日本の国際貢献のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201303008A
報告書区分
総括
研究課題名
日本の国際貢献のあり方に関する研究
課題番号
H24-地球規模-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渋谷 健司(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 真奈美(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 池田 奈由(国立健康・栄養研究所)
  • Stuart Gilmour(スチュアート ギルモー)(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 大田 えりか(伊東 えりか)(成育医療研究センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,441,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 地球規模の保健課題(グローバルヘルス)は今、大きな変革期を迎えている。我が国はこの50年間で世界でも最高レベルの保健アウトカムを達成したのに加え、公平な国民皆保険制度を構築し、低医療費で維持してきた。これらを背景に、日本は今後のグローバルヘルスに関わる取組みを推進・支援する指導的役割を果たしうる立場にある。しかし、その潜在性の高さに比べ、日本のグローバルヘルスへの関与は顕著とはいえない。本研究の目的は、平成23年度に出版された「ランセット誌」日本特集号における提言を具現化し、変革期にあるグローバルヘルス分野における我が国の科学的かつ戦略的な保健政策提言に資する研究を推進することである
研究方法
 平成25年度(最終年度)は、昨年度実施された我が国の保健政策分析に必要な世界の疾病負担研究、途上国における保健財源と革新的財源の研究、介入戦略についての系統的レビュー分析等の実績をふまえて、本研究班からの成果をまとめ、特に、英文論文や海外での学会や会議にて積極的に発表した。渋谷、井上、ギルモーは、米国グローバルヘルス評議会、ジョンゾ・ホプキンス大学らとの連携しながら、発展途上国における生活習慣病対策についての研究会のコアメンバーとして、グローバルヘルスにおける政策と研究について、規制、医薬品へのアクセス、HIV/AIDS対策からの教訓、生活習慣病におけるプライマリ・ケア、生活習慣病の予防とコントロールにおけるセクター間の協力に関して文献調査や研究班員等との議論を行った。ギルモー、齋藤、ラーマンは、途上国における生活習慣病に関する健康格差の傾向を分析し、健康格差を埋めるための効果的、そして費用対効果の高い介入に関する政策提言を行うため、また、より効果的な健康保険制度を導入するための政策に関して、先行研究の系統的レビューを実施した。さらに、生活習慣病が急速に蔓延し始めている低開発国であるネパールを具体例として、ネパールにおける主要疾患の罹患歴、医療費の自己負担レベル、世帯消費額の10%を超える高額医療費自己負担の頻度について世帯調査を実施し分析を行った。
 また、生活習慣病予防に関する国レベルでの医療政策と国際レベルでの医療政策の戦略を立てるために、バングラデシュを事例として、低所得国における疾病の管理(生活習慣病の現在の有病率、危険因子、管理)と経済負荷を分析した。2011 Bangladesh Demographic and Health Survey (BDHS) data をマルチレベルロジスティック回帰モデルを用い、高血圧と糖尿病における意識、治療、管理の危険因子を分析した。貧困化は、世界保健機関と世界銀行が提示した手法に基づいて計算された。ポワソン回帰分析により、貧困化の決定要因を調べた。
結果と考察
 国際共同研究により、ガバナンスの改善、セクター間の連携、そしてプライマリ・ヘルスケアが、健康転換に直面している低所得国において効果的な医療財政システムを可能にし、持続可能性を維持するために重要であることが分かった。また、先行研究のレビューから、費用対効果の高い母乳育児の促進は、若干のインフラ整備と介入によって改善することが可能であり、国内で子供の健康格差を縮小するための鍵となることが明らかになった。さらに、最近発表されたアフリカにおける研究の結果に基づき、同研究は条件付き現金給付を用いる際の阻害要因を分析した。条件付き現金給付の効果は、条件付き現金給付がなされている地域におけるインフラの改善、そしてモニタリングによって、さらに改善することができることが示唆された。
 本研究班では、先進国と新興国の生活習慣病流行に対する新たな共通の取り組みを提供している。国際保健コミュニティがWHOのUHCのアジェンダの実施とシステム構築は喫緊の課題である。生活習慣病の流行により持続可能性の脅威の増大に答えようとする今こそ、具体的な政策目標と実施が新たな保険制度の骨組みの明確化のために不可欠である。我々は、それらの進歩の為に我が国は政策に多部門にまたがるコミットメント、実績のモニ タリングにおける改善、非伝統的なセクターの医療とのかかわり、プライマリ・ヘルスケアにおける近代化に積極的に関与していく必要があると考えられる。
結論
 多くの国々がUHCに向かい動き始め、日本も国内の保健医療制度を維持するにあたり課題に直面する今日、我が国の知見を生かしながらグローバルヘルスにおける戦略策定とコミットメントにより,日本には世界の保健医療の改善に大きく貢献できる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201303008B
報告書区分
総合
研究課題名
日本の国際貢献のあり方に関する研究
課題番号
H24-地球規模-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渋谷 健司(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 真奈美(東京大学 大学院医学系研究科 )
  • 池田 奈由(国立健康・栄養研究所)
