかし、時間と共に減衰が見られ、入居時には快適な空気環境が保たれていた。また、第1種換気よりも第3種換気が高めの傾向を示した。
9)化学物質に関して、トルエンは建材と生活由来の双方から発生されていると考えられた。ホルムアルデヒドについては棟内差が小さく、棟間差が大きかったことから建材以外の影響は少ないと考えられた。物質間での相関はp-ジクロロベンゼンとリモネンに高く見られた。浮遊真菌に関して、季節間で有為な差が見られ、居間、寝室では相対湿度、部屋の位置、掃除頻度の影響が大きかった。
10)一般住宅のダニ調査では、ダニ生息密度と各種要因間の相関は明確でなく、ダニ密度とファインダスト量では明らかな相関が認められた。戸建住宅群とマンション群の間のダニ生息密度にも有為な差はなかった。追跡調査では、高気密・高断熱住宅の畳で著しい増加傾向が見られた他は低い生息密度で推移していた。ホルムアルデヒドとTVOCについては、入居前には指針値を超えていたが、3年後には下回っていた。
11)検出されたVOC濃度は築年数と共に指数関数的に減衰していた。初期減衰が大きく、塗料や接着剤由来と考えられた。一方、木材や防臭剤からの発生が考えられるVOCについては築年数減衰傾向が見られなかった。また、内装工事直後の教室では、エチルベンゼン、キシレンなどが高濃度であった。カビ発生室に近い教室では、カビ由来と考えられるVOCが検出された。ワックス塗布中の教室では、非常に高濃度のVOCが検出された。
12)内装材をパーキュライトを主成分とした窯業系ボードとした試験室のホルムアルデヒド濃度は、標準的なクロス張りの試験室の濃度を大きく下回っており、ホルムアルデヒド吸着性能が認められた。また、同程度の換気量であれば、窯業系ボードを設置した試験室の方が低濃度であった。VOCについても同様で、VOC濃度低減効果も見られた。
結論
床・壁・天井からパッシブ測定法で放散速度を測定するADSECの精度向上を行った。パッシブ法で換気量を測定するPFT法のトレーサー源、サンプル源を検討し、サンプリングレイトを実験により求め、実住宅での換気量測定を行った。自然換気時などの換気量が多い場合には問題を残したが、機械換気時には概ね1日単位の換気量を測定できた。また、新築住宅の測定を行い、24時間換気システムを稼動することにより指針値以下の空気環境を保つことができることが確認できた。加えて、放散量、換気量を同時に測定することにより、生活行動影響の知見が得られた。飲酒によるアセトアルデヒドや防虫剤のp-ジクロロベンゼンの発生が見られた。ホルムアルデヒド濃度と浮遊真菌、VOCs濃度と浮遊真菌には負の相関は見られなかった。また、カビやワックスなど建材以外にもVOC濃度を高める要因が認められた。さらに、窯業系内装ボードのホルムアルデヒド及びVOC吸着効果を確認した。CFDモデル(数値流体モデル)を用いた吸収分解石膏ボードによる室内濃度の低減効果の検討では、実験と良い対応を示し、室内気流の上流側での設置による濃度低減効果が大きかった。

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