行動科学に基づく対象者別リスクコミュニケーションの手法の開発と評価

文献情報

文献番号
201327011A
報告書区分
総括
研究課題名
行動科学に基づく対象者別リスクコミュニケーションの手法の開発と評価
課題番号
H23-食品-一般-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 肇子(慶應義塾大学 商学部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹村 和久(早稲田大学 文学学術院)
  • 楠見 孝(京都大学 大学院教育学研究科)
  • 花尾 由香里(東京富士大学 経営学部)
  • 杉谷 陽子(上智大学 経済学部)
  • 杉浦 淳吉(慶應義塾大学 文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 一般国民を対象として、行動科学に基づき、リスクコミュニケーションが促進される手法の開発を行い、実施した上で手法の評価を行う。開発にあたっては、国民の年代や性別、価値観、ライフスタイルなどの要因を考慮してセグメント化を行い、それぞれの対象別に重要な食品安全に関する情報の検討も行う。成果として、教育ツールと、それを活用可能な実施マニュアルを併せて提出する。
研究方法
リスクコミュニケーションの手法を具体的に検討し、セグメント別に実施手法を提案する。最終年度であることから、研究成果の実務的な活用を主眼として検討を進める。

結果と考察
(1) リスクコミュニケーション手法
①意思決定の実験の結果から、致命的なリスクを負わない食品よりも致命的なリスクを負う食を選択した者は、マニュアル志向などの形式性を追及している場合があった。
②対象者別にパンフレットのわかりやすさについて、実験的に検討したところ、パンフレットのわかりやすさは,子どもにも分かるもの,手順を明示したイラスト入りのもの,予防法の理由を明示したもの高く,その判断は,事前知識の影響を受けていた。また、リスク認知とリスク知識は,いずれのパンフレットでも情報提供後に上昇した。
食品の安全に関する情報は,テレビ,医師,行政から得たいというニーズがある。また、対象者によって相違があり,高齢者は,テレビ,新聞,家族,女性は,行政や口コミ,子どものいる母親は,学校や幼稚園の先生からの情報を求めていた。
③食品添加物に関するリスクコミュニケーション手法の分析結果から、消費者は、食品添加物のリスクを強調した否定的な情報と安全性を強調した肯定的な情報に接触した場合では、否定的な内容の情報に注目し、信頼する傾向が強く見られた。しかし、購買選択においては、否定的な意見と肯定的な意見の両方の情報に接触した方が、否定的・肯定的どちらか一方の情報を見た場合よりも、食品添加物を使用した食品を選択する傾向が強くなった。
(2)WEB上での情報提供
WEB上で食品リスク情報を参照することで、リスク情報探索が促されるか、当該リスク食品の摂取回避行動が見られたかについて、分析を行った。結果として、人はリスク情報を見ると、それが信頼に値すると判断した場合にはリスク認知が高まり、自分でも調べてみたいと感じるが、実際に行動に移すひとは少ない。普段から情報探索になれている人のみが、さらに調べるということがわかった。
(3)リスクについての教育ツールの開発
本年度は、「料理名人」「ダイエットマスター」「漁師ゲーム」の3点を開発した。「漁師ゲーム」のように食用の魚とそうでない危険な魚を区別する知識の獲得だけでなく、リスクに関する確率の推定の要素を取り入れられることを示した。

