老人福祉施設における出張理容・出張美容の実施に関する調査研究

文献情報

文献番号
201405019A
報告書区分
総括
研究課題名
老人福祉施設における出張理容・出張美容の実施に関する調査研究
課題番号
H26-特別-指定-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
阪東 美智子(国立保健医療科学院 生活環境部 建築・施設管理研究領域)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 健一(国立保健医療科学院 生活環境部 建築・施設管理研究領域)
  • 金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院 生活環境部 建築・施設管理研究領域)
  • 大澤 元毅(国立保健医療科学院 生活環境部 建築・施設管理研究領域)
  • 森川 美絵(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部 福祉サービス研究領域)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,933,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老人福祉施設における出張理容及び出張美容の適切な実施に資するため、実施に必要な具体的な留意事項等を体系的にとりまとめる。また、理容や美容を受けることによる施設の高齢者の心身に対する効果や影響に関してエビデンスを集積する。
研究方法
1)特別養護老人ホームにおける施術環境等の状況に関する実態調査
特別養護老人ホームにおける出張理美容の施術環境の状況等に関して、全国の特別養護老人ホーム施設全数を対象に自記式質問紙による調査を行い、出張理美容の実施の実態を明らかにする。

2)老人福祉施設における訪問理美容の実証モデル調査
老人福祉施設を選定してこれらの施設で理容・美容を実施し、施術を受けた入所者、および施術に関与した理美容師や施設職員(介護職)に対する調査を行い、施術時間やサービス内容などの実態を把握するとともに、施術が高齢者にもたらす心身への負担や満足度等の効果・影響等に係るデータの整理・分析を行い、施術環境や施術に関する課題、留意事項等を明らかにする。
結果と考察
1)特別養護老人ホームにおける施術環境等の状況に関する実態調査
全国の特別養護老人ホーム5,884ヶ所に自記式質問紙を送付し、有効回収票2,204通(有効回収率37.5%)を得た。回答結果から以下が明らかになった。
・出張理容または出張美容を実施している特別養護老人ホームは95%。出張理容の方が出張美容よりも実施率が高い。
・理美容室での施術は約3割で、施術場所は、共同リビングや居室、廊下など多岐にわたる。
・理美容室での施術は、2000年以降に建築された施設や延床面積5,000㎡以上の施設に多い。
・理美容室はそれ以外の場所よりも施術環境としての条件が整備されており、洗髪やパーマ、白髪染めなど施術メニューが相対的に多い。逆に理美容室以外の場所での施術は、水回り等の面で課題があり施術内容もカットのみに限定される傾向がある。
・施設職員からみて、出張理容・出張美容はケアの一環としての価値を有している。
・施設では、理美容師との調整や日程考慮、衛生面の配慮など様々な工夫が行われているが、一方で、施術のための施設環境整備、利用者数とサービス提供頻度のバランス、認知症に対する理解度、利用者および家族の意思尊重などにおいて課題がある。

2)老人福祉施設における訪問理美容の実証調査
関東地方に立地する特別養護老人ホーム、老人保健施設および有料老人ホーム、計6施設8建物10空間において、延べ86名の高齢者を対象とした観察・実測調査から、以下が明らかになった。
・施術場所は、理美理容室のほか、脱衣室、廊下、居室(ベッド上)などが利用されている。
・施術対象者86名の平均年齢は85歳。女性の対象者が多い。
・施術はカット主体で、施術時間は平均27分。カラーやパーマ以外は洗髪を行わず、要介護度により施術時間を短くし、対象者に負担をかけない工夫を行っている。
・洗髪については、施設の入浴日に施術日を合わせることで解決している事例もある。
・施術対象者の出張理美容や理美容師に対する意見は好意的なものが多い。
・施術場所の温度及びCO2濃度に大きな問題はないが、相対湿度は多くの施設で40%を下回り改善の必要がある。一方、照度は分布や変動幅が大きく、理美容師の施術や利用者への気分などに最も影響している可能性がある。
・施術対象者の体温、血圧、脈拍、 酸素飽和度を施術前後に測定することで対象者の体調把握はできたが、施術による効果を定量的に示すには至らなかった。唾液アミラーゼの測定からは、施術後にストレス度が小さくなる傾向がみられる。
・施術対象者の移動手段は、体温、脈拍、血圧、アミラーゼ(ストレス)に影響している。痛み・疲れは、施術後の血圧に、会話は施術後のストレスに影響している。ストレスを持った被施術者は、施術を受けることでストレスが低下する傾向がある。
結論
出張理容・出張美容をさらに適切に実施していくためには、以下のような点が留意事項として挙げられる。
・施術場所としては、理美容室が施術環境や施術メニューの充実という点から好ましく、施設の建設時から理美容室を計画することが望ましい。
・施術メニューの充実のためには、洗髪できる環境整備が必要である。ただし、洗髪の導入による人的・金銭的・時間的コストの増加や、利用者の心身への負担に対する配慮が必要である。
・施術者である理美容師の労働環境という視点からも環境整備が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201405019C

収支報告書

文献番号
201405019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,933,000円
(2)補助金確定額
3,817,195円
差引額 [(1)-(2)]
115,805円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,214,581円
人件費・謝金 393,572円
旅費 434,042円
その他 1,775,000円
間接経費 0円
合計 3,817,195円

備考

備考
当初の計画では老人福祉施設における実証モデル事業としてポータブル洗髪機を導入した施術を実施することとしていたが、すでに決まった事業所が出張理美容を行っており実験的な施術を組み込むことが困難であったこと、また現状では洗髪を行うことはまれであり、慣れないポータブル洗髪器の導入は入所者・施術者の双方にとって心身の負荷が高いことから、通常実施している施術に対する実測・観察調査を行うことに変更した。また、質問紙調査の精度を上げるために当初は対象数を1/20抽出することとしていたが、全数調査に変更をした。このため、支出した研究費の内訳が大きく変わり、結果として残額が発生した。

公開日・更新日

公開日
2018-05-23
更新日
-