身体疾患を合併する精神疾患患者の診療の質の向上に資する研究

文献情報

文献番号
201419018A
報告書区分
総括
研究課題名
身体疾患を合併する精神疾患患者の診療の質の向上に資する研究
課題番号
H24-精神-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 弘人(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所社会精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 水野 杏一(公益財団法人 三越厚生事業団)
  • 志賀 剛(東京女子医科大学医学部 循環器内科学)
  • 内村 直尚(久留米大学医学部  神経精神医学講座)
  • 熊野 宏昭(早稲田大学  人間科学学術院)
  • 稲垣 正俊(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 精神神経病態学教室)
  • 木村 宏之(名古屋大学医学部付属病院精神科 コンサルテーション・リエゾン精神医学)
  • 木村 真人(日本医科大学千葉北総病院 メンタルヘルス科・精神医学)
  • 小川 朝生(独立行政法人 国立がん研究センター東病院 臨床開発センター精神腫瘍学開発分野・精神腫瘍学)
  • 野田 光彦(独立行政法人 国立国際医療研究センター糖尿病研究部)
  • 数井 裕光(大阪大学大学院 医学系研究科精神医学・老年精神医学)
  • 三宅 康史(昭和大学医学部救急医学/昭和大学病院救命救急センター)
  • 山崎 力(東京大学医学部附属病院 臨床研究支援センター)
  • 平田 健一(神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野)
  • 山本 賢司(東海大学医学部 専門診療学系・精神科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
身体疾患を有すると高率に精神疾患を合併・併存し、身体疾患の予後が悪化することは、国外の多くの研究で示されている。しかし、身体疾患と精神疾患の合併・併存患者に関する国内での研究の蓄積は十全ではない状況である。厚生労働省の検討会では、身体疾患と精神疾患の合併・併存患者への対策の必要性を指摘している。
そこで本研究では、精神疾患と身体疾患の合併・併存患者への最適な医療を提供することを最終目標として、研究班を組織した。有病率調査、自記式尺度の診断精度研究及び疾病予後に関する前向きコホート研究並びに医療情報を活用した研究を行い、学術的エビデンスを創出するとともに、精神科地域連携クリティカルパスを開発し、精神科と身体科等との連携マニュアルと合併・併存患者の治療技術向上のための研修資材を作成した。なお、本研究で扱う身体疾患は、医療計画上の5疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、精神疾患)と救急事業である。
研究方法
本研究は、14名の研究分担者により研究班を編制して成果を統合した。研究方法は、(1)臨床研究、(2)連携マニュアルと地域連携クリティカルパス(パス)の開発、(3)合併・併存患者の治療技術向上のための研修資材の作成である。
結果と考察
本研究成果として以下の結果が得られた。第1に「臨床研究」では、①かかりつけ医療場面のうつ(PHQ-9が10点以上)は約12人に1人、ケースマネジメント実施対象は6.7%にみられた(稲垣分担班)。②慢性腎不全患者74例のうち、PHQ-9が10点以上のうつは23%、SCIDによりMDDと診断されたのは2人(2.7%)であった(木村宏之分担班)。③外来2型糖尿病患者に対する認知行動療法の血糖改善効果を検討する介入研究を実施した(野田・熊野分担班)。④循環器疾患(CVD)患者における睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法の1つである経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)の導入受諾に関連する因子として、眠気の自覚の程度がCPAP受諾に大きく関係していること、CVD患者ではSASがあっても眠気が少ないことがCPAP受諾の低率に関与していることが推測された(内村分担班)。第2に「精神科と身体科等との地域医療連携パス開発」では、①がん診療におけるうつ病(小川分担班)、②救命救急センター退院後における自殺未遂者(山本分担班)、③循環器疾患患者におけるうつ病(平田分担班)、を想定したパスを作成した。また、これまでに開発したツールを用いて、⑤脳卒中における脳卒中後のうつ病・うつ状態の実態調査と連携パスの実運用(木村真人分担班)、⑥認知症地域連携の有用性の検討(数井分担班)、を行った。第3に「合併・併存患者の治療技術向上のための研修資材の作成」では、救命医療スタッフによる精神科救急患者の初期対応コース(PEECコース)のトライアルコースを経た上で全国的な展開を図った(三宅分担班)。
結論
本研究班では、(1)臨床研究の実施と基盤整備を行い、(2)精神科と身体科等との連携マニュアルと地域連携クリティカルパスを開発し、(3)合併・併存患者の治療技術向上のための研修資材を作成した。身体疾患患者における大うつ病エピソードの有病率および自記式尺度の診断精度が確認できたことにより、臨床での活用が期待できる。また、開発した地域連携クリティカルパスや研修資材が医療機関や地域関連機関で活用されることにより、都道府県の保健医療施策の進展に寄与することを願う。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