結論
各研究をもとにした実務的なインプリケーションについては、以下の通り。
(1)致命的なリスクを負わない食品よりも致命的なリスクを負う食品を選択した者との間に、マニュアル志向性などの意思決定スタイルが関与していることが示唆された。マニュアル志向的な人は食品の安全性を追及していると考えられる。また、種々の安全に関するマニュアルが食品安全にとって有効なことも示唆している。また、意思決定スタイルを考慮して、マニュアルなどにおける食品安全リスクに関する情報の提示の仕方を変えることによって、安全な選択が促進可能なことが示唆された。
(2) リスクコミュニケーションを(a)高齢者に対しておこなうときは,テレビや対面を通して実践できる方法をわかりやすく伝えることが大切なこと,(b)こどもの親に対して行うときは,学校・園における先生を媒介にして,子どものリスクを下げるとことに焦点をあてたコミュニケーションが大切であるといえる。
(3)消費者に食品の安全性を伝える際には、安全面だけを強調するのではなく、リスクがあることを踏まえた上で、安全性を伝える両面的呈示手法が有効であると考えられた。さらに、このような両面呈示法によるコミュニケーション方法は、食品添加物の回避傾向が強い人において効果が確認されたことから、特に、食品リスクに対する懸念が強い人に有効であると考えられる。
(4)インターネット上での情報提供においては、マスメディアによるニュースサイトであっても、個人のブログの記事であっても、同程度の信頼性および影響力を有することがわかった。食品リスクに関する情報を参照することで、人は当該食品に対するリスク認知を高め、自分で情報を取得したり、出来るだけその食品の摂取を控えようと考える。リスク情報を参照し、リスク認知が高まることでそれを行動に移そうとするのは、主に普段からリスク情報に敏感な知識の豊富な人々である。さらに、年齢が上がるごとに、情報取得や摂取回避などの行動に移す人の割合は低下する。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201327011B
報告書区分
総合
研究課題名
行動科学に基づく対象者別リスクコミュニケーションの手法の開発と評価
課題番号
H23-食品-一般-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 肇子(慶應義塾大学 商学部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹村 和久(早稲田大学 文学学術院)
  • 楠見 孝(京都大学 大学院教育学研究科)
  • 花尾 由香里(東京富士大学 経営学部)
  • 杉谷 陽子(上智大学 経済学部)
  • 杉浦 淳吉(慶應義塾大学 文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般国民を対象として、行動科学に基づき、リスクコミュニケーションが促進される手法の開発を行い、実施した上で手法の評価を行う。開発にあたっては、国民の年代や性別、価値観、ライフスタイルなどの要因を考慮してセグメント化を行い、それぞれの対象別に重要な食品安全に関する情報を検討する。成果として、教育ツールおよびリスクコミュニケーションを行うにあたって活用可能な実施マニュアルを併せて提出する。
研究方法
3年にわたる本研究の主たる成果物である手法の開発のために以下の6つの課題を行った。
(1) リスクコミュニケーションの手法と理論の整理
食品のリスクコミュニケーション手法についての資料および文献を国内外で広く収集し、整理した。手法については、理論的な視点からの検討を行った。従来の説得的コミュニケーション理論や、公衆衛生分野で行われている行動変容の手法について、体系化を試みた。
(2) 対象者の調査
対象者の特性に応じたリスクコミュニケーションを設計するために、対象者のリスク認知やライフスタイルを調査した。
(3) 提供情報の検討
提供すべき食品安全(リスク)情報は、この分野の専門家を研究協力者として参画を求め、検討をすすめた。
(4) リスクコミニケーションツールの作成
 上記(1)から(3)の検討に基づき、さまざまな場面で活用可能なリスクコミュニケーションツールを作成した。
(5)WEB上での情報提供の検討
SNS上での適切な発信方法と、その効果(情報の受け手の認知)について、インター
ネット研究の視点から実験的に検討を行った。
(6)手法の効果の測定
  開発したツールおよび、対象者別の手法の検討を行うため、心理学的実験や調査を行ってその効果を検討した。
結果と考察
(1) リスクコミュニケーションの手法を整理して、ツール(チェックリスト、アンケート、広報のポイント)に反映させた。これらのツールの作成にあたっては、専門家のアドバイスを受けた。具体的には、ツールとして以下の4つを作成した。①自治体、民間団体等が使用することが可能なプレゼンテーション資料等を、食中毒について作成し配布した。②説明会等の開催に当たってのチェックリストとアンケート雛型を作成した。③広報資料の作成の際に注意すべきポイントを心理学的な視点からまとめた。④キノコ毒、毒魚、栄養摂取と運動のバランス,リスク表示に関する教材を作成した。
(2) 消費者のセグメント化については、食品のリスク認知の傾向,情報収集行動,食品購買時の対処行動,リスクコミュニケーションへの参加意図等から一般消費者をクラスター化するための調査を行った。その結果,5クラスターに分類できることが明らかになった。
(3) インターネット上で交わされる情報が消費者の食品リスク認知に様々な影響を与えていることを明らかにするために,情報提示の効果、オンライン上での議論の効果を検討した。具体的には、ある食品に関する不確かなリスク情報が提示された場合において、①当該リスクに関する情報探索行動が促進されるか、②当該食品の摂取頻度の低下がみられるか、について検討した.また、媒体別の議論の性質に違いが見られることを明らかにした。
(4) リスクコミュニケーションの手法の効果を,複数の心理実験によって検討した。成果が多いために、ここでは2つの実験結果のみ示す。①アイカメラを用いた食品のリスクに関する意思決定実験を行い,食品の意思決定と視線との関係を分析して,食品の意思決定を予測できる視線行動をある程度明らかにした。また,食品リスクに関する意思決定において,多くの学生がより危険な食品(例えば,毒性のある山菜の摂取)などを選好することも明らかになった。このことは,多くの人々が本質的な危険性より表面的で副次的な属性で意思決定をしていることを示唆している。②保健所作成の食中毒に関するパンフレットの提示内容(大人向きと子ども向き,詳細情報と要点情報,イラストや理由の有無など)と受け手の個人差要因(対象者の知識,批判的思考態度,メディアリテラシー)が,食中毒リスク認知の変化に及ぼす影響について検討した。主要な結果は以下の2つである。 (a)情報のわかりやすさとリスクの回避方法の理解は,子どもにもわかる詳細な内容のパンフレットが高かった。(b)いずれのパンフレットにおいても,リスク認知とリスク知識,予防行動意図は情報提供後に上昇した。(c)対象者のもつ批判的思考態度がメディアリテラシーを高め,情報提示前のリスク知識を高めていた.そして,提示情報のわかりやすさ評価を向上させて,情報提示後のリスク認知とリスク知識を高めていた。

