ナノマテリアルの経皮・吸入曝露実態の解析基盤および経皮・吸入毒性評価基盤の確立とヒト健康影響情報の集積

文献情報

文献番号
201236006A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの経皮・吸入曝露実態の解析基盤および経皮・吸入毒性評価基盤の確立とヒト健康影響情報の集積
課題番号
H22-化学-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 八木 清仁(大阪大学 薬学研究科)
  • 齋藤 滋(富山大学 大学院医学薬学研究部)
  • 柳原 格(大阪府立母子保健総合医療センター研究所)
  • 宮川 剛(藤田保健衛生大学 総合医科学研究所)
  • 河合 裕一(神戸学院大学 薬学部)
  • 桑形 麻樹子(食品薬品安全センター秦野研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
54,116,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ナノマテリアル(粒子径100 nm以下:NM)に加え、蛋白質と同等サイズ領域のサブナノマテリアル(1〜10 nm範囲:sNM)が開発・実用化され、我々は、NM・sNMの意図的・非意図的な経皮・吸入曝露をもはや避け得ない。一方で未だ、NM・sNMの安全性については、ハザード情報でさえ不十分であるうえ、リスク解析とその評価、そして将来的なリスク管理に必須となる曝露実態情報(吸収性や蓄積性、相互作用を含めた動態情報)に関しては、国内外を問わず皆無に等しい。そのため、曝露実態情報を含め、NM・sNMの安全性を高度に保障し得るNano-Safety Science(ナノ安全科学)をより一層推進したうえで、安全なものは積極的に有効活用し、安全性に懸念があるものについては安全なものに仕立てあげていくNano-Safety Design(ナノ最適デザイン)をも推し進めることで、持続的なナノ技術(Sustainable Nanotechnology)の発展を図らねばならない。本観点から本研究では、安全なNM・sNMの開発に資する基盤情報の収集を目的に、ナノ安全科学研究として、種々NM・sNMの物性・品質を解析すると共に、リスク解析基盤となる細胞内・体内動態と一般毒性・特殊毒性を定性・定量解析し、物性・品質-動態-安全性の連関評価を実施した。
研究方法
サブナノ~ナノスケールで、かつ分散性に優れた非晶質ナノシリカ、サブナノ白金やサブナノ銀などをメインサンプルとして用いた。
結果と考察
曝露実態に関して、1)これまでに構築した微量同定・定量解析基盤を用いることで、ヒトに近い皮膚構造を有するラットにおいても、サブナノ銀はナノ銀よりも、塗布局所である皮膚に多く滞留することを見出すと共に、全く未解明であったNM・sNMの細胞内からの排出経路の一部を先駆けて明らかとした。またハザード情報に関しては、2)ナノシリカやサブナノ白金の皮膚塗布が、生体免疫応答を改変することで、アナフィラキシー反応に対する感受性を飛躍的に高め得ることや、抗NM・sNM抗体の誘導に伴うアトピー性皮膚炎の悪化を誘導する可能性を新たに見出した。さらに、サブナノ白金の胎仔期曝露が、胎仔の神経新生を阻害することで、次世代に情動・認知障害を誘発し得ること、サブナノ白金やサブナノ銀が母乳を介して乳幼仔に移行し、成長阻害などを誘導すること、さらには、雄親曝露によっても次世代の成長に影響を及ぼし得ることを先駆けて明らかとした。また、OECDテストガイドラインに関しても、3)サブナノ銀のインターラボ間でのバリデーションを完了した。一方で、4)種々ナノ産業との連携を密に取りつつ、既に実用化されているNM・sNMの安全性評価や安全性情報の提供、安全なNM・sNMの開発支援を行った。
結論
ナノサイズおよび、それよりも小さなサブナノサイズ(10 nm以下)で、経皮・吸入曝露後実態の排出・蓄積に関する情報や、免疫毒性評価・次世代影響評価に関して、当初目標を超える成果が得られた。即ち、NM・sNMのリスクを考えるうえで最も重要な曝露情報の収集を達成し、独自のNano-Safety Science研究が、ヒト健康の安全確保を実現し、本邦のNM・sNM産業の発展とその支援、また国際貢献に有用であることを見出した。

