食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究

文献情報

文献番号
201823030A
報告書区分
総括
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究
課題番号
H30-食品-指定-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
古江 増隆(九州大学 大学院医学研究院皮膚科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 赤羽 学 (奈良県立医科大学 公衆衛生学講座)
  • 辻 学(九州大学病院皮膚科)
  • 香月 進 (福岡県保健環境研究所 )
  • 二宮 利治 (九州大学 大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野 )
  • 申 敏哲(シン ミンチョル)(熊本保健科学大学 保健科学部リハビリテーション学科 )
  • 園田 康平(九州大学 大学院医学研究院眼科学分野 )
  • 福士 純一 (九州大学医学研究院人工関節・生体材料学講座)
  • 鳥巣 剛弘(九州大学病院消化管内科)
  • 古賀 信幸(中村学園大学 栄養科学部 )
  • 月森 清巳(福岡市立こども病院 )
  • 辻 博(北九州若杉病院西日本総合医学研究所)
  • 中西 洋一(九州大学 大学院医学研究院呼吸器内科学分野)
  • 山下 謙一郎(九州大学病院 神経内科)
  • 石井 祐次(九州大学 大学院薬学研究院分子衛生薬学分野)
  • 竹中 基(長崎大学医師薬学総合研究科皮膚病態学分野)
  • 室田 浩之(長崎大学医師薬学総合研究科皮膚病態学分野)
  • 上松 聖典(長崎大学病院 眼科)
  • 川崎五郎(長崎大学医歯薬総合研究科口腔腫瘍治療学分野)
  • 戸高尊(北九州生活科学センター)
  • 近藤英明(油症ダイオキシン研究診療センター)
  • 三苫千景(油症ダイオキシン研究診療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
183,959,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 竹中基→(平成28年11月12日~30年5月31日)→室田浩之(平成30年6月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
PCB類・ダイオキシン類の生体への影響、生体内動態を把握し、ダイオキシン類の毒性を緩和する治療法・対処法を見出すことである。
研究方法
1.油症患者の支援と治療研究の推進、2.臨床的追跡調査・疫学調査、3.基礎的研究に分けて行った。1は検診データベースや患者の支援制度の充実、測定機器の精度の維持、2は検診結果をもとに症状や血液中ダイオキシン類の生体内濃度の追跡調査、死因および継世代の調査、3はダイオキシン類の毒性と代謝を明らかにした。
結果と考察
<油症患者の支援と治療研究の推進>
油症相談員、相談支援制度は充実し、検診やアンケート調査、訪問検診などの補助業務に加え、死因調査の基盤作りが完成した。今年度も福岡、長崎、広島にて知識の共有、患者の生活の質の向上のため、運動、栄養、漢方セミナーを実施して好評を得た。患者におけるPCB異性体の特徴的な代謝蓄積に関与しているCYP分子種を推定し、患者血液中PCBの鏡像異性体(キラル体)分離定量法を検討した。また、血液中PCB・ダイオキシン類の測定精度を保つため、大量注入装置内の分析カラムの精度・感度について検証した。
<臨床的追跡調査・疫学研究>
全国油症検診結果については、今年度は平成29年度油症検診結果を解析した。受検者の高齢化は進み、例年通り全身倦怠感と、肝・胆・脾エコーの有所見率が高かった。患者の血液中2,3,4,7,8-PeCDF濃度分布は広範囲だったが、約60%の患者は50 pg/g lipid未満であった。患者における眼病変においては、福岡県検診では眼脂過多が多いこと、長崎県検診では平均眼圧は健常人と有意差がないことが分かった。口腔細菌数と病変の関連については、口腔粘膜色素沈着は認定者において有意に多くみられたが、口腔細菌数と口腔粘膜所見との間に関連はみられなかった。患者の運動機能を評価した結果、男性ではtotal 06TEQとファンクショナルリーチおよび握力との間に負の相関があることが分かった。患者の症状を東洋医学的に検証した。今年度の福岡県検診にて8割以上の患者に手掌紅斑がみられた。患者の不眠有症率は高く、様々なダイオキシン類TEQとの相関がみられた。患者の免疫機能については、T細胞の制御に関わり、アレルギー性疾患に寄与するとされるSema7aは患者では高値ではないがPCB濃度と関連していること、血清IL-13濃度は健常人と有意差がないことが分かった。また、患者において末梢血液中のT細胞の低下にPCBの慢性的影響が示唆された。一般住民を対象にした検診結果の解析においては、年齢・性で補正するとAGEs量と2,3,4,7,8-PeCDF濃度との間に関連はなかった。2001~2016年を前半、後半に分けて解析した結果、個々の患者の2,3,4,7,8-PeCDF半減期も延びていることが明らかになった。継世代への影響については、ダイオキシン類の母体曝露による児への移行は少ないが、2世における皮膚・粘膜の色素沈着に関与している可能性が示唆された。
<基礎的研究>
ベンゾピレンを用いて神経障害、肺傷害を検証した。SP-Dはベンゾピレンによる培養Club細胞のアポトーシスに対して保護的役割を果たした。ケイヒ等がベンゾピレンにより生じる感覚異常の症状改善に寄与する可能性が示唆された。オートファジーに関する研究においては、オートファジー不全状態であると細胞接着班の分解が抑制され細胞接着が亢進すること、AHRを刺激するリガンドでヒト表皮細胞を刺激したところ、オートファジーが誘導されることを明らかにした。2,4,6-三酸化置換ベンゼンを有するPCB異性体、PCB155は代謝されやすく、代謝産物M1生成にフェノバルビツール誘導性CYP2B酵素が関与していることが分かった。TCDD母体曝露による出生時の性未成熟の機構については、Ahr遺伝子欠損ラットでは精子数の減少がみられ、AHRそのものが思春期における精巣の発達に影響している可能性が示唆された。ダイオキシン誘導性蛋白、SeleBP1の脂質代謝への関与が示唆された。
このように、ダイオキシン類の慢性影響、生体内動態、毒性機構、次世代への影響について明らかになりつつある。将来的に、油症の症状を緩和する新しい治療薬の発見・開発につなげたい。
結論
油症発生から50年が経過した現在も、患者及び継世代への影響がみられた。今後もダイオキシン類が生体に及ぼす慢性の影響を把握し、油症患者に残存する症状を緩和する方法を開発すべく探求を継続する。なお、研究を通じて明らかになった様々な知見についてはホームページ、油症新聞等で広く公表した。

公開日・更新日

公開日
2019-09-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

倫理審査等報告書の写し
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2019-09-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201823030Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
209,713,000円
(2)補助金確定額
209,713,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 53,589,637円
人件費・謝金 33,720,143円
旅費 3,493,520円
その他 93,155,841円
間接経費 25,754,000円
合計 209,713,141円

備考

備考
利息141円を支出に含む

公開日・更新日

公開日
2020-06-19
更新日
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