文献情報
文献番号
201420019A
報告書区分
総括
研究課題名
新たな薬剤耐性菌の耐性機構の解明及び薬剤耐性菌のサーベイランスに関する研究
課題番号
H24-新興-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
研究分担者(所属機関)
- 荒川宜親(名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原細菌学/耐性菌制御学分野)
- 飯沼 由嗣(金沢医科大学 臨床感染症学講座)
- 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
- 北島 博之(大阪府立母子保健総合医療センター 新生児科)
- 切替 照雄(国立国際医療センター研究所 感染症制御研究部)
- 黒崎 博雅(熊本大学大学院医学薬学研究部 総合医薬科学部門創薬科学講座構造機能物理化学分野)
- 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
- 鈴木 里和(国立感染症研究所 細菌第二部)
- 舘田 一博(東邦大学医学部 微生物・感染症学講座)
- 富田 治芳(群馬大学大学院医学系研究科 生体防御機構学 細菌学分野)
- 長沢 光章(東北大学病院・病原体検査 診療技術部)
- 藤本 修平(東海大学医学部医学科基礎医学系生体防御学)
- 松本 智成(大阪府結核予防会大阪病院(臨床研究部))
- 山根 一和(川崎医科大学 公衆衛生学講座)
- 山本 友子(千葉大学大学院薬学研究院・微生物生化学 微生物薬品化学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
95,058,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
国内の医療機関で分離される耐性菌を収集し解析して、どのような耐性菌が外国から流入したり、国内で新たに出現しているのかを把握する。そして、その薬剤耐性機構について分子/遺伝子レベルで詳細な解析を行なう。またJANISデータを利用して国内で特に蔓延、拡散が懸念される耐性菌を疫学面からも把握する。これらの結果をもとに、国内の耐性菌の実態や、またどのようなタイプの耐性菌が特に注意が必要であるかについての情報を社会に発信する。またそれらについて、医療機関の検査室でも実施可能な簡便迅速な検査法を開発する。同時に、薬剤耐性菌感染症対策にさらに必要なサーベイランスツールの開発やJANISの改良を目指す。基礎研究者、応用研究者、疫学研究者が有機的に連携し、社会における薬剤耐性菌の状況を俯瞰的に把握して厚生労働行政上必要な研究を推進する。平成26年度は、菌株収集と解析を継続するとともに、これまでに得られた成果を社会に還元することを念頭において、主に結果のとりまとめを行った。
研究方法
国内外の医療機関から耐性菌を収集して、新型耐性菌の出現や、海外からの耐性菌の流入がないかを監視し、特に注意を要するものが確認された時はゲノムの解析や酵素の構造機能解析などによりその耐性メカニズムを明らかにするとともに、簡便な検査法の開発を行った。得られた結果をもとに、審議会への提言や社会への情報発信を行った。
結果と考察
国立感染症研究所細菌第二部では、H26年度に63の医療機関から481株の薬剤耐性菌株の解析依頼を受けて解析を行った。うち、212株においてIMP型カルバペネマーゼ遺伝子が検出された。関西地区にはIMP-6が多く、その他の地区ではIMP-1が多い傾向があった。特記すべきこととして、IMP型カルバペネム耐性遺伝子を持つプラスミドが接合伝達により腸内細菌科のいろいろな菌株、菌種に伝播して拡散し、院内感染を起こし、さらに地域で拡散していることが明らかになった。医療現場でのプラスミドの伝播を実際に明らかにしたのは、この研究が初めてである。これらの結果に基づいて、厚生労働省より注意喚起の事務連絡、課長通知が発出された。また海外でカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症が増加していることや、上記のような国内の状況から、感染症法にカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症を新たに加えることを提言した。また同時に薬剤耐性アシネトバクター感染症を5類定点把握疾患から全数把握疾患に変更することを提言した。届け出基準案を研究班と臨床微生物学会等の関連学会で協議し作成した。最終的に審議会の議論を経て感染症法の改定時に盛り込まれた。届け出基準は、現在まだ議論の余地が残されているので、臨床現場の検査の実施状況も考慮しつつ今後検討を続ける必要がある。新規の耐性遺伝子では、腸内細菌科細菌からカルバペネム耐性遺伝子GES-24、アミノグリコシド耐性遺伝子aac(6’)-lanを見出した。基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生菌の耐性遺伝子については、人由来株ではCTX-M9型が多く、鶏肉由来株ではCTX-M2型が多いことが分かった。腸球菌では、新規に見出されたvanN遺伝子が国産鶏肉に存在することを明らかにした。結核菌については、Small genomic island patternによる新たなタイピング法を開発した。淋菌については、薬剤感受性試験の標準化を検討した。新技術開発としては、アシネトバクターの流行株の鑑別法の確立と、IMP-1カルバペネマーゼの阻害剤のリード化合物の同定を行った。サーベイランスに関しては、感染対策の電子化による高精度化、高効率化を目的として、耐性菌条件・警告・案内の定義の標準化、アルゴリズムの開発、およびそれらの実用システムへの実装、改良および普及、新生児病院感染症の登録システムの開発と普及を行い、また厚生労働省院内感染対策サーベイランスの精度向上に関する提言を行った。今年度はJ-GRID、WHOと連携してアジア各国との共同研究体制の構築も進めた。
結論
腸内細菌科細菌や緑膿菌、アシネトバクターのカルバペネム耐性は、海外の多くの国と比較するとまだ少ない状況にある。しかし、海外で蔓延している耐性菌の流入や新型の耐性菌の出現が見られるので、監視を継続する必要がある。特にカルバペネム耐性腸内細菌科細菌については、国内の複数の医療機関で大規模な院内感染を起こしていることが明らかになった。これらの事例において、我々は耐性遺伝子を持つプラスミドが菌種を超えて伝播し、院内感染を起こしていることを初めて明らかにした。これらの知見をもとに、審議会へ提言をおこなったり、感染症法の改定を提言した。
公開日・更新日
公開日
2015-04-24
更新日
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