大災害時の復旧・復興工事における労働災害の発生要因の分析及び対策の検討

文献情報

文献番号
201425019A
報告書区分
総括
研究課題名
大災害時の復旧・復興工事における労働災害の発生要因の分析及び対策の検討
課題番号
H24-労働-指定-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 和也(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 高梨 成次(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 堀 智仁(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 日野 泰道(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 豊澤 康男(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 理事)
  • 玉手 聡(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 大幢 勝利(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 高橋 弘樹(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 吉川 直孝(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年3月11日14時46分に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震並びにその後の大規模余震(以下,「東日本大震災」という。)は,死者15,891名,行方不明者2,584名,負傷者6,152名(平成27年3月11日現在,警察庁発表)となる戦後最大の震災となった。震災復旧工事は,安全のための十分な調査を待たずして開始されることが多く,震災復旧工事を行う作業員は不安全な状況下で作業を行わざるを得ない。特に,地震による被害の場合には,余震による被害の拡大も考えられるため,一般的な作業に比べてより慎重な作業が要求される。しかしながら,震災復旧工事では緊急の復旧工事を経験したことのある作業員は少なく,また,被災者を雇用することによる建設業への新規参入者が増えることなどから,十分な安全対策を行わずに作業を行い,労働災害に発展したケースもある。このため,地震により被災した箇所の震災復旧・復興工事について,その危険性を明らかにするとともに,現場に対して工事の進捗状況に応じた安全情報を適時に提供する必要がある。本申請研究では,大災害時の復旧・復興工事における労働災害の発生要因の調査・分析及びそれらを踏まえた的確な労働災害防止対策情報の提供を目指すものである。具体的に本申請研究では,以下の3項目について研究を行なう。
1) 東日本大震災及び過去の震災に係る復旧・復興工事による労働災害の調査・分析
2) 東日本大震災復旧・復興工事の実態調査
3) 大災害時の復旧・復興工事における労働災害防止対策の検討
研究方法
最終年度である研究3年度の研究計画では,研究2年度に引き続き「東日本大震災及び過去の震災に係る復旧・復興工事による労働災害の調査・分析」として①東日本大震災に係る復旧復興工事中の労働災害について調査・分析の実施,「東日本大震災復旧・復興工事の実態調査」として②被災地への現地調査による復旧・復興時の問題点等の抽出,及び「大災害時の復旧・復興工事における労働災害防止対策の検討」から③事前計画段階での復旧復興過程における実施可能な労働安全衛生対策の検討や④過去の国内外の大災害時の復興計画や安全対策の情報収集の実施を取り上げて実施した。
結果と考察
以下に最終年度である研究3年度の結果をまとめる。
(1)東日本大震災及び過去の震災に係る復旧・復興工事による労働災害の調査・分析
東日本大震災からの復旧・復興工事による災害事例収集を行い,東日本大震災による震災復旧・復興工事中の労働災害発生状況について分析した
(2)東日本大震災からの復興の工程表からみた労働安全衛生対策
震災発生時の被害予測から建築工事業における「墜落・転落」による労働災害発生の蓋然性を把握するモデル構築に関して,首都直下地震における建築工事業における「墜落・転落」災害の発生頻度の推定に関する試検討を行った。また,新規参入者等への安全衛生教育ツールとして労働災害事例を「漫画化」した教育ツールの有効性に関して,建設業の労働安全衛生教育を実施している現役講師へのアンケート調査を実施した結果を記述した
(3)大災害時の復旧・復興過程のシナリオに応じた労働安全衛生対策の検討
ニュージーランド・カンタベリー地震後のクライストチャーチでの復旧・復興工事について,現状の把握およびニュージーランド政府や関連機関の取組みについて取り纏めて,今後我が国にて行うべき安全衛生対策の方向性を記述した。
結論
今年度実施した研究成果により,
① 過去の地震により被災した箇所の震災復旧・復興工事中の労働災害事例のデータベースの作成
② 東日本大震災における現状の労働災害発生蓋然性が高い工種の事前情報の提供
③ 過去の震災による震災復旧・復興工事中の労働災害事例と労働安全衛生対策
が行える。①については,(独)労働安全衛生総合研究所ホームページに成果がまとまり次第逐次公表しており,一部は転載されている。また,②は,労働災害発生蓋然性が高い建築工事における墜落災害について,木造建物一部損壊被害との相関性が強いことを明らかにし,首都直下地震後の復旧復興工事における墜落災害の多発箇所(ホットスポット)の提示を日本地震工学シンポジウムに投稿した。また,③については,ニュージーランド・カンタベリー地震によるクライストチャーチでの震災復旧復興工事の状況等についてニュージーランド政府機関や労働安全衛生の外郭団体への現地調査を行った結果を「労働安全衛生研究」に投稿し掲載が決定している。厚生労働科研費終了後もデータの取りまとめ等を継続的に行い,成果を一般に公表・活用できるように努める。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201425019B
報告書区分
総合
研究課題名
大災害時の復旧・復興工事における労働災害の発生要因の分析及び対策の検討
課題番号
H24-労働-指定-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 和也(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 高梨 成次(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 堀 智仁(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 日野 泰道(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 豊澤 康男(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 理事)