  • Stuart Gilmour(スチュアート ギルモー)(東京大学 大学院医学系研究科 )
  • 大田 えりか(伊東 えりか)(成育医療研究センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 地球規模の保健課題(グローバルヘルス)は今、大きな変革期を迎えている。ミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限は5年を切り、また世界的な高齢化や非感染症疾患(NCD)の蔓延などポストMDGsのさまざまな課題も山積している中で、国際社会は新たなグローバルヘルス戦略を必要としている。本研究代表者らは、平成23年度には、皆保険制度導入から50周年の我が国の保健医療制度の諸課題を包括的に分析し、グローバルヘルスに関する提言を含む6つの学術論文を英国「ランセット誌」日本特集号において発表し、世界に向けて我が国の教訓を発信することに成功した。本研究の目的は「ランセット誌」日本特集号における提言を具現化し、変革期にある我が国のグローバルヘルス分野における科学的かつ戦略的な保健政策提言に資する研究を推進することである。具体的には、ガバナンス、介入、財源について詳細な分析を行い、我が国の国際貢献におけるパラダイムシフトを起こすための先駆的な役割を果たす。この研究により、わが国のグローバルヘルスにおけるプレゼンスと知的貢献を推進する。さらに、我が国の過去50年間の知見および課題を世界と共有するネットワークを形成し、ポストMDGsにおいて具体的な支援策を開発しアジェンダ設定に積極的に関与していく、我が国のリーダーシップの発揮に寄与することが可能である。また、グローバルヘルス・ガバナンス、介入戦略、財源、の分析を通し、国内外の専門家集団との連携を通じ、我が国における知的・人的貢献のプールを作ることを目指す。
研究方法
 平成24年度は、各研究者は、それぞれの研究課題について、先行研究の文献調査や系統的レビュー、既存統計の利用による分析と方向性の確認、我が国の保健政策分析に必要な世界の疾病負担研究、途上国における保健財源と革新的財源の研究、介入戦略についての系統的レビュー分析を進めた。さらに、各種学術活動と本研究班とのシナジーを測り、国際的な研究ネットワークとの連携を図り人材育成に努めた。
 平成25年度(最終年度)は、昨年度実施された我が国の保健政策分析に必要な世界の疾病負担研究、途上国における保健財源と革新的財源の研究、介入戦略についての系統的レビュー分析等の実績をふまえて、本研究班からの成果をまとめ、特に、英文論文や海外での学会や会議にて積極的に発表した。
結果と考察
 世界の疾病負担研究では、MDG4~6の進捗に加え、健康転換の状況に大きなばらつきがあることが示された。先行研究のレビューから、費用対効果の高い母乳育児の促進は、若干のインフラ整備と介入によって改善することが可能であり、国内で子供の健康格差を縮小するための鍵となることが明らかになった。さらに、条件付き現金給付を用いる際の阻害要因を分析した。
 生活習慣病の増大に直面する発展途上国であるネパールの事例では、成人(20歳以上)では、高血圧(10.5%)が次いで多く、糖尿病も3.7%の成人で罹患が見られた。高額医療費自己負担の危険因子を分析したところ、糖尿病、喘息、心臓病が最貧困層において主な危険因子であった。バングラデシュでは、成人のうち4人に1人が高血圧に罹患し、10人に1人が糖尿病を罹患していたことが分かった。高血圧と糖尿病に罹患した成人人口のうち、50%以上が自身の健康状態に関して自覚していなかった。教育は、糖尿病と高血圧の治療と管理に高い影響を与えた。
 また、国際共同研究により、ガバナンスの改善、セクター間の連携、そしてプライマリ・ヘルスケアが、健康転換に直面している低所得国において効果的な医療財政システムを可能にし、持続可能性を維持するために重要であることが分かった。
結論
 過渡期にあるグローバルヘルスのガバナンス、介入戦略、財源について詳細な検討を加えることで、わが国のグローバルヘルスにおける戦略的関与とプレゼンスおよび知的貢献の強化を行うことができると考えられる。
 多くの国々がUHCに向かい動き始め ,日本も国内の保健医療制度を維持するにあたり課題に直面する今日、我が国の知見を生かしながらグローバルヘルスにおける戦略策定とコミットメントにより,日本には世界の保健医療の改善に大きく貢献できる可能性がある

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201303008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
多くの国々がUHCに向かい動き始め ,日本も国内の保健医療制度を維持するにあたり課題に直面する今日、我が国の知見を生かしながらグローバルヘルスにおける戦略策定とコミットメントにより,日本には世界の保健医療の改善に大きく貢献できる可能性があることを、ガバナンス、介入戦略、財源につ射手の検討と実証的研究の実施と英文論文や著作等を通して示すことができた。
臨床的観点からの成果
特になし
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
本研究班の研究成果は、厚生労働省、外務省、財務省、研究機関、国際機関、民間機関が定期的に集う「グローバル・ヘルスと人間の安全保障運営委員会」における次期研究テーマの設定並びに2016年度の我が国でもG8を見越した戦略策定プロセスに活用された。
その他のインパクト
グローバスヘルス評議会、ジョンゾ・ホプキンス大学らとの連携しながら、発展途上国におけるNCD対策についての研究会のコアメンバーとして、グローバルヘルスにおける政策と研究について、規制、医薬品へのアクセス、HIV/AIDS対策からの教訓、NCDにおけるプライマリ・ケア、NCDの予防とコントロールにおけるセクター間の協力に関して書物を出版できた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Rahman MM, Gilmour S, Saito E, Sultana P, Shibuya K
