脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小に関する研究

文献情報

文献番号
201508028A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小に関する研究
課題番号
H25-心筋-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
飯原 弘二(九州大学 脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 小笠原 邦昭(岩手医科大学 脳神経外科)
  • 塩川 芳昭(杏林大学 脳神経外科)
  • 宮地 茂(大阪医科大学 脳神経外科)
  • 吉村 紳一(兵庫医科大学 脳神経外科)
  • 豊田 一則(国立循環器病研究センター 脳血管内科)
  • 西村 邦宏(国立循環器病研究センター循環器病統合情報センター 統計解析室)
  • 嘉田 晃子(名古屋医療センター臨床研究センター 臨床試験研究部生物統計研究室)
  • 中川原 譲二(国立循環器病研究センター 脳卒中統合イメージングセンター)
  • 松田 晋哉(産業医科大学 公衆衛生学)
  • 奥地 一夫 (奈良県立医科大学 救急医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
6,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、全国のDPC/レセプトデータを用い、地域の特性に応じた救急医療体制、脳卒中センターの適正な配置を構築して行く上で必要な情報を解析することを目的とする。
研究方法
1)日本の脳神経外科医療の可視化に関する研究・全数調査
 日本脳神経外科学会の教育訓練施設(研修プログラム基幹施設、研修施設)847 施設の中で、本研究に参加することを同意した施設および、「脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小に関する研究」(J-ASPECT Study)に参加することを同意した施設を対象に、平成24 年4 月1 日から平成26 年3 月31 日の間に退院となった予め選定した脳神経外科医療に該当する患者データを、DPC、電子レセプト情報から抽出し、アウトカム指標に対するプロセス指標の影響を解析する。その中から代表的な脳神経外科医療として、破裂脳動脈瘤、未破裂脳動脈瘤、内頸動脈狭窄症を取り上げ、直達手術、血管内治療の治療選択と治療成績、在院日数、医療費などを比較検討した。
2)レセプト等情報を用いた脳卒中救急疫学調査
 上記施設のうち、主傷病名、入院の契機となった傷病名、最も医療資源を投入した傷病名のいずれかに、脳卒中(脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳内出血、くも膜下出血、もやもや病)および脳卒中に関連する疾患のICD-10病名を含む症例を抽出する脳卒中救急疫学調査を行った。本研究では、1)申請者の先行研究(平成22-24年度厚生労働科学研究)と合わせ、平成22年から平成25年度のデータを用いて解析を行なった。
3)脳卒中診療施設調査(再調査)
 上記施設に対し、同時に脳卒中診療施設調査を行い、包括的脳卒中センターの推奨要件に関する調査を行った。脳卒中センターの推奨要件は、専門的人員、診断機器、外科・介入治療、インフラ、教育・研究の5つの大項目からなる。この調査は、平成22-24年度厚生労働科学研究「包括的脳卒中センターの整備に向けた脳卒中の救急医療に関する研究」で初年度に施行しており、引き続き平成26年に実施することで、推奨要件の経時的な変化を解析した。CSCスコアを構成する25項目は1回目の調査と同様とした。
結果と考察
1)日本の脳神経外科医療の可視化に関する研究・全数調査
① 破裂脳動脈瘤
 クリッピング群3624例、コイリング群1590例を抽出した。両者の比較では、高齢者及び重症度が高い症例はコイリングが選択される傾向にあった。コイリング群はクリッピング群と比較し、1.29倍死亡率が高かった。退院時mRSは、クリッピング群、コイリング群とも同等であった。
② 未破裂脳動脈瘤
 クリッピング群3710例とコイリング群2619例を抽出した。脳梗塞ではコイリング群が、術後合併症ではクリッピング群が有意に高かったが、死亡率と退院時mRSでは2群間に差は認めなかった。
③ 内頚動脈狭窄症
 動脈血栓内膜剥離術(CEA)1655件、経皮的頸動脈ステント留置術(CAS) 2533件がを抽出した。背景は年齢がCASのほうが若干高かったが、その他に2群間に差はなかった。死亡、脳梗塞、脳出血などのアウトカムに関しても、2群間に差はなかった。
2)レセプト等情報を用いた脳卒中救急疫学調査
 小都市の施設に入院した患者の特徴として、高齢、高血圧の割合が高い、救急車の使用率が低い、搬送された施設のCSCスコアが低い、急性期の治療介入の割合が低い、ことが明らかになった。また、小都市の症例では死亡率が高く、上記要因が関与していると考えられた。
3)脳卒中診療施設調査(再調査)
 参加協力施設は、2011年が749施設であったが、2015年は532施設と減少した.連続回答施設は447施設であった。全体である749施設と532施設の変化と、連続回答が行われた447施設の変化を比べた。全体の変化と連続回答施設の変化の傾向はほぼ同様で、いずれも全体でのCSCスコアは増加していた。大項目としては「Personal」と「Infrastructure」における点数の増加が目立ち、これは,血管内治療の普及が大きな要因であると考えられた。