文献情報

文献番号
201419018B
報告書区分
総合
研究課題名
身体疾患を合併する精神疾患患者の診療の質の向上に資する研究
課題番号
H24-精神-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 弘人(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所社会精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 水野 杏一(公益財団法人 三越厚生事業団)
  • 志賀 剛(東京女子医科大学医学部・循環器内科学)
  • 内村 直尚(久留米大学医学部  神経精神医学講座)
  • 熊野 宏昭(早稲田大学  人間科学学術院)
  • 稲垣 正俊(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 精神神経病態学教室)
  • 木村 宏之(名古屋大学医学部付属病院精神科 コンサルテーション・リエゾン精神医学)
  • 木村 真人(日本医科大学千葉北総病院 メンタルヘルス科・精神医学)
  • 小川 朝生(独立行政法人 国立がん研究センター東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発分野・精神腫瘍学)
  • 野田 光彦(独立行政法人 国立国際医療研究センター糖尿病研究部)
  • 数井 裕光(大阪大学大学院 医学系研究科精神医学・老年精神医学)
  • 三宅 康史(昭和大学医学部救急医学/昭和大学病院救命救急センター)
  • 山崎 力(東京大学医学部附属病院 臨床研究支援センター)
  • 平田 健一(神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野)
  • 山本 賢司(東海大学医学部 専門診療学系・精神科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
身体疾患を有すると高率に精神疾患を合併・併存し、身体疾患の予後が悪化することは、国外の多くの研究で示されている。しかし、身体疾患と精神疾患の合併・併存患者に関する国内での研究の蓄積は十全ではない状況である。厚生労働省の検討会では、身体疾患と精神疾患の合併・併存患者への対策の必要性を指摘している。
そこで本研究では、精神疾患と身体疾患の合併・併存患者への最適な医療を提供することを最終目標として、研究班を組織した。有病率調査、自記式尺度の診断精度研究及び疾病予後に関する前向きコホート研究並びに医療情報を活用した研究を行い、学術的エビデンスを創出するとともに、精神科地域連携クリティカルパスを開発し、精神科と身体科等との連携マニュアルと合併・併存患者の治療技術向上のための研修資材を作成した。なお、本研究で扱う身体疾患は、医療計画上の5疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、精神疾患)と救急事業である。
研究方法
本研究は、14名の研究分担者により研究班を編制して成果を統合した。研究方法は、(1)臨床研究、(2)連携マニュアルと地域連携クリティカルパス(パス)の開発、(3)合併・併存患者の治療技術向上のための研修資材の作成である。
結果と考察
本研究成果として以下の結果が得られた。第1に、「臨床研究」として、①糖尿病外来患者を対象にPHQ-9とSCIDを行った結果、PHQ-9の大うつ病エピソードに関する診断精度は、感度:80%、特異度:94 %、陽性反応的中度:36.4%、陰性反応的中度:99.1%と算出され、一定の有用性を確認した(野田分担班)。②PHQ-9で10点以上のうつ(SCIDによる大うつ病エピソード)の頻度は、それぞれ糖尿病患者で9.0% (4.1%)(野田分担班)、慢性心不全で23.0%(2.7%)(木村宏之分担班)、かかりつけ医受診患者で約8.0%(診断面接未実施)(稲垣分担班)であった。③循環器疾患患者ではPHQ-9が10点以上のうつは5.5%で、中等度以上の睡眠時無呼吸症候群が6割に認められた(内村分担班)。④外来2型糖尿病患者に対する認知行動療法の血糖改善効果を検討する介入研究を実施した(野田分担班、熊野分担班)。
第2に、「精神科と身体科等との地域医療連携パス開発」として、①がん診療におけるうつ病(小川分担班)、②救命救急センター退院後における自殺未遂者(山本分担班)(三宅分担班)、③かかりつけ医療場面のうつ病(稲垣分担班)、④循環器疾患患者におけるうつ病(平田分担班)、を想定したパスを作成した。また、これまでに開発したツールを用いて、⑤脳卒中における脳卒中後のうつ病・うつ状態の実態調査と連携パスの実運用(木村真人分担班)、⑥認知症地域連携の有用性の検討(数井分担班)を行った。
