文献情報
文献番号
201317044A
報告書区分
総括
研究課題名
就学前後の児童における発達障害の有病率とその発達的変化:地域ベースの横断的および縦断的研究
課題番号
H23-精神-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
神尾 陽子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
- 川俣 智路(大正大学 臨床心理学科)
- 中井 昭夫(福井大学 子どものこころの発達研究センター)
- 三島 和夫(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部 )
- 小保内 俊雅(公益財団法人東京都保健医療公社 多摩北部医療センター)
- 深津 玲子(国立障害者リハビリテーションセンター)
- 藤野 博(東京学芸大学 総合教育科学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子どもに対する早期支援のための早期診断の意義はきわめて大きいが、ASDの早期診断・支援体制の整備に必要な疫学的エビデンスはわが国には乏しい。4-5歳という年齢はエビデンスの乏しい年齢帯で、しかも3歳までの乳幼児健診の検証および幼保小連携の観点から重要な時期である。乳幼児期健診に始まる発達障害への地域支援を途切れないものにするためには、わが国の就学前幼児における、自閉症状の有症率、およびASDに合併の多い注意欠如多動性障害(ADHD)や不器用、情緒、睡眠などの諸症状の分布についての実証的データが不可欠である。本研究は、就学前幼児(4-5歳)を対象として日本でのASDの有病・有症率、ASDに合併する情緒や行動の問題、ADHD、不器用、睡眠障害の有症率と合併パターン、そして関連する環境要因を明らかにすることを目的とする。
研究方法
多摩地域の保育所・幼稚園の年中児クラス在籍の幼児を対象に行ったH23,24年度の第1回質問票調査(n=1390)、第1回面接調査(n=72)、第2回質問票調査に引き続き、当該年度は第3回質問票調査を実施した。尋ねた項目は、情緒や行動など全般的な精神病理に関する子どもの強さと困難さアンケート(Strength and Difficulties Questionnaire: SDQ)、Pediatric Quality of Life InventryTM(PedsQLTM), 母親の育児関連およびうつ症状項目であった。296名から有効回答を得た。第1回目調査データとリンクしたデータセット(n=221)について重回帰分析を行った。他に地域の保育士を対象とした調査、少数例の発達障害児を対象とした不器用症状にターゲットをおいた介入研究を実施し、認知機能などを行い評価した。
結果と考察
第1に、4-5歳児におけるASDの有病率は、3.5%(95%CI:2.6-4.6)と、従来研究よりも高い値が見積もられた。4-5歳のASD児の8-9割に精神障害の合併が見出された。同対象よりも年長の学童を対象に報告された海外の最新の大規模研究の結果と近似していたことは特筆すべきである。しかも、多領域に及ぶ複数の障害の合併が大部分を占め、睡眠や協調運動など運動面にも及ぶことが確認された。
第2に、4-5歳の疫学サンプル中、ASD臨床閾下児においても診断閾児同様、多動・不注意、情緒、行為、不器用、睡眠問題といった精神症状全般を広範囲にわたって臨床的水準、あるいはサブクリニカルな水準で有していた。合併は予後不良のリスク因子であることから、少なくとも4-5歳以上の発達障害ハイリスク児の発見と支援の際には、合併している症状を見逃さないように包括的な評価に基づいたニーズ把握の必要性が示唆された。
第3に、前向きの追跡結果から3歳までの幼児期の行動特徴、5歳時の行動特徴のいずれもが就学後1年生時、7歳での適応を予測することが示された。これらより、乳幼児健診で発見された要支援児を、継続的にフォローできる体制作りの重要性が示唆される。また要支援児の養育者(本研究ではほとんどが母親)の育児の自信喪失とメンタルヘルスの低さ、サービスへの高いニーズも明らかにした。このことから、現在の地域の育児支援のあり方を再考し、発達支援と密接に連動できる体制を構築する必要性を示唆する。
第4に、幼児期の運動面の困難さへの介入可能性を検討し、予備的な報告を行った。まだ病態が未解明であるけれども、多様な介入プログラムのオプションを開発することは、個人差の大きい発達障害児のニーズに応えるためには今後ますます必要となると考えられる。
第2に、4-5歳の疫学サンプル中、ASD臨床閾下児においても診断閾児同様、多動・不注意、情緒、行為、不器用、睡眠問題といった精神症状全般を広範囲にわたって臨床的水準、あるいはサブクリニカルな水準で有していた。合併は予後不良のリスク因子であることから、少なくとも4-5歳以上の発達障害ハイリスク児の発見と支援の際には、合併している症状を見逃さないように包括的な評価に基づいたニーズ把握の必要性が示唆された。
第3に、前向きの追跡結果から3歳までの幼児期の行動特徴、5歳時の行動特徴のいずれもが就学後1年生時、7歳での適応を予測することが示された。これらより、乳幼児健診で発見された要支援児を、継続的にフォローできる体制作りの重要性が示唆される。また要支援児の養育者(本研究ではほとんどが母親)の育児の自信喪失とメンタルヘルスの低さ、サービスへの高いニーズも明らかにした。このことから、現在の地域の育児支援のあり方を再考し、発達支援と密接に連動できる体制を構築する必要性を示唆する。
第4に、幼児期の運動面の困難さへの介入可能性を検討し、予備的な報告を行った。まだ病態が未解明であるけれども、多様な介入プログラムのオプションを開発することは、個人差の大きい発達障害児のニーズに応えるためには今後ますます必要となると考えられる。
結論
4-5歳児という就学前の地域集団において、ASDの有病・有症率は従来の報告よりも高値が確認され、多数の要支援児が見合った支援を受けていないまま就学している実態が浮き彫りにされた。また、ASD児、臨床閾下児においては情緒や行動の合併率が高いことから、教育支援だけでなくメンタル面の包括的支援ニーズが示され、医療・保健・教育・福祉の有機的な連携の一層の効率化が求められていると言える。さらに、幼児期の行動特徴が就学後のQOLを予測することも縦断研究の成果から示され、包括的精神医学的アセスメントを定期的にルーチンとして実施する健診体制とそれにつながるASD児の支援体制の整備を急ぐ必要がある。本研究は、地域でニーズのある子どもすべてに対応できる発達障害支援サービスの整備をすすめるにあたって参照すべき日本のエビデンスを提供し、また多数の評価尺度を標準化した。これからの施策立案、臨床や後続研究の推進に貢献できたと考えられる。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
-