  • 玉手 聡(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 大幢 勝利(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 高橋 弘樹(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 吉川 直孝(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年3月11日14時46分に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震並びにその後の大規模余震(以下,「東日本大震災」という。)は,死者15,891名,行方不明者2,584名,負傷者6,152名(平成27年3月11日現在,警察庁発表)となる戦後最大の震災となった。震災復旧工事は,安全のための十分な調査を待たずして開始されることが多く,震災復旧工事を行う作業員は不安全な状況下で作業を行わざるを得ない。特に,地震による被害の場合には,余震による被害の拡大も考えられるため,一般的な作業に比べてより慎重な作業が要求される。しかしながら,震災復旧工事では緊急の復旧工事を経験したことのある作業員は少なく,また,被災者を雇用することによる建設業への新規参入者が増えることなどから,十分な安全対策を行わずに作業を行い,労働災害に発展したケースもある。このため,地震により被災した箇所の震災復旧・復興工事について,その危険性を明らかにするとともに,現場に対して工事の進捗状況に応じた安全情報を適時に提供する必要がある。本申請研究では,大災害時の復旧・復興工事における労働災害の発生要因の調査・分析及びそれらを踏まえた的確な労働災害防止対策情報の提供を目指すものである。
研究方法
具体的に本申請研究では,以下の3項目について研究を行なった。
 1) 東日本大震災及び過去の震災に係る復旧・復興工事による労働災害の調査・分析。
 2) 東日本大震災復旧・復興工事の実態調査。
 3) 大災害時の復旧・復興工事における労働災害防止対策の検討。
結果と考察
以下に平成24年度~平成26年度まで実施した研究成果をまとめる。
「東日本大震災及び過去の震災に係る復旧・復興工事による労働災害の調査・分析」では,東日本大震災からの復旧・復興工事による災害事例情報のデータベース化と災害事例の類型化を試みた結果,東日本大震災による震災復旧・復興工事中の労働災害発生状況について分析した結果を記述した。また,東日本大震災以前の震災として,国内では新潟県中越地震と新潟県中越沖地震を取り上げ,これらの震災における復旧復興プロセスと既往文献等から抽出し,被災直後から現在に至るまでの復旧・復興の状況の把握および,災害復旧工事中の労働災害との関係性について調査した。また,海外の事例として2010年~2011年に4回発生したマグニチュード6~7クラスの直下地震によって被災したニュージーランド・カンタベリー地震後のクライストチャーチでの復旧・復興工事について,現状の把握およびニュージーランド政府や関連機関の取組みについて,情報収集を行った結果を取り纏めて,今後我が国にて行うべき安全衛生対策の方向性を記述した。
「東日本大震災の復旧・復興工事の実態調査」では,震災から1年7ヶ月後に実施した被災地の現地調査結果について取りまとめた。
「大災害時の復旧・復興工事における労働災害防止対策の検討」では,災害分析から得られた知見を基として,建築工事業における「墜落・転落」災害と建物一部損壊被害との相関性から震災発生時の被害予測から労働災害発生の蓋然性を把握するモデル構築および,東日本大震災における茨城県の市町村別の建物一部損壊棟数と震度の関係から建物一部損壊被災率テーブルを高精度化した結果を用いて,首都直下地震における建築工事業における「墜落・転落」災害の発生頻度の推定に関する試検討を実施した。また,新規参入者等への安全衛生教育ツールとして労働災害事例を「漫画化」した教育ツールの有効性に関して,建設業の労働安全衛生教育を実施している現役講師へのアンケート調査を実施した。
結論
平成24~26年度の本研究の実施によって得られた結論を下記に示す。
まず,本研究により,震災時の震災復旧・復興工事中の労働災害発生状況について時系列での傾向の把握に成功した。震災時の災害発生傾向は,過去に申請者らが実施していた新潟県中越地震での同種の分析結果と概ね合致することが分かった。そこで,震災時の災害発生傾向を利用して,震災発生後の労働災害発生の蓋然性の事前把握方法を提案し,首都直下地震を例題としてその結果をまとめた。また,新規参入者等への安全衛生教育ツールとして漫画による教育ツールの有効性に関して,労働安全衛生教育を実施している講師陣へのアンケート調査を実施した。その結果,全体としては良い評価を得たが,効果的な事例の選択について課題が残った。最後に,海外の震災後の対策方法を比較するため,カンタベリー地震後の復旧・復興工事の実態調査を実施した。震災復旧工事における労働安全衛生対策の重点化箇所は殆ど違いが見られなかったが,ニュージーランドで実施されている幾つかの施策について,我が国にて参考となることを示した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201425019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
東日本大震災の復旧復興工事での労働災害事例を詳細に分析することにより,復興プロセスの変化に応じた工事種別の違いから発生する労働災害パターンの把握が可能となり,それを利用することにより今後発生する大災害時の災害復旧・復興工事について,的確な労働災害防止対応方策を事前に検討する事が可能となった。
臨床的観点からの成果
臨床的観点からの成果はない
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発は実施していない
その他行政的観点からの成果
東日本大震災に係る復旧・復興工事による労働災害調査の一部については,(独)労働安全衛生総合研究所ホームページ(http://www.jniosh.go.jp/announce/shinsai/)に掲載され,厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課建設安全対策室を通じて関係県(岩手,宮城,福島,茨城)の各労働局へ情報提供されている。
その他のインパクト
安全スタッフ,労政ジャーナル等の労働安全関係出版機関の取材に応じたなど震災復興現場での安全啓発活動に寄与した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
7件
研究所ホームページでの災害分析結果の公表等