結論
 本研究を通じ、本邦における脳神経外科医療・脳卒中医療の現状が可視化された。これらの結果は、全ての脳神経外科・脳卒中に携わる医療関係者にとって貴重な情報であり、今後の医療の質の向上に向けて、重要な基礎資料となり得るであろう。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201508028B
報告書区分
総合
研究課題名
脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小に関する研究
課題番号
H25-心筋-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
飯原 弘二(九州大学 脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 小笠原 邦昭(岩手医科大学 脳神経外科)
  • 塩川 芳昭(杏林大学 脳神経外科)
  • 宮地 茂(大阪医科大学 脳神経外科)
  • 吉村 紳一(兵庫医科大学 脳神経外科)
  • 豊田 一則(国立循環器病研究センター 脳血管内科)
  • 西村 邦宏(国立循環器病研究センター循環器病統合情報センター 統計解析室)
  • 嘉田 晃子(名古屋医療センター臨床研究センター 臨床試験研究部生物統計研究室)
  • 中川原 譲二(国立循環器病研究センター 脳卒中統合イメージングセンター)
  • 松田 晋哉(産業医科大学 脳神経外科)
  • 奥地 一夫(奈良県立医科大学 救急医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 超高齢社会を迎え、緊急性の高い脳卒中治療の集約化、広域化と連携強化は喫緊の課題であるが、厳然とした地域格差があるとされている(Toyoda et al. Stroke 2009, Nakagawara et al. Stroke 2010)。高度な急性期脳卒中医療を適正に整備をするには、まず二次医療圏毎に、診療施設の脳卒中センターの推奨要件(人的要因、診断機器、インフラ、外科・介入治療、教育研究活動)の充足度を、継続的に調査することが重要であり、その上で急性期脳卒中症例の施設集中度、推奨要件の充足度が、アウトカムに与える影響を検証する必要がある。本研究では、全国のDPC/レセプトデータを用い、地域の特性に応じた救急医療体制、脳卒中センターの適正な配置を構築して行く上で必要な情報を解析することを目的とする。
研究方法
1)脳卒中診療施設調査(再調査)
 本年度は先行研究(平成22-24年度厚生労働科学研究「包括的脳卒中センターの整備に向けた脳卒中の救急医療に関する研究」)の中で施行した調査結果(Iihara K et al. J Stroke Cerebrovasc Dis 2014)をもとに、日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本神経学会の教育訓練施設を対象に、4年ぶりの診療施設調査を施行した。診療施設調査の内容は、米国Joint Commissionの推薦項目の改訂に基づき、適宜変更したものを平成27年2月に送付し、一回目との変化を調査した。ただし、CSCスコアを構成する25項目は1回目の調査と同様とした。
2)脳卒中患者退院調査(脳卒中医療の格差改善の検証)
 脳卒中(脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳内出血、くも膜下出血、もやもや病)および関連疾患のICD-10病名を含む症例を抽出し、2010年〜2013年度の期間における脳卒中大規模データベースを作成した。また、都市圏分類毎の、脳卒中医療の地域格差の検証を行なった。都市圏分類は、中心市町村のDID (Density Inhabited District:人口集中地区)人口が5万人以上である地域を大都市雇用圏(Metropolitan Employment Area: MEA)、中心市町村のDID人口が1万人から5万人である地域を小都市雇用圏(Micropolitan Employment Area: McEA)とし、さらにそれらの雇用圏を中心都市、郊外都市に分類した。
結果と考察
1)脳卒中診療施設調査(再調査)
 参加協力施設は、2011年が749施設であったが、2015年は532施設と減少した.連続回答施設は447施設であった。全体である749施設と532施設の変化と、連続回答が行われた447施設の変化を比べた。全体の変化と連続回答施設の変化の傾向はほぼ同様で、いずれも全体でのCSCスコアは増加していた。大項目としては「Personal」と「Infrastructure」における点数の増加が目立ち、これは,血管内治療の普及が大きな要因であると考えられた。全体(749施設と532施設の比較)において増加率が高いが、連続回答施設は2011年の点数がそもそも高いことが原因と考えられた。
2)脳卒中患者退院調査(脳卒中医療の格差改善の検証)
 各病型の人数は、脳梗塞が136,753人、脳出血が60,379人、くも膜下出血が17,778人であり、大都市雇用圏-中心、大都市雇用圏-郊外、小都市雇用圏-中心、小都市雇用圏-郊外の4つに分類した。以下に、全病型に共通した特徴を記載する。患者背景は、小都市で高齢者が多く、小都市中心部の患者の重症度が最も高かった。併存疾患は、小都市で高血圧を有する患者の割合が高かった。小都市では救急車の利用率が低く、搬送された施設のCSCスコアは低かった。小都市の急性期の治療介入(脳梗塞に対するt-PA・血管内治療、脳出血に対する開頭血腫除去術、くも膜下出血に対するクリッピング術もしくはコイル塞栓術)の割合は低かった。ただし、脳出血に対する血腫除去術は、小都市郊外でも大都市と同程度に行われていた。アウトカムは小都市の死亡率が高かった。小都市中心部において退院時mRS3-6の割合が最も高く、入院時の重症度と同じ傾向であった。脳卒中急性期医療には、患者背景、救急車の使用、施設の能力、治療介入において、格差が存在した、小都市(特に郊外)のアウトカムが悪く、上記要因が関与している可能性が示唆された。