第3に、「合併・併存患者の治療技術向上のための研修資材の作成」として、①救命医療スタッフによる精神科救急患者の初期対応コース(PEECコース)のトライアルコースが完成し、全国展開を図った(三宅分担班)。②認知行動療法的の1つであるアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を慢性疾患患者に適用させる為の研修資材を作成し、研修会を実施した(熊野分担班)。
結論
本研究成果は、糖尿病や心不全の患者に対して、精神科診断面接マニュアルを用いて大うつ病エピソードの評価を実施するという、国内では希少な研究となった。診断面接に基づく有病率、自記式尺度の診断精度の確認および予後に関する各知見は、それぞれの身体疾患患者の精神疾患研究の基盤となることが期待できる。本研究で開発した身体疾患と精神疾患との地域連携に関する効果的なパスが、医療政策に寄与することを願う。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
身体疾患と精神疾患の合併・併存患者への最適な医療の提供を目指し、日本循環器心身医学会や日本臨床救急医学会などの学術団体、国立国際医療研究センターなどの国立高度専門医療研究センターと連動し、臨床研究における科学的エビデンスの構築、精神科地域連携クリティカルパスの開発および精神科と身体科の連携マニュアルや研修資材を作成したことは、今後、医療連携の進展を考える上で重要なプロセスであったと認識している。研究成果は、既に複数の学術誌に掲載されており、現在も継続してデータ分析・発表準備を行っている。
臨床的観点からの成果
糖尿病患者や循環器疾患患者における診断面接に基づく有病率、自記式尺度の診断精度の確認、および予後に関する各知見が、それぞれの身体疾患患者の精神疾患研究の基盤となると考えられる。さらに、かかりつけ医療場面のうつ病、循環器疾患患者におけるうつ病等を想定したパスの初案作成、及び脳卒中後うつ病の実施調査とパスの実運用、認知症地域連携パスの有用性の検討を実施したことにより、身体疾患と精神疾患の合併・併存患者への診療の質向上への端緒として、臨床現場において医療連携の発展に寄与することが期待できる。
ガイドライン等の開発
(1)救命医療スタッフによる精神科救急患者の初期対応コース(PEEC:Psychiatric Evaluation in Emergency Care)のトライアルコースが完成し、全国展開を図った(三宅分担班)。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
(1)「包括的なうつ管理のための研修プログラム:導入編」を開催(日本循環器心身医学会、日本糖尿病合併症学会)。
(2)「自殺未遂者ケア研修」(厚生労働省主催)、「救急医療における精神症状評価と初期診療(PEEC)研修」(日本臨床救急医学会)に加え、日本臨床救急医学会版(簡易版)自殺未遂者ケア研修を開催。

発表件数

原著論文(和文)
68件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
126件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ito H, Hattori H, Kazui H, et al.
Integrating psychiatric services into comprehensive dementia care in the community.
Open Journal of Psychiatry , 5 , 129-136  (2015)
10.4236/ojpsych.2015.52014
原著論文2
福間 長知、加藤 和代、伊藤 弘人 他.
心筋梗塞.
臨牀と研究 , 91 (5) , 615-618  (2014)
原著論文3
数井裕光、杉山博通、武田雅俊.
認知症診療におけるクリニカルパスと情報共有ノートを用いた認知症地域連携. -つながりノート・みまもりノートの有用性-.
臨床精神医学雑誌 , 41 (12) , 1731-1740  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201419018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,300,000円
(2)補助金確定額
8,300,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,706,537円
人件費・謝金 944,300円
旅費 1,180,386円
その他 2,553,777円
間接経費 1,915,000円
合計 8,300,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-