Health-related financial catastrophe, inequality and chronic illness in Bangladesh.
PLoS ONE  (2013)
原著論文2
Rahman MM, Gilmour S, Saito E, Sultana P, Shibuya K
Self-reported illness and household strategies for coping with health-care payments in Bangladesh.
Bulletin of the World Health Organization  (2014)
原著論文3
Ota E, Tobe-Gai R, Mori R, Farrar D.
Antenatal dietary advice and supplementation to increase energy and protein intake.
Cochrane Database of Systematic Reviews  (2012)
原著論文4
Mori R, Ota E, Middleton P, Tobe-Gai R,et al.
Zinc supplementation for improving pregnancy and infant outcome.
Cochrane Database of Systematic Reviews  (2012)
原著論文5
Ota E, Souza JP, Tobe-Gai R, et al.
Interventions during the antenatal period for preventing stillbirth: an overview of Cochrane systematic reviews (Protocol).
Cochrane Database of Systematic Reviews  (2012)
原著論文6
Gilmour S, Hamakawa T, Shibuya K.
Cash-transfer programmes in developing countries.
The Lancet  (2013)
原著論文7
Gilmour S, Shibuya K.
Simple steps to equity in child survival.
BMC Medicine  (2013)
原著論文8
Akter S, Rahman MM, Abe SK, Sultana S.
Prevalence of diabetes and prediabetes and their risk factors among Bangladeshi adults: a nationwide survey.
Bulletin of the World Health Organization  (2014)
原著論文9
Akter S, Rahman MM, Abe SK, Sultana P.
Nationwide survey of prevalence and risk factors for diabetes and prediabetes in Bangladeshi adults.
Diabetes care  (2014)
原著論文10
Saito E, Gilmour S, Rahman MM, Gautam GS, et al.
Catastrophic health spending and cost of illness in Nepal under health transition.
Bulletin of the World Health Organization  (2014)
原著論文11
Murray CJL, Vos T, Lozano R, Naghavi M, Flaxman AD, et al.
Disability-adjusted life years (DALYs) for 291 diseases and injuries in 21 regions, 1990–2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010.
The Lancet  (2012)
原著論文12
Lozano R, Naghavi M, Foreman K, Lim S, Shibuya K, et al.
Global and regional mortality from 235 causes of death for 20 age-groups in 1990 and 2010: A systematic analysis.
The Lancet  (2012)
原著論文13
Vos T, Flaxman AD, Naghavi M, et al.
Years lived with disability (YLDs) for 1160 sequelae of 289 diseases and injuries 1990–2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010.
The Lancet  (2012)
原著論文14
Lim SS, Vos T, Flaxman AD, et al.
A comparative risk assessment of burden of disease and injury attributable to 67 risk factors and risk factor clusters in 21 regions, 1990–2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010.
The Lancet  (2012)
原著論文15
Murray CJL, Ezzati M, Flaxman AD, et al.
The Global Burden of Disease Study 2010.
The Lancet  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
2018-07-05

収支報告書

文献番号
201303008Z