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201236006B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノマテリアルの経皮・吸入曝露実態の解析基盤および経皮・吸入毒性評価基盤の確立とヒト健康影響情報の集積
課題番号
H22-化学-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 八木 清仁(大阪大学 薬学研究科 )
  • 齋藤 滋(富山大学大学院 医学薬学研究部)
  • 柳原 格(大阪府立母子保健総合医療センター研究所)
  • 宮川 剛(藤田保健衛生大学 総合医科学研究所)
  • 河合 裕一(神戸学院大学 薬学部)
  • 桑形 麻樹子(食品薬品安全センター秦野研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ナノマテリアル(粒子径100 nm以下:NM)や、蛋白質と同等のサブナノサイズ領域(10 nm以下)のサブナノマテリアル(sNM)が開発され、様々な製品として我々の生活の質的向上に寄与している。即ち、非晶質ナノシリカや白金・銀粒子などの種々NM・sNMを含有した化粧品や食品が既に上市され、我々の生活に密着している現状を考えた場合、意図的・非意図的な経皮・吸入曝露はもはや避け得ない。一方で未だ、NM・sNMのADMET(動態・安全性)については、ハザード情報でさえ不十分であり、リスク解析に必須の曝露実態情報に至っては皆無に等しい。そのため、曝露実態情報を含め、NM・sNMの安全性を高度に保障し得るNano-Safety Science(ナノ安全科学)をより一層推進したうえで、安全なものは積極的に有効活用し、安全性に懸念があるものについては安全なものに仕立てあげていくNano-Safety Design(ナノ最適デザイン)をも推し進めることで、持続的なナノ技術の発展を図らねばならない。そこで当該研究では、3ヶ年で、sNMにも先駆けて注目し、種々NM・sNMの、1)経皮・吸入経路からの曝露実態を先駆けて微量同定・定量化すること、および2)情動・認知行動毒性など、他に類を見ないハザード情報の集積基盤手法を開発し、NM・sNMのハザード情報を集積することで、将来的なリスク解析に必須の情報を集積すること、3)OECD主導のNM・sNM安全性調査に関するスポンサーシッププログラムにおける我が国のマイルストンに関して、イントララボ間・インターラボ間でのバリデーションを図ること、4)産業界と連携して既実用化・実用化予定のNM・sNMの安全性評価、さらにはNM・sNMの安全性を向上・担保させる技術の探求などを推進した。
研究方法
サブナノ~ナノスケールで、かつ分散性に優れた非晶質ナノシリカ、サブナノ白金やサブナノ銀などをメインサンプルとして用いた。
結果と考察
本研究では、微量同定・定性/定量解析基盤の追求により、1)従来までのサブミクロンサイズ以上の素材とは異なり、100 nm以下のナノシリカが経皮/経鼻吸収されること、サブナノ白金やサブナノ銀が経皮吸収されること、その後、全身分布し得ること、2)特に、サブナノ白金やサブナノ銀は、ナノサイズや分子状(イオン)の同一素材と比較して、皮膚吸収性や血中移行性が高いなど、sNMは、NMやイオンとも全く異なる体内挙動を示し、吸収されやすく、蓄積されやすい可能性を見出した。また、3)ナノシリカやサブナノ白金は、胎盤に集積した後、胎盤関門を突破して胎仔の脳や肝臓にまで移行すること、4)母乳や精巣・精子にまで移行することなどを認めている。また、NM・sNMを経皮・吸入曝露後の一般毒性・特殊毒性試験を多数実施し、5)血液凝固異常を誘発し、播種性血管内凝固症候群を惹起し得ること、6)胎盤障害を誘発し、胎仔毒性を惹起するのみならず、NM・sNMに曝露された母体から出生した仔では、免疫異常や、情動認知異常を惹起すること、7)母乳を介してNM・sNMに曝露された乳幼仔では、発達障害や免疫異常が懸念されること、8)NM・sNMに曝露された雄親の仔では、発達障害や免疫異常が懸念されること、9)経皮吸収されたNM・sNMが、免疫撹乱作用により、アトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を誘発すること、10)NM・sNMに対する自然免疫・獲得免疫といったナノ免疫毒性を惹起し得ることなどを見出し、閾値を追求した。また、11)トキシコプロテオミクスによりNM・sNMの安全性バイオマーカーの同定にも成功すると共に、表面修飾によりNM・sNMの物性を制御することで、上述したNM・sNMの生体影響を大幅に軽減可能であることを明らかとした。また、12)OECDテストガイドラインに関して、カーボンナノチューブやC60フラーレンの安全性評価試験を実施すると共に、サブナノ白金やサブナノ銀の皮膚影響についても、イントララボ間・インターラボ間でのバリデーションを完了した。さらに13)種々ナノ産業との連携を密に取りつつ、既実用化・実用化予定のNM・sNMについて、安全性評価や安全性情報の提供を実施した。
結論
本研究成果は、安全なNM・sNMの開発支援を通じて、国民が安心してNM・sNMの恩恵を最大限に享受でき、一方で我が国のナノ産業を育成・発展させるのみならず、労働・生活衛生の向上と国民の健康確保など、NM・sNMの社会受容の促進にも貢献するものである。また、NM・sNMのリスク管理やレギュレーションの策定といった厚生労働的視点、さらにOECD対応等による国際貢献の点で、責任のある先進国・知財技術立国・健康立国としての我が国に資するものと言える。 