結論
 包括的脳卒中センターのスコアは、日本全体で高くなっているものの、依然として地域格差は存在しており、国レベルでの対策が急務である。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-11-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201508028C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本脳神経外科学会・神経学会・脳卒中学会の教育訓練施設を対象にして、前年度に加療した脳卒中症例を、DPCデータからICD10コードをもとに抽出し、約20万件の大規模脳卒中データベースを構築した。本研究班で提唱した包括的脳卒中センタースコアが有意に急性期脳卒中の死亡率に影響を与えることを証明した。さらに、脳卒中の診療体制に関する施設調査を4年ぶりに平成26年に行い、主に血管内治療に関する要因で改善が認められていることを報告した。急性期脳卒中の救急搬送比率は小都市圏で大都市圏に比較して少なかった。
臨床的観点からの成果
脳卒中治療として、破裂脳動脈瘤、未破裂脳動脈瘤、内頸動脈狭窄症を取り上げ、直達手術、血管内治療の選択と成績、在院日数、医療費などを、患者要因、病院要因を考慮したマルチモデルで検討した。くも膜下出血では、本邦ではコイル塞栓術は増加傾向ではあるものの、未だクリッピング術が約2倍施行されており、死亡率もクリッピング術で低かった。また、脳卒中の外科治療、血管内治療の施設集中度とアウトカムの関係についても検討した。DPC情報を用いた本研究の妥当性を検証するためにValidation studyを施行した。
ガイドライン等の開発
研究班ホームページ上で、脳卒中治療のベンチマーキングを行う手法を構築し、研究参加施設が自施設の脳卒中治療の経時推移を継続的にモニターし、質の向上に資するシステムを構築した。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果は、今後、脳卒中・循環器疾患の征圧に向けての国家事業を策定する上で、全国的な俯瞰する視点で、本邦の脳卒中の医療提供体制の現状について、重要な情報を提供した。脳卒中を対象として、6年前に開始した本研究の手法は、日本循環器学会の学会事業JROAD –DPCにも採用され、脳卒中・循環器疾患の征圧を同一の観点から、年次推移や国際間の比較を可能とし、持続的な質の向上を図る具体的な手法を構築した。
その他のインパクト
参加施設には、自施設の治療成績をフィードバックしており、今後ベンチマーキングの効果を明らかとする予定である。本研究は、平成27年度から、日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会の公式学会協力研究に認定されたため、さらに今後登録症例数の増加が見込まれる。本研究の成果は、日本経済新聞一面、日経メディカルでも特集として取り上げられた。市民公開講座を開催した。(平成27年1月18日、平成28年1月10日)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Iihara K, Nishimura K, Kada A, Nakagawara J, et al
The impact of comprehensive stroke care capacity on the hospital volume of stroke interventions: a nationwide study in Japan: J-ASPECT study.
J Stroke Cerebrovasc Dis. , 23 (5) , 1001-1018  (2014)
原著論文2
Iihara K, Nishimura K, Kada A, Nakagawara J, et al
Effects of comprehensive stroke care capabilities on in-hospital mortality of patients with ischemic and hemorrhagic stroke: J-ASPECT study.
PLoS One , 9 (5) , e96819-  (2014)
原著論文3
Nishimura K, Nakamura F, Takegami M, Fukuhara S, et al
Cross-sectional survey of workload and burnout among Japanese physicians working in stroke care: the nationwide survey of acute stroke care capacity for proper designation of comprehensive stroke center in Japan (J-ASPECT) study.
Circ Cardiovasc Qual Outcomes. , 7 (3) , 414-422  (2014)
原著論文4
Kamitani S, Nishimura K, Nakamura F, Kada A, et al
Consciousness level and off-hour admission affect discharge outcome of acute stroke patients: a J-ASPECT study.
J Am Heart Assoc. , 3 (5) , e001059-  (2014)
原著論文5
Iihara K.
Comprehensive Stroke Care Capabilities in Japan: A Neurovascular Surgeon's Perspective.
Neurosurgery. , 62 (Supple1) , 107-116  (2015)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
2018-07-09

収支報告書

文献番号
201508028Z