地域・在宅高齢者における摂食嚥下・栄養障害に関する研究-特にそれが及ぼす在宅療養の非継続性と地域における介入・システム構築に向けて

文献情報

文献番号
201417003A
報告書区分
総括
研究課題名
地域・在宅高齢者における摂食嚥下・栄養障害に関する研究-特にそれが及ぼす在宅療養の非継続性と地域における介入・システム構築に向けて
課題番号
H24-長寿-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
葛谷 雅文(名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学)
研究分担者(所属機関)
  • 森本 茂人(金沢医科大学医学部大学院医学研究科高齢医学専攻 高齢医学)
  • 大類 孝(東北大学加齢医学研究所・高齢者薬物治療開発寄附研究部門)
  • 菊谷 武(日本歯科大学大学院生命歯学研究科・臨床口腔機能学)
  • 杉山 みち子(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科)
  • 榎 裕美(愛知淑徳大学健康医療科学部・栄養学)
  • 梅垣 宏行( 名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学 )
  • 若林 秀隆(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,116,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
在宅療養中の高齢者の栄養状態、摂食嚥下状態の現状把握と、前向き研究により在宅療養の継続性さらには日常生活動作などへの影響を明らかにする。
研究方法
神奈川県、愛知県で1142名の要介護高齢者のコホートを平成24年度に構築。登録時調査ならびに、1年目、2年目に基本調査並びに生命予後、入院、施設入所など在宅療養の非継続性に関与するイベントを調査し、平成26年度には2年目の前向き調査を実施した。栄養状態の評価はMini Nutritional Assessment-short form (MNA-SF)を使用し、摂食嚥下状態の評価には摂食・嚥下障害の臨床的重度化分類:Dysphagia Severity Scale, DSSを用いた。主にCox比例ハザードまたはロジスティック回帰分析をSPSSを使用して実施した。
結果と考察
栄養状態ならびに摂食・嚥下状態と一年間のイベント発生ならびに二年目のイベント発生との関係は同様であった。明らかに栄養障害の存在は生命予後、入院、施設入所のリスクと関連しており、在宅療養継続性の重要な阻害因子であった。栄養状態の悪化は摂食嚥下機能の低下と連動していた。登録時の誤嚥のある高齢者および栄養障害の存在はADLの悪化とは有意な関連を認めなかったが、嚥下機能さらには栄養状態の悪化はADL低下と連動していた。摂食嚥下機能は時間経過で悪化と改善をする対象者がかなり存在した。このことは、在宅療養中の高齢者の摂食・嚥下機能は経過中に変動することを意味し、摂食・嚥下機能障害の重症化予防、ならびに摂食嚥下障害の出現予防の観点から、地域での摂食嚥下機能評価ならびに摂食嚥下リハビリテーションなどの介入が重要と思われた。
結論
地域在宅療養中の高齢者に対して定期的な栄養評価、適切な介入が在宅療養の継続性には重要である。さらに摂食嚥下機能の維持、改善を目指す上でも、摂食嚥下機能の評価、介入(リハビリテーション)が重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

