文献情報
文献番号
201407018A
報告書区分
総括
研究課題名
人工赤血球(ヘモグロビン小胞体)製剤の実用化を目指す研究
課題番号
H24-創薬総合-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
酒井 宏水(公立大学法人奈良県立医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 小田切 優樹(崇城大学 薬学部)
- 東 寛(旭川医科大学 医学部)
- 高瀬 凡平(防衛医科大学校病院 集中治療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
15,680,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、人工赤血球(ヘモグロビン小胞体, Hb-V)製剤について、効率の高い製造法を確立するとともに、輸血代替(出血性ショック蘇生液)として大量投与する際の安全性項目(特に細網内皮系や免疫系、心血管系への影響)を動物実験により精査し、GMP製剤による非臨床・臨床試験に備えることを目的とした。また、臓器保存液としての可能性を動物実験から明らかにすることも目指した。平成26年度は最終年度として次の項目を検討した。
研究方法
1)混錬法を用いる製造プロセスを継続して検討した。2)片肺切除出血ラットモデルを用い、人工赤血球の投与による蘇生を行なった。3)ラット切断下肢を人工赤血球分散液で8時間灌流する試験において、再接合術を行ったあとラットの歩行状態を観察した。4)各種展示会での展示、「創薬ナビ」を活用、血液製剤製造企業数社へ打診した。またPMDAの事前面談を受けた。5)高脂血症モデルのApoE欠損マウス (B6. KOR/StmSlc-Apoeshlマウス) に静脈内単回投与し安全性を評価した。6)ラットに人工赤血球を投与した後の脾細胞は、一過性のT細胞増殖抑制効果が観察され、この抑制効果発現にはNOの産生が関与することに関連し、TGF-β1の産生動態と自然免疫応答への影響を検討する目的でLPS刺激に対するIL-1β産生能への影響について検討した。7)T細胞増殖抑制効果が誘導されるリポソームの最小投与量の詳細を検討した。8)致死性出血性モデルラットに対し、Hb-V分散液を投与し、蘇生率、心臓電気生理学的変化・致死性不整脈発生予防率、心臓超音波法により心臓機能を比較検討した。
結果と考察
1)混錬法を用いるHb溶液の内包プロセスについて継続して検討し、脂質量40g, 高純度高濃度Hb溶液140 mLをもとに、短時間の混錬操作で約300mLのHb小胞体を繰り返し製造できた。製造法および分析法についてSOPを作成した。2)片肺切除出血ラットモデルを用い、人工赤血球による蘇生を行ない、動脈血圧と動脈血酸素分圧、血中乳酸値のより、呼吸機能が低下した肺切除下のラットにおいてもHb-V投与は保存赤血球輸血と同等の値を示した。3)ラット切断下肢を人工赤血球分散液で8時間灌流し、再接合術を行なったあと、歩行が出来るまで機能回復したことを確認した。4)PMDAの事前面談、医薬基盤研究所の「創薬ナビ」を受け、製造工程や非臨床試験プロトコル作成について助言を得た。実施企業を探索する活動を行なったが、見出すことは出来なかった。開発に向けて克服すべき課題が明確になり、また本製剤の有用性は疑いの無いものと判断し、次年度も公的資金を得て開発を継続するための準備を開始した。5)高脂血症モデルのApoE欠損マウス (B6. KOR/StmSlc-Apoeshlマウス) に静脈内単回投与したところ、体重、血球数に著変はなく、AST, ALTは一日後に上昇したがその後は正常値に復した。血中脂質成分濃度は1, 3日後に上昇したが7日後には正常値に戻り、脂質代謝異常時においてもHbVは十分な代謝・排泄性を持っていた。6)TGF-β1の産生動態と自然免疫応答への影響を検討する目的でLPS刺激に対するIL-1β産生能への影響について検討した結果,リポソーム投与によるTGF-β1の産生増加は観察されなかった。また、LPS刺激によるIL-1β産生動態も特段の変化のない事が示された。7)T細胞増殖抑制効果が誘導されるリポソームの最小投与量をさらに検討し、循環血液量の5%v/v相当の投与量では、抑制効果が認められるが、1%v/vではほぼ完全に抑制効果が認められなかった。8)致死性出血性モデルラットに対しHb-Vを投与し、蘇生率、心臓電気生理学的変化・致死性不整脈発生予防率、心臓機能を比較検討し、赤血球の投与と同等の効果が認められた。
結論
平成26年度は、人工赤血球の効率の高い製造法を確立し、分析法も合わせSOPを作成し、GMP製造に備えることができた。また、細網内皮系へ捕捉された後の影響について精査し、代謝排泄系への問題が無いこと、免疫系に対しても重篤な影響は無いことを確認した。出血性ショック蘇生液としてのみならず、臓器保存灌流液としての新しい可能性も具体化した。本製剤が有用であることは明らかであり、引続き日本医療研究開発機構の研究費を得て実用化に向け橋渡し研究を継続する予定である。
公開日・更新日
公開日
2015-05-25
更新日
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