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
伊藤和也,高梨成次,堀智仁他
東日本大震災の復旧・復興工事における労働災害の発生状況に関する調査分析
土木学会論文集F6(安全問題) , 69 (1) , 32-45  (2013)
原著論文2
伊藤和也,高梨成次,堀智仁他
東日本大震災の復旧・復興工事における労働災害発生状況に関する分析について-建物の被災状況と墜落・転落による労働災害の関係
安全工学シンポジウム , 392-395  (2013)
原著論文3
伊藤和也,高梨成次,堀智仁
東日本大震災の復旧・復興工事における労働災害発生状況に関する分析について
安全衛生コンサルタント , 33 (108) , 40-47  (2013)
原著論文4
伊藤和也,高梨成次,堀智仁他
地震による建物被害想定から震災復旧復興工事中の労働災害発生の蓋然性について推定するモデルの構築とその試検討
第14回日本地震工学シンポジウム , 3519-3527  (2014)
原著論文5
伊藤和也, 堀智仁, 高梨成次, 吉川直孝
東日本大震災の復旧・復興工事における労働災害の分析と労働安全衛生対策について
地盤工学会誌 , Vol. 63 (No. 7) , 12-15  (2015)
原著論文6
伊藤和也, 吉川直孝
ニュージーランド・カンタベリー地震後の復旧・復興工事における労働安全衛生に関する実態調査
労働安全衛生研究 , Vol.8 (No.2) , 99-106  (2015)
http://doi.org/10.2486/josh.JOSH-2015-0013-CHO
原著論文7
伊藤和也,高梨成次,堀智仁,吉川直孝
地震による建物被害想定から震災復旧復興工事中の労働災害発生の 蓋然性について推定するモデルの構築とその試検討
日本地震工学会論文集 , Vol. 16 (No. 1) , 1_248-1_257  (2016)
http://doi.org/10.5610/jaee.16.1_248
原著論文8
伊藤 和也, 高橋 弘樹, 堀 智仁
漫画を使用した安全衛生教育教材の教育効果に関する調査・分析
土木学会論文集F6(安全問題) , Vol. 73 (No. 2) , I_43-I_51  (2017)
https://doi.org/10.2208/jscejsp.73.I_43

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
2022-06-09

収支報告書

文献番号
201425019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,000,000円
(2)補助金確定額
2,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 572,632円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 1,427,368円
間接経費 0円
合計 2,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-