公的扶助システムのあり方に関する実証的・理論的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100042A
報告書区分
総括
研究課題名
公的扶助システムのあり方に関する実証的・理論的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 玲子(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 橘木俊詔(京都大学教授)
  • 八田達夫(東京大学教授)
  • 埋橋孝文(日本女子大学教授)
  • 菊池馨実(早稲田大学教授)
  • 勝又幸子(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 阿部彩(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、公的扶助システムの機能と実態、社会保障システム全体における位置づけと役割に関して、理論的、実証的に分析することを目的とする。研究の第一の柱は、日本の生活保護受給者や低所得者の実態を実証的に分析し、今日的な意味における「貧困」の実態と公的扶助プログラムの効果を明らかにすることにある。第二の柱は、他の社会保障制度(年金・医療・失業保険・介護保険・福祉サービス)や公共政策(教育・雇用・住宅)との補完性・連関性を明らかにすることである。研究の第三の柱は、諸外国で着手されている公的扶助制度改革、ならびに、関連する経済学・哲学的議論を広く参照する一方で、我が国の実態に即した観点から、公的扶助システムのあり方について考察することである。
研究方法
具体的には、以下のサブ・テーマを分析する。①低所得者の生活実態と生活保護制度のもたらした効果に関する実証的研究、②公的扶助制度と他の社会保障制度との関係性に関する理論的、実証的研究、③制度・法・理念・国民意識の国際比較、④生活扶助プログラムに関連する理論的考察。①低所得者の生活実態と生活保護制度の効果についての実証的研究においては、「社会保障生計調査(生計簿、家計簿)」「所得再分配調査」などのマイクロ・データを用いて、生活保護世帯、保護を受けていない低所得者世帯を含む低所得世帯(者)の実態を検証する。初年度は、データの目的外使用申請、および初期分析を行う。②「公的扶助制度と他制度との関連に関する理論的、実証的研究」においては、住宅、教育、雇用等他制度との連関の中での公的扶助制度の役割・機能を制度的かつ法体系的に分析する。具体的には、社会保険制度(例えば、無年金者と生活保護との関係、医療保険や介護保険と医療扶助等との関係など)・公共政策(住宅等)、教育・再教育制度、就労制度、他制度と生活保護の補完性を精査し、中央政府と地方自治体との関係なども視野に含めながら、公的扶助制度の位置づけを検討する。初年度は、主に他テーマからの分析の結果を検討する。③「制度・法・理念・国民意識の国際比較」については、各国における公的扶助制度を、社会保障給付費などのマクロ・データや、その制度、法体制、理念や、政治的、経済的背景を考慮しながら、国際比較を行う。初年度は、基礎マクロ・データの整備と初期分析を行う。④「生活扶助プログラムに関連する理論的考察」については、厚生経済学、また、哲学的・倫理学的観点から、「貧困」と「公的扶助」を再考察する。初年度は、特に厚生経済学の観点から、「貧困」概念の再定義、貧困・貧困ラインの諸測定方法に関する比較検討を行う。また、二年度からは、公的扶助を支える理念とその変遷に関する考察、と、公的扶助をめぐる諸規範理論の比較検討、の2つを行う。
結果と考察
平成13年度は、計6回研究会を開催し、岩田正美(社会学)、小沢修司(社会福祉学)、柴田謙治(社会学)、前田雅子(社会福祉法)、西村淳(厚生労働省)など多彩な研究者・実務者からのヒアリングを行った。これら研究会には、厚生労働省の関係部局の行政官も出席し、研究と実務の両サイドからの活発な議論が行われた。またこれと併行して、研究課題の4つのサブ・テーマに関する予備的な調査・研究が行われた。主要な研究成果は以下の通りである。①公的扶助と他の社会保障制度や公共政策との連関を捉える基本的な構図の作成。②ホームレス支援団体の視察とホームレスの人々の生活の実態に関する
参与観察。③OECDの調査報告など公的扶助制度の国際比較に関する先行研究の検討。④アメリカやイギリスの公的扶助改革の動向とその効果・影響に関する文献サーベイ⑤社会保障制度が貧困脱却の可能性に及ぼす影響に関する国際比較⑥貧困の定義に関するタウンゼントの相対的剥奪理論とアマルティア・センの潜在能力理論の比較検討など。
結論
公的扶助の研究にあたっては、次の2点が重要であることが確認された。第一に、公的扶助を孤立した制度として捉えるのではなく、他の社会保障制度や公共政策と相互連関性をもつシステムとして捉えること。第二に、公的扶助の受給を帰結として捉えるのではなく、プロセスにおいて捉えること。換言すれば、公的扶助受給者自身のライフ・ステージの中での公的扶助の意味(効能)に着目することである。今後は、①日本の生活保護制度に焦点を当てながら、医療保険・介護保険と医療扶助、あるいは、公的年金保険と生活保護との間の補完性・整合性を理論的に解明すること、②公的扶助受給者の受給前後の生活・行動様式ならびに生活困窮者の生活・行動様式に関して実証的に研究すること、③諸外国の福祉国家システム像に関する理論研究と内外における現地調査をもとに公的扶助制度の役割と位置付けに関する見取り図を描くこと、④貧困概念の再定義を行い、<基本的福祉>を捉えるための新しい指標を仮説的に構築すること、⑤これらの理論研究をもとに、貧困や福祉に関する国民意識を捉えるための予備的調査を行うことが主要な柱として設定される。

公開日・更新日

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