文献情報

文献番号
201417003B
報告書区分
総合
研究課題名
地域・在宅高齢者における摂食嚥下・栄養障害に関する研究-特にそれが及ぼす在宅療養の非継続性と地域における介入・システム構築に向けて
課題番号
H24-長寿-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
葛谷 雅文(名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学)
研究分担者(所属機関)
  • 森本 茂人(金沢医科大学医学部大学院医学研究科高齢医学専攻 高齢医学)
  • 大類 孝(東北大学加齢医学研究所・高齢者薬物治療開発寄附研究部門)
  • 菊谷 武(日本歯科大学大学院生命歯学研究科・臨床口腔機能学)
  • 杉山 みち子(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科)
  • 榎 裕美(愛知淑徳大学健康医療科学部・栄養学)
  • 梅垣 宏行( 名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学 )
  • 若林 秀隆(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本における様々な地域の在宅高齢者における摂食嚥下障害・低栄養の有症率を明らかにし、前向き研究により、それらの在宅高齢者の健康障害さらには在宅療養の継続性に与える影響を明らかにする。
研究方法
神奈川県(横須賀・三浦地域)・愛知県における在宅療養要介護高齢者のコホートを構築(1142名(男性 40.3%, 平均年齢81.2±8.7歳、要介護1:29.8%、要介護2:18.8%))し、摂食嚥下機能、栄養状態調査(横断調査)を実施し(平成24年度)、さらには同コホートを用い2年間の前向き観察研究を実施した(平成25、26年度)。栄養評価はMini Nutritional Assessment-short form (MNA-SF)を使用し、「栄養状態良好」MNA-SFスコア:12-14ポイント、「低栄養のリスク有り」:8-11ポイント、「低栄養」:0-7ポイント、の3群にカテゴリー化して評価した。摂食嚥下機能の評価には摂食・嚥下障害の臨床的重度化分類(Dysphagia Severity Scale, DSS)を用いた。
結果と考察
登録時横断調査(H24年度)ではこの集団で「低栄養」として評価されたのは16.7%、「低栄養リスク有」と評価されたのは55.4%に及んだ。一方、嚥下障害と判定されたのは8.6%であった。さらに、要介護度、栄養状態、摂食嚥下状態は互いに強く関連し、要介護度が悪いほど低栄養、摂食嚥下障害の有症率が高く、栄養状態が悪いほど摂食嚥下障害の有病率も高かった。平成25,26年度に実施した前向き調査からは、登録時の摂食・嚥下障害の存在は一年後の栄養状態の悪化とは関連していなかったが、一年間の摂食・嚥下障害の悪化は栄養状態の悪化と連動していた。また、摂食嚥下障害と一年間のADL低下との関連性は認めなかったが、摂食・嚥下障害の悪化とADL悪化とは連動していた。登録時の栄養障害の存在と一年間のADLの悪化との関係はADL障害が軽微な対象者では栄養に問題がある対象者では一年間のADL低下との関連性を認めた。さらに、一年間の栄養状態の悪化とADLの悪化は連動していた。摂食・嚥下障害のみの存在は必ずしも生命予後、入院、入所のイベント発生の独立したリスクにはなっていなかった。一方、低栄養の存在は明らかに上記の3イベントに対して有意な関連を認めた。2年間の観察で、摂食・嚥下機能は、年間でかなり変動する対象者が存在することが明らかとなった。当該研究により、地域在宅療養中の高齢者において、摂食・嚥下障害、栄養状態、ADLはそれぞれ互いの独立したリスク因子ではないものの(栄養状態とADL以外は)、互いに影響し合い連動することが明らかとなった。低栄養の存在は明らかに生命予後、入院、入所の3イベントに対して有意なリスク因子であった。このことは、地域療養中の高齢者においても、なるべく早期に低栄養リスクが存在する対象者を拾い上げ、適切な介入を実施することが、生命予後、入院、入所など在宅療養を阻害するイベント発生を抑制できる可能性を意味している。その意味で、医療施設、介護施設と同様に在宅療養中の高齢者に対しても定期的な栄養モニタリングが必要であり、さらには必要な対象者に対する適切な栄養介入が必要である。また、今回の観察中に摂食・嚥下障害の臨床的重度化分類:Dysphagia Severity Scale, DSSで年一回計3回評価を実施したが、かなりに対象者が悪化または改善する動きを見せた。すなわち、摂食嚥下機能はかなり変動する可能性があり、1)摂食・嚥下障害の重症化予防、2)摂食嚥下機能改善を目標とした、地域における摂食嚥下リハビリテーションの普及は大変重要である。これらの事は介護施設、医療施設と同様に、地域高齢者に対して定期的栄養評価介入と同時に摂食嚥下評価、介入(リハビリテーション)が両方必要であることを意味する。
 これらの摂食嚥下関係、栄養管理関係が地域在宅で構築できなければ、「できるだけ長く、生活の質が担保された地域、在宅での療養を継続する」ことができなくなることは明白である。
結論
在宅療養中の高齢者ではその3/4に何らかの栄養に関するリスクまたは既に栄養障害に陥っている対象者が存在した。また、栄養障害、摂食嚥下障害、介護度は互いに強い関連があった。縦断研究からは栄養障害の存在は明らかに、生命予後、入院、介護施設入所のリスクになっており、在宅療養の非継続性に強く関わっていた。摂食嚥下障害の悪化と栄養状態の悪化は連動していた。摂食嚥下機能は悪化ならびに改善する対象者がかなり存在することが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-10-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201417003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
栄養状態、摂食嚥下状態、要介護度との相互関係を明らかにすることができた。また在宅療養中の高齢者においても栄養障害の生命予後、入院との関係だけではなく入所との関係も明らかにすることができた。摂食嚥下障害の存在は独立した栄養状態の悪化因子にはなっていなかったことは意外であった。一方、摂食嚥下機能(状態)が一年の間隔でかなり悪化または改善と変動することを明らかにすることができた。
臨床的観点からの成果
あらためて、病院、施設入所中の高齢者と同様、在宅療養中の高齢者でも栄養の問題を在宅療養の継続性との観点からクローズアップすることができた。同様に摂食嚥下障害を在宅で抱える高齢者の実態を明らかにすることができた。これらの結果は今後地域包括ケアシステムを展開していく上で、栄養状態の管理、摂食嚥下機能の管理の重要性に関して、強調することができたと思う。すなわち、これらの評価、介入システムが機能しなければ、地域包括ケアシステムは不十分なシステムと言っても過言ではない。
ガイドライン等の開発
本研究ではガイドライン構築にまでは至らなかった。しかし、今後在宅療養における栄養ケアマネジメントに関するガイドラインは必要となると思う。
