文献情報
文献番号
201412006A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器疾患における集団間の健康格差の実態把握とその対策を目的とした大規模コホート共同研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 清原 裕(九州大学 大学院医学研究院)
- 大久保 孝義(帝京大学 医学部)
- 磯 博康(大阪大学 大学院医学系研究科)
- 玉腰 暁子(北海道大学 大学院医学系研究科)
- 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防検診部)
- 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部)
- 斎藤 重幸(札幌医科大学 保健医療学部)
- 辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科)
- 中川 秀昭(金沢医科大学 医学部)
- 山田 美智子((公財)放射線影響研究所 臨床研究部)
- 坂田 清美(岩手医科大学 医学部)
- 岡山 明((公財)結核予防会 第一健康相談所)
- 村上 義孝(東邦大学 医学部)
- 木山 昌彦((財)大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター)
- 上島 弘嗣(滋賀医科大学 アジア疫学研究センター)
- 石川 鎮清(自治医科大学 医学部)
- 八谷 寛(藤田保健衛生大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
28,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
「健康格差」の原因として貧困など社会学的な指標の影響が指摘されているが、その因果関係は複雑であり抜本的な解決への道筋は容易ではない。わが国の循環器疾患の疫学は脳卒中死亡率の東高西低の解明に始まり、この格差の上流に塩分摂取量や血圧レベルがあることを明らかにしてきた。循環器疾患の健康格差を考える上で、栄養や運動などの生活習慣と比べてより発症に近い古典的危険因子(高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙など健康日本21第二次で循環器疾患対策の第2層に位置付けられたもの)の差は非常に重要であり、その適切な管理がすぐに格差是正への糸口となる。そしてこれらへの非薬物的および薬物的な介入手段は確立しているため、危険因子の管理は即効性をもった格差是正対策となり得る。本研究は、先行研究で構築した280万人年の統合データベースを継承・拡充し、危険因子とアウトカムの関連の解析を継続すると同時に集団間の格差の規定要因や是正法を検討する。
研究方法
本研究では、1) 危険因子の意義を詳細にみるために単独のコホートでは検証できない課題(Study Question)について、先行研究から継承した既存データの解析の実施(EPOCH-JAPANデータベース、280万人年)。2) 現存コホートでの継続研究の実施(追跡危険の延長)による統合コホートの拡大。3)集団の格差をより明確に検証するために今まで加わっていなかった特徴を持つ新規コホートの研究班への参加(農山漁村地域や公務員集団など)。4) 2)3)を受けてEPOCH-JAPANデータベースの拡充(目標:320万人年)。5) 地域・集団の危険因子レベルや有病率の違いを明らかにし、その違いが危険因子と循環器疾患の関連に及ぼす影響を明らかにする(変量効果モデル)。6)格差是正のために必要な危険因子への介入強度を推計し、保健事業の指標等から介入のために必要な予算、マンパワー等を提示する。7)危険因子の変化が集団全体の循環器疾患の発症者数等の増減にどの程度影響を与えるかを予測するツールの開発し、健康日本21等の評価に生かす。
結果と考察
各コホートでの追跡期間の延長や新規コホートの立ち上げ等は、統合研究とは独立した個別の研究として行われ、個々の研究についてはそれぞれ当該機関の倫理審査を受けている。今年度は新たに2コホート(農山漁村地域を対象としたJMSコホート、公務員を対象とした愛知職域コホート)の追加がなされ、対象者数が12万人を超えるデータベースを整備した。一方、試行的解析として、総死亡情報のみの2コホートと前述の新規参加の2コホートを除いた12コホートの101,977人の長期追跡データに基づいて循環器疾患、脳卒中、冠動脈疾患の死亡率の格差を検証した。死亡率はポワソン回帰で、危険因子については連続量については共分散分析、二値変数ではZouの方法によって年齢調整した結果を算出した。男性の年齢調整死亡率(10万人年あたり)の範囲は循環器疾患で170~1521、脳卒中で70~743、冠動脈疾患で27~307であった。収縮期血圧、総コレステロール、Body mass indexの平均値の範囲(最大値-最小値)はそれぞれ12mmHg、2kg/㎡、20mg/dlであり、その他の危険因子でも同様のばらつきがあった。これらの結果は女性でも同様であった。各危険因子と循環器疾患の相対リスクの関連はどのコホートでも同様に認められたため、観察された死亡率の差は、危険因子のレベル差、危険因子の管理状況、時代効果(コホートの開始年等)、危険因子以外の地域要因が関与していると考えられた。なお各コホートでの追跡期間の延長や新規コホートの支援も行った。論文成果としては統合データを用いた2本を含む計57本の原著論文を公表した。
結論
本研究では、先行研究から引き続き本邦の質の高いコホート研究の統合研究、個別研究を推進している。大規模データの強みを生かして単独のコホートだと検証できない個々の危険因子の組み合わせが、個人や集団の循環器疾患リスクにどのような影響を与えているかを明らかにすることができる。一方、新たな試みとして危険因子からみた循環器疾患死亡率の格差の解明、危険因子管理による格差の是正に取り組んでいる。
公開日・更新日
公開日
2015-09-09
更新日
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