結論
当初計画の予定通りに計画は進捗し、その成果を反映した簡易マニュアルおよび教材を提出した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201327011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品リスク・コミュニケーションについて、対象者別にどのようなアプローチ方法やコミュニケーション手法が有効かを検討した。また、食品に対するリスク認知について、自記入式のアンケートだけではなく、アイカメラなどによる新しい測定方法の有効性を確認した。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
リスク・コミュニケーションについて、特に注意すべき点を記した簡易なマニュアルを提出した。
その他行政的観点からの成果
簡易マニュアルについて、より詳細な資料についても提出した。
その他のインパクト
成果をまとめた書籍を出版予定である。

発表件数

原著論文(和文)
30件
うち書籍16件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
楠見孝・平山るみ
食品リスク認知を支えるリスクリテラシーの構造
日本リスク研究学会誌 , 23 (3) , 1-8  (2013)
原著論文2
杉谷陽子
消費者の態度における感情の認知
消費者行動研究 , 17 , 143-168  (2011)
原著論文3
井出野尚・竹村和久
洗剤的認知と消費者行動分析
繊維製品消費科学 , 53 (1) , 22-30  (2012)
原著論文4
玉利祐樹・竹村和久
描画の洗剤意味解析モデルによる消費者の選好分析
日本感性工学会論文誌 , 11 (1) , 89-95  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-06-19
更新日
2020-06-03

収支報告書

文献番号
201327011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,720,000円
(2)補助金確定額
5,720,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 951,323円
人件費・謝金 601,430円
旅費 527,742円
その他 2,320,836円
間接経費 1,320,000円
合計 5,721,331円

備考

備考
預金利息458円、自己負担873円

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-