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201236006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
当該研究課題では、原著論文29報、総説・書籍26報を公表すると共に、シンポジウム21件、国内学会発表153件、国際学会発表66件で成果発表するなど、多数の論文や学会で発表している。特に、世界最高峰のNature Nanotechnologyに成果が掲載されるなど、学術的に大きな注目を集めている。また、これらの成果は、日本経済新聞(平成22年)、日刊工業新聞(平成23年)、日本経済新聞(平成23年)、朝日新聞(平成24年)などに掲載され、広く一般に紹介されている。
臨床的観点からの成果
当該研究課題においては、2名の臨床医に分担研究者として参画頂き、臨床的視点を踏まえ検討を実施した。特に、ナノ・サブナノマテリアルが流産などの胎仔毒性や情動認知異常を誘発する懸念があることを示した。本知見は、近年、社会問題となっている不育症や子供の心の病について、ナノ・サブナノマテリアルとの因果関係を精査する必要性を示唆するものであり、厚生労働行政的・社会的に重要であるのみならず、臨床的観点からも必要性の高い内容であると考えられる。
ガイドライン等の開発
これまで、OECD主導のナノマテリアルの安全性調査に関するスポンサーシッププログラムにおける我が国のマイルストンについて、本邦の担当分であるカーボンナノチューブやフラーレンに関して、経皮安全性試験を報告してきた。当該研究課題においては、カーボンナノチューブやフラーレンのインターラボ間でのバリデーション評価を完了すると共に、サブナノ白金やサブナノ銀の経皮安全性についても、イントララボ間・インターラボ間でのバリデーション評価を完了し、今後、OECDへの報告などを進めていく予定である。
その他行政的観点からの成果
当該グループでは、ナノ・サブナノマテリアル関連産業や化粧品業界・学会と密に連携しつつ、イントララボ・インターラボ間でのデータの整合性解析や実験手技評価や、第三者の外部評価による公平性を担保しながら、安全性評価を進めている。これら連携によって、信頼性を保証しつつも、行政や産業界にいち早く安全性情報を発信するなど、他に類を見ない産業的かつ行政効果を得つつある。また市民講座などを通じ、一般市民や学生へのアウトリーチも進めている。
その他のインパクト
当該事業においては、ナノ・サブナノマテリアル関連産業の安全性確保研究の重要性の啓蒙・公表を目的として、日本薬学会第132年会にて『シンポジウム:ナノマテリアルの開発・安全性評価の最前線~産官学の取組み~』を、日本薬学会第133年会にて『ナノマテリアルの開発・安全性評価のup to date』を企画・開催した。また、各種新聞記事・公開講座などを通じ、ナノ・サブナノマテリアルの社会受容の促進をも推進するなど、各種業界に大きなインパクトを与えたものと考えられる。 

