文献情報
文献番号
201324013A
報告書区分
総括
研究課題名
中枢性摂食異常症に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小川 佳宏(公立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 根本 崇宏(日本医科大学医学部)
- 児島 将康(久留米大学分子生命科学研究所)
- 正木 孝幸(大分大学医学部)
- 中尾 一和(京都大学大学院医学研究科)
- 久保 千春(九州大学)
- 中里 雅光(宮崎大学医学部)
- 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科)
- 鈴木 眞理(政策研究大学院大学)
- 堀川 玲子(国立成育医療研究センター)
- 遠藤 由香(東北大学病院)
- 岡本 百合(広島大学)
- 間部 裕代(熊本大学医学部附属病院)
- 横山 伸(長野赤十字病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,977,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
中枢性摂食異常症の成因・病態に関する基礎研究と臨床研究を組み合わせて本症の新しい治療法と予防法の開発を推進することを目的とする。中枢性摂食異常症の病因・病態解明のための基礎研究と臨床研究、臨床現場に有効な対処法・治療法の開発のための臨床研究を推進する。現在、確立しつつある摂食障害のプライマリケアを援助する基幹医療施設のネットワークを活用して、東京都内における本症の疫学調査の経験を踏まえて他の地域における疫学調査を実施し、全国における本症の発症頻度を把握する。以上により、難治性疾患としての中枢性摂食異常症の克服に向けて有効な予防法と治療法に関する基盤データの集積とインフラの整備を推進し、患者のQOLの向上のみならず本症患者と予備軍の減少により医療福祉行政における経済損失の抑制につなげる。
研究方法
基礎研究では、摂食・エネルギー代謝調節関連分子あるいは受容体の遺伝子改変動物を用いて、中枢性摂食異常症の成因と病態に関する摂食・エネルギー代謝調節の分子機構と中枢性摂食異常症における主要な中枢性神経伝達分子の病態生理的意義を検討した。臨床研究では、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)や近赤外線スペクトロスコピーなどの方法論も導入し、摂食障害の病態の解析を開始した。「摂食障害のプライマリケアを援助する基幹医療施設のネットワーク形成を目指したWG」により、小学生・中学生・高校生を対象とした全国疫学調査を実施した。
結果と考察
【基礎研究】FOXO1過剰発現遺伝子改変マウスの骨格筋においてグルタミン合成酵素遺伝子の発現とグルタミン含有量が増加することを明らかにし、グルタミン合成とアンモニア消去は生体の重要な飢餓適応の一つとなる可能性が示唆された。カロリー摂取制限した母ラットが出産した出生時低体重ラットではDNAメチル化の変化によりGH受容体発現を負に制御するmiR-322の発現が亢進してIGF-1産生量や血中濃度の低下により短体長低体重を呈する可能性が明らかになった。寒冷刺激や交感神経系の活性化により白色脂肪組織中のBeige細胞においてUCP1の上昇と脂肪酸酸化に関連する蛋白質FABP3発現が上昇することが明らかになり、末梢脂肪組織の熱産生における重要性が示唆された。飢餓時の食行動促進反応に対して神経ヒスタミンが視床下部および扁桃体において食行動を抑制性に制御することが示唆された。