その他行政的観点からの成果
今後、地域包括ケアシステムが構築され、各市町村で運営されるに当たり、高齢者の栄養、また摂食嚥下機能は要介護高齢者の健康障害に直結するだけではなく、在宅療養の継続を阻害する因子であることの理解が重要である。すなわち、栄養の評価、適切な介入、摂食嚥下機能の評価、介入が地域で実施できなければ、安定して在宅で療養することができず、早急に死亡だけではなく病院への入院、施設入所につながることを本研究では明らかにした。今後、栄養、摂食嚥下に対する取り組みが大変重要である。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
63件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
77件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishigami K, Okuro M, Morimoto S, et al.
Association of severe hypertension with pneumonia in elderly patients with acute ischemic stroke
Hypertension Research , 35 , 648-653  (2012)
10.1038/hr.2012.7
原著論文2
Morimoto S, Takahashi T, Okaishi K, et al.
Sleep Apnoea Syndrome as a Risk for Mortality in Elderly Inpatients
J Int Med Res , 40 , 601-611  (2012)
10.1177/147323001204000222
原著論文3
Koizumi Y, Hamazaki Y, Morimoto S, et al.
Association between status of hypertension and screening test for frailty in community-dwelling elderly Japanese
Hypertension Research , 36 , 639-644  (2013)
10.1038/hr.2013.7
原著論文4
Iritani O, Koizumi Y, Morimoto S, et al.
Association between blood pressure and diability-free survival among community-dwelling elderly patients receiving antihypertensive treatment
Hypertension Research , 37 , 772-778  (2014)
10.1038/hr.2014.67
原著論文5
Higashikawa T, Hamazaki Y, Morimoto S, et al.
Blood pressure and disability-free survival among community-dwelling diabetic and non-diabetic elderly patients receiving antihypertensive treatment
Geratrics & Gerontolgy International(GGI)  (2015)
10.1111/ggi.12481
原著論文6
榎裕美、杉山みち子、葛谷雅文、他
在宅療養要介護高齢者における摂食・嚥下障害と栄養障害に関する調査研究 the KANAGAWA-AICHI Disabled Elderly Cohort (KAIDEC) studyより
日本臨床栄養学会雑誌 , 36 (2) , 124-130  (2014)
原著論文7
榎裕美、杉山みち子、葛谷 雅文、他
在宅療養要介護高齢者における栄養障害の要因分析 the KANAGAWA-AICHI Disabled Elderly Cohort (KAIDEC) Studyより
日本老年医学会雑誌 , 51 (6) , 547-553  (2014)
原著論文8
Wakabayashi H, Matsushima M, Sashika H
Head lifting strength is associated with dysphagia and malnutrition in frail elderly
Geriatr Gerontol Int , 15 , 410-416  (2015)
10.1111/ggi.12283
原著論文9
Wakabayashi H, Matsushima M
Dysphagia assessed by the 10-item Eating Assessment Tool is associated with nutritional status and activities of daily living in elderly individuals requiring long-term care
J Nutr Health Aging  (2015)
10.1007/s12603-015-0481-4
原著論文10
若林秀隆、栢下淳
摂食嚥下障害スクリーニング質問紙票EAT-10の日本語版作成と信頼性・妥当性の検証
静脈経腸栄養 , 29 , 871-876  (2014)
10.11244/jjspen.29.871
原著論文11
Kikutani T, Yoshida M, Enoki H, et al.
Relationship between nutrition status and dental occlusion in community-dwelling frail elderly people
Geriatr Gerontol Int , 13 , 50-54  (2013)
原著論文12
Hobo K, Kawase J, Kikutani T, et al.
Effects of the reappearance of primitive reflexes on eating function and prognosis
Geriatr Gerontol Int , 14 (1) , 190-197  (2014)

公開日・更新日

公開日
2023-05-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201417003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,950,000円
(2)補助金確定額
7,950,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 761,892円
人件費・謝金 3,680,397円
旅費 783,644円
その他 890,211円
間接経費 1,834,000円
合計 7,950,144円

備考

備考
預金利息97円が生じたため。及び、自己資金47円を使用したため。

公開日・更新日

公開日
2017-10-03
更新日
-