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
23件
学会発表(国内学会)
174件
学会発表(国際学会等)
66件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Morishige T, Yoshioka Y, Tanabe A, et al.
Titanium dioxide induces different levels of IL-1beta production dependent on its particle characteristics through caspase-1 activation mediated by reactive oxygen species and cathepsin B
Biochem Biophys Res Commun  (2010)
原著論文2
Yamashita K, Yoshioka Y, Higashisaka K, et al.
Carbon nanotubes elicit DNA damage and inflammatory response relative to their size and shape
Inflammation  (2010)
原著論文3
Morishige T, Yoshioka Y, Inakura H, et al.
The effect of surface modification of amorphous silica particles on NLRP3 inflammasome mediated IL-1β production, ROS production and endosomal rupture
Biomaterials  (2010)
原著論文4
Higashisaka K, Yoshioka Y, Yamashita K, et al.
Acute phase proteins as biomarkers for predicting the exposure and toxicity of nanomaterials
Biomaterials  (2011)
原著論文5
Nabeshi H, Yoshikawa T, Matsuyama K, et al.
Systemic distribution, nuclear entry and cytotoxicity of amorphous nanosilica following topical application
Biomaterials  (2011)
原著論文6
Nabeshi H, Yoshikawa T, Matsuyama K, et al.
Amorphous nanosilica induce endocytosis-dependent ROS generation and DNA damage in human keratinocytes
Part Fibre Toxicol  (2011)
原著論文7
Yamashita K, Yoshioka Y, Higashisaka K, et al.
Silica and titanium dioxide nanoparticles cause pregnancy complications in mice
Nat Nanotechnol  (2011)
原著論文8
Nabeshi H, Yoshikawa T, Arimori A, et al.
Effect of surface properties of silica nanoparticles on their cytotoxicity and cellular distribution in murine macrophages
Nanoscale Res Lett  (2011)
原著論文9
Yoshida T, Yoshioka Y, Fujimura M, et al.
Promotion of allergic immune responses by intranasally-administrated nanosilica particles in mice
Nanoscale Res Lett  (2011)
原著論文10
Nabeshi H, Yoshikawa T, Akase T, et al.
Effect of amorphous silica nanoparticles on in vitro RANKL-induced osteoclast differentiation in murine macrophages
Nanoscale Res Lett  (2011)
原著論文11
Nabeshi H, Yoshikawa T, Matsuyama K, et al.
Well-dispersed amorphous nanosilicas induce fatal toxicity and consumptive coagulopathy after systemic exposure
Nanotechnol  (2012)
原著論文12
Hirai T, Yoshikawa T, Nabeshi H, et al.
Amorphous silica nanoparticles size-dependently aggravate atopic dermatitis-like skin lesions following an intradermal injection
Part Fibre Toxicol  (2012)
原著論文13
Morishita Y, Yoshioka Y, Satoh H, et al.
Distribution and histological effects of intravenously administered amorphous nanosilica particles in the testes of mice
Biochem Biophys Res Commun  (2012)
原著論文14
Morishige T, Yoshioka Y, Inakura H, et al.
Suppression of nanosilica particle–induced inflammation by surface modification of the particles
Arch Toxicol  (2012)
原著論文15
Hirai T, Yoshioka Y, Takahashi H, et al.
Amorphous silica nanoparticles enhance cross-presentation in murine dendritic cells
Biochem Biophys Res Commun  (2012)
原著論文16
Higashisaka K, Yoshioka Y, Yamashita K, et al.
Hemopexin as biomarkers for analyzing the biological responses associated with exposure to silica nanoparticles
Nanoscale Res Lett  (2012)
原著論文17
Yoshida T, Yoshioka Y, Matsuyama K, et al.
Surface modification of amorphous nanosilica particles suppresses nanosilica-induced cytotoxicity, ROS generation, and DNA damage in various mammalian cells
Biochem Biophys Res Commun  (2012)

公開日・更新日

公開日
2018-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201236006Z