【臨床研究】ヒトにレプチンあるいはGLP-1を投与してfMRIにより解析し、ホルモン特異的応答性中枢神経領域の検出に成功した。食行動により制限型(AN-R)とむちゃ食い排出型(AN-BP)に分類して体脂肪量や脂肪酸濃度を測定し、AN-R群では極長鎖脂肪酸の高値が認められ、AN-BPでは糖質から合成可能な脂肪酸濃度が上昇することが明らかになった。テストミール摂取後に糖尿病患者に対してGLP-1と生食の皮下投与を同一対象者に施行したところ、単回投与では摂食行動には影響はなかったが、収縮期・拡張期血圧と血中アドレナリンの上昇とインスリン初期分泌増強と活性型GIP初期分泌抑制とグルカゴンとグレリンの後期分泌亢進が認められた。近赤外線スペクトロスコピーとMRIにより、摂食障害(ED)群では両側眼窩前頭皮質活性が低いほど対人不安定の自覚が乏しくなること、MRI構造画像のVBM解析により、ED群では前頭前野、頭頂連合野、帯状回では左側視床枕の体積が小さいことが明らかになった。ビタミンD不足を伴うANでは、新しい活性型ビタミンD3製剤が骨粗鬆症の治療法として有用であることが示唆された。ANの回復後から性腺機能回復までに要する時間を検討したところ、学童思春期発病のANでは体重の回復後も性腺機能の障害が持続することが示唆された。
【全国疫学調査】北海道、長野県、山口県、広島県、宮崎県で各道県の教育委員会の了解を得て、養護教諭へ質問紙法で摂食障害の疫学調査を行った。北海道、広島県、山口県では初めての疫学調査であった。ANは小学校4年生の男女児に認められ、中学2~3年生から患者数が急増する傾向が確認された。女子高校生では、疑い例を含む有病率は0.17~0.56%であった。男子においても増加していることが示唆された。又、患者の半数が受診していなかった。患者が多い米国の有病率と同等以上であることが明らかになった。
【臨床研究】ヒトにレプチンあるいはGLP-1を投与してfMRIにより解析し、ホルモン特異的応答性中枢神経領域の検出に成功した。食行動により制限型(AN-R)とむちゃ食い排出型(AN-BP)に分類して体脂肪量や脂肪酸濃度を測定し、AN-R群では極長鎖脂肪酸の高値が認められ、AN-BPでは糖質から合成可能な脂肪酸濃度が上昇することが明らかになった。テストミール摂取後に糖尿病患者に対してGLP-1と生食の皮下投与を同一対象者に施行したところ、単回投与では摂食行動には影響はなかったが、収縮期・拡張期血圧と血中アドレナリンの上昇とインスリン初期分泌増強と活性型GIP初期分泌抑制とグルカゴンとグレリンの後期分泌亢進が認められた。近赤外線スペクトロスコピーとMRIにより、摂食障害(ED)群では両側眼窩前頭皮質活性が低いほど対人不安定の自覚が乏しくなること、MRI構造画像のVBM解析により、ED群では前頭前野、頭頂連合野、帯状回では左側視床枕の体積が小さいことが明らかになった。ビタミンD不足を伴うANでは、新しい活性型ビタミンD3製剤が骨粗鬆症の治療法として有用であることが示唆された。ANの回復後から性腺機能回復までに要する時間を検討したところ、学童思春期発病のANでは体重の回復後も性腺機能の障害が持続することが示唆された。
【全国疫学調査】北海道、長野県、山口県、広島県、宮崎県で各道県の教育委員会の了解を得て、養護教諭へ質問紙法で摂食障害の疫学調査を行った。北海道、広島県、山口県では初めての疫学調査であった。ANは小学校4年生の男女児に認められ、中学2~3年生から患者数が急増する傾向が確認された。女子高校生では、疑い例を含む有病率は0.17~0.56%であった。男子においても増加していることが示唆された。又、患者の半数が受診していなかった。患者が多い米国の有病率と同等以上であることが明らかになった。
結論
臨床現場において有効な中枢性摂食異常症に関する対処法・治療法の開発を目指して、本症の成因・病態に関する基礎研究と臨床研究を推進した。基礎研究により中枢性摂食異常症に関連する病態と中枢性摂食調節の分子機構が明らかになり、臨床研究により中枢性摂食異常症の病因・病態の臨床的理解が進んだ。摂食障害のプライマリケアを援助する基幹医療施設のネットワークを活用して本症の実態把握に向けた全国疫学調査を実施した。
公開日・更新日
公開日
2014-07-23
更新日
2015-06-30